幸運の子   作:水上竜華

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今回は不落丸のお話です

シリアス展開入ります



第十四話 落とせない男

 

□【大刀武者】不落丸

 

 

 拙者の名は不落丸。人からは『仲間殺しの不落丸』と言われている

 

 なぜそんな名前が自分に付いているのか。それを説明するには拙者の経歴に触れなければならない

 

 まず、拙者は元々将都から離れた北玄院家が納めていた土地にある小さな村の出身で、ただの農民の出身だった。農家には余程の豪農でなければ姓は与えられないため極貧の我が家には姓はない

 

 こんな小さな村で一生を終えたくないと思い、一年前に十六歳の誕生日を迎えた日を境にして都に上京し一旗立てに来たのだ

 幸い剣の才能に幼いころから目覚めていたこともあり、村から一番近い街にあるジョブクリスタルで【剣武者】に就いてから中立地帯の将都に向かった

 

 

 

 しかし、ここで問題が起きた

 

 

 

 元より農民の出であった拙者は持ち合わせの金銭がかなり少なく、定期的に出ている将都行きの馬車に乗ることが出来ずにいたのだ

 

 もちろん、旅立ちの日のために今まで農民としての仕事と共に剣の訓練と小遣い稼ぎに励んでいたためそこそこの金は持っていたのだが、長年の夢が実現することに浮かれてしまったせいで、自身の装備一式をそろえるために長年の間に溜めてきた小遣いを使ってしまい、元からかなり高額な馬車代を払えなくなってしまったのだ

 

 挙句の果てに買った装備の大半が偽物であり、売っていた商人も姿を消している始末である

 野宿をしようにも雪が降るほどの寒さになったばかりの季節で、野宿などすれば確実に風邪を引くような有様だったので無人のあばら家すら見つかったため泣く泣く宿を取った

 

 

 手元に残ったのはあと1日分の宿代のリルと、唯一本物だったルーキーが持てる中でも最高の性能を持つ刀が一振りだけ。

 

 

 将都に自力で向かうには通過する場所にいるモンスターのレベルがかなり高くこのままの状態で行けば確実に死、あるのみである。

 あえなく金策に走ることになった拙者は、宿や飲食店の仕事の手伝いから、土木作業などの肉体労働、そして空いた時間を使って近隣のモンスターの討伐など、とにかくなんでもやった。

 さらに、商人系の仕事をする時にのみ【鑑定士】のジョブに変更し、クエストを受けることでレベル上げと《看破》や《鑑定眼》、《透視》のスキルを上げ、時間を有効活用していた

 偽物を掴まされたのが予想よりも悔しくてたまらなかったため、同じ目に合わないように取得したのだ。

 

 そんなこんなで元の村にいた時よりも倍の量の仕事をこなしていた拙者は徐々に街中では有名になっていき、仕事をはじめて3週間目には「働き丸」という微妙な愛称をつけられていた……

 

 

 

 

 本当に大変ではあったが、充実した日々を過ごせていたのは確かだ

 

 

 

 

 そしてそんな毎日を過ごしていたある日、拙者はいつものように一日のノルマを終えてジョブを【剣武者】に戻し、空いた時間で討伐クエストを受けにギルドに寄った時のことである。とある冒険者達から、自分で言うのも何ではあるがソロで最近活躍している拙者に声がかかったのだ

 前まで一緒に組んでいたメンバーが実家に呼び戻されてしまい、冒険者を続けられなくなったので代わりのメンバーを探していたのだとか

 

 元から周りの人間よりも才能に恵まれた拙者の実力は近隣に生息する低レベルのモンスター如きに後れを取らず、周りからは将来有望な戦士になることが期待されていたのだ

 そして、特に断る理由もなく得られる経験も濃くなることが予想されることから拙者はその誘いに乗り、いつもよりもレベルの高いところにそのパーティーと共に向かった

 その時の拙者は仲間と共に冒険をするという新鮮な体験ができることに心を弾ませ、期待に胸を膨らませながらその道中を歩いてた

 

 

 

 これから何が起こるのかも知らずに…………

 

 

 

 その後、拙者とそのパーティーは初めての共闘にしては十分な成果を上げていた

「もうこのまま一緒にパーティーになってくれないか」と言われるほど拙者の技量は低レベルながらも充分に戦力として認められるほどのものだったのだ

 そして、討伐クエストの目標討伐数までモンスターを討伐することを達成した拙者たちは意気揚々と街に最短で戻れるルートで街へと向かっていたのだが

 

 

 

 

 

 拙者以外のパーティーメンバーは生きて街の門をくぐることは叶わなかった

 

 

 

 

 

 一体何が起きたのか。それはいたって単純な理由である

 

 

 

 自分たちよりも強いモンスターに襲われたのだ

 

 

 

 その時、拙者達を襲ったモンスターの名前は【亜竜猛虎】

 

 下級職パーティー並みの戦闘力を持つ亜竜クラスのモンスターだ

 

