--お昼休み
僕たちはいつもの6人に霧島さんも含めて卓袱台を囲んでいる。
「何で、いきなりあんな事を言ってきたんだろ?」
僕がそう言うと姫路さんと秀吉が少し決まり悪そうに横を向いた。
とりあえず教えるのは放課後にしよう、と言う事でその場は退いてもらったけど……
正直、僕の方がどうすれば良いのか教えて欲しいくらいだ。
「さあな。あいつらも何か思うところがあるんだろ」
雄二がそう答えてくれたけど……
そう言えば今週に入ってから雄二が霧島さんに縛られているのを見てないな。
二人に何かあったのだろうか。
「でもアキが恋愛の事を教えるなんて出来るとは思えないんだけど……」
「……雄二にも教えられる事なんてあるとは思えない」
「そうですね。明久君に出来るとは思えません」
「おぬしら……変に見栄を張ると後悔する事になるぞい」
「(コクコク)…………出来ない事は言わない方が良い」
くっ……雄二だけバカにするならともかく、僕までバカにされるとは。
「「僕(俺)の経験を言えば良いだけだよ(ろ)」」
ガシッ ×2
僕は美波に頚椎を握られて、雄二は霧島さんにアイアンクローを極められている。
「へぇ、アキはそんなに経験豊富なんだ。誰となのかしらね?」
「……雄二。誰となの?」
「ごめんなさい。美波だけです」
「すまん、ちょっと見栄を張っただけだ」
「最初から素直にそう言えば良いのよ。仕方ないわね、ウチも手伝ってあげるわ」
「……雄二。私も手伝う」
「大丈夫だよ。それより美波は、また無理をして夜遅くまで頑張ってるんじゃないの?」
「うっ……少しだけよ。ほんのちょっとだけなんだからねっ」
片目を瞑って右手の親指と人差し指をくっつけてみせる美波。
「美波の事は信じてるけど……でも今日は無理しないで早く帰ったほうが良いよ」
「アキがそう言うなら……心配掛けてごめんね」
「ううん。僕のために頑張ってくれてるんだから……ありがとう」
「俺なら大丈夫だ。もし何かあるなら明日手伝ってもらうから」
「……雄二がそう言うなら……でも恋愛の事なら女の子側の意見も必要なのでは?」
「それなら、わしも手伝おう。あやつらを焚きつけた責任もあるしのぅ」
秀吉が名乗り出てくれた。そうか、ついに……
「秀吉もやっと女の子としての自覚が出来たんだね」
「変な誤解をするでない。演劇で培った人の心の動きを教えるだけじゃ」
「あの、それなら……私もお手伝いさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「姫路さんも?」
「はい。やはり女の子も居た方が良いかと思います」
姫路さんも名乗り出てくれた。結構豪華なメンバーだ。
あのバカどもには勿体無いくらいだな。
「そっか。瑞希もいるなら……」
「……私たちは居なくても大丈夫」
「はい。任せてください」
「でも木下が心配よね……」
「……そうね」
二人とも心配そうな顔で秀吉を見てるけど……
365度、どこから見ても女の子に見える秀吉のどこが心配なのだろう?
「おぬしら……やはり、わしは女の子じゃないから心配なのかの?」
おや?なんか秀吉が嬉しそうだな?
「違うわよ。アキを……」
「……そう。雄二を……」
「「誘惑しないか、心配なの」」
「ちょっと待つのじゃっ!?」
秀吉が顔を真っ赤にして反論する。
「わしが誘惑するわけなかろうっ!?現にさっき……」
ん?秀吉は何を言おうとしてるんだろう?
