幸運の子   作:水上竜華

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今週も、何とか書けた……
戦闘描写ってやっぱムズイっすね





第十九話 命の力

 

 

□【大刀武者】不落丸

 

 無数の光弾と風の刃による雨あられを掻い潜り、目にも止まらなぬ速度で急接近する【ピータン】を正面から見据えながら拙者は左手で掴んだ""ジョブクリスタル""を握りつぶす

 そして拙者が""ジョブの変更""を終えてから一秒とかからずに【ピータン】は拙者の刀の間合いへと侵入し、先にやられてしまった【覚】と同様に拙者を物言わぬ肉塊へと変えるために強烈な蹴りを繰り出した

 

 直撃すれば即死。掠れば重傷は避けられないその一撃に対し、拙者は体を右にずらしつつその攻撃の軌道上に大刀の先端部分が来るように刃を立てた状態で置く

 

 ザシキワラシ殿と【鎌鼬】の攻撃が激しかったことが幸いしたのか、先程【覚】を屠った時よりも【ピータン】攻撃の照準は少しだけ甘くなっていた

 さらに拙者のニ、三倍の速さで動くその姿を何とか視界に捉え切れていたことから、相手の力を利用して待ちの姿勢で少しでもカウンターによるダメージを与えようとする算段を含んだ苦肉の策を講じたのである

 

 相手の体と接触するぎりぎりの位置取りを見極め、ついに生死を賭けた攻撃の交差が始まる

 高速で飛来してきた【ピータン】の足と拙者の大刀が接触

 このまま、圧倒的に力で劣っている拙者がただ何もせず攻撃の軌道上に大刀を置いただけでいれば刀を握っている右腕は刀と共に吹き飛んでしまう

 そうはさせまいと拙者は力が体の一部に重点的にかからないように右足を軸にし、その攻撃の衝撃を受け流すように体を回転させる

 

 力を入れるタイミングを少しでも間違えれば即座に体が吹き飛ぶような芸当を極限まで高まった緊張感の下で行う

 刀越しに感じるその衝撃に恐怖し体を強張らせず、かと言って力を抜き過ぎずに刀を操る

 今まで死線を潜り抜けて培ってきたその神業に等しい技術をいかんなく発揮した拙者は何とか攻撃を避けることに成功する

 

 しかし、拙者が持つ大刀は【蜜】で覆われていない刀身の部分が耐久値に限界が来てしまい、半分からポッキリと折れてしまう

 ここまで刀が折れることも含めて計算通りに事を運ばせることが出来た拙者は【ピータン】との交差時に感じた今も手に残る感触について考える

 

 【ピータン】の足と大刀が接触した瞬間に感じた刃と刃がぶつかったような感触

 恐らく、例の空気を操るスキルで足の周辺に風の刃を作ったのだろう

 ただ、【鎌鼬】が使う《風の刃》と似たようなモノに思えるが短時間だけ自身の周囲に展開している分、【ピータン】のモノの方が強度も鋭さも段違いに高い

 しかも、風の抵抗も少し緩和しているのか、速度が一瞬だけ上昇しているようだ

 もとから受ける気はなかったが、やはり回避を主体にして攻撃する方がいいだろう

 そう判断した拙者は《瞬間装備》でアイテムボックス内に入れていた小刀を左手に呼び出し、折れた大刀を【蜜】で補強することで小刀による二刀流のスタイルに切り替える

 

 

 一方、拙者を仕留めそこなった【ピータン】は弾丸さながらの速さのまま拙者から距離を取り、十数メテルほど距離を取り地面を崩壊させながら急停止する

 もう一度来るであろう猛攻に備え構えていた拙者であったが【ピータン】の様子がおかしいことに気が付き、次の瞬間自分の失態に気が付く

 

 

(———ッ!?いけない、夜ト神殿が!)

