僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月7日(土)


僕とみんなと七草粥part02

 

 部屋の中には僕ら三人が取り残された。

 食事は作り直すから、ということで下げられてしまった。

 僕とムッツリーニはまだ食べてなかったのになぁ。

 こんなことなら恥ずかしがってないで食べさせてもらえば良かったよ。

 

 ……口移しで食べさせられる前に。

 

 とりあえず空きっ腹をごまかすために何か気を紛らわせる事を……

 

「ねぇ、雄二」

「なんだ?」

「今年に入ってから昨日まで、本当に里芋しか食べさせてもらえなかったの?」

「ああ……四日目くらいから里芋一個一個に恨めしそうな顔や泣きそうな顔が見えてきて、余計食べ辛くなったぞ」

 

 それ、雄二の料理にたっぷりと注がれた霧島さんの乙女心(あやしいくすり)の副作用じゃないの?

 

 僕が霧島さんの雄二への愛情の深さに驚いていると

 

「よし、食べる担当を決めよう」

 雄二がいきなり話を切り出してきた。

 

「食べる担当って何さ?」

「いいか?今、俺たちのために朝御飯を作ってくれている女子……いや、人間は五人だ」

 もう秀吉も女子で良い気がするんだけどなぁ。

 

「まず、翔子は俺」

 うんうん、雄二には霧島さんの乙女心を堪能して欲しい。

 

「次に工藤の料理はムッツリーニだろ」

「…………仕方ない」

 ムッツリーニは顔を少し横に向けて興味が無さそうに言ってるけど、顔は嫌がってないな。

 本当に素直じゃないんだからなぁ。

 

「当然、島田の担当は明久だよな」

「うん」

 美波の料理は美味しいから、きっと大丈夫。

 

 …………タバスコとか使われていなければ。

 

 

「それで姫路の料理は吉井が食え」

 

 ふむふむ、姫路さんの担当は吉井か……僕っ!?

 

「最後は秀吉だが……これは吉井明久に食べてもらおうと思う」

 

 あ、これも僕だ。

 

 

「これで五人分、割り振り出来たな」

「ちょっと、何で僕ばっかり食べるのさっ!?」

 正直お腹は空いているけど、そんなに一杯食べられそうにないんだけど。

 

「作り手側が食べてもらいたい人間を選んだつもりなんだが?」

 雄二が珍しく真顔でそんな事を言ってきた。

 

 

 改めて考えてみると……

 

 雄二と霧島さん、ムッツリーニと工藤さん、と言う組み合わせは良いだろう。

 問題は何故僕が三人を任されたのか、だけど……

 

 まず美波は当然、僕で問題ない……と言うか、僕以外だったら大問題だ。

 

 次に姫路さんだけど……

 

 姫路さんは必殺料理人という称号を持っている。

 でも昨日帰る時、姫路さんは誰かに笑顔(しあわせ)をあげたいと言っていた。

 

 そして僕は……『姫路さんなら出来るよ』と言ったんだっけ。

 

 それなら、姫路さんを信じて僕が食べてあげるべきなんじゃないだろうか。

 

 

 …………それに万が一、僕が気絶したら美波が人工呼吸してくれるかもしれない。

 

 

「おい、明久。何ニヤニヤしてるんだ?ブサイクな面が更に酷くなってるぞ」

 そういう雄二も何か変な勘繰りをしているのか、ニヤニヤしてて気持ち悪い。

 

「おっ、大きなお世話だよっ!」

「秀吉が作るのはたぶん大丈夫だと思うが、姫路の作ったやつは明久が食べて生きていたら手伝ってやるよ」

「…………大丈夫なら俺も手伝う」

 

 大丈夫じゃなくても、こいつらに食べさせる方法はないかな?