「体育の前に雄二と明久と一緒に着替えをしても二人は何も……」
秀吉が全部言い終わる前に……
美波は僕の背後に、霧島さんは雄二の背後に回って
「「覚悟は出来ているんでしょうねぇ?」」
「「うぎゃぁぁぁぁぁぁ」」
--放課後
結局、美波と霧島さんも残る事になった。
「「「「よろしくお願いします」」」」
みんな、目をキラキラさせているんだけど……
死んだ魚のような目がキラキラしてても気持ち悪い。
「さて、お前らは何から教えて欲しいんだ?」
雄二がいつものように仕切りだした。
さすが(性格が)腐って(て)もFクラス代表だ。
「まずはどうやって知り合うかだろう」
「そうだな。出会いは大切だな」
「ああ。最初が肝心だな」
「そうよね。最初に会った時の印象って大事よね」
美波が、うんうんと頷いていると……
「島田はダメだな。姫路はどうだ?」
「ちょっと、坂本。それ、どういう意味よ?」
「島田と明久は最初の頃は仲が悪かっただろうが」
「う~。ちょっと言葉が通じなくて少し技を掛けてただけじゃない」
確かにその時は少しだったよね……
普通に会話出来るようになってから技を掛けられる事が増えた気がする。
「私ですか?そうですね……」
そう言って人差し指を頬に当てて考え込む姫路さん。
「私が困っている時に助けてくれたのが印象的でした」
「ふむ……確かにそれだとインパクトがあるな」
雄二がそう言うと
「確かに困っているところを助けてあげれば……」
「ああ。好印象を与えられるな」
「下心が丸出しでも大丈夫なんだろうか」
「そうだな。俺たちだと下心が顔に出るかもしれない」
「大丈夫じゃないか?困ってて下心なんか気にしないだろう」
「おぬしら……そんな訳無かろう」
秀吉が呆れ顔で言うと、誰かからこんな質問が……
「ちなみに坂本と霧島の出会いはどうだったんだ?」
「俺と翔子か?小学校の時に翔子が転校してきて」
「……私が、友達が出来なくて困っているところを雄二が恋人にしてくれた」
「ちょっ、翔子!?お前は何をいきなり言ってるんだっ!?」
「……雄二は私にもっと下心を持つべき」
霧島さんが雄二と腕を組んだ。
「下心は持ってても大丈夫そうだな」
「ああ。明日から困ってそうな女の子を捜すか」
「そうだな」
Fクラスのバカどもの人数分の困ってる女の子は居ないと思う。
--次の日の朝
姉さんが居なくなって最近またゲームのやりすぎで寝る時間が遅くなってきてるな。
この調子だと冬休みに入ると生活が逆転しちゃうかもしれないな、と考えながら歩いていると
「アキっ。おはよっ」
いきなり後ろから美波が僕の首に抱きついてきた。
「わわっ。美波、おはよう……どうしたの、いきなり?」
「アキの首が寒そうだなぁと思って」
今は美波が抱きついてくれているので暖かい。
「そうだね。また風邪でも引いて美波に迷惑掛ける前にマフラーでも買おうかなぁ」
「ダメよっ」
「うわっ。いきなり耳元で大きな声出されたらビックリするよっ」
「あ、ごめんね」
そう言うと美波はパッと離れて僕の横に並んで歩き出す。
確かに美波が離れると寒くなったなぁ。
「とっ、とにかく、マフラーなんて買っちゃダメよ?」
美波がお願いをするような顔で言ってきたから……断れるわけも無く
「うん」
「ありがと……クリスマス楽しみねっ」
ぱぁっと笑顔になる美波。
「あ、クリスマスと言えば、悪いんだけど……」
「どうしたの?」
「姉さんが急な出張で先週から母さんたちのところに出かけちゃって美波の家のパーティーに行けなくなっちゃったんだ」
「えっ。ほんとに急な話ね」
「うん。だから行くのは僕一人だけなんだけど……」
「玲さんが来れなくなったのは残念だけど、アキが来てくれるならウチは嬉しいから……」
そう言うと少し頬を染めて俯きながら歩く美波。
「そう言えば、美波の家でクリスマスパーティーをするのっていつ?」
「あれ、まだ言ってなかったかしら?24日の夜よ」
「そっか」
ん?24日って確か美波と約束してたような……
「25日だとお父さん、仕事に行っちゃうかもしれないから」
「そんなに忙しいんだ……大変だね」
「そうね。でもお父さんもアキに会いたがってたし」
あれ?美波が顔を赤くして指をもじもじさせている。
「それでね……24日のイヴにアキにきちんと告白するって言ったでしょ?」
「うん」
「それでアキもウチに告白してくれるって言ってくれたから」
「そうだね。ちゃんとするつもりだよ」
「ありがと……だから24日のパーティーでアキをお父さんに紹介する時に恋人だって……きちんと言いたいの」
僕の手を握りながら真っ赤な顔で見上げるように僕を見ている美波。
「僕は嬉しいけど……」
「だからアキも将来の事を考えておいてね」
「えっ?将来の事?」
「そうよ。来年ウチら三年になるんだし、受験とかあっという間よ?」
「そっか」
ヤバい。雄二の事を笑えなくなりそうだ。
美波と二人で校門を抜けると……
「きゃぁぁぁ」
なっ、何事っ!?
