「「なんで、貴様がっ!?」」
僕と雄二が揃ってスーツ姿の男……似非野郎(雄二命名)を指差すと
ポキッ ×2 (僕と雄二の人差し指が鉄人に握り潰される音)
「「いだだぁぁぁぁ」」
「バカモノッ!いきなり指差すなど失礼だろうっ!!」
鉄人の一喝と共に僕らの指が折られた。
「うちの者が何か失礼でもしましたか」
この中で、ただ一人、面識の無い女性が僕たちに話しかけてくる。
女性用スーツに身を包み、すらっとしたモデル張りの長い手足。
パッと見、何処かで会った事があるような?
「痛っ!」
美波が僕の左手の甲を
(アキっ!?ウチの前で他の女の人をジロジロ見るなんてっ!!)
明らかに美波のご機嫌が斜め方向だ。
(ちっ、違うよ。何処かで会った事があるような気がして……)
(ウチの知らないところで二人で会ってたのっ!?)
ヤバい。美波の攻撃色がどんどん強くなってくる。
しかも物凄い方向へ勘違いされている気がする。
このままでは、この部屋を出た時の僕の命が危ない。
怒っている美波を見て、ふと思い出す。
六年後の葉月ちゃんを想像した時も美波は怒っていたっけ。
その時の女性用のスーツに身を包んだ美波に似ているんだ。
(思い出した)
(何を思い出したのよ)
(六年後の葉月ちゃんを想像した時に出てきた美波に似てるんだよ)
(何で葉月を想像したのかは今は聞かないけど)
(で、その時も美波が怒っていたんだよね。美波の怒った顔で思い出したんだけど)
(呆れた……アンタ、自分の想像の中でもウチに怒られてるの?)
(うん)
(はぁ……想像の中のウチに同情しちゃうわね)
おでこに手を当ててため息をつく美波。
「どうかされましたか?」
「いっ、いえ」
「何でもありません」
「そうですか。では改めまして、私、如月ハイランド企画運営室、室長代理の
女性が自己紹介をして一礼をする。
「ワタシは……」
似非野郎が何か言おうとすると、それを手で
「あなた方は彼とは面識があるんですよね?時間が勿体無いので話を進めましょう」
口をパクパクとさせて寂しそうな表情を見せる似非野郎。
何故か、もう二度と彼の名前を聞く機会が無くなった気がする。
そして河野木さんがババァ長に向かって
「私の方から彼らに説明をしてもよろしいですか?」
「そちらが持ってきた話だからね。好きにしてくださいな」
そっけなく言うババァ長。何か機嫌が悪そうだな。
「ねぇ雄二。クソババァの顔が悪そうだね?」
「明久。何を今更。クソババァの顔は元々どうにもならないくらい悪いだろ?」
「失礼なクソジャリどもだねっ!」
悪い顔を更にしかめるババァ長。これ以上しかめっ面していると
顔がくしゃくしゃのまま固まっちゃうんじゃないかな?
「では、お集まり頂いた皆さんに少しお話をさせて頂きたいのですが」
河野木さんが普通に話し始めた。
どうやら僕たちとババァ長の会話が気にならないらしい。
まぁババァの話なんて聞いても面白くないしね。
「今度の日曜日に如月ハイランドでは新しいアトラクションを発表しようと思っています」
河野木さんがそう告げるとババァ長は鼻を、ふん、と鳴らしてそっぽを向いた。
「そのアトラクションと言うのが文月学園の試験召喚システムを利用したものです」
「「「「ええっ!?」」」」
まさか僕たちが使っている召喚獣を利用したアトラクション!?
「こちらの試験召喚システムのコピーを頂いて、それを元に私どもの方で少しいじらせて頂いていますが、基本的な操作はあなた方が使っている召喚獣と一緒です」
「どうやって遊ぶんだ?」
雄二が質問をすると
「普段は私どもの方で用意している施設内でRPGの要領で経験値を積み重ねて頂きレベルアップを目指してもらいますが」
「定期的にお客様同士の対戦大会を開催してレアアイテムや大幅な経験値アップをして頂こうと思っています」
淡々と説明をしていく河野木さん。
この新しいアトラクションに期待しているのか、すごく自信に溢れている気がする。
「そこで、このアトラクションのオープニングイベントとして」
河野木さんが僕たち四人を見て話を続ける。
「召喚獣の操作に慣れている文月学園の生徒さん達にエキシビジョンマッチをして頂きたいのです」
「それが何で俺たちなんだ?」
学年首席の霧島さんや普段の生活態度が真面目な美波なら判るけど
存在そのものが問題だらけの雄二や、いつもそれの巻き添えを食らっている僕が
そんな大切なイベントに出ても良いのだろうか。
「あなたたち四人は弊社のウェディング体験の経験者ですよね」
そう言いながら僕たち四人を確認するように見てくる。
「貴方が霧島さんね。綺麗な黒髪で端正な顔立ちですね。姿勢もきちっとしてますし」
あ、霧島さんが珍しく照れてる。
「そうすると貴方が坂本君ね。うん、なかなか野性的で身体もしっかりしてるし格好良いわね」
あれ?雄二まで頬を染めてる。こいつが照れても気持ち悪いだけなのに。
「貴方が島田さんね。こう言っては失礼かもしれないけど少し前の私に似てるわね。きっと美人になるわよ」
「あ、ありがとうございます」
美波まで顔を赤くして俯いちゃったよ。
いよいよ僕の番か。
「そして貴方が吉井君ね…………」
えっ!?何、この間は……
「そうね、可愛い顔をしてるわね。女装がよく似合いそう」
にっこり微笑んで言われても、その評価は全然嬉しくないんですがっ!?
