そして食事が終わり、僕が後片付けのためにお皿を下げようとすると姉さんが
「美波さんと葉月ちゃんにちょっとお話したいことがあるので後片付けはアキくんにお願いしても良いでしょうか?」
「うん。僕一人で大丈夫だよ」
美波もメイド服を着ているとはいえ、お客様だしね。
「アキ、ごめんね」
「全然気にしなくて良いよ」
そして僕はお皿を持ってキッチンへ。
しばらく一人で洗い物をして……
終わったので着替えるために自分の部屋へ行こうとするとリビングから
(…………おね…は…………あと……ふ……)
姉さんが美波と葉月ちゃんに何か言っているみたいだけど……
盗み聞きするのも何となく嫌だな。
後で美波に聞いてみるかな?
そして着替えをしてからリビングに戻ると……
「では誰がアキくんにお願いを聞いてもらうか決めましょう」
……ただのトランプ遊びでは、なくなっていた。
いつの間にか、僕にお願いをする人を決める大会になっている。
(僕が勝てば良いんだ。勝てば良いんだ。勝てば……)
僕は自分自身に言い聞かせるように呟きながら
テーブルの上に置いてあるトランプを手に取る。
「ところでトランプって何をするの?」
「そうね。葉月は何かやりたい遊びはある?」
「葉月、七並べがいいですっ」
トランプをシャッフルしている僕を笑顔で見ている葉月ちゃん。
「それなら、七並べにしよっか。姉さんもそれで良いでしょ?」
「はい。何でも良いですよ」
「じゃあ、配るね」
僕はみんなの前に順番に一枚ずつトランプを配っていく。
そして配り終わって、みんながカードを手に取るのを見計らって
「ハートの【7】を持っている人から時計回りだよ」
「葉月からですねっ」
葉月ちゃんがにこにこと笑顔でハートの【7】のカードを出す。
順番は葉月ちゃん、美波、姉さん、そして僕が最後だ。
でも七並べは順番はさほど関係がなくて、持っているカードが
どれだけ【7】に近いか、いかに繋げることが出来るか、の勝負だから……
みんな一枚ずつ【7】を持っていたので全員最初の手札は12枚ずつ。
そして僕の手札は……ハートの【4】と【6】と【10】と【K】、ダイヤの【4】と【5】に
クラブの【9】【10】【J】の3枚とスペードの【3】と【5】と【Q】。
――――――――――――――――――――
ハート 4 67 10 K
クラブ 7 910J
ダイヤ 45 7
スペード 3 5 7 Q
――――――――――――――――――――
うん、なかなかいい感じにまとまっている気がする。
問題があるとすればハートの【K】とスペードの【Q】くらいかな?
でもハートの【4】とダイヤの【4】を止めちゃえば
きっと苦しくなって【Q】と【K】の前のカードは出てくるだろう。
…………
………
……
6順目まで誰もパスをすることなく進み、現在の僕の手札の残りは
ハートの【4】と【K】、ダイヤの【4】にクラブの【J】と
スペードの【3】と【Q】の6枚。ここまでは、ほぼ予想通りの展開だ。
――――――――――――――――――――
ハート 5678910
クラブ 345678910
ダイヤ 5678910JQK
スペード 56789
――――――――――――――――――――
そして7順目、葉月ちゃんがクラブの【2】を出す。
次に美波がスペードの【10】を出したので、誰かが【J】を出してくれれば
ちょっと厄介だったスペードの【Q】が処理出来るな……と考えていると
姉さんはクラブの【A】を出した。
僕は出せるカードが3枚あるけど……
ここは他の人の動きを牽制する為にも一回パスしておくかな。
パスは三回出来るんだから今一回くらいしても、さほど問題はないはず。
「僕、パス一回ね」
「あら、アキくん出すものが無くなっちゃったんですか」
「あはは……」
下手なことを言うとすぐ裏を読まれちゃうから笑って誤魔化しておくことにしよう。
「じゃあ、次は葉月ですね」
そう言うと葉月ちゃんはスペードの【J】を出してくれた。
これでスペードの【Q】が処分出来るな……たぶん、僕は少し顔が綻んだのかもしれない。
美波がハートの【J】を出しながら
「ひょっとしてアキは坂本たちとやっているように七並べしてるのかしら?」
「ん?どうして?」
雄二相手なら、こんな正攻法はしない。
雄二を気絶させるとか、霧島さんを呼んで雄二の気を散らすとか他の方法を考えるね。
「葉月は出せるカードから出していくからパスなんてしていたら負けるわよ?」
「それにアキくんは勝たない限り、誰かのお願いを聞かないといけないんですよ」
そう言いながら姉さんがスペードの【4】を出す。
そう言えば僕は一番で勝たないといけないんだったっけ。
スペードの【Q】を出してから、並んでいるカードを見てみる。
――――――――――――――――――――
ハート 5678910J
クラブ A2345678910
ダイヤ 5678910JQK
スペード 45678910JQ
――――――――――――――――――――
ハートの【K】以外は出せる状態にある。
葉月ちゃんや美波、姉さんはパスをしていないから残りの手札は4枚。
僕はパスを一回したから残り5枚。
でも、4箇所を抑えている状態だから、このまま行けば……
葉月ちゃんはスペードの【K】を出してきた。
端っこの方を出してきたってことは、出せる物が無くなってきたのかな?
