楽しい食事も終わり、リビングで話をしていると
ふいに姉さんが
「せっかくですから、お正月らしくカルタでもしませんか?」
「カルタってなんですか?」
葉月ちゃんが人差し指を頬に当てて首を傾げている。
「読まれた言葉に合わせた絵札を取る遊びだよ」
僕が答えると葉月ちゃんは
「面白そうですっ!葉月、遊んでみたいですっ」
「では持ってきますね」
しばらくすると姉さんがカルタを持って戻ってきた。
「私が読みますのでアキくん、これを」
絵札を僕に渡す姉さん。どうやら買ってきたばかりの物らしい。
まだビニールの袋に入ったままの状態だった。
僕は袋から絵札を取り出すと葉月ちゃんに見せてあげた。
「ほら、左上に平仮名が一文字、大きく丸で囲まれているでしょ?」
「はいですっ」
「姉さんが一番最初に言った平仮名の札を取る遊びだよ」
「へぇ……日本のお正月はそういう遊びもするのね」
いつのまにか美波も僕の説明を聞いていたみたいだ。
「やっぱり美波もカルタを見るのは初めて?」
「うん」
「葉月、早く遊びたいですっ」
「ちょっと待っててね」
僕は札を床の上に重ならないようにばらまいて……準備オッケー。
床の上に散らばった札を、床に両手をついて眺めている美波と葉月ちゃん。
「姉さん、準備出来たよ」
「わかりました。では行きます」
姉さんは、こほん、と小さく咳払いを一つすると……
「『い』ぬ……」
「ほら、『い』だよ」
葉月ちゃんと美波が一生懸命『い』の札を探している。
姉さんは続きの言葉を……
「…………よりも可愛いアキくん」
……はっ?
「見つかりましたか?」
「あったですっ」
姉さんが聞いたのと、ほぼ同時に葉月ちゃんが札を一枚、手にとって喜んでいた。
念のため、葉月ちゃんが手に持っている札を見せてもらうと……
その札に描かれている絵は犬が電信柱のような物に当たっている絵だった。
さっきの僕が可愛いとか言ってたのは姉さんのアドリブだったんだろうか?
気を取り直して次へ……姉さんが読み始める。
「『ロ』リコンより姉萌え」
……なに、それっ!?
「ちょっと姉さんっ!?」
「アキくん、『ろ』ですよ」
「あったわっ」
僕が姉さんに質問しようとすると美波が札を取っていた。
「では次に行きますね」
姉さんは、僕が質問しようとするのを
「『は』なより姉さん」
おかしい。確かに言葉の並び方は『いろは』なんだけど……
姉さんの読んでいる言葉は、僕の知っている『いろはカルタ』とは全く別物だ。
…………と言うより、まるで姉さんが自分の都合のいいように読んでいる気がする。
僕が考えている間にも美波や葉月ちゃんは楽しそうに札を探して取っている。
「『に』くしん大好き」
さすがに美波もおかしいと気付き始めたみたいで動きが止まっている。
でも葉月ちゃんは楽しそうに札を探している。
「あったですっ」
そう言って見つけた札を嬉しそうに上に上げる葉月ちゃん。
そんな葉月ちゃんを見て、次の札を読もうとする姉さんの手から札を取り上げる。
「あっ、アキくん。何をするんですか」
「姉さんが変な事ばかり読むからだよ」
姉さんは少し口を尖らせて拗ねた表情になったけど……
本当にそんな変な事が書いてあるのか、確認のために札を見ると
【『ポ』ニーテールより巨乳】
「アウトーーーーっ!!」
僕は姉さんから取り上げた札をレッドカードのように姉さんに突きつけた。
姉さんは僕が突きつけた札を回収すると
「どうかしたんですか?」
何があったのか判らないといった顔で僕を見ている。
「どうしたもなにも……」
どこから説明したら良いか判らずに、二の句がつげない僕を見ていた姉さんは手をぽんと軽く叩くと
「ああ、そうでした。買ってきたばかりでシャッフルするのを忘れていました」
「違うっ!問題はそこじゃないっ!!」
「では何が問題なのでしょう?」
僕は姉さんの手から札を適当に一枚取ると……
【『ま』いにち一緒に居たい姉さん】
と、書かれた札を姉さんに突きつけて
「姉さん、何これ?変なのばかりじゃないか」
僕が姉さんに問い詰めると
「そんな事はありませんよ……例えば、これを読んでみてください」
姉さんはそう言うと一枚の札を僕の目の前に……えっと、なになに?
「『ね』えさん愛してる」
――――――ごふっ。
すると姉さんは頬を染めて少し俯くと両手を身体の前でもじもじさせて
「そんな面と向かって言われると……姉さん、困ります」
「僕の方がもっと困ってるよっ!?」
…………そして
僕の後ろから今まで経験した中で、最大級の物凄い殺気が感じられる。
まるで心臓を鷲掴みにされているような感覚。
今にも捻り潰されそうだ。
「アキの…………バカァーーーッ!!」
僕は大きな川のほとりにある綺麗なお花畑で
おじいちゃんに新年の挨拶をしてきた。
――――
―――
――
「正月早々、何でこんな目に……」
首と背中と腰がまだ少し痛い……一体どんな技を掛けられたのだろうか。
「何よ。アキがあんな事言うから、ウチもつい……」
僕の目の前には美波の顔がアップで……
そう言えば、僕は今横になっているのは判るんだけど
頭の後ろに何か柔らかいものが……
そして美波のいつもの優しいシャンプーの良い匂いがする。
ひょっとして美波が膝枕してくれてるのっ!?