 しかも、その中でも上位に位置するほどの実力を持った個体だったらしい

 

 パーティーメンバーの【陰陽師】の女は真っ先に踏みつぶされ、【弓狩人】は引き裂かれ、【鎧武者】はかみ砕かれ、【僧兵】はひき殺され、リーダーである【上忍】の男は決死の《火遁の術》で瀕死に追い込みながらも一歩及ばず自身の術で弱っているところを食い殺された

 

 仲間の犠牲によって瀕死に追い込まれた【亜竜猛虎】は最後に残された拙者との激闘の末にその命を散らした

 

 強敵を倒したその時の拙者には達成感はなく、ただただ、仲間が死んだという悲しみだけが心の中に残った

 

 

 

 

 

 しかし、ここからが本当の拙者にとっての悲劇、もとい""呪い""の始まりであった

 

 

 

 

 

 それから拙者は何度か他のパーティーとも行動を共にしたのだが、そのどれもが拙者を除くパーティーの全滅、または生存者がパーティーの半数以下という残酷な結末を迎えるようになった

 しかも、その生存者もほぼ全員が冒険者を引退するほどの怪我や精神的傷を負ってしまっていて、実際のところ全員が戦士としては死んでしまっている

 

 

 最初のうちは不運な人だと周囲の人間に言われていたが、似たようなことが連続で起きていくと皆の態度が徐々に変化していき、壊滅したパーティーの数が5を超えた時には自分に居場所はなくなった

 

 これ以上その街にいるのがつらくなり、合計レベルも100を超え実力もついてきたところで三か月間世話になったその街から逃げるように出ていった

 

 それから将都を目指して街を転々としていたのだが似たようなことが何度も起こり、壊滅させたパーティーが25を超えた辺りから誰が付けたのか「仲間殺しの不落丸」として名が各地に知れ渡っていた

 

 それから拙者は幾つもの出会いと別れを超えて目的地である将都に着いたものの誰にも相手にされずにただただ死んだように生きていた

 

 

 

 そんな時、絶望の淵に立たされた拙者の前にとある存在が現れたのだ

 

 

 

 そう、〈マスター〉である

 

 

 

 拙者は伝承で知られた不死の存在である〈マスター〉に希望を見い出したのだ

 

 最後の望みに全てを賭けて早速、件の〈マスター〉達に声を掛けていった

 

 しかし、淡い希望は一瞬で叩き潰された

 

 拙者と共に狩りに出た〈マスター〉はどんなレベル帯の狩場でも毎回〈イレギュラー〉が発生し、今までの仲間たちと同じように命を散らしていったのだ

 

 そして、先程の男たちが三日前に複数体の【亜竜豪馬】に強襲を受けて既に三回壊滅したパーティーであり、復活したところを迎えに行ったところ完全に相手にされなくなり、また一人になってしまったのだ

 

 

 再び拙者がどうしようもないほどの孤独に捕らわれそうになったそんな時

 

 

 

 

 

 

 

 ""拙者の前に桜色の彼女が現れた""

 

 

 

 

 

 

 

 彼女はその左右で違う色をした瞳で拙者を見つめ、季節の変わり目を告げる鳥のように澄んだ声で拙者に声を掛けてくれたのだ

 

 久しぶりに他人から自分に向けられたなんの不純物も含まれていない、ただ拙者のことを心配している表情を見た瞬間、拙者はこの約一年間感じてこなかった温かい思いをこの胸に感じた

 

 自分の""呪い""が明らかになったときから拙者はこの国に住むティアンはもちろんのこと、異界から来た〈マスター〉達にはそんな表情を向けられたことがなく、むしろ彼らにはまるで人ではないモノを見るのような目で見られてきた

 

 だが、彼女は拙者のことを知らなかったのか拙者に対してとても自然体で接してくれた

 

 その長い間触れられなかった人からの優しさは、ボロボロになった拙者の胸を癒していくようだった

 

 いつまでもこのやさしさに包まれたいという欲求に思考が支配されそうになったその時、拙者は正気に戻った

 

 

 

 

 自分が彼女と一緒にいることは不可能だ

 

 

 

 

 自分と一緒にいれば遅かれ早かれ""絶望""と遭遇することになる

 

 そんなことをして彼女を傷つけるわけにはいかない

 

 彼女の左手の甲を見ると「鞠をついている幼子」の紋章があり、それが彼女はマスターであると証明していた

 

 だけど、不死の存在だとかいうことは関係なく彼女を自分の""呪い""に巻き込みたくなかった

 

 拙者に降りかかる""呪い""は時間が経つにつれて強力になってきており、二週間前には今まで生き残って来た拙者ですらモンスターに完全に殺されかける寸前までになっている

 

 拙者と共に来たマスターの中にはこの世界に戻ってきていないものまで出てきている

 

 彼等、マスターにだって死に対する恐怖心はある。わざわざ危険な目に遭おうとする者もいるがもう拙者は誰かを目の前で消えていく様を見たくない

 

