東北きりたんが、結月ゆかりを大好きな短編小説集   作:甘味処

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結月ゆかり視点です。


②家庭教師なゆかりさんと、優等生なきりたん

 東北きりたんとの出会いから一週間経った。物凄い勢いで慕われて、しがみつかれて、危うくゴールイン(婚約的な意味で)しそうになって必死に回避した。

 

涙目になって自分の事が嫌いなのかと、服の袖を引っ張るきりたん。今後の人生でも、恐らくこれ以上の困難は無いと悟った。

...と言うかあって欲しくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆかりさん、私は思うんですよ。人は何故、分かり合えないのでしょうか。私はゆかりさんを、こんなにも愛してるのに。らぶ&ぴーす。愛は世界を救いますよ。」

 

 

きりちゃんの部屋に着くなり奇妙な寸劇が始まっていた。

また何か変なネットの情報を聞きかじったのか、愛を囁きながら物憂げな表情に伏しがちの瞳で――傍から見れば誰しも惹きつけられてやまないのだろう。整った容貌と悲しげな表情を表せるのは。持って生まれた才能だと思う。 ...ほんとに小学生かこいつ。

 

 私は隣で憂い気な表情を浮かべるきりちゃんを横目で見ながら、軽く無視して部屋の中央、小さな丸机の近くに腰をおろす。

 

 

「ゆかりさん、じと目も似合いますね。...えへへ、やっぱり美人さんですよね。ゆかりさん。」

先ほどまでの物憂げな雰囲気を捨て、当たり前のようにきりちゃんはぴたりと私にくっつくように座る。送った非難の視線は喜ばれる始末だ。

暖簾に腕押しなんて言葉があるが、効果が無い所か、最近の暖簾は絡みついてくるらしい。

邪気が無いからこそ、拒絶できないでいると、にこにこと顔を綻ばせて、下から私の顔を覗き込んで来た。

 

 

 

 

 

「頬、赤くなってますね。美人って言われて嬉しかったんですか?あっもちろん本心ですよ!安心してください!!」

婚約は無くなったが、きりちゃんは相変わらず、私に分かりやすいほどの好意を向けてきている。

 

最近は甘えるだけで無く、からかうような言葉を投げてくるようになったきりちゃんの手元に、持ってきた冊子を出す。

 

 

 

「んぅ?...ああ、これがゆかりさんが使っていた教材なんですね。つまりプレミア品ですね。言い値で買いますよ!...冗談です。えっと、それじゃあ、お願いしますね。ゆかり先生?」

いい加減垂れ流し続けている妄言を窘めようかと思った矢先に話題を切り替えてくる。こちらの心情を察知したのだろう。まあ、良い。本題に入らなくては。

そう、私はきりちゃんの家庭教師、つまりは先生になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は1週間ほど前に遡る。決まりかけていた婚約を白紙に戻そうとした私は、泣き顔のきりちゃんにしがみつかれて進退極まっていた。

 

そんな時に、ずん子さんから婚約を無かったことにする代わりにきりちゃんの家庭教師をして欲しい旨の提案を受ける。

 

そんな折衷案にもなっていない案だったが、私から見て婚約も解消できて、きりちゃんもずん子さんに何やら囁かれた後しぶしぶ賛同し、無事可決された。

 

 

 

 

 

 

「ほうほう、このテキスト、かなり難しいですね。」

両親の出張が多く、半分一人暮らしをしているような私としても、たった30分の教師で、夕飯とお風呂にありつけて嬉しいのだが、

 

問題として別にきりちゃんに教える事など何も無いと言ったところだろう。大体きりちゃんは成績が学年トップクラス。はっきり言って別に教える事は何一つなかった。 今も、”かなり難しい”と言ったはずの《中学生向けの》テキストをスラスラと解いていた。

 

教師初日はきりちゃんの教科書等から問題を指定して解いてもらったが、ものの20分しない内に、教科書程度の内容には知識の穴が無いことが分かった。そして全問正解したご褒美として、少し早めに勉強を切り上げ、膝の上に乗ったきりちゃんとそのままゲームをして...相変わらず気づいたら寝てて、朝帰りすることになった。

 

 

 

「ゆかりさん、質問があります。」

それを踏まえて今回は私が中学生の時に通っていた塾のテキストを持ってきた。結構レベルが高く、しかも中学生を対象にしている塾のテキストだ。流石に小学生のきりちゃんには、分からない所があったのだろう。先ほどまでスイスイ動いていたきりちゃんの手が止まっている。

 

ここに来てようやく教師らしい活躍ができる...と、ほのかに緩めた頬は、

 

 

 

 

 

「ゆかりさんはデートに行くならどこに行きたいですか?」

完全に場違いな質問に凍ることとなる。

 

 

 

 

「気になって、勉強も手がつかないんです。それに、教えてくれたら勉強の意欲がぐぐ~っと上がります。」

何か断りずらい悪知恵をつけてきたが、まあ減るものでも無いしと某ネズミの楽園の名称を告げた。

 

 

 

 

 

 

「それなら今週の土曜日か日曜日に行きましょう!あっ、テキスト終わりました。それじゃあ、ゲームの準備していますね。」

いとも簡単に片付けられたテキストはもちろん満点で、私の今週末の予定が埋まることとなった。

 

...タチの悪いことに、きりちゃんとお出かけ自体には嫌な気はせず、むしろ私自身、楽しみに思えてしまっていた。

 

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