幸運の子   作:水上竜華

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第二十話 縁の終わり

 

□とある〈UBM〉の話

 

 これは〈マスター〉の大量出現が起きるよりも遥か昔、約数百年前のこと

 後に来る〈マスター〉達から修羅の国と呼ばれる天地の大地に、とあるモンスターが誕生した

 

 そのモンスターの名は【鬼樹】

 

 一般的に【化け木(トレント)】と呼ばれるエレメント系のモンスターの変異種である

 

 その習性は【化け木】と同様、普通の木に擬態して目の前に通り掛かった獲物に攻撃を仕掛けるというモノで、その習性がメジャーな所為か相手を確実に倒せるように同種のモンスターは基本的にSTRがかなり高い

 その正体を知らない低レベルの冒険者が毎年何十人も犠牲に遭うほど、非常に危険なモンスターだ

 【鬼樹】にはこのオーソドックスな【化け木】の習性に加えてもう一つ、特殊な習性がある

 

 それは「自身が襲った生物を僕にする」というモノだ

 

 【鬼樹】が生み出す樹液には、樹液を体内に取り込んだ生物の種族を【鬼】に変異させ、【鬼】特有のスキルを得ると共にそのステータスを大幅に上昇させる効果がある

 しかし、強力な力を得ると同時に理性の低下よって引き起こされる狂暴性の増長や、急激に変化した体の負荷による寿命の短縮、樹液に対して強い依存性を示すなど、かなり重度の副作用に苦しめられる事となる

 

 そして【鬼樹】はその現実に存在する覚せい剤を遥かに超えるレベルの依存性を利用し、自身に近づく生物を片っ端から樹液で徹底的に薬漬けにすることで樹液を生み出す己に忠実なる僕を量産していたのだ

 その勢力は時間が経つにつれて強大になり、元々草原に住んでいたモンスターの群れや周辺の村々をいともたやすく蹂躙していき、ついに一年も経たないうちにその特異性から逸話級〈UBM〉への進化を遂げる

 〈UBM〉に進化したことによりさらに凶悪な仕様になった樹液を用いて、より多くの生物を自身の僕にし更なる蹂躙を続けると思われた【鬼樹】だったモンスターの姿は、それからしばらくすると天地から姿を消していた

 

 海を越えて他の大陸に移動したのでも、誰かに討伐された訳でもなく、その存在自体が完全に消え去っていたのだ

 

 それから数百年もの間、そのモンスターは現れることもなく時は過ぎ去っていた

 

 そして〈マスター〉の大量出現が起きるより半年ほど前に、そのモンスターは長年の時を経てまたこの地に戻って来たのである

 その姿は数百年前と殆ど変わっていなかったが、凶悪性は〈UBM〉になったばかりの頃よりも格段に強化されていた

 何者かに連れ去られたそのモンスターは、連れ去られた場所で自身と同格のモンスターと無理やり融合させたり、体の仕組みを勝手に弄られたりと数多の改造を長年の間されていたのだ

 融合に使われたモンスターは【鋼蜜女王蜂】という鋼鉄に匹敵するほどの硬度を持った蜜を生産し、操作することが出来るレアモンスターだ

 

 そのモンスターとの融合や改造によって本体自身の戦闘力の向上に加え、樹液と蜜を混合することで僕を作るのに必要な手順の省略化が可能となったその力は優に伝説級の域に達していた

 このまま何物にも討伐されずに大量の僕を作り続け、ありとあらゆる生物を蹂躙していけば数カ月もかからずに古代伝説級の〈UBM〉になっていただろう

 

 しかし、そうなることはなかった

 

 なぜなら、運のないことに地上に投下された場所にそのモンスターを倒すことが出来る強者が集っていたからだ

 投下された直後に襲撃を受けたモンスターは己の強みである【蜜】を摂取した生物の洗脳を満足にすることが出来ず、その結果敵の接近を許し奇しくも敵との相打ちによってその命を散らすのだった

