僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月1日(日)


僕とみんなとお正月part01

 

 

「ただいまー」

 僕が玄関で靴を脱いでいると……

 

「お帰りなさい」

 姉さんが奥の方から出てきてくれた。そして……

 

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」

 深々と頭を下げて新年の挨拶をしてくれた。

 こういうところは、きちっとして礼儀正しい姉さん。

 やっぱり社会人としての自覚もあるんだろうなぁ。

 …………時々おかしくなるところはどうすればいいんだろう?と実の弟として心配することもあるけど。

 

「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします」

 僕も姉さんに(なら)って頭を下げて挨拶をする。

 

「初日の出はどうでしたか」

「うん。すごく綺麗だったよ」

 太陽に負けないくらい眩しくて可愛い笑顔の美波と一緒に見たからだと思うけどね。

 

「それは良かったですね……帰ってきたばかりで申し訳ありませんが早く朝御飯にしましょう。姉さんはちょっと出掛ける用事がありますので」

「あ、ごめんね。すぐ用意するよ」

 僕が着替えをするために部屋に入ると……

 机の前にある椅子の背もたれにエプロンが掛けてあり

 ベッドの上にセーラー服とチャイナ服が置いてある。

 たぶん虫干ししてるんだよね……まさか、僕に着ろって事じゃないよね?

 正月から部屋の中で虫干しなんかするかな、という気もするけど。

 帰ってきた時の挨拶はあんなにまともだったのに……

 

 やっぱり今年も姉さんは油断できないなぁ、と思いながら制服を着替えて

 エプロンを手にした瞬間……何か姉さんの無言の訴えが込められている気がした。

 でも、そんな事を気にしていたら姉さんと一緒に生活なんかしていられない。

 そのまま服の上からエプロンを着けてキッチンへ行くと

 姉さんがすごく悲しそうな顔をしていたけど……気にせず朝御飯の支度を始める。

 

…………

………

……

 

「ところで姉さん。出掛けるってどこに行くの?」

 お雑煮を食べながら質問をすると、姉さんは箸を止めて

「はい。アキくんに姉さんを惚れ直してもらおうと思いまして……帰ってきた時の姉さんを見てアキくんが……」

 惚れ直す、とか変な言葉が聞こえたけど、突っ込むと面倒な事になりそうなのでそこはスルーしておこう。

「僕をビックリさせたいの?それなら姉さんが帰ってくるまで楽しみにしておくね」

 僕がそう言うと姉さんはにっこりと微笑んで

 

「楽しみに待っててください。きっとアキくんも気に入ってくれると思います……思わず姉さんにプロポーズしちゃうくらい」

「そんな事は絶対無いからねっ!?」

 姉さんの発言で、すでにビックリさせられたよっ!!

 

「絶対と言われると傷付きますね。私も女の子なんですよ」

 少しムッとした感じで姉さんが言ってきたけど……

「僕がプロポーズすると思っている事や姉さんが女の子と言い張るところがビックリだよ」

 

 ……グーで殴られた。

 

「痛い……」

「アキくんが食事中に変な事を言うからいけないんですよ」

 食事中に人をグーで殴るのは良いのだろうか?と思うけど、姉さんの常識は今更気にしても仕方ない。

 姉さんに殴られても健康で居られるように、美波が入れてくれた黒豆をたくさん食べよう。

 すでに手遅れになりつつある気がするけど。

 僕がおせちの黒豆を食べていると

 

「このおせちはずいぶん黒豆が入ってますね」

 ずいぶんと言うより重箱一つ分、ほとんど黒豆なんだけどね。

「うん。僕が真面目に勉強して健康に過ごせるようにって美波がたくさん入れてくれたんだ」

「そうですか。それならアキくんは今年頑張らないといけませんね」

 その『頑張る』は勉強の事なのか、生き残る事なのか……どちらなのか怖くて聞けない。

 

「あ、そう言えば……美波が今日のお昼にうちに遊びに来るって言ってたよ」

「美波さんが来るのですか?」

「うん。このおせちを一緒に食べたいみたいだからあんまり食べないでね」

 たくさん入っている黒豆以外。

 

「わかりました。私も帰ってくるのが多分お昼くらいになると思います」

「そうなんだ」

「はい。午前中はアキくんに寂しい思いをさせて申し訳無いのですが……」

「そんな事は全然無いよ」

 

 ……チョキで目潰しをされた。

 

「ひどいっ」

「アキくんが冷たい事を言うからですよ」

 食事中に目潰しをするのは良いのだろうか?と思うけど、姉さんの行動は今更気にしてもしょうがない。

 とりあえず目が見えるようになったらまた黒豆を食べよう。

 今日一日で黒豆は無くなるかもしれない。

 

「仕方ありませんね。アキくんの目が見えるようになるまで姉さんが食べさせてあげましょう」

「大丈夫だよ。僕はもう出掛ける用事は無いし……それより姉さんこそ、ゆっくりしてて良いの?」

 確か、この後出掛けるんだよね。

 どこに行くか判らないけど、出掛ける準備はしてあるのだろうか。

 

