お待たせして申し訳ございません
描写をどう書けばいいか悩んでいたら間に合いませんでした
多分来週も間に合わねぇと思います
□〈大貫平原〉【大刀武者】不落丸
〈UBM〉、【空蹴兎 ピータン】との戦いが始まってから約三十分ほどの時間が経過した
拙者が【鬼蜜篭手 ホウホウジュ】を使用し始めてから夜ト神殿が復帰したことも相成って、終始こちらの優勢が続いている
相対している敵の姿は、白銀の毛皮は自身の体に刻み込まれた傷から流れ出た血と何度も体を地面に叩きつけられた時に付いた土でその色を濁らし、右腕は二の腕の先から完全に切断され、頭の上から伸びている左耳は既に召喚可能時間を過ぎてしまい、消えた【鵺】に食いちぎられた跡が残っており、それはもう見るも無残な有様だ
そんな、傷がついていない箇所を探すことの方が難しいと思えるほどにボロボロになった体になってなお、【ピータン】の眼には宿る地獄の業火のように燃え上がる闘志はいまだに消えずに残っている
敵の異常なまでに鍛え上げられてきたタフさに冷や汗を感じながら、拙者は【鑑定士】で取得した《看破》でピータンのステータスを確認する
もともと約二十万という〈UBM〉の名に恥じない異常なまでに高いHPは残りの半分を切り、ザシキワラシ殿による《去運不返球》の直撃を何度か受けてしまい減算したLUCはついにマイナス1000以下になっていた
さらにスキルで与えた【脱力】、【衰弱】、【飢餓】、【食中毒】といった状態異常に加え、これまで拙者たちがつけてきた傷のおかげで複数の傷痍系の状態異常の効果を受けていることも確認できた
【出血】や【食中毒】の状態異常のおかげで敵のHPは加速度的に減っていき、もはや虫の息と言ってもいいような状態だ
このままの調子で減り続ければ拙者たちが何もしなくても力尽きる
そう、もはや勝利を確信してもいい状況であるはずなのに
それなのになぜなのだろうか。まるで勝てる気がしない
立っているだけでやっとの敵に対して緊張感を解くことが出来ず、ただただ敵が抱く飽くなき勝利への執念に戦慄してしまったのだ
そして、その得たいの知れない恐怖を振り払うために早急に敵に止めを刺そうとも、一瞬だけ考えた
ザシキワラシ殿のスキルで与えた【衰弱】の状態異常でステータスを半減させた今ならば、拙者の刀で敵の首を打ち取ることなど非常に容易いことだ
だがそれを実行することはなかった。いや、実行できなかったのだ
数々の死線を乗り越えてきた拙者には、夜ト神殿ほどではないが濃厚な死の予感を察知することが出来る嗅覚がある
そして、それが頭に響くほどに警鐘を鳴らすのだ
ーーーそれだけはしてはいけない、と
この嗅覚はこれまでに何度も拙者を窮地から救ってくれたことがあり、全幅の信頼を置いている
故に、むやみに急所を突くような真似はこれまで避けてきたのだ
拙者の目の前では、数分前に【鵺】が消えた時点で追加召喚されていた亜竜クラスのモンスターである二匹の【狛犬】が巧みな連携によって【ピータン】を翻弄している様子が見える
あの様子なら拙者が介入ぜずとも、あと数分もしない内に【ピータン】のHPは四分の一以下になるだろう
拙者が今すべきことは余計なことはせずに不足の事態に備えて警戒に勤めること。そして、何かが起きたときに万全の状態で対処できるように緊張感を緩めずに体を休めることだ
休めるときに休むことは長期戦において重要なことである。これは今までの拙者が経験した数々の熾烈極まる戦いの中で得た教訓のひとつだ
生物には往々にして体力というものがあり、人間が同格の力を持つモンスターに長期戦を挑んだ場合、先に疲労で動けなくなるのは大体が人間側である
体の構造に大きな違いを持つ両者の間柄を考えれば当然の事であり、更に言えばモンスターには疲労を感じない種族も存在することも合いなって、人間達にとって長期戦とは非常に不利なモノである
だからこそ、有史以来人間は生き残るために徒党を組んで化物達に挑み、その知恵を振り絞って戦い抜いてきたのだ
たが、知恵を使うことは人間だけの専売特許では無い
知能が高いモンスターには戦略を巡らせる者もいる
そして、拙者達が今戦っている【ピータン】にはほとんど不発に終わっているが卓越した""技""を用いようとする素振りが見える
そのことから恐らく【ピータン】はかなり高度な知能を持つ〈UBM〉であると導き出せる
