それと、ラストらへんの表現、後でもう少し訂正します。忙しくて年度明けくらいになるだろうけど。
「そういえば、いつも私のほうが先に寝落ちしてますよね。...あっアイテム取ったら、短剣装備が消えちゃいましたね。このゲーム、拾ったら強制装備なんですか。」
まあ早く寝ちゃうのは、きりちゃんの年齢的に仕方が無いんじゃない?
そんな返答をしつつ、何度目かのリメイク版な魔界村を、交代しながら一緒にやっている。
今は私が操作の順番で、誤ってアイテムに触れてしまい、使いにくい装備に強制的に変えられてしまった所だ。
このゲーム、きりちゃんは初見だが私は結構やりなれていたので、片手操作のハンデを受けている。
絶妙な難しさになったのでハンデ自体はむしろ望む所なのだけど、使ってない片手は今もきりちゃんの捕虜になって、もみもみされている...まあ実害無いし、それも別にいいか。
暖たかいし、とっても丁寧でマッサージみたいで気持ち良いし、きりちゃんも楽しそうだし。
「なるほど。ってことは、私が成長する度にゆかりさんとイチャイチャする時間が長くなって、なおかつゆかりさんの無防備な寝顔が見れる特典がつくんですね。...もみもみしてるのは、とっさに両手を使わせないための事前の対策兼、マッサージです。だからそろそろ反対側の手を差し出してください。」
無防備...割ときりちゃんのことは信頼してるので、無防備になるのは寝てる時だけじゃなくて起きている時もな気がするんだけど。そんなことを考えつつ、一旦ゲームを停止して左右の手で捕虜交換を行う。やっぱりマッサージだったんだ。ありがとう。
それと、きりちゃんより起きてるって言っても最近は気持ちよさそうに眠るきりちゃんに釣られて、私も早寝早起きの健康的な生活リズムになってるから割と大差ないと思う。
「いえいえ役得ですから。...ふむ、つまり私といることでゆかりさんは健康的になっちゃうってことですね。...どうです?もう私を手放せなくなってきたんじゃないんですか?」
ぐりぐりと頭を擦りつけながら話すきりちゃん。香るシャンプーは同じ東北家のやつだ。
うーん、何か認めるのはちょっと悔しいけど、確かにこの感触と暖かさ、それに隣のライバルがいないゲームは物足りなく感じてしまいそうだ。
まあ人間慣れるものだし、数週間離れたら一人で遊ぶのも、また慣れそうだけど...って、あ!?罠に引っかかって鶏にされた!!
「むっ...それならもーっとくっついてゆかりさんにはもーっと私に依存...きりたん中毒になってもらわなくてはなりませんね。あー、やられちゃいましたか。それじゃあ、次は私の番です。」
罠で攻撃不能になった状態でタコ殴りにされ白骨になってしまった。死んだら交代なのできりちゃんにコントローラーを渡す。...ぐぬぬ。
そんな風にいつもどおり、ぽけぽけな会話をしつつ、そういえば最近はコーヒー飲んでないなあ、なんてぼんやり思った。
寝落ち、中毒、なんてワードを聞いて私の頭がカフェインを経由して勝手にコーヒーを連想したようだ。
「コーヒーですか。飲んだことありますが苦くて苦手です。おっ、攻撃がパワーアップしました!」
ああ、そのパワーアップ、ダメージ受けると剥がれちゃうやつだから気をつけてね。
苦い...確かにジュース的な甘い味を堪能する類の飲み物ではないよね。
でも豆から挽くと結構香りが良くて、いい感じなんだよ。よく飲んで夜遅くまでゲームしてたなぁ。
「ほうほう。インスタントと、缶のなら飲んだことありますが...豆から挽くなんて本格的ですね」
電動で豆から粉にしてお湯を通す...ドリップまでしてくれる機械があるから、大して手間もかからないんだよ?
気になるなら、今度その電動のやつ持ってくるから、飲んでみる?
「おお、飲んでみたいです!...って何かボスっぽいのが出てきました!!」
ボスの攻撃パターンを助言しつつ、明日のコーヒーの準備の算段を脳内でする。
...小学生にコーヒーって飲ませて大丈夫かな?一応ずん子さんに確認しておこう。
次の日。ずん子さんに聞いてみると、
《コーヒー飲んで夜遅くまでイチィチャするのは良いですが、次の日に支障がない範囲で楽しんでください》的な忠告をまず受けた。
やっぱり姉妹だから発想が似ているようだ。
そして、2人とも一杯づつ飲むと次の日起きられなくなりそうだから、一杯を2人で分けて飲んでみてはどうかと提案された。なるほど、そうしてみよう。
「豆と水とフィルターをセットして、ボタンを押すだけですか。...わっ、結構大きな音出ますね。それに、この時点でもういい香りがします!」
夕食とお風呂を済ませ、きりちゃんの部屋でコーヒーを作り出したのが夜7時半ほど。確かに豆を砕くのにそれなりに音が出ている。
近所に響くほどではないので、私の家で作るときは気にならなかったのだが、同じ屋根の下に人がいる状態だと迷惑になってしまうかも知れない。
「あっ大丈夫ですよ。元々は無かったんですが、ゆかりさんがゲーム...じゃなくて家庭教師に来てくれる初日までに、ずん姉さまがこの部屋を防音対策してくれましたので。多分一緒に遊んで騒いじゃうことを見越したんですね。さすがずんねえ様です。」
...多分防音の理由はそれだけじゃない気がするけど、藪蛇だから黙ってよう。でもまあ、確かにそれなら安心だね。
なんて話していたら、一杯分だから既にドリップし終えていた。ミルクと砂糖をいつも通りの分量入れて、きりちゃんに手渡す。
「それじゃあ頂きます。...ん。...ゆかりさんも一口どうぞ。」
一口飲んだきりちゃんにコーヒーカップを渡される。何かきりちゃんが表情を緩めてニヨニヨ?してる。美味しかったのかな?良く分からないがとりあえず一口飲む。
うん。いつも通りの...あれ?少しだけ甘い?
