超展開です。話の展開特に波乱無いですが。
「ゆかりさん!実は私、魔法少女になったんです!!」
昨今のネット社会、そしてアニメやゲームは便利で楽しいものだが...その反面、弊害や悪影響はあるようだ。少なくとも目の前のきりちゃんが身をもって証明してくれている。
「...あの、本当の話なんです。だからその、《可哀想な子を見るような目》はやめてくれませんか?結構、心にきますので」
私のとても悲しい思いは、きりちゃんにも伝わってしまったようで、きりちゃんの目に涙がうっすらと浮かぶ。
しかし泣きたいのはこっちなの…ん?あれ?きりちゃんの様子を観察してると、いつもの冗談でも、妄想に侵されてる訳でもなさそうな感じが伝わってきた。
「そっ、そうです!分かってくれましたか!!まさに以心伝心…流石は《私の》《未来のお嫁さん》のゆかりさん!!!」
泣き顔から一転、瞳が輝きガッツポーズをするきりちゃん。わざわざ強調してる部分は、まあ無視するとして、こぼれるような笑顔につい頭を撫でてしまう。
さらさらの髪に、気持ちよさそうなきりちゃん。最近撫で癖がついてしまってるかも。
コロコロ変わる表情はきりちゃんの魅力の一つだけど、やっぱり笑顔が一番似合う。心から喜んでいることが伝わってこちらまで嬉しくなってしまう力があった。
「えへへへ……はっ!いやいやスルーしないで下さいよ!...んぅ?えっよだれ、出てましたか?あ、ありがとうです。…って、だから話題がそれちゃってますよ!」
撫で撫でに流されかけたきりちゃんの意識は、ぎりぎりで踏みとどまったようだった。
でも気持ちよかったのか、よだれがたれかけていたのでハンカチで拭ってあげる。
...話題?
ああ、そうだった。魔法少女?の話だったけ...
「とにかく、ゆかりさんが私のお嫁さんになることは、確定しているんですからね!」
…本題って、そっち?
魔法少女については?
この後、きりちゃんが今朝方に覚醒したらしい《魔法》を実践してくれたが、その描写は割愛する。
とりあえず魔法少女(妄想)では無く、魔法少女(現実)なのは分かった。
...まあ、だからと言って特にやることは変わらない。いつも通り勉強を済ませ2人でゲームを始めるのだった。
「そう言う訳で魔法少女の敵、つまりは悪の秘密組織は、先代魔法少女のずん姉様がそれはもう卑劣で容赦無い策略で根絶や…いえ、洗脳…でも無く、改心?そう、改心させて今では東北家御用達のずんだ餅製造会社になったそうです。かなり繁盛してて直販店は食べログにも高評価で載ってますよ。つまりは平和になって万事解決。ハッピーエンドってやつですね。
…あっゆかりさん、また残機を減らしちゃいましたね。流石は私の作ったステージ。ふふっ、自分の才能が怖い…」
悪の組織とやらについては、相手が悪かったとしか言いようがない。ご愁傷さまだ。
それより、やり始めたゲームの方が今は問題だ。
私が挑んでいるのは、きりちゃんの作ったステージ。だがこのステージ、Pスイッチの制限時間と途中途中で投げる甲羅のタイミングがかなりシビアで、もう何人ものマリオが私の操作で犠牲になっていた。
私の膝に乗ったきりちゃんの表情は見えないが、ドヤ顔してることがヒシヒシと伝わる。
ちょっとイラっとしたので、ふさがっている両手の代わりに、肩に乗せていた私のアゴで、きりちゃんの肩をほぐしてあげる。
「くっ、くすぐったいです…うひっぐぅ、ふふ!」
小学生なきりちゃんには、肩こりや肩もみは無縁だったのだろう。くすぐったいようで、奇声を上げながらピクピク悶えている。
せめてもう少し、女の子らしい声が出る箇所は無いのかと探す。
力加減と場所を調整して、有るのか無いのか分からないコリをほぐしていると、画面の中でマリオがついにゴールした。
「んあぇ?…え、クリアしてる!?作った私でさえ、3桁以上死んだのに…」
悶えてるきりちゃんの肩を解放すると、悔しそうに呻きだした。最近はきりちゃんに振り回されてばかりだから、正直気分が良い。
...小学生にゲームで勝って得る優越感って、世間一般的にはグレーゾーンだろうが。
...それで、きりちゃんはどうするのだろうか?
