美波と手を繋いで図書館を出て駅前に向かう。
ここへ来る時はすごく寒く感じたのに……
今は全然気にならなくて、むしろ身体が中からぽかぽかと温かい。
美波と繋いでいる手から色々な想いが伝わってくる気がする。
そう、美波の強い想いがヒシヒシと伝わってきて
寒さなんか気にならないくらい……
――ミシミシッ
「……痛ぁっ!?」
僕の手は美波の強い力で握り潰されそうになっていた。
痛みのせいで寒さなんかまったく気にならない。
「みっ、美波っ!どうしたのっ!?」
僕がそう尋ねると
「ウチに何も言わないで、いきなり帰っちゃったら心配するじゃない」
美波は少し口を尖らせながら
「坂本たちから聞いたんだけど……ウチがアキを振って平賀と付き合うって思ったのって本当?」
拗ねるような顔で僕を睨んでいる美波。
確かに僕は……
そう勘違いをして美波からその事を聞きたくなくて逃げ出しちゃったんだ。
「アキ……ウチの事、信じてくれてなかったんだ……」
美波は今にも泣き出しそうな……すごく悲しそうな顔で俯いてしまった。
僕は美波の悲しそうな顔なんて見たくない。
いつも元気に……幸せそうに笑っている美波の顔が見たいんだ。
ついでに言えば僕は自分の手が潰されるところも見たくない。
段々締め付けが強くなってくる手を何とかしないと。
「ごっ、ごめんね。でも僕は二度と美波の気持ちを疑わないって決めたんだ」
「そうよね……アキはウチと約束してくれたんだもんね」
美波は少し頬を染めた顔を上げて僕を見つめてくると
「でも、これからは一人で悩まないで何でもウチに言ってね?」
優しく微笑んでくれる美波。
それなら早速……
「手の力を抜いてもらっても良いかな?」
「えっ?あっ……ごめんね」
美波の手の力が抜けて普通に手を繋いだ状態に戻った。
☆ ☆ ☆
そして僕と美波が駅前の広場のベンチに座って待つ事、しばし……
「島田さん、ごめん。待たせた……って、吉井っ!何でお前まで居るんだっ!?」
「何でって言われても……」
平賀君がやってきたので僕と美波はベンチから立ち上がった。
「ウチが来てくれるようにお願いしたの。やっぱりアキに隠し事なんてしたくないから」
僕の袖を引っ張りながら美波は説明をしている。
「それに付き合うだけなら別にアキが居ても問題ないじゃない。アキも顔見知りなんだし」
僕も顔見知りって……誰か知っている人のところに行くんだろうか。
「でも……」
平賀君は何か考え込んでいるみたいだった。
何をするのか判らないけど美波だけのつもりだったんだろうから
僕が居て問題が無いのかどうか、不安になってるんだろう。
「アキがダメだって言うならウチも行かない」
「しかし……」
平賀君はなかなか決断出来ないみたいだった。
そんなに美波が必要な事なんだろうか。
「何よ。男らしくないわね。アキの一人や二人、居たって問題ないじゃない」
「それもそうか。こんなバカが一人や二人、居たところで問題にはならないか」
やだな、泣いてないよ?