同じ分量のはずなんだけど。
「えへへ、間接キスですね。...どうしました、ゆかりさん?何か気になるんですか?」
あっ、間接キス...そういえばそういう事になるのか。全然意識してなかったけど。
それとは別に、甘く感じるのは何でだろう。
同じ豆と砂糖とミルクで、同じ分量で、同じドリップする機械を使ってるから昔飲んでいたコーヒーと違いなんてあるはずが無い。
...はずなんだけど、何だか記憶のものより甘く感じる。ハテナマークを出していると、私の言葉を聴きつけたきりちゃんがすすっと近づいて耳元で話しかけてきた。
「いつもより甘いんですか...もしかして、私が口をつけたから...とかだったりします?」
耳元で響くきりちゃんの声が妙に艶っぽくて今更ながらドキドキしてしまう。いや唾液がこんなに甘くなるはずが...いやでも確かに甘く感じたわけで。
他に味が変わる要素はないってことは、この差分の甘味がきりちゃんの味ってことに...いやいやそんな馬鹿な。
「そりゃまあ、普通口つけたからって甘くはなりません。でも恋愛初心者のゆかりさんには分からないかも知れませんが...好きな人との口付けって、甘く感じるものらしいですよ?さっき、ずん姉様も言っていました。」
好きな人とのキスが甘い。た、確かに聞いたことがある。あれって漫画の世界のことだけじゃ...ってそれだと私がきりちゃんのこと好きって事になっちゃうんだけど。
なんて色々考えていると、机に置いていたコーヒーカップを手に取るきりちゃん。
「そのとおりじゃないですか。えへへ...ゆかりさんに私の味、甘いって言われちゃいました。んっ。本当だ。私も一口目より何だか甘く感じちゃいます。この甘さがゆかりさんの味なんですね」
味わうように飲むきりちゃん。それを見るしかない、味わわれている私。...何だこれ。
「はい。ゆかりさんの番です。」
再度渡されるコーヒーカップ。でも間接キスとか色々意識してしまった今となっては、なかなか手を出しずらい。
そんな風にきりちゃんのジッと見つめる視線にたじろいでいると、
「あれ?ゆかりさん。小学生と間接キスを気にしてるんですか?あんまり過剰反応してると...逆にロリコンって思われちゃいますよ?」
こちらを心から心配するような純粋な瞳で、内緒話をするような仕草で手を添えて、私の耳に近づけた口から声を潜め指摘される。
付き合いもそこそこになってきた私には分かる。こいつ内心でニヤニヤしてやがる。
同じ手に同じ向きで渡されるから、普通に飲もうとすると同じ箇所に口をつけてしまう。回避しようとすると首か手首の角度を変えて飲むか、持ち手を変える必要がある。
どっちも傍目から小学生との間接キスを意識して避ける、滑稽な感じになってしまう。
迷ったが、じっと見つめ続けるきりちゃんの瞳に急かされるように、そのまま飲んでしまった。...きりちゃんが口をつけた箇所に。
「どうですか?甘かったですか?...いつもより」
囁かれる言葉に頷いてしまう。...やっぱりいつもより甘く感じる。
えっとつまり、この甘さが、きりちゃんの味で、それを感じるってことはつまり私がきりちゃんに恋をしてるってことなわけ...なの?
何だかよく分からなくなってきた私は目を回しつつ、コーヒーカップをきりちゃんに取り上げられてしまう。
また目の前で口をつけるきりちゃん。そして近いから聞こえてしまう。コーヒーを飲み下す音。
「ん♪...また、ゆかりさん頂いちゃいました。コーヒーへの苦手意識なんて吹っ飛ぶくらいにドキドキしちゃう味ですね。」
頬が赤いきりちゃん。横から身長さで覗きこむように見つめる視線。そして手渡されるコーヒー。
何か、やばい。
コーヒーを飲んでいるだけなのに、秘め事をしているような、こっそり2人だけでやってはいけないことをしているような...この背徳的な感覚はやばい。よく分からないけどやばい。
でも甘く感じるのは事実だ。いつも通りの豆と砂糖とミルク。分量だっていつも通りな訳で、違いと言ったらずん子さんに手渡されたコーヒーカップくらいなわけで...