 

 

 今まで【ピータン】を夜ト神殿に近づけさせないように位置取りに気を付けていたのにも関わらず、拙者がその速さに警戒し過ぎた所為でこちらに注意を引き付けなければならないことを完全に忘れていたのだ

 

 今の拙者のAGIでは既に遠くに離れた【ピータン】に追いつき、その進行を止めることは実質不可能

 

 

 そのことを理解した上で彼女たちが【ピータン】による猛攻を持ちこたえることを信じ、拙者はその場から【ピータン】を追いかけるのであった

 

 

 

                        ◇

 

 

 

□【空蹴兎 ピータン】

 

 体の動きに不具合がないかを確認した私は""本来の戦い方""で相手側の獣を一匹仕留め、その横にいた獲物は無視し私を一時的に窮地に追いやった""敵""を先に始末することにした

 鉄の刃を持つ獲物は確かにかなりの使い手ではあるが私の速度に追いつくのでやっとであることを考えれば、ここであの獲物を仕留めるのに時間をかけることより先程から何かを企んでいる様子を見せている""敵""を叩き潰した方が速いと判断したのだ

 

 それにいくら《風圧操作》で風の壁を作ることで防げるといえど、私の全力疾走レベルの速度で飛来してくるあの得体の知れない光弾や、時折出てくる獣達の存在が鬱陶しく感じていたのも事実

 面倒な相手からのマークが無くなった今、先により面倒な相手を叩き潰しに行くことは戦略の基本

 故に私はいつでも潰せる前衛を無視し、容赦なく後方支援に徹する""敵""に対し攻撃を開始する

 

 

 最初の奇襲から接触を伴う物理攻撃、もしくは自身の能力を用いた攻撃をした場合、数分前の自分のように摩訶不思議な状態にさせられることは既に把握している

 既にその効果を無効化できることが判明している私の能力を同じように使えば、またあの様な状態になってもその後の戦闘の継続は可能であるためこのまま突撃することもという手もある

 しかし、《忌死廻醒》には使うたびに若干体が弱くなるという欠点がある以上、気安く使うことはできない

 あんなモノを使わずに勝てるに越したことはない

 

 

 だからこそ、普段ではあまり使わない手で""敵""に攻撃することにした

 

 

 五十メテル程離れたところにいる""敵""に目掛けて突撃を開始すると""敵""もそれを阻止せんと光弾による攻撃を再開する

 ""敵""からの距離が三十メテル付近の場所に着いた瞬間、私はその勢いのまま地面を蹴り砕く

 元々の大地を粉砕するほどの力に加え、移動時の勢いも合わさったことで私の蹴りは大地に亀裂を生み、巨大な岩盤を浮き上がらせた

 

 そして、私は自身が作り上げたその岩盤の一つの陰にその身を屈めるように隠し、""敵""から放たれた光弾から身を守る

 次の瞬間、私の目論見通り光弾は岩盤の壁を貫通することはなく壁にぶつかり消滅していく

 

 やはりあの光弾は直接触れれば奇妙な現象を引き起こす恐ろしい効果を秘めているが、攻撃力自体は大したことはない

 スキルを使った空気の壁や何かしらの障害物を間に挟み込めば完全に防ぎきることが出来る

 種さえわかれば、それ程脅威的な攻撃ではない

 

 

 厄介な光弾の対処法を一秒足らずで理解した所で、次の行動に移る

 

 

 光弾をやり過ごすために伏せ気味にしていた上体を少しだけ浮かし、盾にしていた岩盤の下の部分を勢いよく蹴り上げ、岩盤を大きな岩の塊として宙に浮かばせる。その岩の塊が地面から数センチメテル離れたその瞬間を見計らい私は""敵""がいる方向に目掛けてその岩の塊を押すようにして蹴り飛ばした

 

 さながら大砲のように打ち出された岩の塊は轟音を立てながら""敵""に向かって飛んでいく

 ""敵""が放った光弾の数々は飛来してくる岩の塊にぶつかり消滅していき、その大半は私のところまで届くことはなかった

 私が触れてはいけないのであれば、触れないように何かを投げつけて攻撃すればいい

 

 

 この方法こそ私が即席で考えた「相手からの攻撃を防ぎつつ、自身が触れずに済む攻撃」である

 

 

