幸運の子   作:水上竜華

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戦闘シーンって、難しいですね………


そして、書き溜めてたストックがもう………





第十五話 狂宴の始まり

 

□〈大貫平原〉【妖魔師】夜ト神寝子

 

 道行く街の人達に聞き込みをし、やっとの思いで不落丸さんを見つけた私たちはその胸の内に秘めた思いを偽らずにさらけ出すことで何とかパーティーを組んでもらうことを認めてもらえた

 

 そして彼がパーティーの加入を了承したと同時に私の目の前にとあるクエストが開始されたことを知らせるウィンドウが表示されたのである

 

 

 

 

【クエスト【試練を約束されし者__不落丸 難易度:八】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 

 

 

 クエストの詳細には不落丸さんとの狩りしてから無事に生きて街に戻るのがこのクエストの内容だと書かれていた

 難易度:八のクエストはレベル500のカンストのティアンのパーティーでも全滅するほどの難易度のクエストだ

 これまで受けたこともない程の高難度クエスト。正直、全く生きて変えれる気が全くしない

 急激に実感が出てきた死への恐怖に、私は少しだけ竦みそうになった

 

 だが、先程自分たちを信じてくれと大見得を切ったのだ。ここで不安な顔を見せるわけにはいかない

 

 そう思い彼に悟られまいと必死に表情を取り繕った

 

 

 

 

 そして、あらかたの戦力の確認を街で終えた私たちは覚悟を決めて〈青雲〉の北側に位置する〈大貫平原〉へと移動した。最初のうちは私のレベル上げとお互いの連携の確認をするためにレベル帯の低いところで狩りをすることにしたのだ

 

 ただ、不落丸さんの経験上ではどのレベル帯でも危険性はあるとのことなので元から緩ませてはいないが、自分にとって低レベルの狩場でもより一層気を引き締めて挑む

 

 初心者の狩場よりもレベルが高いモンスターが出ると言っても、大体レベル十五くらいのモンスターしかいないのでレベルが百を超えている私にとってはかなりユルい狩場だ

 出てくるモンスターはそこら辺に時々生えている樹木に擬態した【化け木】や【ゴブリン】よりも巧みに武器を扱う【赤猿】、そして空中から攻撃してくる鳥類モンスターなど、初心者の狩場よりもバリエーションは確実に増えている

 

 そして、しばらく低レベル帯のフィールドを移動していると開けた場所に丁度いい具合に集まった15~6体の【赤猿】で構成された集団を見つけた。装備は木や石でできた棍棒と盾だけで、比較的強くはない部類の集団のようだ

 レベルが高い個体が多いとそれに比例して装備も良質なモノになることが多いため、鉄製の装備を持たないあの集団ならばゴブリンよりも強いくらいで問題はないだろう

 

 

 

 

 

 敵の脅威度もある程度計れたところで、不落丸さんに確認を終えた後に私たちは初めてのパーティー戦闘を始める

 

 私達はいつもの狩りと同じようにザシキワラシを展開し、【赤猿】たちへの先制攻撃を開始した

 

 先制攻撃の時点で5体以上の【赤猿】を行動不能にしてみせた私たちはそのまま追撃を加える

 

 あらかじめ召喚しておいた二体の【猫又】が、私たちの攻撃で動けなくなった【赤猿】たちが力尽きるまで攻撃を加え、まだ動いている個体には不落丸さんが対応する

 

 あくまでも戦闘での連携の確認が目的であるため私が一人で対応できる相手だとしても、敢えて攻撃しなかったのだ

 

 そうこうしている内にまだ行動可能な【赤猿】の目の前に瞬時に移動した不落丸さんは流れるような動きで腰に差した大刀を振り抜き、目の前にいた【赤猿】の横をすり抜けるように移動すると勢いをそのまま殺さずに一刀、二刀、と目にも止まらぬほどの速さで刀を振るい続けた

 そして、三秒とかからずに攻撃の手を止めたその時には不落丸さんの周囲にいた8体の【赤猿】は、胴から体を半分に切断されて光になり、その体を散らせていったのであった

 

 残りの【赤猿】は【猫又】達がザシキワラシの支援がない状態で倒していた

 