このようなモンスターが何の根拠もなく諦めずに戦い続けるとは考えにくい
何を隠し持っているのかは知らないが、それがこの戦況を変えるだけの力を持つことは未だに衰えない敵のまさしく獣のように荒々しい闘志を見れば明らかである
故に今は力を温存すべき時だ
急いては事を仕損じる
昔、天地に来たマスターによって広められた諺の1つであるそれを体現するかのように、終始優位な状況に慢心を抱かずただいずれ来るであろう死力を尽くすべき時に備え、待つのであった
◇
□【
この戦いが始まってからとても長い時間が過ぎたように感じる
実際には三十分程であるが、体感時間ではその倍以上に感じられる
ここまで一方的な状況になったことがない【ピータン】にとって攻撃を受け続けるということは、まさしく未知の体験だった
まだ自分のHPの高さとHP継続回復スキルの《自己再生》のおかげでしぶとく生き残っているが、スキルによる回復が追い付かない程の怪我を負ったその体はすでに満身創痍
とても戦える体とは言えなかった
もし、意志の弱いモンスターが同じ状況に遭えばその苦しさに耐えきれずに諦めてしまうかもしれない
しかし、【ピータン】は違った
彼女は最後まで全力を賭して戦い抜くことを胸に誓い、ここまで戦ってきた
最愛の番がこの世から消えてもなお、戦うことを止めなかった彼女の中に""諦め""や""妥協""という言葉は存在しない
故に彼女が自分から勝負を投げ出す様なことだけは死んでも絶対にすることはないのだ
ーーーだが、神はそんな一匹のウサギの必死の思いを平然と踏みにじる
唐突に、今までふらつきながらも懸命に動いてきた【ピータン】の動きが止まったのだ
原因は単純明快。ただ不幸にも【心停止】になってしまった。それだけである
何の病気にも罹っていない生命体の心臓が急に止まることは天文学的な確率ではあるが、存在する運命の一つである
その運命を運悪く引き当ててしまった不幸なウサギのHPは急速に低下していく
【心停止】の状態異常には対象のステータスの大幅な減少と急激なHPの減少を引き起こす効果がある
先程まで半分まであったHPはこれまでに受けた状態異常の比にならないくらいの速度で減少していき、数秒も経たないうちに残りのHPが三割になっていた
【ピータン】が全く動きが取れないことを知らない相手の方はその命を刈り取らんと容赦なく攻撃を続けてくる
刹那の間、余りの苦しさによって【ピータン】の目の前に幻覚が浮かび上がる
それはいつの日かの光景の数々。あの幸せの日々のモノだ
誰よりも愛しいと思っていた彼と過ごしたあの日々の記憶をまるで走馬灯のように呼び起こす
甘く、苛烈で、刺激的な毎日。そして、最後に待つのはとても冷たい孤独のみ
その孤独に耐え切れなかった彼女は激情の怒りにその身を任し、空いてしまったその穴をごまかし続けた
そして、気が付けば怒りそのものが彼女の全てになり、修羅道を突き進んでいた
これまで自分が辿ってきた道のりを再確認した今の彼女、【ピータン】はその光景を見ても特に特別な何かを感じることはなかった
既に怒り以外の感情を切り捨てたその身には、過去の記憶に一喜一憂するほどのココロはもう存在していなかったのだ
ーーー己の過去など最早如何でもよい
ーーーその様な事に気を回す余裕が有るのならば、目の前の敵を潰す事だけを考えろ
ーーー私に必要な物はこの身を焦がす怒りだけなのだから
自分の存在意義を改めて認識した【ピータン】は、その意思に呼応するかのようにその瞳に宿る赤黒い光をさらに輝かせる
そして、幻覚から現実に戻ると自身の両側から挟み込み、圧迫するかのように壁状の結界を同時に張り出した二匹の【狛犬】達を視界の端に捉えた
ーーー次の瞬間、【ピータン】は目映い光に包まれ、そして…………
◇◇
□【大刀武者】不落丸
今、拙者の目の前には何かの冗談だと思い込みたくなるほどの光景が広がっていた
【ピータン】の相手をしていた二匹の【狛犬】のうちの一匹は地に伏し、もう一匹は首を骨ごと潰すかのように無傷の【ピータン】に握られ悶え苦しんでいるのだ
【ピータン】の体にあった今まで拙者たちが付けてきたその怪我の全てが、まるでそんなものはなかったかのように、消え去っていたのである