 これまでさんざん多くの人間を犠牲にしてきた人間が何を言っているのだと言われるかもしれないが、もう拙者の心は限界の寸前だった

 

 だから、拙者は何かが起こる前に彼女のそばからすぐに離れたのだ

 

 そして、追い駆けてくる気配がないこと確認した拙者は、決断した

 

 もう誰ともパーティーを組まないと。自分は一人で戦い抜いていくと

 

 

 

 そして、新たな決断を胸に装備の整備を済ませて、狩りに出ようとしたその時だった

 

 

 

 

 桜色の彼女が、再び拙者の前に現れたのだ……

 

 

 

 

 拙者を探して走りまわっていたのか彼女は荒くなっていた自分の息を整えながら、こう話しかけてきたのである

 

 

 

 

 ""私と一緒にパーティーを組んでくれませんか?""

 

 

 

 

 開口一番になんてことを言うのだろうかと拙者は思った

 

 

 

 

 もしかしたら、拙者と共に狩りをしてくれた他の〈マスター〉達のように自身が不死身の体であることをいいことに遊び半分で拙者の手助けをしようと思ったのかもしれない。

 現に彼らが拙者の誘いを受けたのは拙者のためでなく自分たちが楽しむためだったように見えた。

 

 誰一人として、拙者自身を見てくれる〈マスター〉はいなかった。

 

 きっと彼女も彼らと同じに決まっている。

 

 そんな自分勝手で都合のいい考えが脳裏に浮かんだが、その左右で異なる色をした彼女の綺麗な瞳から恐怖の感情が少し混じりながらも感じるその強い意思を受け、その考えを改めた

 

 

 どうやら彼女は本当に拙者の助けになろうとしているらしく、拙者は激しく動揺してしまった

 

 しかも、彼女は拙者のことを知った上で、誘っていると言うのだ

 

 意味が分からなかった。なぜ彼女はそこまでして自分に手を差し伸べてくれるのだろうか?

 

 訳が分からず頭の中であることないことが錯綜していると、目の前の彼女から言葉をかけられた

 

 

 

「今の不落丸さんの姿を見たら放って置けなくなったんです。まるで今にも消えそうな雰囲気だったので………」

 

 

 

 そんな拙者に彼女は言葉を続けていた

 

 

 

「確かに、他の〈マスター〉の人達は不落丸さんを置いていったのかもしれません。そんな不落丸さんが〈マスター〉の私のことを信じられないのは当然だと思います」

 

 

 

 違う、そうではない

 

 そう彼女に言おうと口を開こうとするも彼女から発せられた次の言葉を聞き、思わずその思いを声に出さずに押しとどめた

 

 

 

「それでも、私たちのことを信じてくれませんか?一人の人間として」

 

 

 

 その言葉を聞いたとき、拙者はかつて善意でパーティーを誘ってくれた者たちの面影を彼女に幻視した。

 

 彼らは皆、頼んでもいないのに要らないお節介を拙者にしてきた

 そして、拙者がその誘いを断ったにも関わらず密かに狩りについてきてしまい、拙者の“呪い”によってその命を落としてしまった

 その癖、全員最後の一言が他人の心配ばかりでとんだお人好し達だった。

 

 

 

 そんな彼らと似たような空気を、目の前にいる彼女から感じ取ってしまったのだ

 

 

 

 このまま強引にこの場を去っても彼女は拙者の後をついてくるのだろう。

 

 共に行動するかしないかの違いである

 

 ならば、ここで決断するしか拙者に残された道はないというわけだ。

 

 この一年で自分の“呪い”の恐ろしさを文字通り、身に染みて理解している拙者にとって死刑の宣告にも等しき決断だった

 

 おそらく、我が身に巣くう“呪い”は彼女にも例外なく発動するだろう

 

 しかし、この冒険でもし、万が一にも彼女が生き残りさえすれば拙者はきっと今の自分から何かを変えることが出来るかもしれない

 

 ここで希望を手に入れられるのか、それとも果てしない闇が待ち受けているのかは、まだ分からない

 

 だから、これを最後にしよう

 

 この冒険で彼女が一時的とはいえ、瀕死になることで異世界に飛ばされるようなことが起きれば、金輪際仲間を作ることは諦めよう

 

 ああ、自分は本当になんて卑怯者なのだろうか。こんなにも優しい方に本当に自分の身に起きたことの全てを話さずに協力を求めようというのだから

 

 

 そして拙者は両者の間にできた長い沈黙を破り、了承の意を彼女に示した

 

 

 

 

 

 

 







滅茶苦茶激動な人生を送っている不落丸

常人ならすぐに心が折れるであろう体験を最低でも44回も耐えきった、本作の修羅候補生であります

感想欄でも書きましたが彼にはうちの不幸担当を担ってもらいます

原作ではその概要がほとんど出ていない【死神】に近い性質を生まれながらにして持つ可哀そうな人です

次回、狂宴の始まり


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