 【式神術師】になった時からの付き合いである【猫又】達のレベルは亜竜クラスとまではいかないが全員三十以上にはなっている

 この程度の相手なら私の支援がなくても問題ないくらいには強くなっているのだ

 

 それに【猫又】だけでなく媒体がある手持ちのモンスターは最低でも同じくらいの強さだし、このレベルのモンスターなら従属キャパシティーを使って、二、三体までなら今の私でも召喚が可能である

 

 最大戦力である亜竜クラス以上のモンスターはパーティー枠で召喚し、最低でも一体は常にそばに置いている

 召喚してから30分ほどで消えてしまうのだが、ザシキワラシのスキルでMPを回復させ、召喚モンスターのクリーングタイムを管理することで亜竜クラスのモンスターを継続して召喚できているというわけだ

 

 

 にしても、レベルをあらかじめ聞いていたから分かっていたのだが、予想以上に不落丸さんが強かった

 

 

 いくら低レベルのモンスターと言えどそれを流れるような刀捌きで一瞬にして倒しており、その剣技からステータス頼りじゃない、不落丸さんが幾つもの死地で培ってきた圧倒的なまでの技術力が垣間見ることができた

 

 しかし、こんなにも強い人でも仲間を守り切れなかったという事実がこれから私達に待ち受ける苦難を、より鮮明にしていった

 

 

『夜ト神殿。ドロップアイテムの回収が終わり申した』

「ありがとうございます。周辺の状況の確認を終えたら出ますので少し待ってください」

 

 

 あらかじめ不落丸さんから渡されていた遠くからでも仲間と念話で連絡が取れるマジックアイテム、【テレパシーカフス】で連絡を取り合うと同時に私は《生体探査陣》を広範囲に発動させ、近くにモンスターや人間がいないかを確認し、近くに他のモンスターの群れがいることを不落丸さんに伝えると、そこへ移動することになった

 

 いつものように一か所にとどまっていないのは今回の目的が戦闘をすることだからだ

 

 ザシキワラシの中にいられる時間が少なく、嫌がおうにも私が外にいる時間が多くなってしまうが、いつものように生産系のクエストでのレベル上げが出来ない今では生産活動をする時間よりもモンスターを狩る時間を増やさざるを得ないのだ

 

 私自身が持つトラウマの関係上、既にかなり精神的なストレスが溜まってきているが自分が生き残るためにも必要なことだと自分に言い聞かせながら、狩りを続けていくのであった

 

 

 

                   ◇

 

 

 

 

 そんなこんなで私の精神を削りながら順調に狩りを続けていると異変が起きた

 

 

 

 不落丸さんはまだ気が付いていないようなのだが、何かがこちらに近づいている気配を感じたのだ

 その気配の数は一つや二つでなく、かなりの数の敵意がこちらに向かってきているがわかった

 私がこの世界に来てから何度も感じてきた、この荒々しい空気

 

 

 

 間違いない、モンスター達の気配だ

 

 

 

 事前に打ち合わせをした通り、察知した異変について不落丸さんへと伝える

 一瞬不落丸さんは驚いた様子を見せたが、次の瞬間には表情を引き締めて応戦の準備をした後で、《生体探査陣》を使うように、と指示をもらった

 

 即座にザシキワラシを展開した私は言われた通りに、私が普段ザシキワラシの中から外の様子を知るために使っている《探査結界》とは別にスキルの発動の準備をする

 

 発動した《生体探査陣》で識別した相手の正体は【亜竜猛虎】の大群だった

 

 スキルの反応から、突出して強い個体はいないがその数が異常だった。その数、何とニ十匹以上

 今まで亜竜のモンスターはたくさん倒してきたが、同時にこれほどの数を相手にするのは流石に初めてである

 

 そこまで確認したところで、相手との距離がついに1キロメテルを切り、遠くからこちらに近づいてくるのを目視することが出来た

 

 このままの勢いで突っ込まれたらその距離もあっという間に詰められてしまうのだろうが、目視が可能になったということは私達の攻撃が届くということでもある

 

 馬鹿正直に突撃をくらう道理もないので、予め待ち伏せをしていたこちら側のアドバンテージを逃がすようなことはせずに、セオリー通りに遠距離攻撃を仕掛ける

 

