基本的に、ゆかりさんときりたん以外がメインで出てくる話は、番外編?IF話?的な、あんまり複線とか展開とか考えずに書いています。
私こと弦巻マキにとって、結月ゆかり...ゆかりちゃんはつい構ってしまう存在だった。
別に彼女の要領が悪い訳では無い。一人でもきちんと毎日をこなしそうなのだけど...ほおって置くと彼女は誰とも話さず学校に通い、両親が不在気味らしい家に帰り、誰も呼ばずに宿題やゲームをして、そのまま就寝して一日を終えそうな...何と言うか、あまり他者を必要としてなさそうな人物だった。
親友兼幼馴染を自負する私としてはもう少し...何と言うか、こう...こちらとの交友関係を求めてきて欲しいわけなのだが、友人が増え、付き合いが長くなっても、ゆかりちゃんのそんな本質は変らなかった。
時折ふと頭をよぎっていくそんな悩みは、性分は人それぞれだし、こちらから話しかけたり遊びに誘うときちんと応対して楽しそうにしてくれるので...まあいっか、と長続きすることは無かった。
そんな日々を過ごす中、相変わらず出不精なゆかりちゃんに洋服が買いたいと言う口実で、お店に引っ張り出して一緒に服を見ている時...私は気づいた。
変らなかったはずのゆかりちゃんが最近、色々変り始めている事に。
「...ん、どうしました?マキさん?」
ジッと見る私の視線に気づいたのだろう、服を選ぶ手を止めて訝しげな表情でこちらに顔を近づけ、私の袖口を掴みチョイチョイと引っ張るゆかりちゃんに我を取り戻す。
うーん、どうしたと言うか何というか...あれだ。
ゆかりちゃん、とってもかわいくなったよね。
「む...なんですか急に。ナンパじゃあるまいし。」
そんな反応をしつつも頬を赤らめ、視線を微妙にずらして恥ずかしそうにするゆかりちゃん。冷静な口調とギャップがあるその様子は、狙ってやっているとしたら相当なテダレだろうが、天然なのは幼馴染として分かってしまう。
...うん。やっぱりかわいくなった。
恋をすると綺麗になるって本当だったんだね。
「き、きりちゃんとはそういう間柄では...ぅぐ、だっ大体、私は私です。大して変っていませんよ」
ついマジマジと見つつも納得する私に、ゆかりちゃんは勝手にご執心中な小学生の友人の名前を告げて来たので”相手が誰とは言っていないんだけど”...と返してみた。
すると墓穴を掘ったことを自覚してさらに頬を赤らめるゆかりちゃん。視線がふよふよ動きだした...うん、かわいい。
変った所...例えば今だって前より真剣にお洋服選んでたよね?...まるで身だしなみに目覚めた恋する女の子みたいな初々しさだったよ?
「こ、これは肌触りを気にしているだけで、別にファッションに目覚めたわけでは...」
そっか。感触は大事だよね。
...抱きしめた相手にゴワゴワなんて感じられたら嫌だし。
「ぅぐ...」
あとは...さっき喫茶店で、ケーキの美味しい所を最後に残して食べてたよね?今までそんな癖無かったのに。そこも”ゆかりちゃん、新かわいいポイント”かな?
「何ですかその謎ワード...と言うか、よく見てますね。でもそれのどこに、かわいさの要素が...」
あれ、普段からきりたんとケーキを分け合いっこしてるから無意識で避けてたんじゃない?一番美味しい所を。
思い当たる節があったのだろう。ゆかりちゃんの開いた口から否定の言葉が途切れて、パクパクしている。
「で、でもケーキは皆で分け合った方が色んな味を楽しめて良い...いやそうじゃなくて」
ああ、そうやって言いくるめられたんだね。きりたんの言葉に納得してしまうゆかりちゃんの情景が目に浮かぶ。ゆかりちゃん警戒心がきちんとあるけど、親しい人相手だとガードゆるゆるだよね。
仮に、ゆかりちゃんときりたんちゃんの年齢が逆転していたら、騙されてそうな親友を必死に守っただろうが...相手が顔見知りで小学生な女の子だと、微笑ましいばかりで、そんな気持ちは露ほどもわかなかった。
「ちょ、ちょっと服が気になったのと、食べ方を変えただけ...です!マキさんの勘違いです、よ?」
いや、そんな不安そうに言わなくても...