 

 僕たちがこんな会話をしている頃……

 

 

 

――時間を少し戻した厨房では

 

 

「……みんな、何を作るの?」

「お粥だとあんまり食べてくれなかったから、もっと食べさせやすい物が良いわね」

「ボクは料理ってあんまりやった事ないから、ボクでも出来る物が良いな~」

「それだと何が良いんでしょうか」

「あの……ワシは明久たちのところに戻っても良いじゃろうか」

 

「ダメよ。ウチの居ない所でアキにちょっかいを出されるのは嫌だもの」

「……雄二に酷い事はしたくない」

「ムッツリーニ君の部屋に木下君を隠し撮りした写真がたくさんあったんだよね」

「なっ、何で三人ともそんな怖い目でワシを見ておるのじゃっ!?」

 

「でも、何を作るのが良いのでしょうか」

「みんなでバラバラの物を作るのは効率が悪いわね」

「……それなら何か御飯物と汁物を作る?」

「それならば朝御飯らしく、おにぎりと味噌汁で良いじゃろう」

 

「おにぎりならボクでも作れそうだね。お味噌汁はお湯を入れるだけなら作れるけど」

「せっかく七草があるんですし、七草おにぎりは如何でしょうか」

「それ良いわね、瑞希。ウチはあまりお味噌汁って作った事ないからアイントプフにするわ」

「美波ちゃん、アイントプフって何?」

「ドイツのお味噌汁みたいな物ね。翔子、ちょっと冷蔵庫の中を見ても良いかしら?」

「……食材は好きに使って」

「ありがとう。それじゃ、ちょっと失礼するわね」

 

「……私は普通にお味噌汁を作るつもり。みんなは?」

「じゃあ、ボクは代表と一緒にお味噌汁を……作り方をボクに教えてもらっても良いかな?」

「……うん。瑞希たちはどうするの?」

「私は美波ちゃんに教えてもらいながらアイントプフというのを作ってみたいです」

「何故ワシも作る事になっているのか、いまいち釈然とせぬが……ワシは島田や姫路と一緒に作るとしよう」

 

「……じゃあ、七草おにぎりとお味噌汁とアイントプフを作るので良い?」

「あ、代表。ボク、おにぎりを作る御飯は自分で炊きたいんだけど……ダメかな?」

「……それは良いけど……どうして?」

「ムッツリーニ君が昨日から風邪気味っぽくて……ボクなりに考えた御飯を食べてもらいたいんだよ」

 

「愛子。元気が出るようにタバスコでも入れるの?」

「愛子ちゃん。それなら元気が出るように即効性の刺激物を入れた方が……」

「あはは……二人とも気持ちだけもらっておくよ」

「して、工藤はどんな御飯を炊くつもりなんじゃ?」

 

「うん、あのね……(ごにょごにょ)」

「……わかった。ちょっと持ってくる」

「へぇ……そんな物を入れて味は大丈夫なのかしら?」

「確かに口にする物じゃから命に別状はないであろうが……」

「木下君?何で私を見ているんですか?」

 

「……愛子。お待たせ」

「ありがとう、代表。じゃあ、ボクはこの炊飯器を借りるね」

「じゃあ、ウチらはこっちの業務用の大きな炊飯器で炊きましょ」

「そうですね。ではお米と七草を混ぜて……」

「……御飯が炊けるまでお味噌汁を作る」

「じゃあ、ウチはアイントプフを作るわね」

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「さて、後は御飯が炊けるのを待つだけね」

「ボク、お味噌汁って初めて作ったよ。ほとんど代表が作ったんだけどさ」

「……後は家で何回か練習すれば大丈夫」

「私もアイントプフというものを初めて作りました。世界には色んな料理があるんですね」

「工藤の御飯が炊けたようじゃな」

 

「どんな風に出来ているんでしょうか」

「……試した事がないから楽しみ」

「ちゃんと出来てるかなぁ……じゃあ、ふたを開けるよ、えいっ」

「うっ……少し、むせるわね」

「なんと言うか……甘ったるくて薬っぽい感じじゃのう」

 

「味の方は……少し甘いくらいで割りと普通ね」

「……後味が少しすっぱい」

「こっちの大釜の方も炊けたようじゃな」

「じゃあ、ボクは先に炊けた御飯でおにぎりを作るね」

「ウチらはこっちの御飯でおにぎりを作りましょ」

 

