僕と雄二が現世に戻ってくると
僕たちの居た席には霧島さんと雄二(の抜け殻)も居た。
「「酷い目にあった」」
僕と雄二がぐったりしていると
「なによ、アキが悪いんじゃない」
口を尖らせながら僕を睨んでいる美波と
「……いつも私の事を考えてくれない雄二が悪い」
少し拗ねたような感じがする霧島さん。
なんとなく、そんな気がするだけで普段とあまり表情は変わってないけど……
「せっかくだから、みんなで何処か行きませんか?」
姫路さんが提案してくる。
そうだなぁ、みんなで遊べる物は……
「じゃあ、ボウリングはどうだ?」
雄二が提案する。
確かにボウリングなら全員一緒に遊べるよね。
「ウチは良いけど……」
僕の顔を見ながら美波も乗ってきた。
「僕も良いよ」
僕も、もちろん問題は無い。
みんな、どれ位の腕前なんだろうか?
「ボーリング……ですか?みんなで穴を掘るんですか?」
早速問題が発生した。
どうやら姫路さんはスポーツ全般が苦手らしい……野球も知らなかったくらいだしなぁ。
「……私もやった事は無い」
霧島さんもやった事が無いのか。
でもやった事が無いだけで知識としては知ってるのかな?
「どうする、雄二?霧島さんと姫路さんはやった事が無いみたいだよ?」
「そうか。翔子もやった事が無いのは意外だが、それなら他のにするか」
「あっ、大丈夫です。それに今から他の事を考えてたら時間が無くなっちゃいますよ?」
「……私もやった事は無いけど知っている」
姫路さんはスポーツがちょっと苦手だけど
霧島さんなら運動神経も良いし、そこそこ出来る気がする。
「確か、ここから歩いて15分くらいの所にボウリング場があったよね?」
「そうだな。歩きながら説明すれば大丈夫か?」
「はい。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる姫路さん。
早速みんなで移動を開始する。
「ボウリングって言うのはね、10本のピンめがけてボールを投げて倒した本数で点数を競うゲームだよ」
僕がボールを投げる振りをして姫路さんに教える。
普段、姫路さんには教えてもらってばかりだから、たまにはこういうのもいいかもしれない。
「そういうゲームがあるんですね。てっきり地質調査で地面に穴を開ける事かと……」
ごめんなさい。僕はそっちが判りません。
「やってみれば判るわよ」
「はい。やってみるのが楽しみです」
にこにこと会話している姫路さんと美波。
やっぱり女の子は笑顔で居て欲しいよね。
「……雄二も私に手取り足取り教えてくれる?」
「んなもん、ボールを投げるだけだろうが」
「……雄二の顔目掛けて?」
「ばっ、バカな事するなよ?ボウリングの球ってすごく重くて硬いんだぞ?」
「……私の愛を受け止めてくれないの?」
「野球のキャッチボールみたいに言ってるんじゃねぇ」
あっちはあっちで大変そうだ。
「ところでアキはアベレージはどれ位なの?」
「たしか150くらいだったと思うけど……」
前に雄二とやった時にすごく調子良い時で180いった事があるけど
普段だとそれくらいだったと思う。
ちなみにその時は雄二も調子が良くて200を超えて、負けてジュースおごらされたっけ。
「アベレージって何ですか?……平均って意味ですか?」
「大体これくらいのスコアが出せるって事だよ」
「ウチは大体160くらいだから……アキ、ウチと勝負しない?」
「うん、いいよ」
「わ、私も勝負してもいいですか?」
姫路さんが勝負に乗ってくるのは珍しいな。
でもみんなでやった方が盛り上がるよね。
「もちろん、いいよ。でも姫路さんは初めてだからハンデをつけないとね」
「ハンデってなんですか?」
「例えばアキと瑞希が100点満点のテストの点数で勝負する時があるとするわよね?」
「はい」
「でもアキは一桁だからハンデとして90点プラスすれば瑞希と互角の勝負になるわよね?」
「なるほど、そういう事なんですね」
確かにその通りだけど……美波だって古典は一桁の時あるじゃないか。
「明久、なんか勝負するのか?」
「うん」
「じゃあ、俺たちも混ぜてくれ」
「別に良いけど、霧島さんと姫路さんのハンデはどうする?」
「そうだな……二人とも初めてなんだから100くらいで良いんじゃないか」
10フレーム全部でピンを全部倒せなくて50~60だとして
ハンデを入れて大体僕と美波くらいか。
「それくらいがちょうど良いのかな?」
「坂本と翔子も勝負するの?」
「ああ。一番点数の高い奴の言う事を一つ聞くって言うのはどうだ?」
ずいぶん自信がありそうだな、雄二の奴。
「ウチは良いけど……瑞希と翔子は良いの?」
「……うん、私が勝ったらこれに判子を押してもらうだけだから」
霧島さんの手には何か書類みたいな物が握られている。
「くっ……俺は絶対勝ってあれを手に入れないと……」
雄二もやる気が
「私は……明久君にメイド服着てもらって……」
頬を染めて嬉しそうに言っているけど、そのお願いは叶えさせる訳にはいかない。
この前やったばかりだし。
「アキはどうするの?」
「うーん、僕は今すぐには思いつかないなぁ。美波は何をお願いするの?」
「そうね……」
僕の顔をジッと見ながら頬を染めて……
「アキに、おはようのキスからおやすみのキスまでずっと一緒に居てもらおうかな」
両手を頬に当ててもじもじする美波。
僕だって出来るならしてあげたいけど……
姉さんにバレたら土下座しても許してもらえそうに無い。
「おはようのキスから次の日のおはようのキスまででも良いわっ!」
それがバレたら、たぶん遺書を書いても姉さんは許してくれそうに無いんだけどっ!?