「う……出せるカードが無くなったわ。パス一回ね」
「私も出せるカードがありません。パスです」
美波と姉さんがパスを宣言する。
…………と言う事は二人ともハートの【Q】を持っていないのか。
葉月ちゃんが持っているなら次に出すだろうから
ここはもう一回パスをして……なんて考えていると
「……ダイヤの【4】を止めている人の息の根も止めたい気分です」
姉さんが、ぼそっと危ない事を言い出したよっ!?
「奇遇ですね。ウチもハートの【4】を抑えている人の鼻と口を手で押さえたい気分です」
美波の目がスッと細くなり……僕を睨んでいる。
「ちょっ……二人とも、これは遊びだよねっ!?」
すると姉さんと美波が揃って口を尖らせて……
「「何を言ってる(のよ)(んですか)。アキ(くん)がかかっている以上ウチ(私)は本気なの(です)」」
二人の気持ちに涙が止まらない。
でも、僕が二人の手にかかったら誰が二人のお願いを聞くのかな?と思って涙を流していると……
「バカなお兄ちゃん?葉月、スペードの【3】を出してくれると嬉しいですっ」
二人と対照的な天真爛漫の笑顔の葉月ちゃんを見て心が和んだ。
その笑顔を見ながら、なにげなく僕が手に取ったカードは……
「はい、スペードの【3】ね」
…………
……
…………ああっ!僕のバカっ!
敵(?)に塩を送るだけならまだしも、その塩を別の敵の傷口に塗りこんで余計怒らせた気分だ。
「「アキ(くん)は本当に葉月(ちゃん)に甘い(わね)(ですね)」」
美波と姉さんの、目が笑っていない笑顔が怖い……
結局その後、葉月ちゃんがスペードの【2】と【A】とハートの【Q】を出して
一回もパスをしていない葉月ちゃんの勝ち。
「やったですっ!葉月が一番ですっ!」
両手を上げて喜んでいる葉月ちゃん。
最初から最後まで
そして僕がトランプを集めてシャッフルを始める。
「じゃあ、次に行きましょうか」
姉さんが仕切り直しをする。
「そだね。美波は何かやりたい遊びはあるの?」
僕が聞くと美波はあごに指を当てて「そうね」と言って少し考え込むと……
「ババ抜きでもいいかしら?」
「ババ抜きですか……それでは我が家で遊んでいるハテナ抜きでも良いですか?」
「「ハテナ抜き?」」
姉さんが提案すると、美波と葉月ちゃんが頭に『?』を浮かべて首を傾げている。
「うちで昔からババ抜きの代わりにやっているトランプ遊びなんだけど……」
「面白そうです。葉月、やってみたいですっ」
「そうね。アキの家で昔からやっているトランプ遊びってどんな物なのか知りたいわね」
葉月ちゃんと美波も乗り気みたいだ……そんなに嬉しそうにされると少しだけ心が痛むな。
「じゃあ、ルールの説明をするね」
「うん」 「はいです」
僕の方を向いて真剣に聞いてくれている美波と葉月ちゃん。
「ルールは普通のババ抜きと一緒で同じ数字のペアになったカードは場に置いていく」
「ただ、ババの代わりに最初にカードを一枚抜いて、どれが足りない数字なのか判らない様にしておくんだよ」
「毎回ババが変わるのね」
「うん」
「葉月、早く遊びたいです」
「じゃあ、さっき勝った葉月ちゃんが一枚選んでくれるかな」
「はいです」
僕がシャッフルしたトランプを差し出すと葉月ちゃんが一枚選ぶ。
「そしたら、それを見えないようにそのまま場に伏せて置いてくれる?」
「こうですか?」
葉月ちゃんが誰にも何のカードなのか見えないように場に伏せたまま置いた。
「うん。後は普通のババ抜きのように遊ぶんだよ」
そう言って僕はカードをみんなに配る。
そして配り終えるとみんな一斉に自分の前に配られたカードを手に取り
ペアになったカードを場に捨てていく。
…………
………
……
3順ほどして美波が姉さんからカードを引きながら
「これって誰が考えたのかしら?」
「アキくんです」
「お兄ちゃんが考えたんですか」
「うん」
葉月ちゃんが少し驚いたような表情で僕を見ている。
少し照れくさいな……そう思いながら頬をかいていると
「へぇ、アキが……でも、どうして普通のババ抜きじゃダメなの?」
「アキくんはババがあるとすぐに顔に出ちゃうから全然面白くなかったんですよ」
「ふふっ、アキらしいわね」
「うっ……それで一生懸命考えて、ババが判らないようになってれば良いんじゃないかって」
「そうね。それなら確かにババが判らないからアキでも顔に出ないわね」
美波が僕を見て微笑んでくれた……やっぱり笑顔の美波に見つめられるとドキッとしちゃうな。
「ただ、この遊びには大きな問題があって……」
「問題?」
「そのうち判ると思います」
姉さんがそう言いながら僕の手札から一枚引いていく。
…………
………
……
それから5順ほどして美波が
「やったわっ!ウチが一番ね」
姉さんから引いたカードが揃ったらしく場に捨てて
葉月ちゃんに残った一枚を引いてもらって美波の手持ちのカードが無くなった。
「ウチが一番なんだけど……」
勝ったのにあまり嬉しそうじゃない美波。
「お姉ちゃん。おめでとうですっ」
「ありがと……勝ったんだけど、いまいち盛り上がりに欠けるというか……」
美波は苦笑いしながら葉月ちゃんの頭を撫でている。
「ババがどのカードなのか判らないから、ただの札合わせになっちゃうんですよね」
姉さんがにこにこしながら僕の頭を撫でている。
妙なところで美波に張り合わなくてもっ!?
