たった一度も僕は、この世に生まれたことを喜びと感じたことは無い。小さい時からいじめられ、周りの人に見放された。それもこれもこの目のせいで…
僕の左目はまるで血に染まったかのように赤い。こんな姿で僕を生んだ両親を憎んだ。だが、父さんは周りの目から僕を守り、母さんは温かい食事を用意してくれ、二人共、僕を手放さず愛してくれた。今、思い返してみると一方的に恨んでいたのが申し訳ない。その時は、「家族」という心の支えがあったからこそ乗り越えられたのだと思う。
しかし、ある事件から状況は一転してしまった。
交通事故による父さんの死だ。
それをきっかけに僕の人生の歯車が狂い出した…
だが、ろくに頼れる人もおらず様々なストレスや過労で母さんは、重い病気になってしまった。お金の無い僕の家には、母さんを入院させることも出来ず、病気を治すことは出来なかった。
それから、三ヶ月後、桜の咲き乱れる四月のことだった。母さんは不意に口を開いた。
「…
母さんは夕日の色を染まりつつある空を見上げて、立て続けに話した。
「あなたが生まれたのはのはね。赤い満月の夜だった。その月明かりは、病室に居た母さんたちを温かい炎のように優しく照らしてくれた。だからね、その月のように、優しく皆を照らしてほしいから『火月』って名前を付けたんだよ。その名前の通りあなたは、とても優しい子に育ってくれた。母さんは、あなたのことを誇りに思うわ。皆その目を恐ろしがっているけど母さんはそうは思わない。だってその目は暗い部屋を照らす明かりのようにとても、とても美しいのだから…」
母さんは、静かに微笑み、また、空を見上げた。それから二時間後、母さんは、まるで眠るように息を引き取った。
ーーあれから一年、僕は、後一日で、中学三年生になる。両親の件以来、「呪いだ」とか「人殺し」とか言われいじめは酷くなる一方だった。春休みに入ってからは、家に引きこもって人と会わなかったので特にどうということは無かったけど、明日からまたいじめられる日々に戻ると思うと憂鬱になる。
「はぁ…」と僕は、ため息をつき、眼帯を付けて、外へ出た。両親は、僕に、この家と中学三年間までの生活費を残してくれたので、今は、お金に困ることは無さそうだが、高校からバイト漬けの毎日になりそうだな。いや、そもそもこんな僕を雇ってくれるバイトがあるのか?
そうこう考えながら十分ほど歩き目的の場所に着いた。両親が生前から月に一度通っている神社だ。数十段の階段を上り、本堂が見えてきた。昨日は、小雨が降っていたのだが、今日は、晴天に恵まれ、周囲では、小学校低学年ぐらいの小どもが五、六人で遊んでいた。僕はその様子を少し羨ましいとと思いながら本堂にたどり着いた。ここでは、母さんが亡くなってから、ある一つである願いをしている。
『自分を受け入れてくれる人に出会えますように』と…
お参りを済ませ、階段を降りようとした…その時だった、周りで遊んでいた小さな男の子が足を滑らせ階段から落ちようとしていた。石で出来ている上に何十段もある階段だ。ここから落ちたら、間違いなく命に関わる。僕は、急いでその子を助けようとした。だが、なにせ古い神社だ、ろくに掃除もされておらず足元には苔がびっしり広がっている。さらに昨日の雨で苔が湿っていた。「少しでも早く助けたい」という気持ちが裏目に出てしまい、足を滑らせてしまった。このままでは二人共命を落としかねない。
「せめて…この子だけでも!」
僕は、男の子の腕を掴み、引っ張て包み込むように抱きかかえた。
次の瞬間、全身に月光が走った。何段も何段も滑り落ち、徐々に意識がもうろうとしてきた。
ああ…死んでしまう。でも、「呪いだ」と恐れられ、この先どうなるか分からない自分の命で、おそらく、光へと歩んで行くであろう幼き子どもの命を救えるならそれでいい。
そして、最後の一段を滑り落ちたと同時に、僕の意識は完全に闇に飲まれた…
ーー耳元でざあざあと波の音が聞こえてくる。ここはどこだろうと思い体を動かそうとしたが、意識がもうろうとしていて指一本も動かせない。
「あ、あの…」
ふと、波の音に紛れて、少女の声が聞こえてきた。目を開けようとしたが、まぶたが重く持ち上がらない。
「あの…大丈夫ですか…」
今度は、体が揺さぶられる。そうして、少しずつ意識が覚醒しはじめた。重いまぶたをゆっくり持ち上げ、はじめは、ぼやけていたものの、徐々にピントがあってきて、心配そうにこちらを見ている長い薄いベージュ色の髪の少女と目が合った。見た感じだと僕と同い歳か一つ下だろう。だが、
「えっ…」
頭のあたりに目をやった瞬間驚きのあまり声を出してしまった。猫…いや、狐のような耳がある…。何故?と考えている間にもうひとつの違和感を感じた。
眼帯を付けていたはずなのに、両目で見えている…
瞬時に、視線を少女の顔に戻した。少女は、少し口を開けじっとこちらを見ていた。すぐさま僕は、少女に問いかけた。
「…僕が恐ろしくないのですか?このおぞましい目が。」
少女は満面の笑みで答えた。
「恐ろしくなんてありません。だってその目は、宝石のようにキラキラ輝いていてとても綺麗なのですから。」
その言葉を聞き、僕の左目から一筋の涙が流れ出た。少女はその様子を見て慌てて言葉を発した。
「ど、どうかなさいましたか!?」
僕はその涙を拭い答えた。
「いえ、すいません。いきなり泣いてしまって。両親以外からこの目を綺麗と言われたことがなくて、つい、嬉しくて…。あの、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「わたしは、柚と申します。此花亭で仲居をしております。」
春うらら、桜舞うこの季節に、ようやく出会えた。自分を受け入れてくれる人に
次は、いよいよ此花亭へ!
初投稿なのでかなり心配です…