 そして、その魂は自身を倒した敵の中で唯一生き残った少年、不落丸の武具として残り彼が逆境を乗り越えるための力となった

 

 

 前述にあった【蜂】のモンスターが有していた【蜜】を生成し操る能力に加えて、もう一つ存在する""切り札""になりうる力

 

 

 その名も《修羅転身(ホウホウジュ)

 

 

 強力な鬼を作ることに秀でた〈UBM〉、【生蜜鬼怪 ホウホウジュ】の名を冠したそのスキルは、生成した【蜜】を消費することで使用者の種族を【鬼】に変更し、LUC以外のステータスを一定時間強化すると共に【鬼】特有のスキルをいくつか使用することが出来るという超強力な強化系のスキルだ

 

 その強力な力の代償として、使用者にはスキルの使用時間に比例した時間だけ複数の弱体化系の状態異常に苦しまされ、その命を削られることになる

 

 常軌を逸したその苦しみは気合いでどうにかなる次元を遥かに越えており、確実に戦闘不能になってしまうというかなり使い所が難しいスキルであるが故に不落丸は今までの戦闘でこのスキルを使うことはほとんどなかった

 

 しかし、絶体絶命の状況に瀕した彼女達の姿を捉えた瞬間。不落丸は今こそがその使い時だと判断したのだ

 

 

 

 もちろん命が削られていく恐怖や、スキルの効果が切れた後に果たして自分が生き残れるのかという懸念もあった

 だが、それ以上に自分が無力な所為で誰かが死んでいくところを見る恐怖の方が上回った

 

 

 ———例えこの身がどんなにボロクズのような有様になろうとも、後悔だけはしたくない

 

 

 その思いを胸に宿し、少年は仲間を守るために修羅(【鬼】)になる———

 

 

 

 

                         ◇

 

 

 

 

□【小刀武者】不落丸

 

 

(少し、まずいでござる)

 

 

 不落丸にとって正真正銘の切り札である《修羅転身》によって強化された身体能力で【ピータン】を切り刻みながら、不落丸は考える

 既にスキルを発動してから約20秒経過していたが、まだ【ピータン】を倒しきることが出来ていない

 こちらの動く速度は音速を超え、STRによってゴリ押しで亜音速の域に至っていた【ピータン】よりも機動力は完全にこちら側が優勢であり、スキルによる強化で一万を超えたSTRで繰り出される攻撃は【小刀武者】の奥義である、一定の長さ以下の刀を武器として用いた時のみ攻撃力を四割減少する代わりに攻撃判定を二倍にする《重ね斬り》でさらに強化され着実にダメージを積み重ねている

 相手のHPは既に一割半でこのペースでダメージを加えていけば確実に【ピータン】を屠ることが出来るだろう

 

 しかし、ここまでは相手の不意を突いた形で一方的に事を進められたが、LUKがマイナスになってなお長時間の戦闘をすることが出来た【ピータン】が相手となるとこの時点で残り一割までHPを削りたかったというのが本音である

 LUKがマイナスになったモノは普通なら度重なる不幸の所為で立つこともままならないはずだが【ピータン】は自身に起きた数々のトラブルに即座に対応し、最低限身体を三十分も動かすという偉業を成し遂げたのだ

 そんな埒外の適応力を持つ者が高々数倍の速さで動く相手に一方的にやられるだけで終わるはずがない

 その証拠と言わんばかりに拙者が不意打ちで切り落とした腕を元に戻してからの動きは押されてはいるものの、徐々にこちらの動きに対応しつつある

 必要最低限の動きで致命傷と成り得る攻撃を避けつつ、手数重視になったこちらの間合いから遠ざかるように少しずつ後退している

 途絶えることのない連撃で空中に逃げることは阻止しているが完全に防御に徹している【ピータン】の動きは時間が経つにつれて洗練され、あと数十秒もしないうちにダメージを与えることが厳しくなると考えられる

 

 そして、さらに悪いことにこちらの""切り札""には制限時間がある

 