 大群に対して攻撃する上で最も効率的な攻撃を繰り出すことができるザシキワラシが主に攻撃に専念し、相手を近づけさせないように防御、兼撃破の役割を不落丸さんと式神に担ってもらうことは既に狩りの最中に取り決めていたので、全員がそれぞれの役割を迷うことなく実行しているのだ

 

 現在、私のLUCはザシキワラシのスキルで生成したドロップを服用することで装備補正も含めて600オーバーになっている

 

 亜竜のLUCはこれまで戦ってきた経験から察するに、大体50前後だと考えられるので今の状態で《去運不返球》を喰らわせれば一撃でダウンできる確率はかなり高い

 

 音速に迫る勢いで放たれた光弾に反応できず、群れの先頭にいた数頭の【亜竜猛虎】は攻撃をもろに受けてしまい転がるように倒れていく

 後続の【亜竜猛虎】達は突然先頭の個体が倒れたことに驚き、足を止めたモノと倒れている仲間のことなど気にせずこちらの方へと突っ込んでくるモノの、二通りの反応を全体の半々の割合で見せた

 

 前者の大半はこちらへの突然を再開する前にザシキワラシの《去運不返球》の餌食になり、芋虫のように地面にのたうち回りながら苦しんでいる

 だが、後者がかなり厄介なことに持ち前の機動力の良さを活かしながら半数程が回避しながらこちらへと迫って来たのだ

 もともとAGIが高いモンスターであるおかげで群れの中でも高レベルの個体ならギリギリ躱せる速さなのだろう

 

 

 

 着実にこちらとの距離を縮めてくる猛獣の精鋭達がザシキワラシまであと500メテルを切ったところから、前衛にいる不落丸さん達がこの戦場において勝利の要と言える私を守るために動き出す

 

 私が予め召喚していた【妖怪】達は【妖魔師】の《妖怪強化》というスキルで10パーセント程ステータスが強化されているため、亜竜のモンスターでなくても二、三体で一体の【亜竜猛虎】に襲いかかれば何とか足止めくらいまでなら可能なため、少し負担が大きいが、頑張って足止めをしてもらっている

 不落丸さんと残りの亜竜の【妖怪】には一体ずつ相手をしてもらっており、純竜の【鵺】は私の最終防壁としてまだ温存中だ

 

 彼らが足止めをしている間に、私は戦場全体の流れを《生体探査陣》で確認しながら全体への指示をし、ザシキワラシの《去運不返球》を味方に当たらないように位置取りに注意させつつ、確実に相手に当てながらこちらの優位な状況へと持ち込んでいった

 

 直接敵の相手をする不落丸さんと【妖怪】達、相手を即座に無力化する攻撃を後方から放つザシキワラシ、そして周辺の警戒と戦場全体の様子を確認をしながら指示を出す私

 今は大丈夫だがこれらの要素が一つでも欠けてしまえば戦線は崩壊してしまうだろう

 

 こうして綱渡りのような状態で私たちの命を懸けた死闘を繰り広げるのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                      ◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□【大刀武者】不落丸

 

 互いの手の内を明かし、緊急時の立ち回りを話し合いが終わった拙者たちは共に北に位置する〈大貫平原〉の街に近い場所で連携の確認を済ませた後に、フィールドの真ん中辺りに位置する場所まで移動した

 

 

 最初は彼女たちの戦闘スタイルに驚きはしたが後方支援に関して言えば彼女たちはかなり優秀だった

 拙者が完全にモンスターに包囲されないように召喚モンスターを送ったり、スキルで相手の動きを封じたりと、これまで出会ってきたマスターの中でも、いや、ティアンを含めてもかなり実力者だと拙者は評価を下した

 

 

 だが、彼女と同程度、もしくはそれ以上の実力者たちはこれまでにもいたが全員死んでしまっている

 

 

 最初からしてはいないが油断は禁物だ

 

 

 拙者の""呪い""は場所を選ばずにいついかなる時もこちらの意図とは関係なく襲ってくる

 

 

 これまでで一番襲われやすかった事例は「狩りを終えて街に戻るとき」である

 

 もうすでに五時間以上はフィールドにいるのだが、まだ危機的な状況と呼べるような場面にはなっていない

 

