「ゆかりさん、いらっしゃいませ。今日も勉強お願いしますね。」
部屋にお邪魔すると、慎ましげな微笑み、丁寧な挨拶、そして透き通る様な黒い瞳と髪...まさに和装の美少女な、きりちゃんがお出迎えしてくれた。
そしていつもと違い私にくっつかず、そのまま机に向かい合わせに座り、真剣な表情でもくもくと勉強をはじめる。
そんなきりちゃんを見て私は....
絶対何か企んでる。もしくは偽者に違いない。本来のきりちゃんは、もっと残念なはずだ。
...なんて感じた原因は、私の物の見方というより、きりちゃんの普段の行いに比重があると思う。
「んー...やっぱりゆかりさんにはバレちゃいますか。」
何をやらかすのかと、一挙手一投足を注意して見ながら勉強時間を終えると、騙されまいとしている私の態度に、困ったように苦笑し話し出すきりちゃん。
「実は今日。ハロウィンのパーティをうちでやるんですよ。料理も装飾もすませています。それで、ゆかりさんを驚かしたくてギリギリまで内緒にしたかったんですが...」
...なるほど。そういうことだったのか。何か不穏なものを私の勘が感じ取った気がしたが、ずいぶんとかわいい隠し事だったようだ。
だが今日のパーティ、実は私はずん子さん経由で既に知っていて、お呼ばれしてくれていたので、参加する気満々だったりする。
まあ、サプライズを考えてくれていたなら、わざわざ言うことでも無いし...知っていたことは黙っていよう。
「ゆかりさん?...もしかして、今日は参加できなかったりします?」
考え事をしていたら、きりちゃんに服の裾を掴まれ、心配そうに顔を覗き込まれ思わずドキリとしてしまう。
記憶に新しい婚約破棄騒動の時もそうだったが、私はこの娘に見上げられるのが弱いらしい。特に今見たいに心から不安がっているのが伝わると。
「そ、そうですか!それならさっそく着替えましょう!仮装ですよ仮装!!」
用事も無く、参加することを伝えると、喜んだきりちゃんに急かすように手を引っ張られて部屋を出ることに。
隠しごとと急な不安が無くなったからなのか、いつもの調子を見せるきりちゃんにほっとする私は、結構毒されてるのだなぁと人事のように感じた。
「ほらほらゆかりさん!お揃いの衣装ですよ!!これはとある吸血鬼姉妹の衣装でしてね...ってやっぱり元ネタ知っていますよね。さあ写真、写真撮りましょう!!」
着せ替え人形にされた...と言うには、きりちゃんの仮装がかわいく、私からも積極的に互いの衣装を着せあった。
そして衣装を決め、マキさん達が既に待ち、装飾が施されたパーティ会場に着き、料理が並べられた机に近づくと、急にきりちゃんに腕をつかまれ...
「と言うわけで、ゆかりさん《トリック オア トリート》、です」
先ほどまでの雰囲気を消し、きりちゃんはにやりと黒い笑みを浮かべて私に告げた。
...し、しまった!?ハロウィンなんて参加するの初めてだし、お菓子の持ち合わせなんて用意してなかった!!
と言うより仮に偶然お菓子を持っていても、私の服装はさっき借りたもので、手荷物も全てきりちゃんの部屋に置いてきていて...はっ!
まさか、きりちゃんが企んでいたのって...!?
「どうしたんですか?ゆかりさん?もしかしてお菓子を持って無いのですか?それは残念ですねぇ。私もお菓子を貰えないのはとても残念ですが、それなら体で払...ではなくて、イタズラをするしかありませんね。私としても、とっっても残念ですが。」
三度も繰り返したが、まったく残念さなど微塵も感じ得ない言葉。
そして芝居めいた悲しげな表情には不釣合いな、ゆるみがかった口元。
そして何より、わきわきと動くきりちゃんの両手。その様子は完全に変態だった。...割と前から知ってたけど。
「大丈夫。痛いことはしませんよ。...ところでゆかりさん。こんな話を知っていますか?くすぐったいって感覚は相手を信頼...」
ついこの前、私がきりちゃんに話した事をそのまま返される。その後の顛末もしっかり記憶に残っている私は、この後きりちゃんに何をされるのか、しっかり想像できてしまった。思っていた以上にきりちゃんは負けず嫌いだったらしい。
もちろん相手は無駄に高スペックとは言え、小学生だ。抵抗すればふりほどくことは簡単かも知れない。
けど、それは大人げ無いと言うか、フェアじゃない気がする。私がお菓子を用意しなかったのは事実で、落ち度がある...気がする。
それに、この前のくすぐり、やり過ぎてしまった罪悪感があり、
抵抗しようとする意欲をガリガリ削っていった。
そして、とうとう怪しい笑みを抑えられなくなったきりちゃんの魔の手が近づき、私はしかたなく辱めを受け入れ...