 見た目相応の防御力を持つ""敵""に直撃すれば今度こそ確実に屠ることができる程の勢いで飛んでいくその岩の塊は、元よりあまり離れていなかったその距離を瞬く間に詰めていく

 ""敵""の周辺にいた二足歩行の獣は私の速さに反応が追いつかず、その攻撃を受け止めることはできなかった

 他の獣達は遠くに離れていてとてもではないが主人を守ることは不可能

 完璧なタイミングで放たれたその一撃は成すすべもなく相手を粉砕するかのように思われた

 

 

 しかし、""敵""もこの事態を予想していたのかその岩の塊が目標に直撃する寸前、それは何かに衝突しその動きを急に止めてしまう

 恐らく、何かしらの防御系の能力か何かを用いて防いだのだろう

 大して驚くようなことではない

 

 

 

 

 

 事実、この時の【ピータン】の攻撃を防いだのは寝子の《式神召喚》によって召喚された【式神】の能力によるものだった

 寝子が取得している【妖魔師】には【式神術師】の時よりも媒介なしで召喚できるモンスターが数多く追加されており、その【式神】の中に【塗り壁】という透明な壁上の【妖怪】がいる

 【塗り壁】には召喚中に一度だけ自身の消滅と引き換えに攻撃を無効化する《通せんぼ》という能力があり、今回はその力を用いて【ピータン】による遠距離攻撃を防いで見せたのだ

 ちなみに、圧倒的な速度で迫る相手の攻撃に合わせて【塗り壁】を召喚してみせた張本人は、召喚したのがかなり際どいタイミングだったことから内心滅茶苦茶ビクビクしていたことなど【ピータン】の知る所ではない

 

 

 

 

 

 ある意味自身の読み通りの展開になったことを確認した私は""敵""から距離を保ちつつその周りを反時計回りに移動する

 

 そして、先程行った手順と同じように岩盤を浮かばせ、再び""敵""に向けて岩石を放つ

 しかし、またしても防がれてしまう

 

 

 だが、次の瞬間にはそのことを気にすることもなくまた同じ手順で攻撃を繰り出す。何度も、同じように

 

 

 いくらでも同じ手段で攻撃が防げるのであればそもそも前衛に私を引き付けさせる必要はないはず

 つまり、あの防御能力には限りがあると見て間違いない

 一度防がれたとしても二回、三回と数をこなしていけばいずれボロが出るはずだ

 

 今まで乗り越えてきた数々の戦いの経験から答えを導き出した私は、自身の判断に微塵の迷いも見せず淡々と攻撃を続ける

 

 それから数秒もしないうちに相手の限界が予想よりも早く来たらしく四回目の攻防の時点であの防御能力を使用せず、大量の土や炎の塊をこちらの攻撃に合わせて射出し相殺する手段を講じてきた

 

 七回目の攻防では私の速度の対応できていなかった二足歩行の獣が自身の目の前に巨大な氷の障壁を作り出し、ぎりぎり攻撃を防いでいたが次の私の攻撃で氷の障壁が完全に破壊されると共にその身を光の塵と化し消えていった

 

 そして十回目の攻防でついに相手の火力をこちらの攻撃が上回り、若干相手の体の一部を破壊することに成功する

 如何やら完全に防ぎきる手段が無くなったのだろう

 

 

 ここまで長いようで短かったが、漸く忌々しい小細工を弄して抗ってきた""敵""を葬り去ることが出来る

 

 

 待ちに待ったこの瞬間を逃がさず最後の蹴撃を浮かび上がらせた岩石に加え、撃ち放つ

 

 その速さはこれまで撃ち放ってきたモノと殆ど変わらず、その形状を保つことが出来る最大速度で宙を飛んでいく

 その攻撃を目の前にした""敵""は自身を葬らんと迫りくるその一撃に対し、先程までの炎や土と打って変わり風の刃や塊を連射してくる

 恐らく最後の悪足掻きなのだろう。先程よりも威力が低い上に弾幕の薄い風の攻撃では私の攻撃を完全に止める、もしくは破壊することなど不可能

 

 

