東北きりたんが、結月ゆかりを大好きな短編小説集   作:甘味処

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⑯初夢なゆかりさんと、東北地方の秘匿事項を漏らしたきりたん

唐突だが、今私は現在進行形で眠っているらしい。

 

 

 

つまりは《夢の中にいる》と言う状況だ。自覚したのだから明晰夢、もしくは今年初だから初夢と言い換えて良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、餅と言ったらずんだ餅ですよね」

 

夢の舞台で私の体はちゃぶ台なコタツに収まっていて、残りの3席には東北家3姉妹が座っていた。

そのうち2人はずんだ餅を食べ、会ったことが無いイタコさんは私の想像力不足故か、正面に座っているが酒瓶に囲まれ突っ伏し、顔が見えないまま寝ている。

 

 

 

 

 

「ゆかりさん、おねむですか?一緒に布団行きますか?」

 

なんとなく察していたが夢の中でも、きりちゃんは近くにいてくれるらしい。現状整理にぼーっとしていた私を心配してくれていたようで、大丈夫と告げるとほっとした様子だった。

 

...一部年下に使うべき言葉や、一緒に眠ることが当たり前になっていることについては、スルーした。こうして折り合いをつけて、人は大人になっていくのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか。それなら、ずんだ餅食べませんか?とれたて天然の、美味しいやつですよ?」

 

きりちゃんが差し出してきたずんだ餅を受け取りかじりつく。夢の中でも味覚は認識できるようで、その味は東北家で一度食べさせてもらった味そのものだった。もしかしたらその時の味を脳が再現しているのかもしれない。うん、美味しい...けど、ずんだ餅に《とれたて天然》なんて装飾は初めて聞いたので、笑ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、確かに最近はずんだ餅も《養殖》に押されて、なかなか《天然物》も店先に現れなくなりましたね」

 

...うん。確かに、和スイーツなんて言葉があるものの、なんだかんだ言ってケーキなどの《洋食》、つまりは洋菓子の人気には押されているようだ。

 

ただ、、自然に発せられる《天然物》と言う言葉に何だかだんだん違和感を感じてくる。冗談な訳ではなく、合成着色料とか使われてない...的な意味だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、魚なんかと同じですよ。自然に生きているずんだ餅を捕獲したのが天然物。家畜みたいに人工的に育てられたずんだ餅が養殖物です。」

 

...なるほど、洋食じゃなくて養殖。...まあ、夢の世界だからね。ずんだ餅が生きていてもおかしくは、無い?のだろう。

 

...うーん。

まあでも、手のひらサイズのずんだ餅がぴょんぴょん跳ねてじゃれているのはなんか和む...かもしれない。そんなペットがいたら飼ってみたいかも。夢ならではの光景っぽいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、大きい個体だと体長10mほどのずんだ餅もいて、特に天然物はかなりの凶暴性を持ちます。もちろん市場に出る際はたくさんの小さな形に加工されますが。...ゆかりさん、割と一般常識(※注 東北限定)だと思うのですが、本当に知らないんですか?」

 

「例えば、同じように魚も市場に出る前に食べやすいように加工されてますよね。...まさか魚は切り身の状態で海を泳いでるとか思ってませんよね?」

 

何故私は、小学五年生に常識が疑われるような表情で心配されているのだろうか。

 

だが、残念ながら巨大ずんだ餅が闊歩する世界の常識に沿った弁明は難易度が高く、思わず言葉に詰まっていると、追加のずんだ餅を取りに席を外していたずん子さんがあわてて戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええっ!10mオーバーのずんだ餅が攻めてきている!?ゆかりさん!!迎撃しないと進行方向の我が家ごと潰されてしまいます!!」

 

話は何故か東北家を守るために巨大ずんだ餅を迎撃&捕獲する方向に。体長10mだとリアルモンハンか。夢だからリアルはおかしいのかも知れないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば今日は1月11日。鏡開きの日ですね。ゆかりさん。ずんだ餅をしとめて、鏡開きならぬ《ずんだ開き》といきましょうか。」

 

 

きりちゃんが戦闘前の決め台詞っぽいことをドヤ顔で発しているのだが、正直微妙だったのでスルーした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘ステージ Now loading......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《■■■■■■!■■■■■■■■‼︎‼︎》

 