僕がさめざめと泣いていると美波が、よしよし、と僕の頭を撫でてくれた。
「どうせ対戦するなら結婚を前提としたカップル同士で対戦して頂いた方が息の合ったプレイを見せてもらえて楽しくなると思うのですが」
河野木さんが僕と美波を見ながらババァにそう告げると
「で、アタシにどうしろと」
「この間、校内放送で吉井君が島田さんに想いを告げたのがきっかけで新しい校則が出来たみたいなのですが」
「まさか、それを無くせと?」
「そうです。この四人にカップルとしてイベントに参加してもらうためにも是非聞き入れて頂きたいのです」
「つい先日作ったばかりの校則をそんな簡単に破棄できると思うのかい」
「出来たばかりなら無くしてもそんなに実害は無いと思いますが……」
ババァが机の上で頬杖をつきながら何か考えているみたいだ。
「もちろん、この間見せて頂いた吉井君が開けた穴の修繕も弊社が責任を持って他の協賛されているスポンサーにお願いしておきます」
「アンタらはどうなんだい?やるのかい?」
ババァが僕たちに聞いてくる。
「僕はそれで……むぐぅ」
「ちょっと聞きた……むぐぅ」
僕は美波に、雄二は霧島さんに、手で口を塞がれた。
「「是非イベントに参加させてくださいっ」」
「快いお返事ありがとうございます。学園長もこれでよろしいですか?」
河野木さんが僕たちに軽く頭を下げてからババァの方を見る。
「仕方ないさね。ガキどもとも約束してたしね。明日にでも撤廃しとくよ」
「ありがとうございます。では私どもはこれで失礼させて頂きます。イベントが近いのでやる事がたくさんありますし」
河野木さんが頭を下げると似非野郎も一緒に頭を下げる。
そして部屋を出る時、河野木さんが僕たちの方を見て
「日曜日は午前中に来てください。イベントは午後一時からですが登録などする事がありますので」
「「「「はい」」」」
「あと当日は彼が担当させて頂きますのでよろしくお願いします」
そう言うと部屋を出て行ってしまう。似非野郎も慌てて部屋を出て行く。
「これで満足かい?」
ババァが僕たちに話しかけてきた。
「……ありがとうございます」
「学園長先生。明日と言わずに今すぐではダメですか?」
「慌てるなんとかは貰いが少ないって言うだろ?大人しく明日まで待ちな」
「はい……」
大人しく引き下がる美波。
すると雄二が腕を組みながらババァに向かって
「ババァこそ、それで満足なのか?」
「何が言いたいんだい」
「試験召喚システムのコピーなんて、よく渡したと思ってな」
たしかに試験校としての文月学園のメインとなる部分だと思うんだけど……
「ふん。如月グループが最大のスポンサー様だからね。頼まれたら嫌とは言えなかったのさ」
鼻をならしながら、つまらなさそうに言うババァ。雄二はそれを見て
「それだけじゃないだろ?校則を作った時は明久にすごい剣幕で痛だぁぁぁぁぁ」
「そうだね。僕に噛み付くかと思うような勢いで足が踏み抜かれたように痛いぃぃ」
僕は美波に、雄二が霧島さんに、足を思いっきり踏まれている。
「……雄二、余計な事を考えちゃダメ」
「そうよ、アキ。明日まで絶対に何かしちゃダメよ?」
二人に脅迫されて何も言えなくなる僕と雄二。
「……もし、何か変な事をしようとするなら」
「明日の朝まで息の根を止めるからねっ!?」
そんな事をされたら、僕も雄二も明日の朝になっても目が覚めないと思うんだけど……
とりあえず真剣な表情の二人の気迫に負けて僕も雄二も黙って部屋を出ようとするとババァが
「アタシは明日から出張で日本に居ないから、結果は月曜に教えておくれ」
「「はい、わかりました」」
美波と霧島さんが返事をして部屋を出て、僕たちも出ようとすると
「どうしても勝負をつけたくなったらアンタらにしか出来ない得意技でも使うんだね」
そう言うと、この前みたいに手を振ってさっさと出て行けとジェスチャーされた。
--校門前の坂道
「でも良かったわね。校則が無くなってくれて」
「……そうね」
美波と霧島さんの足取りがすごく軽そうだ。
反対に雄二は学園長室を出てから、ずっと何か考えているみたいだ。
「雄二、どうしたのさ?」
僕が質問をしても、雄二は、んー、と生返事しか返してこない。
しばらく歩いて……いつもの分かれ道に来ると
「……じゃあね、美波。吉井」
「バイバイ、翔子。坂本」
「さよなら、雄二。霧島さん」
そこでも、んー、という返事しかしてこない雄二。
何をそんなに考え込んでいるのだろう?