そんなやりとりをしているうちにボウリング場についた。
ビリヤードとかダーツや卓球、バッティングセンターなどが入ってる建物だ。
ボウリング場は五階と六階の2フロアだ…受付は六階らしい。
「早速受付しようぜ」
「そうだね」
僕たちは受付で名前を登録する用紙を貰った。
用紙は二枚くれたから2レーン使えるのかな。
「アキ、ウチが書いてあげるね……瑞希もウチらと一緒でいいでしょ?」
「はい、よろしくお願いします」
「……雄二の分も私が書いてあげる」
どうやら美波と姫路さんと僕、雄二と霧島さん、と別れるみたいだ。
まぁ雄二と一緒だと邪魔されそうな気がするから、ちょうど良いのかも。
受付の係の人に用紙を渡して靴を借りる。
その間に名前の登録が終わったみたい……だと思ったのだが
「坂本様……ちょっとよろしいですか?」
「どうかしましたか?」
「あの…お客様は二名様だと思うのですが」
「ああ、そうだが?」
「お名前が四名様分ありまして……」
「はっ?」
「坂本雄二様、翔子様、しょうゆ様、こしょう様の四名様なのですが……」
「翔子っ!お前何書いてやがるっ!?」
「……戸籍謄本かと思った」
「お前という奴は……すいません、雄二と翔子だけでお願いします」
「はい、二名様ですね。承りました、少々お待ちください」
雄二も大変そうだなぁ……恋する乙女心は一途だね。
どうやら僕たちは五階で隣り合わせで2レーン使わせてもらえるみたいだ。
五階に下りて自分達のレーンにつくと荷物を置いて……
「姫路さんは初めてだから何でも聞いてね」
「はい、よろしくお願いします」
「まずはボール選びね」
美波が姫路さんの手を引いてボールが置いてあるラックの前に……
「このボールに書いてある数字は何ですか?」
「ボールの重さかな」
「たぶんポンドだったと思うけど」
「ポンドですか……ではこちらの【8】と書いてあるボールは3.6キログラムくらいですか?」
「正確な重さは判らないけど、それくらいはあるかな?」
「ここにある一番軽いのだと【6】かな?」
美波が指を差す方に【6】と書いてあるボールがあった。
「色による違いはあるのですか?」
「特に無いと思うけど……」
「では私は、このボールにしますね」
そう言って姫路さんが選んだのは【6】と書かれたピンクのボールだった。
すごく重そうに持ってるけど……
何倍も重い石畳や
「ウチはこれにしようかな」
美波が選んだのは【14】と書かれた赤いボールだった。
僕より重いボールを使うのか。
僕は【13】と書かれた青いボールにした。
そして僕たちがボールを選んで戻ると……雄二たちは、すでに始めていた。
「じゃあ、僕たちも始めようか」
「よろしくお願いしますね」
「最初はアキからよ」
「了解」
さて最初から飛ばしていかないと……
とりあえず一投目っと。
いい感じに1番ピンに当たったと思ったのに……2本残っちゃった。
しかも端っこと端っこだ。こんなのプロでも取れないよ。
「明久君はどっちを選ぶんでしょうか」
「アキの事だから、きっとどっちも選べないわね」
二人はピンの事を言ってるんだろうか。
なんとなく違う事を言われている気がする。
気を取り直して二投目。
結果は……美波の言う通り、ボールはピンとピンの間を抜けて行った。
最終的に僕が155、美波が158、姫路さんが65で
雄二が199も行って、霧島さんが96だった。
姫路さんと霧島さんにハンデをプラスしても雄二の一位だ。
「よっしゃぁぁ。俺がトップだな」
すごく嬉しそうな雄二。
そして霧島さんのほうを向いて手を出すと……
「さぁ、翔子。こっちにわた……」
雄二が言いかけると霧島さんは……
「……雄二。そんなに私の事が嫌いなの?」
ぼろぼろと泣き出してしまった。
「……小学校の時から私には雄二しか居なかったのに……」
両手で顔を覆う様に泣き崩れ、その場に座り込んでしまう霧島さん。
「……ずっと…ずっと一人ぼっちだった……私の…初めての友達になってくれた…」
泣きながら心の奥底に溜まっていた物を吐き出すかのように話している。
「しょっ、翔子……泣くのは、やめてくれ」
おどおどしだす雄二……普段は、あんな感じでも霧島さんが泣くのには慣れていないんだな。
「……雄二のお願いならそうする」
けろっとした顔で、すくっと立つ霧島さん。
「ああ、ありが……って、お前っ!?」
「……雄二の言う事を一つ聞いてあげた」
にこにこと笑顔の霧島さんが雄二と腕を組んでいる。
「そうだね。たしかに雄二の言う事を聞いてたよね」
「そうですね。翔子ちゃんは坂本君の言う事を聞いてますね」
「坂本が翔子を泣かすのが悪いんじゃない」
この勝負、結局勝ったのは霧島さんなのかな?