 元よりMPが少ない前衛職に就いている拙者のMPは100を少し超えた程度で、毎日欠かさずに《生蜜》で【蜜】を量産しようとも活動に支障をきたさない程度で一日に作り出せる量はヒヒイロカネクラスの密度の【蜜】を10ml分作れるかどうかだ

 《修羅転身》を発動させるためにヒヒイロカネクラスの【蜜】を約1リットル消費すると一分間、その効果が持続させることができる

 現在、武器に【蜜】を纏わせなければ耐久値が直ぐに尽きてしまうこともあり、《修羅転身》に使える【蜜】の量は1リットルと少しだけということで効果時間は約一分間となっている

 

 この一分間が過ぎてしまえば拙者は体を動かすどころか声を出すこともままならないただのお荷物となり、そこからの戦闘に全く関与することが出来なくなる

 

 拙者がやられれば確実にパーティーは全滅する。だからこそ残りの四十秒以内に【ピータン】を倒さなければならないのだが、時間が経つにつれてそれはより困難になっていく

 おそらくこのままではダメージが削り切れない

 

 スキルの効果が切れるまで残り三十秒を切り、左手に持っていた黒い刀身の小刀に罅が入る

 この刀には低確率で斬りつけた相手に【麻痺】の状態異常を発生させるスキルが付与されており、少しでも相手の動きを鈍らせようと考えていたのだが効果が表れる前にお釈迦になってしまいそうだ

 右手に装備した【ホウホウジュ】から肩伝いに《鬼蜜操作》で【蜜】を破損した刀の表面に纏わせ、刀身に黄金の輝きを灯した

 

 このままでは後手に回る。そう考えた拙者は普段は絶対にしない戦い方に切り替える

 

 今まで相手のカウンターに警戒して一歩踏み込むことが出来なかった領域まで思い切って足を深く踏み込み、より一層攻撃を積極的に仕掛ける

 両手に持つ小刀で切りつけるだけでなく足で蹴りを加えたり、刃の斬り返しが間に合わなければ柄の部分で殴ったりと、今までの戦闘ではしてこなかった荒々しくも流れるような体術を組み合わせて攻撃の回転率を着実に上げていく

 今まで共に戦ってくれた仲間たちとの記憶から【拳士】や【忍者】、【力士】など、近接戦闘を専門にしたジョブに就いていた者達の戦い方を思い出しながら、その動きを自分なりに改良し剣術に取り入れていったのだ

 

 しかし、普段はしない動きをしているため隙も多く出てくる

 その隙を突かれて防戦一方で合ったの【ピータン】から何度かカウンターで体に何回か攻撃を喰らってしまう

 スキルで強化されたENDをも通り抜ける衝撃を受けながらも、攻撃の手は緩めない

 攻撃を受けるたびに傷つく体は《修羅転身》で得た【鬼】由来のスキルである《自己回復》で少しずつ癒し、蓄積されていく体の痛みにはひたすら耐え続ける

 

 通常のステータスで同じことをしたら元よりAGIが高めの拙者では相手の攻撃に耐うるENDがないために直ぐに死んでしまっていただろう

 夥しい量の血を流しながらも【鬼】の体は繰り出される相手の攻撃を耐えきり、ついにスキルの制限時間が残り五秒となった

 

 だいぶ無理をしたおかげか【ピータン】のHPは5000を切り、《自己再生》による回復量を考慮してもあとニ、三回攻撃を当てればゼロをになる所まで減らすことが出来た

 だが、こちらも同じような状況であり、ここまでは痛み分けの様なものだ

 

 ここから始まる五秒が真の勝者を決める五秒となる

 

 この時点でこちらの速さはほぼ完ぺきに見切られており、奇をてらった攻撃はもう通用しないと考えた方がいいだろう

 しかし、敢えてこのままの戦い方で突き進む

 

 

 ———残り四秒。足技を警戒させつつ、幾つものフェイントを絡めた刀による一撃が相手の体に刻み付ける

 

 

 ———残り三秒。こちらの攻撃が悉く躱されてしまい、逆にカウンター気味の攻撃を左肩を掠めてしまい、左肩が外れる

 

