魔神王が断つ!   作:なと〜

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※皇帝陛下の一人称を『余』にしました。

少しテンポが速いけど、早く幸せな彼らを書きたいから許してほしいです。


ではどうぞ。


決意、そして顕現

「貴様は一体…」

 

ゲーティアの思考は困惑しかなかった。目の前には記憶全くない幼い少年。そして少年の指にある十の指輪。そしてこの少年と何らかのパスがあること。全能を謳う魔神の能力をもってしても、目の前の事柄が全く理解できなかった。

 

「あなたは一体…」

 

そして皇帝も困惑していた。だが、夢(?)の中で彼に教わっていた分、(皇帝)の方が早く動けた。

 

「っ!ゲーティア…ですか?」

「…いかにも…」

「え、えっと、あなたのオリジナル?の人からあなたを託されました…」

「!?……」

 

皇帝の言葉に僅かに驚愕の表情を見せるもすぐさま思案顔になるゲーティア。

 

「その男は今の私と同じ姿だったか?」

「は、はい…」

 

思案顔を全く崩さないゲーティア。おどおどして自発的に言葉が出ない皇帝。

ものすごく気まずい空気が周囲を包む。数秒が何倍にも感じる様な感覚を覚えるが、それを破ったのはゲーティアだった。

 

「王の思想は理解できる。ならば、今は現状の把握か…そこの少年」

「は、はいぃ!」

「ここはどこだ?そしてお前は何者だ?」

 

漏れだす圧倒的なオーラに押しつぶされそうになるが、何とか耐えた皇帝は彼の質問に答える。

 

曰く、ここは帝国と呼ばれる巨大国家。

曰く、そしてこの場所は帝国の中枢、帝都の王宮。

曰く、自分はまだ幼いがこの国の皇帝であること。

 

次々と出る常識的な知識。だが、ゲーティアにとっては非常識この上ないものだった。

 

(帝国、帝具、始皇帝…私達の世界とはあまりにもかけ離れすぎている。並行世界すら超えた異世界、か)

「あ、あの~」

「なんだ?」

「こっちの事を話したのですし、あなたの事を話してくれませんか?」

(…どうする私達の事を全て話すか?)

 

魔神柱達のことを話すという事はあの世界で、彼らの所業について話すことと同義である。それを話せば間違いなくこの少年は彼らを見る目が変わるだろう。

 

「…我々の事を話すには信頼が必要だ。今のままでは我々の事は話せない」

「ええ~、そんな~…」

(この皇帝…人を疑わなすぎる。これで政治が出来ているのか?)

「素朴な疑問なんだが、君はその年で政治が出来ているのか?」

「大丈夫です!うちにはとても優秀な大臣のオネストがいますから!」

 

大臣の名前が出た瞬間、ゲーティアの心中ではあの世界の光景がよみがえる。

幼い血統の良い人物を立て、その人物の下に就きながらも、影からその人物を操り、思うがままに政治をする。

完全なる悪政を敷くものもいるが、中には善政を敷くためにこの手段を使う者もいる。

 

(これは調べてみるべき課題だ。もしもこの国が腐敗していれば…)

「大臣がどうかしたか?」

「いや、何でもない。そうだ、我々にこの国や君を見る許可をくれないか?」

「帝国や余を見る許可?」

「そうだ。明日…いやもう今日だな。一日かけて私達の目で見て回りたい。そうすれば君のことも世界の事も知れる。対価として、我々の事を話そう。ああ、そうだ、我々の事は他言しないでくれ。」

「なんで?」

「どこから来たのか全く分からない奴が宮殿をうろついていると分かれば余計な問題を生む。それは君も私も望むところでは無いだろう」

「確かにそうだね。わかった!あなたの事は僕だけの秘密だね。じっくりこの国を見て回ってくれ!」

 

