幸運の子   作:水上竜華

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本日1話まで連続投稿予定

この話の時点で主人公は若干人間不信になっていますので、言動が気に食わなくても少しは許してあげてください。

では、本編開始です


プロローグ後編

□2043年7月10日都内マンション 野崎花子

 

私はッ!!…………自由だぁぁぁぁぁぁああああアア!!!!!!!

 

「ッ!!……………」

 

目を閉じ、「ニヤニヤが止まらない顔を真顔にしようとするがやはりやめられない」といった顔のまま、天井に向けこぶしを突き出した姿の私がそこにいた。

恰好は、仕事のない日に部屋でゴロゴロするための部屋着である黒いTシャツに灰色のハーフパンツ。

髪は茶色の混じった黒い色で、ヘアースタイルはボブカット。

ここまでは前までのぐーたらスタイルの私、しかし、私は、社会の荒波から解放されることにより不健康な顔色から健康的な顔色を取り戻したのだッ!!

 

  

 

……まぁ、ここまで下らんことしかしていない私だが最終的に何が言いたいかと言うと仕事を辞めたのである。

 

 

膨大な金を手に入れた私のニート化計画の第一段階として、都内のマンション探しをしていた。

もちろん購入者として。

 

バリバリ不労所得(マンション)で生活する気満々したが、なにか?

 

明らかにヤバそうなヤツから一見大丈夫そうに見えてかなりガタが来ているものなどのハズレな物件や、契約書に書かれている内容にどんな抜け道があるかなども入念にチェックした上で選んだマンションを三つほど購入した。

 

ここまでで、第一段階は成功し第二段階へと移行する。

その内容は会社の仕事の引継ぎ作業である。

 

ここで一番大変だったのは、私の上司や同僚にお前がいないと困ると、かなりマジな勢いで迫られたことである。

何というか、威圧的にではなく、どちらかというと皆で寄ってたかって泣き落としに来たのです。

まぁ、一人減ったらそりゃあ仕事の量も増えるから辛くなるし必死に引き留めようとするのもわかります。

私も同じ立場なら足にしがみ付いて拝み倒すくらいはするだろう。

 

しかし、私も本気でやめる覚悟で申告したのだ。

 

今更、そこまで交流が深いわけでもない人たちの言葉で止まるわけにはいかないのだ。

そして、精神と肉体の耐久レースを走り切り、約1か月間半もの時間をかけて引き継ぎ作業を完了することができた。

こうして私は晴れて自由の身になったのだ。

最後のあたりは私の熱意にあてられたのか、それとも諦めがついたのか引き留めようとする人間はいなかったが、最後はみんな温かく私の新しい旅立ちを祝ってくれた。

 

これには不覚にも泣きそうになったが、騙されてはいけない。

彼らの中には私を狙っている奴(・・・・・・・・)が何人かいることくらい私はちゃんと分かっている。

特に部長と同僚の野郎が怪しい。

 

奴ら最近よく私の方を見てくるし、飯の誘いを頻繁にしに来るし、用もなく話しかけてくるし、怪しさ全快でしたよ、全く。

うん、ここまで分かりやすいといっそのこと清々しいというものです。

逆にうまい具合に心の中で区切りが付けるきっかけになりましたよ。

 

こうして計画の第二段階も終了し、残るは引っ越しのみだったが、それもすぐ完了した。

すでに管理人さんも雇ったし、ある程度の住民数は確保できている。

私の計画に抜かりなし、これでやっと悠々自適なニートライフを送れるというものです。

 

 

 

◇◆

 

 

 

□2043年7月13日都内マンション 野崎花子

 

しかし、自由を手にいれることができた私に一つだけ問題が起きた。

 

ぐうたらすることを目標にしていたため、全く趣味といったモノがなく時間がありすぎて何をすればいいか分からないのだ。

 

要はやることがない、暇である。

 

旅行とか食べ歩きなどのお金がかかる趣味は、これからはなるべく無駄遣いはしないという約束を両親としてしまったためできないし、裁縫や木工などは得意だけど趣味というほどでもない。

