「ゆ、ゆかりさん...酔っているんですか?」
大好きなゆかりさんに押し倒された私は混乱しつつも状況を聞こうと声を振り絞る。
いや、答えなんて聞かなくても分かっている。赤らんで焦点がずれたような瞳は、明らかに酔っていた。
まさか甘酒で酔うほど、ゆかりさんがアルコールに弱いとは...
ゆかりさんを止めるタイミングはいくらでもあった。
例えば、ずん姉様が急に窓の外を指差しながら(何故か懐から新しく出した)お酒を用意した時。
きょとんとして窓の外を見るゆかりさんが可愛いいなぁ...なんて感慨に浸ってる場合じゃなかったんだ。
例えば、ずん姉様に行事物だから一杯だけでも、と言われてゆかりさんが甘酒を注がれちゃってた時。
少し困ったゆかりさんの表情も素敵だなぁ...なんてハァハァしてる場合じゃなかったんだ。
例えば、ずん姉様がやけにゲスい笑みを浮かべている横で、ゆかりさんが甘酒を口に運ぶ時。
おちょこを口に近づける仕草が何だかエロくてドキドキ...なんてしてる場合じゃなかったんだ。
「あっ待って!...ゆかりさん!!」
私が後悔に襲われてスキを見せているうちに、艶やかに微笑んだゆかりさんは私の服の間に手を差し込み.......
「...的な展開を予想したのに!何で酔わないんですか!!」
新年から色ぼけた妄想を垂れ流すきりちゃん。やけに甘酒を勧めると思ったらそういうことか。
だけど甘酒程度で酔う人なんて、いないとは言わないけど相当希少だろうに...と言う言葉は出なかった。私の目の前、当のきりちゃんが実際に酔っ払っているからだ。
ずん子さんの見解では、自然に私に飲ませるために、きりちゃん自身も多く飲んだ上に、信頼できる人が近くにいることで酔ってしまったらしい。
実際は前後不覚になるほどではないはずだが、多少ふわふわした思考に緩んだ気持ちが、無自覚にこの状況に甘えてしまおうとしているらしいことも一因だと、そっと教えてくれた。
ずん子さん、そこまで分かっているなら妹を止めてあげて。いやまあ、ぐりぐり頭をこすり付けてきたり服を鷲掴みされたりと、多少ボディタッチが増えた程度で私に実害は無いのだけど。
「酔っ払ってなんていません!...むう、朝から体を念入りに洗ってきたのに無駄でしたか。」
酔っ払いの常套句を叫ぶきりちゃん。そして怪しげな発言の後に、自分の腕を顔に近づけて匂いをくんくん確認するのはやめて。生々しくて怖い。
と言うか、やけに石鹸の良い香りがすると思ったらそういうことだったのか。一緒にコタツ入って、距離が近いから何となく分かってしまっていた。石鹸の香りって鼻につかない良い香りだよね。特に東北家御用達のはいい感じだ。
私の家では石鹸ではなくボディーソープを使用しているから分からないが、やはり東北家で使われる石鹸と言うと海外製とかで、しかも高級品とか...なのだろうか。
「あー...うちで使ってるのは国産のですね。何か自然由来の、えっと草?だけで作ってるとか。...んぐ。」
なるほど。石鹸の方が面倒くさいけど、これだけ良い香りがするなら今度我が家でも試してみても良いかも知れない。
なんて考えつつ、むき終って食べたみかんが甘い...いわゆる当たりだったのできりちゃんの口に入れてあげて、おすそ分けした。酔い覚まし兼、甘酒を取り上げるための目くらましとも言う。
「んっ!おお、他よりも明らかに甘いですね!!......ゆかりさんに良い香りって言ってもらえたし、シャワーも無駄じゃなかったみたいですね。んぐんぐ。」
ミカンの感想の後の、きりちゃんの言葉は小さい上にミカンをもぐもぐしていて聞き取れなかったが...照れながらも満足げな表情を見て、何となく内容を察してしまった。
相変わらず純粋な好意を向けられることに、相変わらず慣れない。
私まで少しだけ顔を赤くしつつも、きりちゃんと2人で大量のミカンの中から最甘固体値を厳選する作業は、のんびりと続いた。