 その抗いようのない現実は覆されることはなく、最後の風の刃がかき消されてもなお岩石の進行を止めることは叶わずほんの数コンマだけ破滅への到達を遅らせることしかできなかった

 

 

 そして、まさしく""敵""を打倒さんと放たれた凶弾は誰にも止められることもなく、目標に迫り———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————残り二メテルに差し迫った所で、何者かに両断されてしまった

 

 

 縦から半分になってしまった岩石は切断面からさらに衝撃が加わったかのようにあるべき軌道から大きく反れ、""敵""の横を通過したのち地面に轟音を立てて着弾する

 依然としてボロボロの状態でなおその存在感を主張している""敵""に対し、苛立ちを覚えながらも私の攻撃を妨害した仕立て人へと視線を向ける

 

 

 ボロボロになった藍色の着物に、両手に黄金の輝きを見せる短刀と鈍色の輝きを放つ刃を持つ小刀をそれぞれ一振りずつ携え、その右手には怪しく光る蜂の巣の様な篭手を身に着けており、そこから得体のしれない何かを感じた

 

 服の隙間や何物にも覆われていない端正な顔から見えるその肌の色はまるで長年の年月を過ごしてきた樹木のように茶色に染まり、白目は夜のように黒く、瞳は月光のように眩い金色の光を放っている

 

 首元でまとめられた腰にまで届くその長髪は老人のように白く、その命の儚さを示しているかのように力なく風に漂う

 

 そして、その外見の中でも一際その存在感を漂わせる額から伸びた二本の角

 

 

 それはまさしく""鬼""の角であり、アレの存在が何であるかを指し示していた

 

 

 しかし、その姿は身体的な特徴を抜きにして考えると私が先ほど後回しにした獲物の姿に酷似している

 

 だが、あの獲物に私の一撃をあのように捌くほどの力はなかったはず。一体、何が起きた

 

 

 

 そんな考えが一瞬だけ脳裏に浮かぶと同時に、その奇妙な""鬼""の瞳と私の視線が交わった

 

 その瞳にはこちらを害すという荒々しい感情が全く感じられず、夕凪の様な穏やかさまで感じる始末

 

 そんなふざけた存在が戦場に立っていると思うとよくは分からないが無性に腹が立ってきた

 

 

 

 正体の分からない苛立ちの所為かその""鬼""のことを見つめている内に、まるで近くにいるかのような存在感すら感じてきて———

 

 

 

 

 ッ!?

 

 

 

 いつの間にか本当に私のすぐ目の前にまで差し迫っていたその存在に気が付くも既に遅く、咄嗟に十字状に腕を構えるとその黄金の輝きを放つ短刀で逆袈裟切りをもろに食らってしまう

 

 ガードに用いた両腕は完全に切り落とされ、胴体にも浅くない怪我を負い傷口から大量の血を垂れ流す

 

 此方の状態なんてお構いなしに容赦なく振り落ろされる二刀目を避けるためになけなしの力を振り絞って全力で地を蹴りつけてその一刀を回避することを成功した

 しかし、不意打ちで喰らった一撃が効いた所為か私のHPは急激に低下し、ついに《忌死廻醒》の発動条件である

領域にまで至り、不本意ながらそれを発動

 体から一瞬だけ光を放つと元通りの体へと返り咲き、続く連撃に冷静に対処していく

 

 しかし、全快の状態になったにも関わらず相手の攻撃を捌くだけで精一杯という現実に直ぐに驚かされることになる

 

 明らかに急激に上昇したそのステータスは既に私のSTR以外のステータスを完全に上回っており、AGIに至っては完全に音速機動の領域に達していたのだ

 

 これ程までの力を持ちながらなぜ隠していたのか、なぜこのタイミングで使ったのかなど疑問は絶えず出てくるがそんなことに意識を割ける程の余裕を有していない私は、これ以上流れを持っていかれないよう戦いに集中するのであった

 

 

 

 

 

 

 

 







……上手い終わり方が書けん
もしかしたら後になって少しだけ書き換えるかも



次回、多分【ピータン】戦、終結(予定)


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