暗い寝室での誰も知らない会話。ゲーティアは魔神柱達と話をするために時間神殿へと戻り、皇帝は残り数時間の起床時刻まで僅かばかりの睡眠を楽しんだ。もっとも、あまりの興奮に全く寝付けなかったようだが。

 

 

 

__________

 

「…以上で帝国の観測結果の報告は最後だ。」

「「「……………」」」

 

時間神殿の無限ともいえる空間の空気は非常に刺々しいものとなっていた。

埋めつくすのは憤怒、悲壮等々。このような感覚は今まで何度か感じた。

最初は恐らく、あの王のあの言葉(・・・・)。最後に感じたのは、あの指輪の返還の時だろう。

 

「…なぜだ。なぜこの世界の人間はここまで醜い!!」

 

魔神柱の誰かが沈黙を破ると、多くの魔神柱が続いて声をあげる。

 

「何なのだ!この醜い人間は!どこまで腐敗すればこのような生き方ができる‼」

「このような生き様は不認である!」

「不明なり。不可解なり。奴らは人間の悪性の具現。なぜそのような異常がまかり通る!」

「不要不要不要!」

「弾劾せよ。弾劾せよ!奴らのような存在がのさばるなど、明らかな異常事態である!」

 

彼らがここまで激怒するモノは、一日だけで集められた帝国及び皇帝周辺の情報。その中身はあの世界で彼らが嫌というほど見せつけられた汚点。その凝縮ともいえるモノ達だった。

幼い皇帝は大臣の操り人形であり、その大臣は悪政を敷く暗君であり、大臣に呼応するように政治の場は腐敗が蔓延する。それらを正そうとする者がいれば圧倒的な権力によって罪人として辱められ、処分される。

冤罪による罪人は拷問の末に殺されるか、見せしめとして街中で公開処刑となる。さらに罪人の家族、恋人、関係者は全員、奴隷同然の扱いを受ける。

都市部では裕福な貴族や豪商の汚職だけでなく、彼らの娯楽のために辱められ、汚され、殺される人間達がいる。

悪を裁く者達は賄賂や甘い汁をすうことを条件に悪を隠蔽し、時には無実の人間を罪人に仕立て上げる。

地方の村は意味も無く徴収される高税に苦しみ、飢え死にする人間は後を絶たない。

更には周辺国の領土を占領し、反抗すれば圧倒的な戦力で叩き潰す。

 

この異常な現状を解決しようとするのは、彼らならば当然の事だろう。人間の意味なき一生を嘆き、『憐憫』の理をもっていた彼らならば。

この悲劇を知り、それでいて『何もしない』選択肢など、彼らには存在しなかった。

 

 

 

 

「アンドロマリウスより疑問。我々はかつてと同じ行為に走ろうとしているのではないか?」

「フラウロスより同調。これではかつての焼き増しである。また我々は絶望と憎悪しか見ていない。最後の王の言葉を忘れたか」

 

だが、そんな彼らに異を唱える彼らがいた。不和を起こす廃棄孔の柱とあの戦いの最期に英雄王から言葉をかけられたフラウロス。

 

「人間には愛と希望も存在する。それらを無視し、かつてのように全てを焼却するつもりか?」

 

彼らの唱える言葉に沈黙する魔神柱達。あの決戦は彼らにそれぞれ大きな衝撃を与えた。藤丸立香に対する憎悪、死に対する恐怖、生との離別、虚構からの救済、英霊への嫌悪など…

その中には自らの計画に欠落しているものもあった。人間の物語は死と断絶の物語ではない。愛と希望の物語であると王は言った。

彼らはそれら(愛と希望)が見えていなかった。そう様々な英霊達から言われた。

 

「…ではどのようにして、この世界を救済するのか?何か有効な方法を提示できるか?」

「それはこれから考えるべきことだ。我々の叡智を持ってすれば、『逆行運河/創世光年』以外の救済方法を提示することも可能である」

「統括局より提案。一つ考えがある。」

 

 