より正確に言えば今まで【ピータン】に付与してきたデバフや状態異常の全てが消え去っていたのだ
状況が変化したのは本当に少し前のことだ
先程急に動きが悪くなった【ピータン】に【狛犬】達が攻撃を仕掛けた瞬間、【ピータン】の体から白銀の光が辺り一帯に放出され、光が止んだと思えば全快の状態の【ピータン】が拙者たちの目の前にたたずんでいたのだ
そして、【狛犬】達が展開していた【結界】をいとも簡単に破った【ピータン】は瞬く間に【狛犬】達を無力化したのである
おそらく拙者の《看破》で読み取ることが出来なかったあの最後のスキルを使った結果なのだろう
HPが全回復していないことを考えるとその能力の特性はあくまで「体の状態を戻す」ことであり、回復系の能力ではないと考えられる
事実、数秒にも満たない時間の中で不落丸はその能力についてほとんど見破っていた
そのスキルの名は《忌死廻醒》
此こそが正真正銘、【ピータン】の切り札
一日に数回しか使えない上に厳しい条件を満たさなければ発動しない自動発動型のパッシブスキル
スキル自体に攻撃力は一切なく、むしろ相手によっては全く驚異にならないこともある
だが、今の状況を変える上でこのスキル、《忌死廻醒》は最適の能力を秘めていた
その概要は「自身のHPが四分の一以下になった時、もしくは即死の効果を持つ状態異常に罹った時に、自身のHPを除く全てのステータスを最高の状態に再構築する」というモノである
何者にも砕くことのできない意志を支える、地獄の業火のように燃えたぎる怒りの焔
その輝きは彼女が死するその時まで消えることはなく、死に近づくほどに輝きを増す命の焔
その常人には理解することができない異常な心の在り方を体現するかのように発現したスキル
命を削れば削るほどに最高の状態で戦いに挑むことができるこの力の前では、弱体化や状態異常などの一切の小細工は塵芥と化す
だが、ステータス自体には変化はなく純粋に戦闘能力が高い相手には余り効果はない能力でもある
いかに自身の状態を最高に仕上げたとしても勝てない相手には絶対に勝てない
逆転の一手として使うには少しばかり物足りなさも感じてしまうだろう
しかし、その問題点は【ピータン】にとって何ら関係なかった
運悪く圧倒的な強者に出会い死んでしまったのなら、それは星の巡り合わせが致命的なまでに悪かった己自身の問題である
「運も実力のうち」であることは、もう既にこの世から消え去った番の件で思い知っている
だからこそ、「自分には運がなかったのだから、仕方がない」と、他人事のように諦めるようなことは【ピータン】にとって絶対にあり得てはいけないことなのだ
戦うのであれば己の全てを賭けてでも敵の首を取りにいく。それが敵に対して最低限払うべき配慮であり、自分自身への戒めでもある
そんなまさしく修羅の心を持つ獣である【ピータン】にとって《忌死廻醒》は己の誇りを貫くことを可能にする最高の力であった
そして、《忌死廻醒》によって全快になった【ピータン】の蹂躙がこれから始まろうとしていた
手始めに【ピータン】の細長い筋肉質な手に掴まれている【狛犬】の方から何かが折れるような嫌な音が一度響いた後、【狛犬】は光の塵になって消えていった
その光景を目の当たりにした地に伏している【狛犬】は同胞の仇を討とうと決死の覚悟で攻撃を繰り出そうとするが、一瞬で振り落とされた大木のように太く逞しい【ピータン】の足によって頭部を踏みつぶされ、仲間の後を追うことになった
少し前までしていたような無様な動きはその洗礼された一挙手一投足からは感じられず、まるで別の何かになってしまったかのようにも思える程その動きが変化していたのだ
これこそが運命の鎖から解放された【空蹴兎 ピータン】の実力のほんの一部
長年の月日を戦いに費やしてきた亜竜クラスのモンスターですら一蹴されてしまうほどの力
これまでの切り合いの中で感じていたその実力の一端を目にした不落丸は、恐怖や高揚感、それとも別の何かの所為か自然と喉を鳴らしてしまう
そのまだ見ぬ実力を秘めた獣の瞳には、まるで「今までの借りを返すぞ」と言わんばかりに激情の輝きを宿した光が煌々と灯るのであった
【ピータン】のステータスの詳細は次話のあとがきに乗っけますんで、今しばらくお待ちいただきたい
にしても、主人公が完全に空気になってるなぁ……
次回、ウサギの真の実力が明らかになる!