「……ほら、雄二」
そう言うと、霧島さんはガシッと雄二に腕を絡ませて
「いだぁぁぁぁ。しょっ、翔子っ!俺は考え事をだな……」
「……私と腕を組んでいる時は私に集中すべき」
「これは腕を組むなんて生易しいもんじゃねぇっ!
雄二は叫びながら行ってしまった。相変わらず騒がしい奴だ。
「ウチらも腕を組む?」
美波が悪戯っぽく笑う。
「ごめんなさい」
「ふふっ。明日まで我慢してあげるわよ。明日が楽しみね」
そう言って僕の頬を軽く突付く。
しばらく並んで歩いていると美波が何かを思い出したかのように
「そう言えば、葉月の事を想像していたって言ったわよね?」
「ん?」
「さっき、あの女の人がアキの想像してたウチに似てるって言った時よ」
「えっと……そうだね」
「葉月の何を想像してたの?」
「葉月ちゃんが文月学園に入学するところかな?」
「ふぅん……そんなに先って訳でもないわね。でも、どうして?」
「この間、葉月ちゃんと一緒に買い物に行った時に腕を組んで欲しいってお願いされて……大きくなったら組めるかな、と思ってさ」
「それであの子、すごい上機嫌で帰ってきたのね」
「ははっ」
「それでウチは何を怒っていたのかしら?」
美波が何かを探るような目で僕を見ている。
「えっと……腕を組むつもりが何故か葉月ちゃんに抱き付かれてたから、かな?」
「アキっ!?」
美波にいきなり首の向きを変えられる。
ゴキッと言う聞きたくない音と共に美波の方を向かされると……
「アンタ、まさか葉月が大きくなったらウチと二股かけるつもりなんじゃ……」
「そっ、そんな事しないよっ」
「ほんとでしょうね?」
美波の顔がアップで迫ってくる。
笑顔なら嬉しいんだけど……眉と大きな目が吊り上がってて少し怖い。
「うん。だって……僕が美波にプロポーズしてたらしいんだけど」
「えっ」
美波は小さく声をあげると見る見る顔が真っ赤に……
「やだっ。アキったら……ウチら、まだちゃんと告白もしてないのに……」
僕から少し離れて赤く染まった頬に両手を当てて、身体を捻っている。
「えっと、美波?僕の想像の中のお話だよ?」
「でもでもっ……アキの想像ってことは、アキがそうしたいって思ってるんじゃないの?」
僕に詰め寄るように美波が真っ赤な顔を近づけてくる。
「やっぱりそうなのかな?」
「何でウチに聞くのよ……まぁ良いわ。今日はまだ友達なんだし」
そう言うとまた僕の隣に並んで歩き出す。
「でも、いつかちゃんと……ウチに聞かせてね?」
「うん」
「この約束は絶対忘れちゃダメよ?」
僕のおでこを突付きながら美波が嬉しそうに言う。
「今度の日曜日に如月ハイランドに行くんだよね?」
「そうね」
「美波は時間とか……大丈夫なの?」
「多分大丈夫だと思うけど……間に合わなかったらプレゼントは来年でもいいかな」
「ええっ」
「冗談よ。でも来年も再来年も……これからもずっとウチはアキの隣に居てもいいんでしょ?」
「うん」
「まぁアキが居て欲しくないって言ってもずっと居るけどね」
「ええっ!絶対そんな事言わないよっ」
「ふふっ、当たり前よ」
僕の方を向く美波の笑顔。
「ウチがそんな事言わせる訳無いもの」
美波が片目を瞑って僕の口に人差し指を当てる。
この状態だと僕は何も言えない。
「じゃあね、アキ。また明日」
そう言って美波はポニーテールを左右に揺らしながら走って行った。