そしてボウリング場でみんなと別れた。
姫路さんはお母さんとの約束があったと言う事で急いで帰っていった。
雄二と霧島さんは仲良く腕を組んでいたのか関節を極めていたのか……
雄二の顔が複雑すぎて僕にはちょっと判らなかった。
美波と二人で帰り道を歩いていると……
「ねぇ、アキ?」
「なに?」
「もしアキが一番で、お願いを言えるとしたら何をお願いしたの?」
「うーん、さっきも言ったけど今は思いつかないな」
「アキって、そんなに欲が無いの?そうは見えないんだけど……」
僕の顔をまじまじと見る美波。
勉強しないで自由が欲しいとか、そういうのはあるけど……
「お願いと言うか……美波が隣に居てくれるだけで嬉しいから」
もう美波が僕のお願いを聞いてくれてるから、これ以上は無いかな?
すると僕を見ていた美波の顔が真っ赤になって……
「もぅアキったら……ずっと一緒に居るって言ったじゃない」
そう言って腕を組んできて……
「……ウチの居る場所はアキの隣だけよ」
僕の腕を美波の心地の好い温かさがぎゅっと抱き締めてくる。
そして美波の家の前まで来ると……
「あ……」
美波がふっと視線を逸らす。
「今日は隙は見せないよ?」
僕は美波を見ていると……
ドン、と言う強い衝撃が僕の鳩尾に……
「バカなお兄ちゃんっ!お久しぶりですっ!」
僕の鳩尾に頭をぐりぐり擦り付けてくるのは葉月ちゃんだった。
予想してなかったので結構なダメージが……
「隙だらけじゃない」
呆れ顔で僕を見ている美波。
くっ……反論できない。
どっちにしろ鳩尾のダメージが思ったより大きくて
呼吸がうまく出来ないから喋れないんだけど……
なんとか笑顔を作って葉月ちゃんの頭を撫でてあげる。
「んにゅ~」
目を細めて喜んでくれてる葉月ちゃんを見ていると痛みが和らいでくるな。
「葉月。吉井君が困ってるじゃない」
左手に大きなバッグを持って話しかけてくる美波と葉月ちゃんのお母さん。
「お兄ちゃん困ってるんですか?」
僕をジッと見上げてる葉月ちゃん。
「そっ、そんな事無いよ。ちょっとびっくりしただけだよ」
僕が葉月ちゃんの頭を撫で続けていると……
「お母さんと葉月、どうしてここに?」
「夕食の買い物に行ってたのよ。吉井君も良かったら食べていかない?」
先週は、うちに僕一人だったからずっと御馳走になってたけど今日は……
「ありがとうございます。せっかくですが家で姉さんが待ってると思うので今日は失礼させて頂きます」
「お姉さんが待ってるなら仕方ないわね。今度ゆっくり遊びに来てね」
「バカなお兄ちゃん、また今度ですっ」
「じゃあ、アキ。また明日学校でね」
三人で手を振って僕を見送ってくれた。
……ガチャッ
「ただいまー」
あれ、姉さんはまだ帰ってきていないのか。
夕御飯は何を作ろうかな、と考えながら冷蔵庫の中を見ていると……
PiPiPiPiPi…… PiPiPiPiPi……
着信は姉さんからだ。
「もしもし、姉さん?」
「アキくんですか?」
「うん、今日は帰ってくるのずいぶん遅そうだね?」
「はい、今日は帰るのが遅くなりそうなので夕御飯は食べて帰るのでいりません」
「ええっ、そうなの?」
「はい、アキくんには寂しい思いをさせますが……帰ったら添い寝を…」
ピッ
用件だけ聞けたから良いかな。
こんな事なら美波の家で御馳走になってくれば……
作るのも食べに行くのも面倒になったので寝る事にしよう。
無駄だとは思うけど部屋の鍵をきちんと掛けておいた。