文字には形容しがたい、衝撃波が体を突き抜けていった。そんな威嚇、いや叫び声を上げたのはマリモ状の体長10mを越える黄緑色の巨体、ずんだ餅だ。未だ1kmは離れているのにここまで覇気が伝わってくる。

 

夢とは言え、どうしてこうなった。こんな夢を見せる自分の内面に不安を感じ...いや、今は目の前に集中しよう。

 

私たちを視認したずんだ餅はこちらに向かい跳躍。50mは跳びはね、着地の勢いを消さずに転がってくる。その巨体を活かしてこちらを押し潰そうとしているのだろう。

 

転がり続け距離は縮み、私達と目測で数100mほどになった時、きりちゃんとずん子さんの声が高らかに響く。

 

 

 

『今です!!』

 

きりちゃんが作り出した障壁、ずん子さんが発動した罠の大きな落とし穴に、

ずんだ餅は大きな地響きと共に勢いを失い、埋まってしまう。

 

さらに上空で待機していたずん子さんは間髪入れずサイヤ人の王子的なグミ打ちを上空から放つ。枝豆が焼けた香ばしい、そして甘い香りがあたりを包んだ。

 

ずん子さん...普段語っている、ずんだ餅への愛情とやらはどこいった。いやまあ、私の勝手な夢なんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずんねえ様の散弾でもコアを捕らえ切れませんか...でもゆかりさん!ずんだ餅がダメージの自己修復で動きが鈍っています!!今のうちにコアを打ち抜きましょう!!」

 

 

自己修復...コア......ずんだ餅とは一体。

色々ツッコミ所に事欠かないが、重ねて言うが夢だ。私のスルー力が試される。

 

 

きりちゃんが目の前に作り出した半透明のウィンドウに、コアの位置を示す赤色の点が映る。ずんだ餅の内部を不規則に、しかも高速で動き回っていることが分かった。

 

私はきりちゃんが横で手を添え、魔法的な力を注入してくれているらしいショットガンを構え、狙いを定める。

 

 

ずん子さん曰く、他に足止めの策はいくつもあるらしい...が、一発で決めるつもりだ。

 

 

コアは確かに高速で不規則に動いている...だが私が外すには、速さもランダム性も全く足りていないっ......!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、息を止め、静かに引き金を引いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......所で目が覚めた。

 

せめて当たったのか結果が知りたかったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは何と言うか、まさに夢って感じの体験でしたね」

後日、私は夢の内容をきりちゃんに話してみた。反応は案の定と言うか何と言うか。...まあ、《そんなの、東北地方では日常ちゃはんじですね》とか言われたら、どうしようかと思ってたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえいえ、東北地方は10m越えのずんだ餅がそこらへんを闊歩して、民家を襲うような魔境ではありません...流石に。どこのファンタジーな世界ですか。」

苦笑するきりちゃんに、ほっとするが、ファンタジーの塊のような魔法少女に言われると少し釈然としない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今は7~8m級のずんだ餅さえ、山奥の秘境でもなかなかいません。そもそも乱獲や、外来種の洋菓子、特に雑食のケーキに餌や住処を奪われて人の目が付くような場所にずんだ餅達は生息していませんよ。

それに彼らは、よほどの事がなければ人を襲わない、草食で日向ぼっこが好きなやさしい生き物なんです」

 

...ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、東北地方全体でカバーストーリー《ずんだ餅は100%工場生産》説を流してるから今時の子供は生きていることさえ、知らないかもしれませんが...でもそのカバーストーリーのおかげで、人が立ち入らないずんだ餅が生きていける生態系と環境が最近は山奥とはいえ確保できているみたいですね。」

 

.......うん。えっ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ、まだまだ数も大きさも一昔前の水準には戻っていません。養殖や、餌となる枝豆の植林についてはうちの家も出資していますが、ずんだ餅の生育には現代科学でも謎が多くて...」

 

..........あれ?えっと、つまり?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いまいち情報を噛み砕けない私と、立て板に水を流すように情報を追加し続けるきりちゃん。

 

そんな私達の耳に、東北地方の山奥に隠れ潜んでいた20m越えのずんだ餅が配下を引き連れ《打倒洋菓子》をプラカードに掲げ、南下を始めた...と言う知らせをずん子さんが伝えてくるのは、今から数分後のお話しである。

 

 

 

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