「それに……平賀が昼休みに言っていた事が本当ならきっとアキが助けてくれると思うの」
僕の袖をギュッと握りながら美波がそう言うと
平賀君が不思議そうに僕の顔を見て
「吉井が?」
「うん。だってウチも昔そうだったから……それでアキに助けてもらったんだから」
「ええっ!なになにっ?何の話なのっ!?」
僕は話が見えないから美波と平賀君の顔を交互に見るしか出来なかった。
「そうか……じゃあ、行こうか」
「ほらっ、アキも来るのよ」
僕は美波に袖を引っ張られて歩き出した。
そして20メートルほど歩いた先で平賀君が立ち止まり
片手をグッと握り締めて何か決断したような顔をして
【ラ・ぺディス】と書かれた看板の喫茶店へ入っていった。
僕も美波に引っ張られて店内へ。
あれ?ここって確か……
――カランコロン
カウベルが鳴り響き、愛想の良い女性が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ……あら、島田さんに吉井君?」
清水さんのお母さんだった。
「二人とも知り合いなのか」
平賀君は少しビックリしていた。
それもそうだろうな。クラスが違うのに親と知り合いだなんて。
「前にここでバイトさせてもらった事があって」
僕が説明すると清水さんのお母さんはにこにこと笑顔で
「あの時の吉井君は可愛くて助かったわ。またお願い出来ないかしら」
ウェイターとしてなら良いですが、ウェイトレスは勘弁してください。
僕が顔を引きつらせながら固まっていると美波が
「ウチら、今日は美春のお見舞いに来たんですけど……」
そう言えば清水さんは今日、体調を崩して早退したんだっけ。
「あらあら。わざわざすみません……それでこちらの方は?」
清水さんのお母さんが平賀君の方を向くと
「俺……僕は清水さんのクラスメイトで平賀と言います」
姿勢を正して答えている平賀君。
「ありがとうございます。あの子のためにわざわざ来て頂いて」
ぺこりと頭を下げる清水さんのお母さん。
「いっ、いえ……ぼっ、僕なんかが来て迷惑じゃなければ良いのですが」
「そんな迷惑だなんて」
にこにこと愛想良く笑っている清水さんのお母さんに
ぺこぺこと頭を下げまくっている平賀君。
少し緊張しているみたいだ。
「ここに居てもお店の邪魔になっちゃうから美春の所へ行っても良いですか?」
美波が清水さんのお母さんに問い掛けると
「あら、そうですね。ではこちらへどうぞ」
口に手を当てて笑いながら清水さんのお母さんは僕たちを店の奥の方へ案内してくれた。
厨房では
「キサマっ!性懲りも無く、また娘を
何処から取り出したのか、ナイフを手にこちらへ来ようとしている。
「あなたっ!」
僕たちの前を歩いていた清水さんのお母さんの一喝で
清水さんのお父さんの動きが止まった。
「島田さんたちは美春のお見舞いに来てくれたのよ」
「しっ、しかし……」
「おかしな動きをしたら、今度こそ本当に美春を連れて出て行きますからねっ」
「ぐっ……」
渋々といった感じでナイフを戻す清水さんのお父さん。
「大人しく仕事してくださいね」
優しい口調で言っているけど……キッと一睨みして先へ進む。
一つ目の階段を上がり、折り返してから二つ目の階段を上がると
廊下の少し先にある、【美春の部屋】と書かれたドアの前に立ち
「美春?島田さんがお見舞いに来てくれたわよ」
『……お姉さまがっ!?少し待っててくださいっ』
「あの子ったら……大人しくしてなきゃダメだって言うのに」
清水さんのお母さんが頬に手を当てて困った顔をしている。
その間も部屋の中からは何かガサゴソと音がして、しばらくすると
『お姉さまっ!お待たせしました。遠慮なくどうぞっ』
――ガチャ
まず清水さんのお母さんが部屋の中に入り
僕たちはドアの外から部屋の中の様子を見ると……
「あっ」
清水さんが僕たちと目が合うと小さく声を上げて驚いていた。
「……美春。これは何の冗談かしら?」
…………布団を頭から被せられて、ぐるぐる巻きにされた清水さんのお母さん。
あの一瞬で布団を巻きつけるなんて……
清水さんは本当に具合が悪いのだろうか。
☆ ☆ ☆
「じゃあ、ゆっくりしていってくださいね。今、何か飲み物を持ってきますから」
「「「おかまいなく」」」
清水さんのお母さんは笑顔で部屋を出て行った。
部屋の中央付近に置かれたテーブルの周りに座っている僕たち三人は
若干、顔を引きつらせながら笑顔で答えたけど……
