----放課後
「じゃあ、美波行こうか」
「そうね」
僕と美波は鞄を持って屋上へ向かう。
昨日、清水さんと約束をしているから。
屋上へ向かう階段で……
「何の話なんだろうね?」
「ウチらを祝福してくれる……なら、大歓迎なんだけど」
「それなら嬉しいけどね」
今までの言動や行動を見てると
僕が美波の傍に居る限り、命を狙われる気がする。
「ところでアキ?一つ聞きたい事があるんだけど……今朝の続きなんだけど」
「なに?」
「アキの……その…エッチな参考書って、まだ……いろんな種類を持ってるの?」
「いっ、いきなり何っ!?」
「そっ、その……今朝大きいのに興味ないって言ってくれたから……本当なのかなって」
美波が真っ赤な顔をして聞いてくる。
それは僕のトップシークレットなんだけどっ!?
なんて確かめ方をしてくるんだ……でも美波に嘘や適当な事を言うのは嫌だな。
「えっと、今はポニーテールのが何冊かだけ……」
僕は何を告白しているんだろうか。
「ありがとう。アキって正直だから大好きよ」
優しい笑顔を向けてくれる美波。
正直に言って良かった。
「じゃあ、今度アキの家に遊びに行ったら残りのも全部燃やすからね」
「えっ!?」
言葉と共に魂が抜けたかと一瞬思った。
「だって今朝言ってくれたじゃない?ウチ以外の人に興味ないって」
「う、うん……確かに言ったけど……」
「それなら問題ないわよね」
そんな話をしながら屋上の門扉に着いて……開けると
門扉から少し離れたベンチに清水さんは座っていた。
そして美波を確認すると……
「お姉さまっ!美春は一日千秋の思いでお待ち申し上げておりました」
駆け寄ってくると……僕を見て
「何で豚野郎が泣いているのですか?ひょっとして来る途中でお姉さまに振られましたか?」
「いや、違うんだけど……来る途中で、ほんのちょっぴり悲しい事があっただけだよ」
「まぁ貴方の事はどうでも良いです」
ついでで呼ばれて僕の
「美春、話って?」
「そうでした。話というのはですね……」
美波の右手を清水さんが両手で握り締め、美波をジッと見て……
「美春は考えました。お姉さまが何故、美春では無くて、そこの豚野郎を選んだのか」
それは僕が男で清水さんが女の子だからでは……
「そして一つの結論に達したのですっ!」
僕の抹殺以外の結論だと良いのですが……
「それは……
ええっ!そんな事出来るのっ!?
「三人仲良くなったところで、お姉さまと豚野郎が気を許した時に豚野郎を抹殺するんですっ!」
あ、結局僕は殺されるんだ。
「それならお姉さまも諦めがつくでしょうし、何より豚野郎を始末するまで美春もお姉さまと仲良く出来ます」
美波が清水さんに手を握られたまま固まっている。
そりゃそうだろう、目の前で(一応)恋人である僕が殺される話をされているんだから……
「清水さん、ちょっと美波を借りるね」
「ちゃんと返してください」
いや、それは無理……美波は僕の大切な人だから。
「美波?大丈夫?」
清水さんの手を解いて美波の頬を撫でてあげてると……
「アキ?……アキ?……生きてる?死んでない?」
そう言って僕の頬をぺちぺち叩いてくる。
僕が無事なのを確認すると……僕の肩越しに
「美春っ!言って良い事と悪い事があるわよっ!」
久しぶりに本気で怒ってる。
「もしアキが死んだらウチは……ウチは……」
僕の胸の中で泣きながら必死に言葉を紡ごうとしているけど……
(美波?僕なら大丈夫だから心配しないで)
(大丈夫だなんて……なんで、そんな簡単に言えるのよ?)
正直告白する前の美波とか姉さんの攻撃の方が命に直結してたんだけど……
(これはチャンスかもしれないよ?)
(チャンスって?)
(とりあえず形だけでも清水さんの方から仲良くしようって言ってきてくれたんだから)
(それはそうだけど……でも油断したら殺すって……)
自分で言った言葉に驚いて身体を
(今は清水さんの気持ちが仲良くなった後に変わる事を信じて乗ってみようよ?)