ん?
ずん子さんが用意したコーヒーカップ?
んんっ?
ずん子さんが甘い口付けについて話してた?
...ね。きりちゃん。この用意してくれたコップなんだけど、ずん子さん何か入れてなかった?その、内側に砂糖かシロップ的なものとか。
「えっ、流石にずん姉さまでも...いや、ありえそうですね。ずん姉さまだと。」
私の言葉にピタリと勢いを止め、納得するきりちゃん。そうだよね。ありえそうだよね。ずん子さんだと。
「...で、でも。仮に、仮にですよ?ずん姉さまが何かしていたとしても、私は同じカップの二口目が甘く感じたのは本当です!それにゆかりさんが感じた甘味だって、ずん姉様の仕業なのか、私への愛情によるものなのかなんて見分けつかないじゃないですか。」
きりちゃんの事は最初から疑ってる訳ではない。...思い込み、と言うか妄想...じゃなくて想像力逞しい子だし、その、愛情を向けられてる自覚もある。プラシーボ効果がバンバン効いているのだろう。
対して私が感じた甘味は多分、ずん子さんが裏で糸を引いていた可能性が高い...けど確かに証拠も何もない。
ずん子さんへの疑惑で一旦勢いが弱まっていたきりちゃんだが、疑われていない事と、言い澱む私に再度勢いを復活させ顔をズズイっと近づけてきた。虚を突かれ言葉を失ってしまう。
そしてそのまま至近距離できりちゃんから提案がされる。
「そ、それなら!ゆかりさんにご提案です!!私の唇...今から直接味わってみれば、甘いかどうか、白黒はっきりつきますよ!!オススメです!!!」
えっ、それってキス...
「ち、違います。キスじゃない...です。ただ確かめるだけ、です。ちょっとその過程で口...えっと肌の一部が触れるだけです!...いいんですか?このままだと、ずん姉さまにやられっぱなしです。確たる証拠を持って、やりかえしてやりましょう!!」
ぐいぐい押し込むきりちゃんに、重心が移動して、後ろにあったクッションに私の体は受け止められる。
ずん子さんにやり返すのは賛成だ。私自身悔しいし、年始の時きりちゃんと共闘してずん子さんと対峙するのは楽しかった。
でも方法が、いや、確かめるだけだからノーカンにな...いやいや。
「抵抗、しないんですね。...嬉しいです。それじゃあ......い、いただきます。」
考え事をしていたのと、感じる体温に安心して数瞬惚けていてたようで、気づいたらきりちゃんはさらに近づいていた。
さらに真剣な視線からの嬉しそうに綻ぶ表情に抵抗する気力が抜けてしまう。
ついに瞼を閉じて迫るきりちゃん。このままだと本当に唇を奪われてしまう。
でも、きりちゃんが迫る速度は酷くゆっくりだった。ゆっくりなのも、そして黙ってキスされてれば抵抗できなかったのに声をかけてくれたのも...両方とも、ぼーっとしていた私への配慮で、不意打ちのようにならないためだろう。
相変わらず良い子のきりちゃんに、ほんわかしつつも、静止するために、きりちゃんの名前を呼ぶ。でもその声は、
自分でも驚くほど掠れた...なんと言うか甘い声だった。
「...ゆかり、さん?」
目を開いたきりちゃんは、私の声質に怪訝そうに眉根をひそませる。
震えてしまった声を咎められているようで、微妙に視線をそらしながら、キスはダメだとしっかり言う。今度はいつも通りの声を出せた。
「...ダメ、ですか。」
ダメです。きりちゃんのいつもより躊躇いがちな言葉にいつも通り返答する。
少し間を置いて、納得して体を離すきりちゃん。
きりちゃんは小学生だ。いくら波長が合っても、親愛を感じても、そして社会や周囲の目を別にしても...やっぱり恋愛対象として、私は見る事ができなかった。
けど、自分を騙して今の状況をほんの少しだけ受け入れたら、向け合う感情の差は消え、きりちゃんから向けられる気持ちに答えることができるかも...なんて考えてしまった。
返せない形で気持ちを受け続ける罪悪感に、流されも良いんじゃ...なんて考えが、声を震わせてしまった。
「ぬぐぐ、空飛べるって戦闘に凄いアドバンテージなんですね。空中から攻撃してくる敵キャラに殺意が沸きます。...あっ、明日のずん姉様への追求は一緒にしましょうね。1体1だと言いくるめられかねないので。」
その後、昨日に引き続きゲームを再開した私達。きりちゃんからの言葉に、ウンと頷く。
また声が震えてしまいそうで言葉があまり出ず、私の様子に時折チラチラと不安そうに表情を覗き込むきりちゃんには申し訳なかったけど、今日はスルーして欲しい。自分でもびっくりしてるから。
そしてコーヒーのおかげか、いつもよりちょっとだけ長い、2人で遊ぶ時間は楽しかった。