「もぅ大丈夫だよ」
とりあえず起きないと。
そう思って身体を起こそうとすると……
「
「まだ無理しちゃダメよ。じっとしてなさい」
美波におでこを押さえられて
(もう少し大人しくしてなさい。ウチに悪いと思うならね)
片目を瞑って小声で言われた。
(玲さんの前でアキに触っていられるんだもの。こんなチャンス滅多に無いじゃない)
どうやら姉さんは少し離れたところで葉月ちゃんの相手をしているらしい。
時々葉月ちゃんのはしゃぐ声が聞こえてくる。
(でも、せっかくの晴れ着がしわになっちゃうんじゃ……)
(いいのよ。アキが見てくれて……ウチの事、すごい褒めてくれたんだから)
(う、うん……)
(玲さんや葉月には綺麗とか可愛いって言っていたけど……ウチにはドキドキしたんでしょ?)
(うん)
(ウチだけ見た目だけじゃなく、心から褒めてくれてた)
優しく微笑む美波を見て……これだけは言っておかないと。
(やっぱり僕は……美波に一番傍に居て欲しいんだ)
僕がそう言うと……
(さっき、それを言ってくれてたら、こんな事にならなかったのに)
(うっ……そうかも)
(ふふっ。でもアキは葉月や玲さんをがっかりさせたくなかったんでしょ?)
(うん……)
(ウチも二人の落ち込んでいるところは見たくないもの)
美波はそう言うと……満面の笑みで
(そんな優しいアキが大好きなんだから)
…………
………
……
そしてしばらくすると葉月ちゃんと姉さんがやってきて
「バカなお兄ちゃん。気が付きましたかっ」
「アキくん、大丈夫ですか」
僕は起き上がって
「うん、もう大丈夫。心配掛けてゴメンね」
葉月ちゃんの頭を撫でてあげると目を細めて喜んでくれた。
「ところで、姉さん。さっきの変なカルタはどうしたの?」
「全然、変じゃないですよ。せっかくアキくんのせんの……いえ、専用に作ったのに」
「今、洗脳って言おうとしたよねっ!?」
「気のせいです」
姉さんはそう言うと振袖を捲り上げて拳を握ってきた。
「うん、僕の気のせいだよね。ははは……」
元旦早々、二度目のおじいちゃんへの挨拶は避けたいところだ。
「昨年末、知り合いの印刷業者さんに無理を言ってわざわざ作って頂いたのですが」
年末の忙しい時期にこんな物を作る羽目になった印刷業者さんに申し訳無い気持ちで一杯だ。
「それで仕事中に読み札の文面は考えたのですが」
年末に仕事が忙しかったのはそんな事をしていたからでは……
「絵札の方まで手が回らなかったので既製品の物を使用させて頂きました」
「それで絵札の方はまともだったのか」
僕の
「でも年末に急遽母さんたちのところに行っていたので今朝引取りをしてきたのです」
「だから朝出掛けていたんだね」
「はい。後、この晴れ着の着付けも一緒に」
姉さんが振袖を揺らしながらそう言ってると……
「そろそろ、ウチら帰るわね」
美波が葉月ちゃんの肩に手を置いてそう言ってきた。
「葉月、もっとバカなお兄ちゃんと遊びたいですっ」
僕にしがみついて来る葉月ちゃん。
僕ももうちょっと居て欲しいけど……
「ダメよ。お母さんと約束したじゃない。今日は早く帰るって」
まぁ振袖を着てるし、正月早々あまり遅くなるのも……
「でも……」
葉月ちゃんが珍しく涙目になりながら僕を見上げている。
ううっ……葉月ちゃんが泣くところは見たくないな。
すると姉さんが……
「では、よろしければ明日は泊まりで遊びに来ませんか?」
「「ええっ!?」」
「ほんとですかっ?」
驚く僕と美波と、喜んでいる葉月ちゃん。
「姉さん、いいの?」
「ええ、さっきまでアキくんが気絶していたから葉月ちゃんも遊び足りないでしょうし」
「……ごめんなさい」
「お正月休みくらいはゆっくり遊ぶのも良いと思います」
「ウチも……良いんですか?」
「もちろんです。正月早々アキくんがお世話になってますし」
僕の頭をぽんぽんと叩いて姉さんがそう言ってきた。
「そうだね。明日は僕が腕によりをかけて『メイド服を着て』御飯を……って、そんな物着ないからねっ!?」
姉さんが変な台詞を入れてきた。まったく油断も隙も無い。
「ほら、葉月。玲さんがせっかく言ってくれてるんだから今日は我慢して早く帰りましょ?」
葉月ちゃんの頭を撫でながら美波がそう言うと……
「はいですっ。お姉ちゃん、早く帰ってお母さんにお願いするですっ」
葉月ちゃんはさっきまで泣きそうだったのが嘘みたいに笑顔になった。
――――
―――
――
そして二人を見送るため、僕も一緒に外へ……
「えへへ……バカなお兄ちゃんとお姉ちゃん。手を繋いでもらっても良いですか?」
「「うん」」
三人で仲良く手を繋いでしばらく歩き……
大通りへ出てタクシーを拾って二人は帰っていった。
さて、明日何を作るか考えないとね。