「……手に少し塩をつけて、あまり力を入れすぎないで握るのがコツ」

「こんな感じでしょうか」

「瑞希、上手じゃない」

「大きさを揃えて握るのは、なかなか難しいのう」

 

「ボクの方は出来たよ」

「私たちも……あれ、美波ちゃん?」

「霧島よ。ずいぶんと……」

「ウチは、もう少し頑張るから……みんな、先に行って食べてて」

「……私も、もう少し……」

((……絶対に負けられない))

 

「じゃあ、ボクたちは先に行ってるね。瑞希ちゃん、木下君、それ持って行こう」

 

 

…………

………

……

 

 

――コンコン

 

 ガチャ、とドアが開いて姫路さんたちが戻ってきた。

 姫路さんと工藤さんはお皿を持って、秀吉は鍋が二つ載ったワゴンを押している。

 

「お待たせしました」

「ゴメンね。少し時間掛かっちゃった」

 そう言って二人は持っていたお皿をテーブルの上に置く。

 お皿の上には海苔で巻かれたおにぎりがたくさん載っていた。

 

 秀吉はワゴンの上に載っていた鍋を二つ、テーブルの上に置く。

 そしてふたを取ると、片方はお味噌汁が入っていて、もう片方は……

 

「これは霧島と工藤の作った味噌汁じゃ。そしてこっちは島田と姫路とワシで作った……」

 秀吉がそう言うと雄二とムッツリーニはお味噌汁の方へ並んでいる。

 もう一つの鍋の方は……忘れもしない。

 僕が風邪を引いた時に美波が作ってくれた……

 

「これはアイントプフだよね」

「なんじゃ、明久。知っておるのか?」

「うん。前に美波が作ってくれたからね……あれ、美波と霧島さんは?」

「二人はもう少し時間が掛かるって……先に食べててって言ってたよ」

 工藤さんがお味噌汁をよそる準備をしながら教えてくれた。

 

 雄二とムッツリーニと工藤さんはお味噌汁を

 僕と姫路さんと秀吉はアイントプフをお椀によそって

 おにぎりを取ろうとすると

 

「あ、こっちのお皿はムッツリーニ君用にボクが握ったんだよ」

 あはは、と八重歯を見せながら笑っている工藤さん。

 それなら僕たちは、そっちのお皿には手を出さない方が良いよね。

 

 僕と雄二がもう片方のお皿に手を伸ばした時

 

「こっちのお皿のおにぎりは私と木下君で作りました」

 ピタッと、手どころか呼吸すら……心臓まで止まったかと思うほど、静止した僕と雄二。

 すると秀吉がアイコンタクトで

 

(安心せい。今回の姫路の料理には怪しい物は入っておらん)

 どうやら秀吉がお目付け役をやってくれていたみたいだ。

 

 僕はおにぎりを手に取って一口食べる。

 姫路さんが胸の前で両手を合わせて祈るように僕を見ている。

 

 ……雄二はおにぎりを手に、僕がどうなるかを確かめるように見ている。

 

 ――――もぐもぐ……ごくん。

 

「美味しいよ」

 

 僕がそう言うと、ぱぁっと笑顔になる姫路さん。

 

「本当ですか、明久君」

「うん」

 

 おにぎりの塩加減といい、握り具合といい、文句のつけようがない。

 そして御飯の中にある七草のダイコンやカブが

 少し歯ごたえのある食感で良いアクセントになっていて美味しい。

 

 

 そして雄二は僕を見て安心したのか、おにぎりにかぶりついている。

 姫路さんはおにぎりを手に持ったまま、僕と雄二を見て満足そうに微笑んでいた。

 

「ふふっ」

「姫路さん。どうしたの?」

「昨日明久君が言っていた言葉を思い出してました」

「ふぇ?」

「誰かを笑顔(しあわせ)にさせる事が嬉しいって……良く判りました」

「そっか」

「はい」

 

 そしてアイントプフを一口啜り……すごく懐かしい感じがする。

 僕が、前に美波が作ってくれた時の事を思い出している時……

 

 

 ムッツリーニと工藤さんは

 