「そうでした。では姉さんはそろそろ出掛けてきます」

「うん。いってらっしゃい」

「アキくん、姉さんの事をちゃんと気にかけてくれてありがとうございます」

 

 ……手のひらで僕の頭を撫でてくれた。

 

「いつまでこう言う事をしてあげることが出来るんでしょうか……」

 姉さんが僕の頭を優しく撫でながらそんな事を……

 目が痛くて開けられないから姉さんが今どんな顔をしているのか判らない。

 

 そして姉さんは「ごちそうさまでした」と言ってリビングを出て

 僕が視力を回復した頃、「いってきます」と出掛けていった。

 そう言えば姉さんがどこに行くのか聞いてなかったな。

 

 

 

 使った食器を片付け終わり……手持ち無沙汰になると少し眠いなぁ。

 たぶん早起きしたからなんだろうけど。

 あまりにも眠かったのでベッドで横になってうとうとしていると……

 

 PiPiPiPiPi……  PiPiPiPiPi……

 

「ふぁい……もしもし」

『もしもし、アキ。ずいぶん眠そうね?』

 美波からの電話だった……そっか、お昼にうちに来るって言ってたっけ。

 時計を見ると11時を少し過ぎたくらい。

 

「ごめん。今日起きるの早かったから少し寝てたんだ」

『アキったら……また目が覚める魔法掛けてあげましょうか?』

「わわっ。大丈夫だよっ!」

 あの台詞を思い出したら……

 すごく嬉しくて確かに目は覚めるんだけど、僕の時間もしばらく止まるからね。

 

『ふふっ、今からアキの家に行くからね。あ、葉月も一緒に行くからよろしくね』

「葉月ちゃんも来てくれるんだ」

 新年早々葉月ちゃんの天真爛漫な笑顔を見れるのは縁起がいい気がする。

 

『じゃあ、また後で』

「うん。楽しみに待ってるよ」

 

 美波と話し終わり、携帯を仕舞って……今日のお昼の準備でもするかな。

 やっぱり、おせちとお雑煮ばかりだと飽きちゃうよね。

 何か作るかな?

 

…………

………

……

 

 パンがあったのでサンドイッチでも、と思って作っていると

 

  ピンポーン  ピンポーン

 

 美波が来たかな。

 

「今開けるね」

 

 ――ガチャ

 

「バカなお兄ちゃんっ!あけましておめでとうですっ!」

 そう言って僕に抱きついてきたのは……

 白いラメ入りのリボンで留めたツーテールをぴょこぴょこさせながら

 僕の鳩尾に、的確におでこをぐりぐりさせている葉月ちゃん。

 今年最初の鳩尾へのおでこアタックは助走距離の少なさからか、大した衝撃は無かった。

 

 でも、その分いつもより長めにぐりぐりして……存分におでこをぐりぐりしたのか

 僕を見上げて、にこにこしながら

 

「今年もよろしくですっ!」

 見た人全員が幸せな気持ちになる、いつもの天真爛漫な笑顔だった。

 

「あけましておめでとう。今年もよろしくね」

「バカなお兄ちゃん?葉月……どうですか?」

 僕から少し距離を取ると……

 袖口を手で掴んで両腕を広げたポーズでくるりと回る葉月ちゃん。よく見たら振袖姿だった。

 

「葉月、初めて振袖って言うのを着たんですっ」

 嬉しそうな雰囲気を身体全体から溢れさせて、僕に振袖姿を見せてくれている。

 

 桃色を基調として下に行くほど色が濃くなっていき

 足元や振袖の先端が真っ赤に染め上げられた和服には

 上から下にかけて流れるように様々な桜が描かれている。

 帯は金色で大きめの桜の花が重なるように描かれていて(ふち)は上が黄色、下が赤。

 ちょっと派手な印象もあるけど、いつも元気一杯な笑顔の葉月ちゃんだと衣装に負けてない。

 

「すごく似合ってて可愛いよ」

 僕がそう言うと……葉月ちゃんが真っ直ぐ突っ込んできた。

「バカなお兄ちゃんに褒められたですっ!」

「ぐほっ……」

 今度は少し距離があったので十分に勢いをつけることの出来た鳩尾への一撃。

 少し涙目になっていると、僕に抱きついていた葉月ちゃんが心配そうな顔で見上げてきて

 

「バカなお兄ちゃん?大丈夫ですか?」

 せっかく振袖を着てきてくれた葉月ちゃんの、正月の楽しい雰囲気を壊しちゃいけないな。

 

「大丈夫だよ」

 僕は出来る限りの笑顔を作って葉月ちゃんの頭を撫でてあげた。

 

 「うにゅ~」と言いながら葉月ちゃんが目を細めて喜んでいると……

 

「もう、葉月ったら……ウチを置いて一人で行っちゃうなんて」

 美波が少し遅れてやってきた。

「早くバカなお兄ちゃんに会いたかったんですっ」

「ウチだってアキに早く振袖姿を見てもらおうと思ってタクシーで来たのに……お金払ってたら葉月一人で行っちゃうんだから」

 

 ポニーテールをいつもの黄色ではなく、光沢のある白いリボンでまとめていて

 少し口を尖らせながらやってきた美波の振袖は……

 