_____________

 

「で、どうだった?余の帝国は?」

 

日が落ち、あたりを闇が包んだ深夜。

一日の執務を終えた皇帝が寝室に入ると、すでにゲーティアが待っていた。

ちなみにこの寝室周辺には人払いの結界が張ってあり、万が一にもゲーティアの姿は見られない。

 

「ああ、今日一日、しっかりと見させてもらった。そしていきなりだが、我々からの質問を受けてもらう」

「!?、いきなりどうしたんだ?」

「今日一日の結果から早急にお前に問いたいことができてな。逃げることは許さん。仮にも一国の王であるのならばな」

 

昨晩のゲーティアとは異なる雰囲気。異常な威圧感があり、皇帝は首を縦に振る以外の選択肢を除かざる得なかった。

皇帝の脳内には夢で青年が言った言葉が蘇る。

 

『彼らが君の頼もしい味方になるか、最悪な敵になるかは君次第だ』

 

今がまさにその状況であると実感する。

 

「…わかった。その質問、受けましょう」

「覚悟はできたか。ではこちらへ」

 

そういうと、皇帝はゲーティアが作り出した空間の歪みに入る。

 

 

瞬間、世界が一変する。

 

 

そこは別世界の魔術の中でも最高峰に位置する、世界を塗り替える魔術、固有結界。さらにその中でも規格外のもの。

生前のソロモン王の魔術回路を基盤とした極小宇宙のモデルケース。

冠位時間神殿ソロモン。またの名を『戴冠の時きたれり、其は全てを始めるもの(アルス・パウリナ)』。

 

「こ、ここは!?」

「我々の神殿であり、拠点だ。ここに我々は存在している。紹介しよう、我が同胞たちを」

 

ゲーティアの号令と共に、神殿のあらゆる場所が蠢く。そこは無数の瞳があり、まるで気味の悪い絵画の世界に入ったようだった。

 

「72柱を代表し、バアルより挨拶を述べる。ようこそ皇帝陛下」

「えっ!?ええ!!??」

 

突如、壁の一部から声が出る。立て続けに起こる奇々怪々な現象に、さすがの皇帝も困惑しか出てこない。

 

「我らはこことは異なる世界にてある王に生み出された者達。ソロモン72柱と呼ばれていたが、今は魔神柱と呼んでくれ」

「異なる世界!?魔神柱!?」

「困惑するのは分かるが、ここは受け流せ。今重要なのは我々からの問だけだ。それが終わったらゆっくり説明してやる」

「わ、わかった…でも少しだけ待ってて…」

 

無理もない。いきなり変な空間に連れて来られたと思ったら、謎の触手生物から声を掛けられて、挙句の果てにそれらを全て流せと言っているのだ。誰だって困惑する。

 

 

閑話休題(落ち着いています…)

 

 

「それで、どんな質問だい?」

「うむ、まず単刀直入に聞くがお前はこの国をどう思っている」

「それはもちろん、良い国だと思うよ」

「外に出たことが無いのに…か?」

「そ、それはそうだけど、オネストも良い国だって言ってるし、革命軍や罪人はいるけど、優秀な文官や将軍たちがいるんだから、この国は良い国だと思うよ…」

「これを見てもか?」

 

ゲーティアが空間に映し出したのはある村。

徴収される高税により、飢えによって骨と皮だけになった村人が映る。

 

「えっ?」

 

次に映されたのはある貴族の館。

泣き叫ぶ人々を狂喜の顔で拷問したり凌辱する貴族が映る。

 

「えっ?」

 

帝都のスラムの惨状。見知った高官の腐敗の現場。薬物により心を壊され道具にされた女性達。無実の罪を着せられた者とその家族の悲惨な最期。

そして、皇帝が信頼してやまないオネスト大臣の汚職、工作、悪政、暗殺等々…

この国の闇の一部(・・)を見せられた皇帝。膝から崩れ落ち、地面に手をつく。

 