なら、ゲームでも試しに始めてみようかと考えたが、今までゲームなんて小学生時代に時代遅れだった“た〇ごっち”の育成くらいしかやったことがないし、過酷な社畜生活の中そんなもののために割ける時間もなかったので最新のゲームのことなんて全く分からないのだ。

一先ず、私はネットで情報を集めつつ自分好みのゲームを探すことにした。

 

 

いま一つ自分の中で、ピンッ!!と、来るゲームが見つからずに、淡々とネット巡回を進めていると、ここ数日で一気にスレが加速している近日発売予定のゲームに関する評価予想をしている掲示板を発見した。

そこに書かれている内容の大多数は、告知されたゲームのあまりにも荒唐無稽すぎる要素の数々に対する批判である。

そのゲームの名は、

 

「<Infinite Dendrogram>、か」

 

一体、何がそんなに叩かれているのか気になり、公式サイトの方を確認したところ、

 

(確かにこれは無理があるな、いろいろと……)

 

と、ゲームの分野に疎い私にもわかるくらい胡散臭い内容が書かれていた。

 

そこには<Infinite Dendrogram>の売りとなる以下の四つの要素が紹介されている。

一つ、五感を完璧に再現する。

二つ、単一サーバーで仮に億人単位でも全プレイヤーが同じ世界で遊戯可能。

三つ、現実視、3DCG、2Dアニメーションの中からどの視点で世界を視るかを選択できる。

四つ、ゲーム内では現実の三倍の速度で時が進む。

 

「こんなの実現できるわけがないじゃない」

 

現在、市場に出回っているVRゲームの大半は世間一般の認識として失敗作とされている。

フルダイブ型のVRMMOの不完全さは、かなり有名な話だ。

数年前、私がまだ社畜になる前の頃、第一のダイブ型VRMMOである〈NEXT WORLD〉が発表された。

多くの人間が心待ちにした夢のゲームが実現したのだ。

 

しかし、そこには待ち望んだ夢のゲームは存在しなかった。

創作物などで描かれ続けたVRMMOと異なりリアリティーに乏しく、五感は違和感に苛まれ、グラフィックも従来のゲーム機と大差なかった。

そして、プレイした人間の大多数が健康被害に遭うという決定的な欠陥が発見され、瞬く間に第一のダイブ型VRMMOである〈NEXT WORLD〉は閉鎖されることとなる。

私の従兄もプレイした人間の一人であり、その酷さをありありと私たちに聞かせてきたものだ。

そこからのVRMMO業界は停滞の一途を辿り、成功と言えるものができていないのが現実である。

 

それがこのゲーム、<Infinite Dendrogram>では実現できると宣言しているのだ。

常識的に考えてまずありえないし、信じる人間もほとんどいないだろう。

掲示板でも、「こんなのに引っかかる奴なんているのかよwww」、「どれだけの予算と技術を使えば実現できるのやら…」、「まぁ、一つでも実現できてたら好きな子に告白してきてやるよwww」と、いった感じで全く信用されていなかった。

 

おそらく、これを買う酔狂な人間など世界で0.01パーセントにも満たないだろう。

しかし、私はそんな酔狂な人間になろうと考え始めていた。

理由は単純で、アメリカンドリームを手に入れることができた私の運ならもしかしたら、夢のゲームを引き当てられるのではないかという楽観的な考えが頭に浮かんだからだ。

それに、失敗してもVRゲームにしては破格の安さである1万円で購入できるのだ。

これを逃したらVRゲームなんてやろうとも思わないだろうし、いい機会だろう。

 

……ギャンブルな思考になっているが、まぁ初めてやることなんて大概ギャンブルみたいなものだ。

 

「他に興味のあるモノもないし、明後日の発売日に買いに行こうかな。」

現在の時刻は22時半。

今日はこれで寝ることにして、明日は販売している場所の確認をしてから町を少し散策して過ごそう、そうしよう。

 

 

◇◆◆

 

 

二日後、私は<Infinite Dendrogram>を販売している近場のゲームショップで店員の物珍しいものを見る視線を受けながら無事に購入することに成功し、期待と不安を胸に抱きながら自宅へと向かうのであった。

 




次回、チュートリアル開始
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