まあそういう事にしても、他にも...私、だけじゃなくて仲が良い人と距離が縮まったよね。物理的にも精神的にも。
少なくともゆかりちゃん、今みたいに話している相手の服の端を掴むような事は無かったはずだし、息が届きそうな距離で話すことも無かったよね?
...きりたんとずーっと抱きしめ合ってるから、他人の体温に慣れちゃって、人恋しくなっちゃたんだね。
「えっと...これは、その......」
指摘されてピクリと反応するが、私の服を摘んだ手はそのまま、離れることはなかった。
最近何となく私が日常に感じていた違和感は、”ゆかりちゃんがかわいくなったから”と言う根本的な原因に気づくと芋づる式に納得しはじめる。他にも、最近のゆかりちゃんの変化をつらつらと告げていくと...
「うぅ...マ、マキさん!分かりましたから...、降参しますから......もうこれ以上、いじめないで下さい...」
ゆかりちゃんは潤んだ瞳で見上げて必死に降参し始めた。...一瞬、もっと涙目にしてあげたいなんてイジメっこな考えが浮かんでしまうが自重する。
...うん、やっぱり本当にかわいくなってる。良い事なんだけど、きりたんちゃんだけじゃなく、琴葉姉妹やIAちゃんに...果てはずん子さんまでにも無意識に毒牙にかけているのは問題なのかもしれない。
「...私、変ですか?」
そんな考え事をしていると、ゆかりちゃんは私が黙ったことに不安そうに声をかけてきた。
...先ほどつらつらと上げた【ゆかりちゃんに魅了されてしまった友人達】の脳内リストに、母性をくすぐられた私の名前が載ってしまったことを自覚してしまう。
いやいや...流石に親友を、しかも小学生から横恋慕するのはダメだろ私。しっかりしろ。
でも非力で身長小さめなゆかりちゃんの揺れる瞳を見ていると...この前IAちゃんが
”ゆかりちゃんの事、つい押し倒しちゃった。それ以上は我慢できたけど”
とか言っていた事にも共感できてしまう。
私に比べ身長も小さく非力なゆかりちゃんへの湧き上がってしまう妄想を、頭の片隅に追いやりつつ”良い変化だから大丈夫”と向ける瞳と言葉に親愛をこめて伝えてあげる。
「そ、そうですか。...あっ、マキさんにこの服似合いそうですよ?ほらっ、これです!」
こちらの言葉に騙され...いや、安堵しつつ、必死に話題を変えるゆかりちゃん。これ以上いじめてしまうのもかわいそうなので、そらした話題に乗っかり、その日の買い物を終えた。
「ふふっ、買い物楽しかったです。また誘ってくださいね。それじゃあ私はこの後、きりちゃんにお勉強を教えますので東北家に帰え...じゃなくて、行ってきますね。」
その後、ずんちゃんによる”家庭教師”と言う名目に踊らされ、最近は家事もするらしい実質通い妻なゆかりちゃんを見送った。
そんな帰り道で、私はゆかりちゃんが買い物途中で口走っていた言葉をふと思い出した。
”ケーキは分け合った方が良い”
なるほど、確かにゆかりちゃんの言う通りだ。流石に今の”持ち主”の小学生から”奪い取る”のは心が痛くて無理だが、”分け合う”のなら結構話しが通る気がする。
魅力的なものは奪い合うのではなく分け合うほうが良い。それこそ親しい間柄ならば。その言葉の責任をゆかりちゃんにとってもらうことになるのは、そう遠く無い未来かもしれない...なんて冗談を誰となしに思い浮かべてしまった。