「うっ、動けませんっ!?」
清水さんはベッドの上で、頭だけ出ている状態で布団でぐるぐる巻きにされていた。
清水さんに布団を被せられたお母さんが、自由に動けるようになると
すぐに清水さんを布団で縛り上げたからだ。
「折角お姉さまと一緒に寝れると思ったのに……」
しくしくと泣いている清水さん。
そう言えば、髪型がいつものドリルじゃなくてストレートだ。
こうして見ると普段見慣れている清水さんじゃないみたいだけど……
さっき、美波を布団でぐるぐる巻きにしようとしていた行動はいつもの清水さんだった。
「お姉さまは美春と一緒に寝るために来てくれたんでしょうけど……」
ぐるぐる巻きにされた状態で泣いている清水さんは少し可愛く見える。
「豚野郎と平賀君は何をしに来たんですか?美春はお姉さまにしか用が無いので帰って頂いて結構です」
相変わらず美波しか見えていない清水さん。
「美春。平賀がアンタに話があるって言うから、ウチとアキは付いてきただけよ」
美波が平賀君の背中を押して清水さんのベッドの前に立たせる。
すると平賀君は鞄からプリントを取り出し
「清水さん。これ、今日の課題の分なんだ」
「ありがとうございます……と言っても、この状態だと受け取れません」
ベッドの上で身体を動かしているけど……
ぐるぐる巻きにされているから身体の向きを変えるくらいしか出来ない清水さん。
「そうだね。じゃあ、ここに置いておくよ」
平賀君が机の上にプリントを置いて
「あの……」
清水さんの方を向いて話し始めようとした時
――コンコン
ドアをノックする音がして、ガチャとドアが開くと
清水さんのお母さんがお盆の上に飲み物とお菓子を載せて部屋に入ってきた。
そして座っている僕と美波の前にあるテーブルの上に
飲み物の入ったカップとお菓子が載ったお皿を置くと
「美春。病人らしく大人しく寝てるのよ」
「おっ、お母さん。美春が病人だと思うならこんな事を……」
清水さんが何か言ってるのを最後まで聞かずに
「ごゆっくり」
と、微笑みながら清水さんのお母さんは空になったお盆を持って出て行った。
確かに
僕たち三人がテーブルの周りに座ってコーヒーを飲んでいると
清水さんが美波の方を向いて
「お姉さま。美春、そのコーヒーを飲みたいのですが動けないので口移しで飲ませてください」
頬を赤らめて美波にお願いをしている清水さん。
すると美波は僕の方を向いて笑顔になると
「嫌よ。アキになら喜んでしてあげるけど」
――ブゥーーッ
「アキっ!汚いわね」
「ゴホッ……みっ、美波がいきなり変な事を言うから……ゲホッ…」
「もう……変な事って何よ」
文句を言いながらも僕が飛び散らせたコーヒーを
一緒にティッシュで拭いてくれている美波。
すると平賀君が今まで飲んでいたコーヒーのカップをテーブルに置いて
ベッドの上の清水さんを縛っていたロープを外し始めた。
「ありがとうございます」
「クラスメイトが困っているならクラス代表としては、ほっとけないからね」
そう言って、しばらくロープと格闘して……清水さんは布団から解放された。
「ふぅ……これで自由に動けます。さぁ、お姉さま。美春と一緒に……」
清水さんは両手をにぎにぎと握ったり開いたりして美波の方を向いた。
そんな清水さんの肩を平賀君が抑えて
「助けたお礼という訳じゃないけど……病人らしく、ちゃんと寝てて欲しいんだ」
「美春はこれからお姉さまと……」
相変わらず、美波の方を向いている清水さんに
「美春。ウチはここに居るから平賀の言う事をちゃんと聞いてあげて」
美波はいつになく真剣な表情で……
強くはないけれど、ハッキリとした口調で清水さんに話しかけた。
清水さんは美波の真剣な表情から何かを汲み取ったのだろう。
「……仕方ありません」
そう言うと大人しくベッドの上に寝て布団を被った。
清水さんが大人しく寝たのを見て、平賀君はベッドの脇に
「これから話す事はクラス代表としてではなくて……俺、個人の事なんだけど」
「なんですか」
僕と美波はコーヒーを拭き取り終わって平賀君と清水さんの方を見ている。
ここからだと平賀君は向こうを向いているので顔が見えないし
清水さんは布団を顔の半分くらいまで被っているので表情が読み取れない。
でも平賀君が手を小さく握り締めるのが見えた。
「一学期に清水さんの事を見た時、すごく元気な女の子だなと思ったんだ」
「美春はいつでも元気です……今は風邪気味ですが」