 途中で数十頭の【亜竜猛虎】に襲撃される事態はあったが、ザシキワラシ殿の能力で問題なく倒すことが出来た。しかし、あれで終わりにしてくれるのであればいいのだが、拙者に付きまとう""呪い""はそんなに甘くはない

 それに不可解なことに、先の戦闘で戦った【亜竜猛虎】達はいづれも何かから逃げてきたかのような焦りにも似た思いを感じ取れた

 

 あれほどの群れが恐れをなすほどの強大な何かがこの近くにいるのは間違いないだろう

 

 夜ト神殿のレベルも25になり、スキルも追加されている。周辺のモンスターもあらかた狩りつくしたし、そろそろ町の方に移動する頃合いだ

 

 

「夜ト神殿、そろそろ狩場を町の近くまで移動したいと思うのでござるが、よろしいですかな?」

『……はい、分かりました。今準備します』

 

 

 拙者は夜ト神殿に【テレパシーカフス】で連絡を取ったのち、夜ト神殿の準備が終わるまで周囲の警戒を続けた

 

 

 

 そしてそのすぐ後に、急に夜ト神殿から連絡が入った

 

 

『不落丸さん、気を付けてください!!何かが猛烈な勢いでこちらに近づいて来ています!!』

「!?。了解いたした!!」

 

 

 夜ト神殿の言うことに何の疑問を抱かずに信じ、拙者は周囲の情報をより詳細に集めるために集中力を高めた

 これまでの狩りで彼女は建物の中に籠っているのにも関わらず、外にいる拙者よりも早く敵の感知に成功している

 

 

 

 それもなんのスキルも使わずに、だ

 

 

 

 その彼女が持つ天性の索敵能力を目のあたりにした拙者は、彼女の警告にもはや何の疑いも持っていないのだ

 

 周囲はまばらに木があるだけでほとんど開けており地平線上には敵影はどこにも見えなかったが、しばらくしてようやく自分でも感じるほどの強大な何かがもうすぐそばにまで来ているのを感じ取った

 

 周囲にその姿はなく、音もなく、地面の揺れさえも感じない

 それにも関わらず、生存本能がここにいてはいけないと警鐘を鳴らしている

 

 

(どこだ!!どこら来る!?)

 

 

 

 心拍数と共に高まっていく焦りを抑えながら周囲に視線を巡らせている拙者は、その気配の居場所に気が付き視線を頭上の空へと向けた

 

 そしてついにその正体を見つけた拙者はすぐさまに夜ト神殿がいる方に振り返り、あらん限りの力を振り絞って叫んだ

 

 

「夜刀神殿ぉおお!!!!そこから離れるでござるうぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

 

 

 しかし、そんな忠告は間に合わず無慈悲にも青空に浮かぶ白い雲を突き抜けてそれは落ちてきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女がまだ中にいる、ザシキワラシ殿に向かって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、それはザシキワラシ殿がいた場所に砲弾が着弾したかのような衝撃と共に着地した

 その崩壊を物語るほどの轟音が周囲に響き渡り、着地の衝撃で瓦礫と共に土埃が周囲に充満する

 

 そして次第に風によって土煙が晴れていくとそこには見たことのない異形が存在していた

 

 着地の際に折り畳まれたその強靭な二本足に、全身を覆う光り輝く白銀の毛皮。そしてある草食系のモンスターを思わせる長い耳。その瞳は途方もない怒りを感じさせる赤黒い色で塗りつぶされていた

 

 

 そのモンスターの頭上に浮かぶその名は………

 

 

 

 

 

「【空蹴兎 ピータン】………」

 

 

 

 

 

 

 彼らの真の絶望は、ここから始まる

 

 

 

 







ラストシーン執筆中のBGM>(Terra formars)~♪


ザシキワラシさんが半壊しました

まだ、完全にはぶっ壊れていません















次回予告………

やめて!【ピータン】の攻撃がもう一度ザシキワラシに当たったら、完全にザシキワラシが消滅しちゃう!

お願い、死なないでザシキワラシ!あんたが今大破したら、寝子と不落丸さんとの約束はどうなっちゃうの?ライフ(HP)はまだ残ってる。ここをしのげば不落丸さんの""呪い""に打ち勝てるんだから!

次回、ザシキワラシ死す。デ〇エル、ス〇ンバイ!



来週、投稿できっかな……


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