朝から学校で悲鳴を上げることなんて何があるんだろうか?などと考えていると……
正面から女の子が脇目も振らず真っ直ぐこっちへ走ってくる。
そして僕たちを確認すると「助けてくださいっ」と言って僕の背中へ……
「どうしたの?」
美波が女の子に質問をすると……
「あっ……島田先輩……」
顔を赤くして俯いてしまった。たぶん走ってきたからだろう。
頭にドリルを装備してる人と同じじゃないよね?
するとそこへ見知った顔が二つやってきた。
「あ、吉井と島田じゃないか」
うちのクラスのバカどもだった。
「朝倉君と有働君、どうしたのさ?」
「今こっちに困ってそうな女の子が来なかったか?」
僕がチラッと美波の方を見ると……女の子は美波の横で震えていた。
「ああっ、君、さっき困っていたよね?」
有働君がそう話しかけて手を差し出すと……
「助けてくださいっ」
美波にしがみつく女の子。
「よく判らないけど困ってるみたいだから僕と美波で話を聞くから有働君たちはあっちへ行ってくれるかな?」
「ちょっと待て、吉井。その女の子の困っている事を俺たちは助けてあげようとしてだな」
朝倉君がそう言うと女の子は……
「あ、あの、私はただ……ちょっと眠いなと思って歩いていたら、その人たちにいきなり声をかけられて……」
「それで困って逃げてきたのね」
美波が言うとコクンと頷く女の子。
何だ、原因はこいつらか。それなら原因にはお引取りいただこう。
「朝倉君たちが居ると困るんだってさ」
「ちょっ、俺たちが助けないと……」
「それなら有働君たちが見えないところまで行ってくれれば、僕がこの子に朝倉君たちが助けてくれたって言っとくよ」
「そっ、そうか?悪いな、吉井。じゃあ一つよろしく頼むよ」
そう言って朝倉君たちは向こうへ行ってくれた。
本当にこういうときはうちのクラスの連中は楽で良いな。
「助けて頂いて本当にありがとうございました」
ぺこりと頭を下げてくる女の子。
「良いのよ。困った時はお互い様だしね」
女の子の肩をぽんぽん叩きながら美波がそう言うと
「噂で聞いている吉井先輩ってもっと怖い人かと思っていたんですが優しいんですね」
にっこりと笑顔で僕と美波を見ている女の子。
「ははっ。どんな噂が流れているんだろうね」
僕が困ったように笑っていると……
「はいっ。花火で教頭の部屋を爆破したり、校舎を破壊しまくったり、集団で覗きをやったり……その、子供が居たりとか……」
僕の罪状を述べるに従って顔が段々赤くなり、最後の部分は顔を真っ赤にして俯きながら言われた。
否定出来るのが最後しかない。
僕が返事に困っていると女の子が
「でも子供の噂は、あの校内放送を聞かせてもらったおかげで私の周りでも信じている人は居ませんよ」
にっこりと笑顔で言われた……良かった。恥ずかしかったけど、伝わってる人にはちゃんと伝わったんだ。
「そうよ。アキはすっごく優しいんだから」
美波が笑顔で腕を組んでくる。先週までだったら、あの変な校則のおかげで
関節技だったかと思うと……嬉しくて泣きそうになるな。
「島田先輩に腕を組んでもらってるのがそんなに嬉しいんですか?」
僕を見ていた女の子にそんな質問をされた。
「えっ……うん、嬉しいかな」
僕が照れ隠しに笑っていると……