「そうだね。でも最初に見ていた時はクラス代表として見ていたんだ」
「当たり前です。美春は今も貴方の事は代表として見ています」
心なしか、平賀君の肩が少し下がった気がした。
「でも、その時からかな。何か……清水さんが時々寂しそうな顔をしているのに気が付いて」
「寂しそう?」
「ああ……清水さんって俺より女子の統率がすごいじゃないか」
「それは……あそこの豚野郎も含めて貴方たち男子が覗き騒ぎを起こしたからです」
「なっ……んぐっ」
あの騒ぎの原因は清水さんが美波を隠し撮りしようとして
僕たちに濡れ衣を着せたからじゃ……
僕がそう言おうとすると美波に手で口を押さえられて小声で
(アキっ……静かに聞いてあげて。お願い)
真剣な表情の美波に頼まれたら……仕方ない。
僕が静かに頷くと、美波は手を離してくれて
(ありがと)
と言って、僕の手にそっと自分の手を重ねて
はにかんだ笑顔を見せてくれた。
「その件は本当に悪いと思っている」
「当たり前です……けれど、美春はそんなに追及するつもりはありません」
「そうか、ありがとう……それで二学期になってからも清水さんの寂しそうな顔が気になって仕方なかったんだ」
「そんなに美春は寂しそうな顔をしているんですか?」
布団で目しか見えないから、まったく表情が見えないけど声が少し震えている気がした。
「うん。二学期の間、ずっと気になってて……清水さんってお昼御飯とかいつも一人で食べてるじゃないか」
「それは……色々とする事があって忙しいからです」
たぶんムッツリーニと同じなんだろう。
色々なところに仕掛けた機械のメンテナンスとか回収とか……
「そうか……それなら俺にもその忙しい事を手伝わせてくれないか」
「ええっ!?そっ、それは……駄目です。美春も女の子なんですから」
布団の上からでも清水さんが驚いているのが良く判る。
目をすごく大きく見開いているから。
でも女の子だからって盗撮とか盗聴はいけないんじゃないかな?
「そんなに言うなら仕方ないが……俺に出来る事で清水さんの手伝いをしたいんだ」
「手伝い?美春はそんなに困っていませんけど」
「困ってないなら良いけど……でも俺は三学期になって決めたんだ」
「何をですか?」
清水さんが布団から顔を完全に出している。
やっぱり少し息苦しかったのだろうか。
「寂しそうな顔をしている清水さんを見るのが辛い……だから俺が傍に居て励ましてあげたいんだ」
平賀君がそう言った時、ふっと……昔を思い出した。
忘れもしない……僕が文月学園に入学して間もない頃。
一人の女の子が一生懸命努力していて……
それでもなかなか周囲と打ち解けずに居て……
一人で寂しそうにしているのが見てられなくて……
僕は女の子を励ましてあげたかった。
僕は女の子の力になってあげたかった。
僕は女の子の……笑顔が見たかった。
僕が隣を見ると……
その女の子が頬を染めて大きな瞳を少し潤ませて僕を見ていた。
…………しっかりと手を繋いで。
(アキ……ありがと。ウチ、本当に感謝してる)
美波が小さく……嬉しそうに囁いた。
清水さんは平賀君の小さく握った手を取ると
「美春が寂しそうに見えるのは……お姉さまが豚野郎ばかり見てて美春の方に振り向いてくれないからです」
清水さんの顔が少し赤い気がする……風邪が悪化したんだろうか。
「平賀君が豚野郎の始末を手伝ってくれるなら美春も笑えるようになるかもしれません」
「そんな事で良いなら……って、それはちょっと難しいな」
背中からでも平賀君が困っているのが判る。
今、平賀君の中の常識と清水さんを励ましてあげたいって気持ちが戦っているのだろう。
「美春。良く聞いて?」
美波がスッと立ち上がる。
手をしっかりと繋いだままだったから僕も一緒に立ち上がった。
「美春とは……たぶんずっと付き合う事になると思うの」
「美春はいつでも、いつまでもお姉さまと一緒にいます」
目をキラキラさせて美波を見ている清水さん。
「付き合うって言っても友達として、よ」
美波がそう言うと清水さんの目からキラキラが消えた。
「それでも……お姉さまがずっと美春だけを見ていてくれるなら、美春は構いません」
「それは無理よ」
清水さんの言葉に即答する美波。
そして僕と繋いでいる手を清水さんにしっかり見えるように上げて
「ウチはアキとずっと一緒なんだもの」
僕を見ながら優しく微笑んでいる美波。
僕も……美波とずっと一緒に居るって決めたんだ。
「清水さん。僕は決めたんだ。二度と美波と離れる様な事はしないって」