 青を基調とした和服で左肩から下の方へ、色とりどりの桜を始めとしたたくさんの花が天の川のように流れていた。

 帯は黒地に白の桜が描かれていて金色の帯締めが結ばれている。

 葉月ちゃんとは対照的に落ち着いた、おしとやかな感じがする。

 

 前に一度、どこかで見たような……しおらしい雰囲気の美波。

 

「何よ。人の事、じろじろ見て……ウチ、どこか変なの?」

 そう言って身体を縮こませながら後ろを向く美波。

 ポニーテールで髪を上げているせいか、着物で後ろからだと

 美波の白い首筋がすごく色っぽく見えて……普段の制服や私服だと気にした事なかったのに。

 

「……ほぇ……」

「アキ?どうしたの?」

「ふぇ?……いっ、いやっ、なんでもないっ!」

 僕は慌てて美波から視線を逸らす。

「なんでもないって……顔が真っ赤よ?」

 そうだろうね。僕も顔が熱く火照っているのを実感してるもの。

 

「ひょっとして、また風邪引いたんじゃないの?」

「バカなお兄ちゃん、風邪引いちゃったんですか?」

 葉月ちゃんが下から、美波が正面から心配そうに僕の顔を見ている。

 正月早々心配掛けちゃいけないよね。

 なんとかうまく……

 

「いっ、いや、葉月ちゃんに抱きつかれているからドキドキしちゃって」

「バカなお兄ちゃんっ!葉月の事が気になるんですねっ!」

 さらに強く僕にしがみついてくる、嬉しそうな葉月ちゃん。

 

「ア~キ~~?」

 ヤバい……美波には、うまくごまかせなかったようだ。

 

「アンタは正月早々何やってるのよっ!?」

 葉月ちゃんに抱きつかれて、まったく身動きのとれない僕に

 腕をまくりながら近付いてくる美波。

 

「ごっ、ごめんなさいっ!本当は美波がいつもと雰囲気違うからドキドキしてたんですっ!」

「えっ……アキ、それ本当?」

 美波が少し頬を染めて大きな瞳を潤ませながら僕の左手を両手で握り締めてくる。

 

「うん。今日の美波はすごくおしとやかというか……しおらしい感じがして綺麗だなって」

 すると今度は葉月ちゃんが下から不満そうな顔で

「葉月にドキドキしてくれたんじゃないんですかっ」

「えっと……葉月ちゃんも、とっても可愛いなって」

「じゃあ、姉さんはどうですか?」

 僕は声のした方を見ると……

 

 左の肩から下の方にかけて白や薄いピンク、色々な濃さの紫のバラや

 ところどころにリボンをあしらった柄の紫を基調とした和服で

 帯は金地に白のバラが描かれていて赤と緑の帯締めを結んである。

 すごく綺麗な晴れ着姿の姉さんがそこに居た。

 

「うわぁ、おっきなお姉さん。すごく綺麗ですっ」

「玲さん、すごく似合ってて綺麗ですね」

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」

 美波と葉月ちゃんが自分の方を向いたのを確認すると深々と頭を下げる姉さん。

 

「あけましておめでとうですっ。よろしくお願いします」

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 美波と葉月ちゃんも頭を下げて新年の挨拶を姉さんと交わしている。

 

「褒めて頂きありがとうございます。美波さんも葉月ちゃんもすごく似合ってて綺麗ですね」

 優しく微笑みながら二人を見ている姉さん。

 

「それでアキくんは姉さんの晴れ着姿を見てどうですか?」

 どうですかって……

 

 葉月ちゃんはいつもの元気な雰囲気にすごく合っていて可愛いし

 美波は普段の元気な雰囲気と違って、すごくおしとやかな感じがして……

 

 あっ、そうか。こんな雰囲気の美波を、前に見た気がしたのは……

 如月ハイランドのウェディング体験で純白のウェディングドレスに身を包んでいた美波だったんだ。

 今日は白いリボンだからウェディングドレス姿の美波をどこかで思い出していたのかもしれない。

 

「アキくん?顔が赤いですよ」

「アキ、やっぱり風邪引いたんじゃ……」

「ちっ、違うよ」

 何を考えていたのか、みんなに知られちゃうと恥ずかしいから姉さんの事で誤魔化そう。

 

「えっと、姉さんの事だよね」

「どうですか?アキくん」

 そう言うと両手を前で合わせて静かに佇む姉さん。

 どこかで見たことがあるようなポーズだな?

 

「姉さんは……」

「姉さんは?……思わずプロポーズしたくなりましたか?」

 そっちのポーズじゃないからねっ!?

 一瞬、美波から物凄い殺気が溢れた気がした。僕はその殺気に怯えながら

 

「そんなことはないよ。それで姉さんの晴れ着姿は……」

「晴れ着姿は?」

 三人の視線が僕に集中しているのが判る。

 ああ、そうだ。確かCDとかを売ってる店の前で見た……

 

「演歌歌手みたいだね」

 

 僕は姉さんに……

 

 

 

 チョキで目潰しをされて、パーで頬を往復ビンタされ、グーで殴り飛ばされた。

 

 

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