「私たち女子の間で人気ナンバーワンの島田先輩と付き合ってる人ってどんな人なんだろうと思っていたんですが優しい人で安心しました」
「「はっ?人気ナンバーワン?」」
僕と美波が二人揃って首を傾げて尋ねると……
「ご存じないんですか?島田先輩は私たち下級生の間で『お姉さまにしたい女子ランキング』でダントツの一位なんですけど……」
初めて聞いた……そのランキングの影響には頭にドリルを二個つけている人の姿が浮かんだ。
--二時間目の休み時間
僕が美波と話をしていると、ガラッと扉を開けて
見慣れない女子生徒が四人ほどFクラスの教室内へ入ってきた。
「君たち。何か困っている事でも?」
須川君がいきなり声をかけている。
そのパターンはもうやめた方が良いと思うんだけど……
すると四人の中で一番気の強そうな女の子が
「今、目の前の知らない人に声を掛けられて困っています」
須川君がそう言われて固まってしまった。
あれ?なんか一人は見覚えがあるような?
すると朝倉君と有働君が
「君は今朝の困っていた子だよね?僕たちに御礼に来たのかな?」
すごく嬉しそうに話しかけると
「島田先輩っ。吉井先輩っ。助けてくださいっ」
有働君と朝倉君も固まってしまった。こいつら今朝の事で懲りてないんだな。
とりあえず僕と美波をご指名らしい。
誰だろうと思って見てみると……
「あれ?今朝の子じゃない」
「はい。今朝はお世話になりました。それでお世話になったついでなんですけど……」
「どうしたの?」
僕が質問をすると……いきなり四人の女の子に取り囲まれた。
「あの……私が今朝、島田先輩と吉井先輩に助けられた事をみんなに話したら」
「ご迷惑かもしれないなとは思ったのですが」
「是非一目見てみたくて」
「押し掛けてしまいました。申し訳ありません」
と、四人揃って頭を下げる。
すると今度は四人が入ってきたのとは反対側の扉がガラッと開き、雄二と……
「小山、しつこいぞ」
「ちょっとは私の話を聞いて欲しいんだけど?」
Cクラス代表の小山さんが入ってきた。
「私、クリスマス暇なのよね。ちょっと付き合ってもらえないかしら」
「だから、さっきから何度も言ってるだろ。俺は翔子の相手をするので忙しいんだ」
「なによ。今まで霧島さんから逃げていたくせに」
「今まではそう見えていたかもしれないが、これからは違うんだ」
「24日か25日のどっちかなら空いてないの?23日でも良いんだけど」
なんか珍しく雄二が霧島さん以外に迫られているな。
そんな僕たちや雄二を見て、秀吉が一言……
『おぬしらがもてないのは、あやつらのせいかもしれんのぅ』
「「「「そうか」」」」
「やっぱり」
「そうだったんだ」
「おかしいと思ってたんだ」
「この学校は男子と女子が半々のはずなのに」
「俺たちが女子に縁が無いのは」
「「「「あいつらのせいだったのか」」」」
「あの……みなさん?」
「俺たちの考え方が間違っていたんだ」
「ああ。誰か付き合っている他の奴を羨ましく思う前に」
「努力して坂本と吉井を抹殺すれば」
「たくさんの女子がフリーになるって事をっ!!」
「私が言ってる努力は違いますからねっ!?」
姫路さんの抗議もむなしく…・・・
それから朝のホームルーム前と放課後は
僕と雄二が異端審問会に追われる日が二学期が終わるまで続いた。