「そんな事を美春が認めると思っているのですか」
病人なのに鋭い眼光で僕を睨んでいる。
「誰が認めないって言っても、これだけは絶対に譲れない。僕は世界中を味方にしてでも美波とずっと一緒に居る」
「普通そこは敵に回してでも、じゃないんですか」
「だって、敵にしちゃったら美波にも迷惑が掛かるでしょ。それに……」
「それに……なんですか?」
僕は美波と繋いでいない方の手で
「それに……清水さんには平賀君が居るじゃないか」
しっかりと平賀君の手を握ったままの清水さんの手を指差した。
「こっ、これは……」
「僕も昔……寂しそうな顔を見るのが辛くて……何か手伝ってあげたくて……励ましてあげたくて、声をかけた事があったんだ」
「それはお姉さまの事ですか」
「うん」
僕はそう返事をして……美波と繋いでいる手を見て
「最初は本当に手伝ってあげたい、励ましてあげたいって思って近くに居れる様に一生懸命だった」
「アキ……」
「そして一緒に居るようになって……こんな僕でも何か手伝ってあげて……励ましてあげて」
僕は美波と繋いでいる手をしっかりと握り締めて
「こんな僕を美波は色々手伝ってくれて……励ましてくれて……そして僕と美波もやっとお互いの気持ちに気が付く事が出来たんだ」
「それで美春にどうしろと言うのですか」
「笑顔を見たいって言う気持ちを伝えて……笑顔を見る努力をするのは大変だけど」
清水さんは布団から上体を起こしていた。
「その笑顔が見れた時はすごく嬉しいんだ……きっと平賀君も清水さんの笑顔を見たいんだよ」
「そう……なのですか?」
清水さんの問い掛けに小さく頷く平賀君。
「俺も……いつも寂しそうな顔を見るのは辛いんだ。清水さんの笑顔を見たい」
平賀君が清水さんの肩に毛布を掛けてあげていると
「よく判りませんが判りました」
清水さん……どっちなの!?
「風邪を治してから考える事にします……今の状態で正常な判断は出来そうに無いので」
「清水さん、大丈夫?無理をしない方が……」
清水さんの台詞に平賀君が心配そうに声をかけている。
「ありがとうございます……」
平賀君を見て……清水さんは少し顔を赤らめると
「とりあえず美春は早く治して早く学校に行きたいので……今日はお引取り願います」
「そうだな……ごめん、長居しちゃって」
そう言うと平賀君は立ち上がって鞄を掴んだ。
僕と美波もそれぞれ鞄を掴んで立ち上がると
「お姉さまだけ少し残っていて、もらってもよろしいですか?」
「なに?今聞くけど?」
「出来れば二人だけでお願いしたいのですが……時間は取らせません」
そう言うと布団を顔の半分まで掛けて目だけ出ている状態に……
「仕方ないわね。アキたちは先に行ってて」
やれやれと言った表情で美波が清水さんに近付く。
「じゃあ、僕たちは帰るね。清水さん、お大事に」
「清水さん、早く学校に来て欲しい。寂しいからね」
そう言って平賀君が部屋を出ようとすると清水さんが
「出来るだけ早く行くようにします……今日の返事をするかどうかは別ですが」
☆ ☆
そして僕と平賀君は清水さんのお母さんに挨拶をして
先に駅前の広場で美波を待っていた。
しばらくして美波が来て
「お待たせ。アキ、帰りましょ」
そう言って僕と手を繋ぐ美波。
「今日はありがとう」
平賀君が僕と美波に向かって頭を下げてくれた。
「僕は何もしなかったし……」
「そうね。後は平賀の頑張り次第ってとこじゃないかしら」
「そんな事は無いよ。二人が居てくれたから清水さんと話せたし……本当に感謝してる」
もう一度頭を下げてきて……そして頭を上げると
「でも、今日の事は誰にも言わないでくれ」
「「もちろん」」
美波と二人一緒に返事をすると平賀君は僕と美波を見て
「俺も清水さんと……お前たちみたいに付き合えるよう頑張るよ」
そう言って手を振って行ってしまった。
そう言えば……
「じゃあ、アキ。ウチらも帰りましょ」
そう言って歩き出した美波に
「ねえ、さっき清水さんと何を話していたの?」
僕が美波に尋ねると……美波は頬を染めて僕を見上げて
「ウチがね……今、幸せかって」
「へぇ」
清水さんにしてはまともな質問だな。
「それで美波は何て答えたの?」
僕がそう聞くと、美波は僕と腕を組んできて……
嬉しそうに僕の腕に頭を凭れかけてきて
「今……すごい幸せよ」
そう答えてくれた美波の笑顔は……
冬の寒さを吹き飛ばしちゃうくらい
すごく輝いて幸せそうだった。