今話から、また本編に戻ります。
12月27日(火)
俺と私と告白っ!
今日は翔子と出かける約束をしているのだが
昼御飯を食べて少し時間が余ったから、俺は部屋で冬休みの課題をやっている。
たぶん松の内を過ぎた辺りで明久が教えてくれって泣きついてくるんだろうな、などと思いながら
課題を進めていると……
『雄二。翔子ちゃんが来たわよ』
やっと来たか。本当なら俺が迎えに行ったほうが良かったかもしれない。
表向きは、俺がおせちを作るから、と言う事で翔子を呼んだんだが……
アイツの家に行って下手に親に会うと引き止められるかもしれないからな。
そして自分の部屋を出て、おふくろと翔子が待つリビングへ……
「翔子、悪い。待たせたな」
「……ううん。雄二が私と一緒に作る気になってくれて嬉しい(ポッ)」
翔子が頬を染めて自分のお腹に手を当てている。
「…………ちょっと待て。お前は一体何を俺と作る気なんだ?」
「……私と雄二の愛の証」
「お前は何を言って……」
俺が全力で翔子の言ってる事を否定しようとすると
「あらあら、来年のクリスマスに初孫をプレゼントしてくれるのかしら?」
おふくろが頬に手を当てて嬉しそうに笑顔でそんな事を言っている。
俺たちがまだ学生だという事も、色々と順番がおかしいという事も何故気付かないのだろうか。
「んな事するかっ!翔子に来てもらったのはおせちを作るために材料を買いに行こうと思ったからだ」
「えっ?おせちなら私が……」
すごく心外だという顔で俺を見るおふくろ。
俺としては出来合いの物でも買ってくれた方が楽だし安心なんだが
おふくろと親父はどうしても手作りが良いらしい。
「俺が作る。アンタに任せると何を混入されるか判らないからな」
異物混入とか食品偽装なんてテレビで見るニュースだけで十分だ。
すると翔子がおふくろの手を握り
「……お
翔子の『お母さん』の発音がちょっとおかしい気もするが、ここはスルーしておこう。
下手に突っ込むと色々と面倒な事になりそうだ。
「……そして毎年クリスマスには孫をプレゼントします。39年間くらい」
「孫はプレゼントするものじゃない。しかもそんなにたくさん居ても困るだろっ!?」
「あら、雄二。家族は多い方が楽しいわよ」
にこにこと笑顔で翔子の手を握り返しているおふくろ。
とりあえず、この二人を一緒にさせておくと俺の予定が全然進まないから
さっさと出かけることにするか。
「じゃあ、出かけてくる。翔子、行くぞ」
「……うん。では、お
何の報告に来るつもりなのか……聞くと大変な事になりそうだから止めておく事にした。
外に出ると見渡す限りの曇天で、頬を撫でる風はすごく冷たかった。
「悪いな、翔子。こんな寒い日に呼び出しちまって」
「……雄二が呼んでくれるなら何処へでも行く」
俺の肘の辺りを掴んで並んで歩く翔子。
そう言えば小学校の頃もこんな感じで俺についてきてたっけ。
そうだ。手ぶらで行くのは失礼になるだろう。
おせちを作る材料を見に行くついでにスーパーで何か買っていくか。
「翔子。ちょっとスーパーに行っても良いか?」
「……うん。でも雄二?」
「なんだ?」
「……今日はおせちを作るんじゃなかったの?」
「ああ、そうだったな……それなんだが」
「……何?」
「おせちを作るのはまた今度でも良いか?」
「……別に構わないけど、どうして?」
首を傾げて見上げるように俺の顔を見ている翔子。
「この前、如月ハイランドで明久たちと召喚獣でバトルしたよな?」
「……うん」
「その時、終わった後で話があるって言っただろ?」
「……うん」
「今日、その話を……きちんとしたいんだ」
俺がそう言うと翔子は……
……頬を少し染めて俯くと俺の腕をぎゅっと抱き締めてきた。
しばらく言葉を交わすことも無く、腕を組んだまま歩いていると……ふいに翔子から話しかけてきた。
「……おせち、いつ作るの?」
「ああ、そうだな。おせち作らないと俺の家に正月が来ないかもしれないからな」
「……私の家は明後日からおせちを作り始めるから、その次の日くらいからなら材料もあると思う」
「明後日の次の日と言うと……30日か。じゃあ、その日に翔子の家に作りに行っても良いか?」
「……うん。楽しみに待ってる」
そう言って俺を見上げている翔子の笑顔は……すごく綺麗だった。
――スーパー
店内は何処も
主に正月の方が割合が多いか。
しばらく店内を歩いていると……ん?どっかで見た奴等が居るな。
どうやら翔子も気が付いたみたいだ。
「……雄二」
俺の袖を引っ張って知らせてくる翔子。
「明久と島田か?アイツら通路の真ん中で何で顔を赤くしてるんだ?」
とりあえず二人に近付いて……
「こんなところで真っ赤になって何やってんだ、お前ら?」
――――
―――
――
「じゃあな」
明久たちと30日に一緒におせちを作る約束して別れた。
秀吉やムッツリーニには明日にでも電話を入れておけば良いだろう。
姫路の料理が怖いが、この前作ってきていた弁当は問題なかったみたいだから