「ムッツリーニ君、あーん」

「…………自分で食べられる」

 工藤さんが差し出したおにぎりから顔を(そむ)けているムッツリーニ。

 それじゃ、さっきと一緒じゃないか……と、思って僕が一言言おうとしたら

 

「ムッツリーニよ。そのおにぎりは工藤がお主のためを思って特別に炊いた御飯から作ったんじゃ」

 秀吉がすごく真剣な表情でムッツリーニに話しかけていた。

 するとムッツリーニは……工藤さんが持っていたおにぎりにかぶりついた。

 

 工藤さんはムッツリーニが食べるのを心配そうな顔で見ている。

 どんな感想を言われるか、気が気じゃないんだろう。

 

「ねぇ、姫路さん」

「はい」

「あのおにぎりって何処が特別なの?」

 パッと見、僕たちが食べているおにぎりと変わりがないように見えるんだけど……

 

「えっと……お水の代わりにスポーツドリンクで御飯を炊いているんです」

「「えっ!?」」

 何故か雄二も僕と一緒に驚いていた。

 

「なんでもムッツリーニが風邪気味らしいから栄養のある物を食べさせたいらしくてのう」

 秀吉が可愛い顔を少し曇らせながら呟いている。

 

「御飯が炊けた時、ふたを開けるとすごく甘ったるい匂いに包まれたのじゃが……」

「そんなもん、別々に食った方が美味いだろ」

 雄二がそんな事を言ってきたけど……僕もそう思う。

 

「でも、炊けた時に食べましたけど、少し甘いくらいで普通の御飯と変わらない気がしたんですが」

「工藤が言うには電解質がお米に吸収されて食べやすくなっている……らしいのじゃが」

 秀吉が遠い目をして工藤さんとムッツリーニを見ている。

 やっぱり秀吉も信じられないのだろう……僕もちょっと信じられない。

 

 そして僕たちが見守る中、ムッツリーニは……

 

「…………少し甘い……が、食えなくもない」

 そして味噌汁を一口啜り

 

「…………味噌汁は美味しい」

 すると工藤さんが笑顔になって

 

「ほんと?そのお味噌汁、ボクと代表で作ったんだよっ」

「…………おにぎりが少し甘いのが味噌汁のしょっぱさとちょうど良い」

「そっか……たくさん食べてねっ」

 嬉しそうにおにぎりをムッツリーニの口元へ運ぶ工藤さん。

 

 そんな二人を見ながら、次のおにぎりを食べようとお皿に手を伸ばした時

 

 

――ガラッ

 

「アキ、お待たせっ!」

「……雄二。お待たせ」

 

 美波と霧島さんが戻ってきた。

 そして僕と雄二の前へ来ると……

 

「アキのことを考えながら作っていたら遅くなっちゃった」

「ありがとう」

「ウチが心を込めて作ったの……たくさん食べてね」

「美波の気持ちはすごく嬉しいんだけど……」

 

 

「翔子、これはなんだ?」

「……おにぎり」

「それは見れば判る。俺が聞きたいのは……」

「……私の愛を見える形にしてみた」

 

 

「「なんでこんなに大きい(の)(んだ)!?」」

 

 

 二人が抱えるように持っているおにぎりはサッカーボールくらいの大きさだろうか。

 僕や雄二の頭より大きいおにぎりを、嬉しそうな笑顔で口元へ……

 

「みっ、美波……そんなにたくさん食べられないよっ!?」

「ウチの気持ちなんだからねっ。キチンと食べ終わるまで……」

 

「しょっ、翔子っ!こんなに食えるわけがないだろっ!?」

「……大丈夫。ちゃんと食べきるまで……」

 

 

「「(ウチ)(私)が食べさせてあげるから心配しないでっ!」」

 

 

 違うんだ、二人とも……

 

 僕と雄二が心配しているのは食べきれるかじゃなくて……

 

 

 …………無理矢理、口に放り込まれないか、なんだ。

 

 僕と雄二が心の底から嬉しそうに笑っている美波と霧島さんに

 そんな事が言える訳もなく……

 

 

 

 

 結局、僕と雄二がおにぎりを食べ終わったのは

 午後八時過ぎだった。

 

 

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