ん?でも...そうだ!!お菓子ならある!!と気づき、
パーティ会場に用意された料理の内...カボチャプリンを取り、さっときりちゃんに手渡す。
「あー。ダメですよ、ゆかりさん。そのプリンはうちで用意したものだからノーカン...えっ!?ゆかりさんの手作り!?」
そう。ハロウィンパーティを前から知っていた私は、参加させてもらう以上、多少は準備も手伝いたいと告げ、いくつか料理を持ち寄ったのだ。このカボチャプリンもその一つだったりする。
「そんな...ゆかりさんのあんなとこやそんなとこに手をつっこんで、合法的にもみもみ、さわさわ、触るチャンスが...」
いやそんな絶望しなくても...そして言い方が完全にエロ親父っぽい。
そしてハロウィンのイタズラは、別に法律で保障されてるわけではない。
「それはそうですが、ゆかりさんは変に真面目だから、落ち度が少しでもあれば受け入れてくれそーだなぁと...えっ、もしかして食べさせてくれ...あっ、あっ、でも食べちゃったら...」
さっき私自身が考えていたことを的確に告げてくる、きりちゃんの口をふさぐために一口分に削ったプリンをスプーンに載せて近づけ、あーんと告げる。
困惑するきりちゃん。食べてしまえば、イタズラの権利は無くなるが、好意を抱いているらしい私の手で食べさせられる事にも魅かれて板ばさみにあっているようだった。ふらふらと視線をさ迷わせている。
そして迷うこと数秒後...
「あっ、あーん...んっ。...ぉいひぃ、です...ゆかりさんの手作り...しかも食べさせて貰っちゃった...えへへ」
ついに屈して、開くきりちゃんのお口に、スプーンを差し入れる。
...楽しい。なんだこれ凄い楽しい。
企みが上手く行かずくやしそうにするきりちゃん。けれども口元に近づけると律儀に口を開くきりちゃん。
美味しそうに、幸せそうに食べてくれるきりちゃん。
やばい。何か変な扉を開いたのかもしれない。
「来年こそは...もぐもぐ」
そんな呟きをカボチャプリンで押しつぶしつつ、1カップ分食べさせることに成功した私は、来年もきりちゃんに食べさせるために...では無く、来年もあるだろうきりちゃんの悪巧みを打ち破るために...
毎年カボチャプリンを作るのが私の恒例行事になることを悟ったのだった。
「...交代です。」
謎の達成感に満たされ、来年に思いを馳せていた私は、きりちゃんの一言で我に返った。
「ゆかりさんだけズルイです...私もゆかりさんに食べさせたいです!」
食べ終わって、気を取り戻したきりちゃん。
この前から私にやられっぱなしで悔しいのだろう、涙目になりながらスプーンを差し出してきた。
ふと周りを見ると、全員バッと視線をそらす。ただし何人かは覆った両手の指の隙間からガン見していたり、スマホをこちらに向けている。
...あれ?私は衆人環視であんなバカップル染みたことを?
「ゆかりさん、お口開けてください...お願いです。ほら、あーんですよ...あっ!やった!!えへへ...ゆかりさんはいい子ですねー。むふふ、頬が赤くなっていますよ。かわいいです。ほらほら、もっとあげますからね。」
自分の行為にびっくりしつつも困ったように上目遣いできりちゃんに見つめられ、つい口を開きスプーンを咥えてしまう。
その瞬間に、パァーっと笑顔が輝くきりちゃん。さらには、きりちゃんの何かを刺激してしまったのか、まるで小さい子をあやす様な態度を取り出した。
調子に乗っているのを嗜めようと口を開いても間断なく差し出されるスプーンにふさがれる。そしてきりちゃんの持つプリンは溶けるように、私のおなかに消えていった。