明久のために料理をしなくなった事で普通の食べれる物が作れるようになったんだろう。
まぁ怪しい物を作ったら全部明久に食わせれば良いだけだしな。
最悪鳩尾を殴って気絶させてでも食わせてやる。
そして贈答用の煎餅の詰め合わせを買ってスーパーを後にする。
外に出ると……相変わらずの曇り空で風はさっきよりも冷たく、まるで身を切る刃のようだった。
これは天気予報が当たっちまうな……と、思って空を見ていると
「……雄二。何処へ行くの?」
「ああ。俺が翔子に勘違いをさせてしまった場所だ」
――水無月小学校
校門を抜けて先生用の入り口から校舎の中へ入る。
翔子と二人、来客用の履物に履き替えて職員室へ向かって歩く。
建物の外観は綺麗になっていたけど、こうやって廊下を歩くと結構古くなっているんだなと実感する。
――ガラッ
職員室の扉を開けて「こんにちは」と挨拶をすると……
「坂本君に霧島さん、待っていましたよ」
俺たちの元担任の先生が座っていた椅子から立ち上がり、こちらへやってくる。
「先生、お久しぶりです」
そう言って翔子と二人で頭を下げる。
この先生に頭を下げるのは何年ぶりだろうか……この学校を卒業して以来か。
「二人とも立派に成長しましたね」
穏やかな笑顔で俺たちを見ている先生。
「あの、これ……つまらない物ですが」
と言って、さっきスーパーで買ってきた煎餅の詰合せを渡す。
「こんな気を使わないでも……君たちの元気な姿が何よりの贈り物なんだけどね」
笑いながらもちゃんと受け取ってくれた。
まぁ、いらないって突っ返されても困るんだが。
「先週いきなり坂本君から電話が来た時はビックリしましたが……確か君たちの教室を見たいって事でしたね」
「はい」
「では、終わったらまたここへ戻ってきてください。案内はいらないですよね?」
「そうですね。では失礼します」
そして俺と翔子は……五年生の時に使っていた教室へ来た。
――ガラッ
扉を開けると中は薄暗かった。
まぁ今日は曇っているし、窓から入ってくる光はそんなに多くないから仕方ないだろう。
六年前には、ここに通っていたんだっけ。
久しぶりに見る教室は……普段見ている俺たちFクラスの教室より広くて立派に見える。
ひょっとしたら俺や姫路、明久抜きで須川たちだけで
この教室の五年生と試召戦争をしたら負けるんじゃないか?
……なんて思ってしまう。
電気を点ける事も無く、俺と翔子は教室の中央付近へ歩いていき
そこで翔子の方を向いて……
「さっき言ってた話なんだけどな」
「……うん」
何かを期待する顔で俺をジッと見ている翔子。
この薄暗い教室の中でも翔子の顔がハッキリ見える。
「……この場所で、あの日以来六年間…ずっと勘違いをさせていた……」
勘違いをさせていた……んじゃなくて、勘違いをしていたのは俺だろ?
勘違いのフリをして……翔子の気持ちから逃げていた俺にけじめをつけさせるために来たんじゃないか。
「……つもりだった俺を許してくれ。本当にすまん」
本当なら土下座をしてでも謝るべきなんだろうが……
「お前が俺の事を信じて……ずっと傍に居てくれて本当にありがとう」
こんな俺を……自分の気持ちを一切疑うことなく一緒に過ごしてきてくれたお前を……
俺は翔子の両肩にそっと手を置き……翡翠みたいな綺麗で切れ長の美しい瞳を見つめて
「俺は……お前の事が好き……」
俺が言い終わる前に、翔子が俺の頭を両手で押さえて……
美しい瞳を潤ませた幼馴染の顔がアップになり……
…………俺の唇には柔らかくて温かい感触が……
少しして、翔子が俺から離れると……
「……雄二が……その言葉を言ってくれるのをずっと待ってた……今まで頑張ってこれたのもずっと雄二を信じていたから」
頬を真っ赤に染めて今にも泣きそうな……でも今まで見たことのない綺麗な笑顔で
「……そして……雄二がその言葉を言ってくれたから……これからもずっと……雄二の傍で頑張っていける」
俺に抱きついてくる翔子を……二度と離さないと、心に誓った。
そして俺たちは職員室に戻り、先生に挨拶をして……
「先生。もう、あの時に何があったか聞かないんですか?」
「ええ。あなたたち二人はここを旅立っていますから」
そして笑顔で俺たちに向かって
「こんな後ろを振り返る余裕があるなら今居る場所で努力して、これから行く場所で頑張ってください」
俺たちは再度挨拶をして職員室を後にした。
そして靴を履き替えて外に出ると……
白いものがちらほらと降っていて、辺り一面薄らと白くなっていた。
やっぱり天気予報が当たっちまったな。
夜までは降らないと思っていたんだが……
「翔子。コンビニまで走るぞ」
たしか、信号を渡って曲がったところにあったはず。
「……雄二。一つお願いがある」
「ん?なんだ?」
「……傘を買うなら一つだけにして」
「ああ、好きにしろ。とにかく早く帰るぞ。今、風邪引いたら年末年始一緒に居れなくなるだろ」
「……うん」