「どうって、次はゆかりさんが作ったステージを私がクリアする番...あっ、魔法少女の話でしたか。うーん。...正直、持て余してるんですよね。戦う相手がいる訳でもないのに、こんな力貰って私、何をすれば良いんでしょうか?」
あまり重くとらえてないようにも見えるが、瞳が揺れているし、いつもより反応が鈍い。
割と、本気で悩んでいるらしい。
まあ確かに賢いとはいえ小学生のきりちゃんには過ぎた力だろう。
だけど私だって急に聞かれても困る。少なくとも魔法の有効利用を聞かれて即答できるほど、メルヘンには生きていないし、私に出来ることはいつも通りに接して、きりちゃんの漠然とした不安を紛らわせるくらいの気がする。
「あっそうだ。ゆかりさん、何か叶えたい願いとかありますか?だいたい万能な力なので大抵叶いますよ。」
何か叶えてくれるらしい。だが叶えたい事、と言っても特に思いつかない。
強いて言えば、今も寄りかかっているクッションが欲しい...とか?
「へ?そのクッション...いえ、《人類をダメにするために帰ってきたずんだ餅型クッション マークVI 限定版カラー 》が欲しいんですか?別に魔法じゃなくても良いじゃないですか」
クッションの名前についてはツッコミはしないとして、確かに魔法じゃなくても良いかもしれない。
だが奇抜なデザインと名前とは裏腹にこのクッション、触り心地と良い感じの大きさが結構気に入っていて、この前近所のホームセンターによった時に、ついでに探したりしてしまうほどには欲しいと思っていた。
...もちろん、その時はずんだ餅型クッションなんて見つけられなかったが。
...まあ魔法にお願いせずとも、どこで売っているのか教えてもらって、普通に買うとしよう。
《きりちゃんの部屋に来なくても》私の部屋でも使えるように置いときたいんだよね。
「まあ教えるのは別に良いですけ...ぁ、だっダメです!えっと、実はこのクッション、その...せ、生産中止!...だからその、もう売ってなくて注文は無理なんですよ!」
何かに気づいたように焦り出したきりちゃんの言葉に、少し落胆する。もう売ってないのか。でもそれならと、やはり魔法とやらをお願いしよう。
すると何故か、きりちゃんの目は進退窮まったように泳ぎ始めた。
「うぐ...それが、その、魔法でも、無理なんです。...べ、別に良いじゃないですか!私の部屋に来れば思う存分使えるんですし!」
だいたい万能とはいったい...
とはいえ、ついには目にグルグルと渦巻が浮かぶほどに混乱するきりちゃんを見て...ああなるほど、と察した。
別に私は毎日クッションに会いに来てるわけではないのだけど、きりちゃんは不安になってしまったのかも、しれない。
まあ、最近はきりちゃんの部屋に入り浸ってるし無理に手に入らなくても良いか。
「そっ、そうです。いいんです。」
じゃあ、特に欲しいものも無いかなと呟くと、きりちゃんはあからさまにほっとした様子を見せた。
話はそこで終わったが、3日後、きりちゃんの部屋に件のクッションが2つほど増えていた。
「...最初から3つありましたよ?」
聞いてもないことを弁明するきりちゃんは目線を頑なに合わせようとしなかった。
特に問い詰める気もない私は、生返事とともに納得しつつ、3個のクッションに体を埋めてみた。...これはなかなか良い感じかもしれない。
そしてそんな私を見て、きりちゃんは何だか満足気なご様子。
...何となく撒き餌ならぬ、《撒きクッション》と言う謎の単語が頭によぎったが...気が紛れたのだろう、きりちゃんの不安げな様子が消えていてほっとした。