(でもそれって……三人仲良くって三角関係って事じゃないの?)
(うっ……でも今の清水さんの言葉だと美波はともかく僕と本気で仲良くしようって考えてないと思うよ?)
(ウチは嫌っ……形だけでもアキが他の女の子と仲良くするのはっ)
それはそうだろうなぁ……僕も美波の立場だったら、そう思うし……
(清水さんが何を考えているのか聞くだけ聞いてみようよ?それで美波が嫌だって言うなら諦めるから)
(……わかったわ……でも……)
(なに?)
(そのかわり、ウチのお願い聞いてくれる?)
(僕に出来る事なら聞くよ)
(ほんと?それなら良いわ。聞くだけ聞きましょ)
(ありがとう)
清水さんの方を向いて……
「じゃあ、清水さん。僕たちと仲良くするってどうするの?」
「そうですね。美春もいきなり貴方と仲良くするのは無理だと思います」
僕の方も多分無理だと思う。
「なので貴方に女装してもらって徐々に美春が慣れていこうと思っています」
「えっ!?」
今度は本当に言葉と共に魂が抜けた……でも、すぐ戻れたみたいだ。
「まっ、まさか、また写真を撮って脅迫するつもりなのっ!?」
前に脅迫されたせいで集団覗きの主犯扱いされて美波に誤解させてすごい騒ぎになって……
でも、あれがきっかけで今の美波との関係があるのかもしれない。
そうすると僕たちを結び付けてくれたのは清水さんってこと?
「そんな事はしません。それに写真なら、いくらでもありますし」
まさか、この前のウェディングドレスの写真は無いよねっ!?
「美春の家が喫茶店というのはご存知ですね?」
「「うん」」
「そこで貴方に女装してもらって一緒に働いているうちに少しずつ慣れていこうと思ってます」
「ええっ?あの喫茶店でっ!?」
「女装して美春と一緒に普通に街中を歩くのと、どっちが良いですか?」
「どっちって……喫茶店だけの方が良いけど……」
「それなら問題ないでしょう。美春も女装してもらっていた方が男として接しなくて気が楽ですし」
「それはそうだろうけど……」
「それに美春は、お胸が無い女子の方が興味あるので……仲良くなりやすいかと」
両手をわきわきと動かしながら話す清水さん。
その手つきが怖いんですがっ!?
「もちろん、お姉さまも一緒にお願いします。そうでないと美春は逃げ出すかもしれませんし」
「でっ、でも、美春のお父さんは良いの?」
うん、もっともな質問だね。あのエプロン姿の
「あれは……今日から検査入院で日曜まで帰ってきません。だから明日の土曜一日だけです」
「「土曜日だけなんだ」」
「はい。いきなり毎日というのも大変ですし……美春も豚野郎も」
「その後もする事あるのかな?」
「それは明日やってみてから判断すると言うのではどうでしょうか」
「ちょっと美波と相談してきても良いかな?」
「早めにお願いします……あまりお姉さまと仲良くしている所を見ていると殺したくなりますから」
うん、いつもの清水さんだ。
(どうする、美波?)
(そうね。今のところ悪い事は起きそうに無いわね)
(僕の女装の時点で僕には最悪なんだけどっ!?)
(今更一日くらい女装したって変わらないわよ)
(うう……それはそうだけど……)
(それに美春のお父さんが入院しちゃうんでしょ?)
(あ、そっか。そうすると清水さんとお母さん二人だけになっちゃうのか)
(そうよ。人助けと思ってやってみるべきだわ)
(そうだね。元々、他に方法も考え付かないんだし)
(決まりね)
(うん)
そして美波と二人で清水さんの方を向いて……
「「じゃあ、明日お願いするね(わ)」」
「わかりました。では明日は午前10時に、うちで待ってます」
「了解」
「わかったわ」
「では無事に話も済んだ事ですし……お姉さま、美春と一緒に寝ながら明日の打ち合わせをしましょう」
いきなり美波に飛びついてくる清水さん。
美波は、それをかわして僕の手を取ると……
「じゃあ、ウチはアキと一緒に寄る所があるからまた明日ねっ」
そう言って僕の手を引っ張るように門扉の奥へ……
「仕方ありません、明日を楽しみにして今日は諦めますか」
清水さんは、そう呟いていた。
美波を家まで送っていく途中で……
「まさか、こんな事になるなんて思わなかったよ」
「ウチもよ。本当にビックリね」
どういう形にせよ、清水さんに理解してもらう準備は出来たってところかな?