「こ、こんな…」

「これらはこの国の闇のほんの一部だ。望むのであればまだまだ見せるが?」

「もう、やめて…」

 

皇帝の心が大きな衝撃を受ける。今まで信頼してきたものは偽りのものであった。この映像自体、嘘ではと疑ったが、ゲーティアや魔神柱の雰囲気がこれを事実と認識させる。

 

「貴様は王失格だ」

(その通りだ…余は皇帝失格だ。)

「だから王としてではなく、一つの存在として問う…

 

 

この悲劇を知って何を感じるのだ?この悲劇を正そうとは思わないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悲しいよ。そして悔しい!余は必ず彼らを救う!!」

 

 

 

「そうだ!その言葉が聞きたかった!」

 

かつて魔術王に投げた問。人間でなかった王は魔神柱達を激怒させる返答をした。

故にあの偉業だった。あの戦いだった。

 

だが今は違う。

 

(皇帝)あの男(ソロモン王)では無い。

故に彼ら魔神柱は再び問うた。

皇帝は何も考えず。自分の心に従って答えた。

 

彼らの悲劇を悲しんだ。憐れんだ。そして何も出来ぬ自分を責めた。そして決意した。

彼らの様な悲劇を救ってみせると。

 

「貴様が少しでも躊躇すれば殺していたが、その決意は本物だ。貴様こそ、今生の(我々)の主に相応しい!」

 

数時間前、魔神柱達にゲーティアは一つの可能性を述べた。

『あの皇帝に期待してはみないか?』と。

一日中、皇帝の観察をしていたゲーティアは、皇帝の人格をおおよそ把握していた。

純粋であり、周囲によって悪にも善にもなりうる者。だが、少なくとも今は善き人間(・・・・)であること。あの自らの運命(藤丸立香)のように。

故に、皇帝にチャンスを設けた。かつての王に投げかけた問をもう一度投げた。

少しでも決断を戸惑えば皇帝を殺し、新たな救済案を決議する予定だったが、彼は決意した。あの藤丸立香のように。

 

 

 

 

 

ゲーティア達には力がある。

この悲劇をどんな形であれ、必ず終わらせる力が。

だが、彼らにはその責任は無い。彼らはこの世界の者ではないから。

 

皇帝には責任がある

この悲劇を作ってしまった一端としての責任が。

だが、彼には悲劇を終わらせる力が無い。傀儡の皇帝なのだから。

 

 

この二種類の存在が相対した時、この運命は必然だった。

 

互いに足りないものを補い、一つの目標。この国の悲劇を無くすために、共に歩む。

 

 

 

『あらゆる悪に訣別を』

 

人理補正式はかつての王(ソロモン)のように皇帝に使役される。

 

『この国の支配者達は人間の定義と』

 

皇帝は自らの決意を貫くために人理補正式を使役する。

 

『善の心すら間違えた!』

 

彼らの果てには何があるのか。

 

『もはや貴様らを守る堰は無い』

 

それはきっと夢物語のような良い国だろう

 

『これからは貴様らが悪なのだから!』

 

だが夢の様な世界を創ろうとする皇帝(夢見る王)と、それを創ろうとした人理補正式(人類悪/愛)がここにはいる。

 

『顕現せよ。祝福せよ。』

 

流れる涙を受け止め、それを拭う。

 

『我が名はゲーティア!』

 

流れる血を慈しみ、それを記憶する。

 

『今再び、人理補正の名を冠する者!』

 

悲劇を忘れず、それを無くすために

 

『人理補正式・魔神王、ゲーティアである‼』

 

魔神と皇帝は進み始めた。

 

 




ゲーティアはスペックは人王状態ですが、人の王はここでは皇帝陛下なので、あえて魔神王を名乗っています。


何か設定上、おかしい所などありましたら、指摘して下さって結構です。

閲覧ありがとうございました!
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