 

 ———残り二秒。繰り出された足による攻撃をギリギリのタイミングで躱し、こちらも先程のお返しとばかりに右手で持った得物で浅い傷を突き出された足に刻み付ける

 

 

 ———残り一秒。隙を見つけて倒すという次元を超えた局面だと感じ取った両者は、相手を確実に仕留めんとする全力の一撃を放つ。

 【ピータン】は真空の刃を纏った左足による全力の蹴り上げを。

 拙者は右手の刀を前に突き出すようにして持ちながら、【ピータン】が先程までしていたように自身の速さに加えて力を利用した移動法を用いた神速の突きを。

 

 

 

 そして、互いの命を懸けた最後の一撃は交差する

 

 

 

 ———残り0秒。丁度交差を終え、【ピータン】の背後で動きを止めた拙者にスキルの反動が容赦なく発動し、相手がどうなったか確認する前にその場に倒れ込んでしまう

 【麻痺】や【脱力】といった制限系状態異常に加えて、全身を燃やし尽くすような痛みに苛まれながらも勝利を確信するまで気力で意識を保ち続け、最後の力を振り絞りながら後ろを確認する

 

 

 そこには足から大きな傷跡を残しながらも未だに倒れず、拙者に止めを刺そうとしている【ピータン】の姿があった

 最後の一撃は【ピータン】に通ったものの完全にその命を削り取るには少しだけ、本当にあと少しだけ足りなかったのだ

 もう体を動かす力も残っていない拙者には何もできずに、ただ死を待つしかなかった

 

 死が目前に迫った所為か、走馬灯のようにかつて同じように死に目に遭った時のことを思い出した

 あの時も度重なる亜竜との戦いで最後に現れたウサギ型のモンスターに襲われて、最後まで生き残ってくれた最後の一人を守ることが出来ずにパーティーが壊滅してしまい、自分も相打ちという形で死にそうな状況になっていた。

 相手のモンスターにつけられた傷を最後の力を振り絞って【蜜】で強引に塞いでから拙者は気絶してしまい、後に近くを通り掛かったパーティーに助けてもらったのだ。

 今にして思えばあの時のモンスターと少し雰囲気が違うが、目の前にいる【ピータン】だったのかもしれない。

 

 拙者が倒れていた近くにドロップアイテムがなかったことからもその可能性は高いだろう

 

 この時、自分の中で悶々としていた何かが噛み合ったような感覚を覚えた

 

 戦いの最中にどこかで似たような存在と出会ったことがある様な感覚を抱いていたがまさか過去に仕留めそこなったモンスターだったとは、何とも奇妙な星の巡り合わせなのだろうか

 

 そんな風に拙者は最後の時を迎える人間にしては落ち着いた様子で、今の状況を俯瞰していた

 

 

 

 心残りはもう、ない。自分の全力でぶつかってあと一歩届かなかった……ただそれだけのこと。

 

 

 

 強いて願いを言うのであれば、拙者に自分の運命と向き合う最後の機会を与えてくれた彼女に直接礼を言いたかったことだろうか

 

 

 

 

 もう、意識が、はっきりしなくなって、きた

 

 

 

 

 霞んできた視界に【ピータン】を捉え続けながら死を待つ拙者の耳に、どこからか。獣の叫び声が聞こえた気がした

 

 

 

 

 つい先程、近くで聞いていたその獣の声が、平原に響き渡る

 

 

 

 次の瞬間、拙者の視界にとらえていた【ピータン】の姿が轟音と共に青白い光に包まれた

 

 その光が止むと、そこには膝を地につけた【ピータン】がいた

 

 

 そして、【ピータン】が光の塵へと変わってく光景を最後に拙者の意識は完全に途絶えた———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







……というわけで【ピータン】戦は終了です
本当に作者が無能なばっかりにここまで長くなってしまい、すいませんでした
今回の経験を次章から生かしていこうと思います


次回はエピローグです
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます!


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