「明日はアキが美春と仲良くするのは許してあげるから……ある程度までね」
「ありがとう……ある程度?」
本当に清水さんと仲良く出来るのかが心配だけど……調理場は凶器が多いし。
ある程度って何処までだろう……姉さんの不純異性交遊の判断基準くらいだろうか。
「ある程度はある程度よ。そうね……ウチのその時の気分しだいかな?」
姉さんより曖昧だった。
じゃあ、美波の機嫌が悪かったら……
僕は美波と清水さんの両方から命を狙われるのっ!?
女装した挙句に同級生の女の子に殺されるなんて……
きっと誰も僕の身元を証明してくれないだろう。
「ところで、アキ?」
「どうしたの?」
「ウチのお願い聞いてくれるって言ったわよね?」
「うん、言ったけど……女装は勘弁してね?明日するんだし」
女装が予定に入っているのも、どうかと思うけど……
「そんな事言わないわよ。勿体無いわ」
「そう?ありがとう」
「お願いしなくてもアキの事だから女装する機会多そうだし」
「ちょっと待ってっ!美波は僕の事、女装癖があると思ってるのっ!?」
酷い誤解だ……何処で僕は人生を間違えたんだろうか。
「思ってはいないけど……でもアキ可愛いわよ?」
「全然嬉しくないよ……しかも美波に言われるのが一番こたえるし」
「そうなの?ごめんね……で、ウチのお願いって言うのはね」
「うん」
「ボウリングの時にしようと思ってた、お願いなんだけど……」
真っ赤な顔になり、指をもじもじさせて俯いて
「今度の日曜日に、おはようのキスを……」
「ちょっとストップ」
僕が美波の言うのを止めた。
「なっ、なによっ!何でも言う事を聞いてくれるって言ったじゃないっ!?」
とりあえず僕に出来る範囲じゃないと……
「さすがに寝ている美波の部屋には行けないよ?」
あと寝る前の美波の部屋にも行けないし。
「それもそうね。さすがに一緒に寝泊りする訳には、いかないわね」
「判ってもらえて、なによりだよ」
「うん。じゃあアキを一日自由に出来る権利はクリスマスプレゼントとして楽しみにしてるわね」
「ええっ!結局やるのは確定なのっ!?」
「当然じゃない。アキは嬉しくないの?」
「それは嬉しいけど」
「お金かからなくて良いじゃない。なにより二人とも嬉しいんだし」
「そうだね」
クリスマスが楽しみだけど……その前に期末試験とか、あるなぁ。
「じゃあ、お願いは、また今度で良いわ。それより明日だけど……」
「何処かで待ち合わせしようか?」
「そうね。駅前の喫茶店に10時だから……学校の近くの公園に9時半くらい?」
「了解。明日は寝坊しないように頑張るよ」
「ゲームしすぎたとか言わないでよ?」
「大丈夫だよ、今日は姉さんも居るし」
「それが一番心配なのよ」
はぁっと溜息をつく美波。僕の顔をジッと見ながら……
「本当にお持ち帰りしようかしら」
「あはは。美波、随分と心配性だなぁ。大丈夫だよ、ちゃんと起きるから」
「はぁ……アキって本当に判ってないわね」
美波が、おでこに手を当てて溜息をついている。
「いい?今日もちゃんと部屋に鍵を掛けて絶対に開けちゃダメよ?」
「う、うん……」
美波が腰に片手を当てて僕のおでこを人差し指で突付いてくる。
「絶対に絶対だからねっ!?」
「はっ、はいっ!」
美波の気迫で思わず直立不動の姿勢をとってしまった。
「じゃあ、また明日ねっ」
「うん、明日ね」
ポニーテールを揺らしながら美波は走って行った。
美波は何をそんなに心配しているんだろう?