「はふぅ……でもっ、考えた時はすごい発見だって思ったんだよっ」
いかんっ。姉さんに頭を撫でられると力が抜けていく気がする。
僕が逃げようと、もがいていると姉さんが
「そろそろお風呂に入る時間ですし……次のゲームを最後にしますか」
「そう言えば、もうそんな時間なんですね」
美波が時計を見ながら僕の頬を抓っている。
二人ともさっきの七並べの事をまだ根に持っているのだろうか。
「では最後は神経衰弱でも良いでしょうか」
姉さんが次のトランプ遊びを言ってきたけど……
「ええっ、それだと僕が……」
僕の抵抗もむなしく……
「葉月も神経衰弱やりたいですっ」
葉月ちゃんの一言で神経衰弱に決まった。
「アキは神経衰弱苦手なの?」
「それもあるけど……姉さん本気で勝ちに来たなって」
「玲さんってそんなにすごいの?」
「本気になった姉さんに勝つにはカードを透視出来ない限り勝てないよ」
――――
―――
――
姉さんが外国の有名大学を卒業しているのが美波にも良く判ってもらえたと思う。
結果は葉月ちゃんが偶然合った1組。
美波は葉月ちゃんがめくった直後に同じ数字のカードを偶然引いた3組。
そして僕は……順番が姉さんの次だったから
僕の前にめくられていたカードは全部姉さんに持っていかれて
偶然でカードを合わせる事も出来なくてゼロ。
残りは全部姉さんの手の中に。
「うわぁ、おっきなお姉ちゃん、すごいですっ」
葉月ちゃんが目を丸くして驚いている。
「ほんと、すごいわね」
美波も口に手を当てて驚いている。
「姉さんは一度見たらほとんど忘れないから順番が後だと全然取れないよ」
「とりあえず、今日はこれくらいにしておきますか」
「そうですね」
「えっと、結局誰が一番勝ったことになるのかな?」
誰が勝っても、きっと僕がお願いを聞かないといけないんだろうけど……
三人が一回ずつ勝っているけど、一番は誰になるんだろう?
「アキくん、何を言ってるんですか」
「ふぇ?」
姉さんは何を言っているのだろう?
「みんな一回ずつ一番勝っているんですから、アキくんはみんなのお願いを一個ずつ聞くんですよ」
「ええっ!一番って一人じゃないのっ!?」
「ええ。ですから、それぞれの遊びで一人ずつ一番が出るんですよ」
「アキは一回も勝ってないんだから文句は言えないわよ?」
「それはそうなんだけど……」
美波や葉月ちゃんのお願いなら喜んで聞いてあげるけど……
姉さんが何を言ってくるか心配で仕方がない。
僕が心配そうに姉さんを見ていると
「大丈夫ですよ。そんなに無理な事は言いませんから」
姉さんが僕の表情から何かを察したのか、そんな事を言ってきた。
「本当?」
「ええ。結婚して欲しいとか言いませんよ…………今は」
「後で言うつもりなのっ!?」
「冗談です」
そう言った姉さんは何処となく寂しそうだったけど……
ちなみに美波が僕の左頬を、葉月ちゃんは僕の右手の甲を抓っている。
「では、ちょっとお風呂を見てきますね」
姉さんがそう言ってリビングを出て行くと
「アキっ!実のお姉さんと、けっ……結婚なんてしちゃダメなんだからねっ!?」
「バカなお兄ちゃんは葉月のお婿さんなんですっ!」
二人とも「う~」って唸り声が聞こえそうな顔で僕の事を睨んでいる。
こういうところは本当に良く似ている姉妹だなぁ。
「だっ、大丈夫だよっ。そんな事する訳無いじゃないか。姉さんも冗談だって言ってたし」
「ほんとでしょうね?」
僕が美波と葉月ちゃんに詰め寄られているところに姉さんがやってきて
「お風呂に入れますから、美波さんと葉月ちゃんは先にどうぞ」
「そうですか?じゃあ、失礼してお先にお風呂頂きます」
去り際に美波が小声で
(アキっ!変なことしてたら許さないからねっ!)
(大丈夫だよ)
いつも変なことをするのは僕じゃなくて姉さんだし。
そして美波がリビングから出て行くと、姉さんはにっこりと微笑みながら
「では私のお願いを聞いてもらいますね」