幸運の子   作:水上竜華

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お待たせしました。
第一章 エピローグです
あとがきに今後の方針を書きましたので読んでもらえると幸いです





第二十一話 二人の始まり

 

□【小刀武者】不落丸

 

 瞼を閉じながらも、深く沈んでいた微睡みの中から少しだけ意識を浮かび上げる。

 直前の記憶が大分あやふやになっていたが時間が経つと共にその記憶は明確になっていき【ピータン】との戦いを思い出した瞬間、ぼやけていた意識は急速に回復し閉じていた目を慌てて開き、体を起こす

 目に入り込む眩しい光に少しだけ視界を奪われたが直ぐに回復し辺りを見回すと、病院の個室のような空間が広がった

 何度も運ばれたことのある施設であるためここが医療関係の施設であることが直ぐに分かったのだ

 六人くらいなら両側に並んで寝れそうな広さの部屋の中には自分以外の人間は見当たらず、障子越しに射し込む光の明るさと外から聞こえる町の音から今が昼過ぎ頃だと当たりをつける

 

 まだ体にダルさは残っているものの動けない程ではない。体を動かせると判断した拙者は外に出て誰かに事情を聴かねばと思い、恐らく怪我の処置で巻かれた包帯だらけの体で部屋に備え付けられた戸から廊下に出ようとする。

 疲労感で重い体に鞭を打ちながらなんとか戸の前に立ち開こうとすると、拙者が手をかける前にそれは静かに開けられた

 

 

「あれ、不落丸さん?」

 

 

 戸が開いた先に立っていたのはつい先日、拙者と共に【ピータン】と戦ってくれた〈マスター〉の夜ト神殿だった

 その姿は拙者が彼女と初めてあった時と変わらずに綺麗なままで、今まで身に着けていた緑色のフード付きの羽織ではなく胸元にウサギの刺繍がされた全体的に白く輝いた羽織に変わったくらいで特にその様子に異常は見られなかった

 彼女の元気な姿を見れたことで彼女はあの局面を生き残れたのだと安堵したが、〈マスター〉である夜ト神殿は死んでも三日たてば復活することができることを思い出し自分が何日眠り続けていたのか分からない以上本当はどうなったのか、正確にわからなくなってしまった

 そのことに思い至った瞬間、考えるよりも先に体は動きだし勢いよく両手で夜ト神殿の肩に掴みかかると口早に言葉を紡いでく

 

「夜ト神殿!あの後、拙者が倒れた後どうなったのでござるかッ!?【ピータン】はどうしたのでござる!?夜ト神殿はあの後無事に生きて帰ってこれたのでござるか!?」

「不落丸さん、肩、痛いです……」

 

 ハッと気が付くと拙者に力強く肩を握られた所為か痛そうな表情を浮かべる彼女の顔を見て冷静になり両手を彼女の肩から離す

 感情が昂っていた拙者は1000を超えるSTRの加減を忘れてしまいかなり強い力を発揮してしまったらしく、手を離した今でも彼女は痛そうに肩をさすっている

 

「も、申し訳ござらぬ」

「いえ、落ち着いてもらえたのなら何よりです」

 

 慌てて謝罪をするも彼女は問題はないと言わんばかりに、拙者に笑顔を見せてくれた

 

「こんなところで立ち話もなんですから、いったん部屋に戻りましょう」

 

 彼女はそう言って拙者の背を押しながら病室の中に入ると、拙者が寝かされていた布団の近くに部屋の隅にあった座布団を二人分用意し、自分の分の座布団に腰を落ち着けた

 彼女が進めるがままに拙者も座布団に腰を下ろしたはいいのだが、先程の失態から気まずい空気になってしまい対面に座る彼女と何も話すことが出来ずに数分が経過していた

 そろそろ覚悟を決めて話しかけようと思い始めたその時、彼女の方から声をかけられる

 

「先程の話の続きなんですけど……順を追って話してもいいですか?」

 

 どうやら彼女は先程の拙者の質問に答えてくれるらしい。彼女の話によると拙者が戦闘不能になると同時に【鵺】の召喚に必要なクーリングタイムが終了したらしく、既に召喚に必要なMPは媒体に込めていたので終了と同時に【鵺】を召喚し、遠くからでも正確かつ速さに優れた雷撃で拙者に止めを刺そうとしていた【ピータン】に止めを刺したと言うのだ。

 思い返してみれば、気を失う直前に聞こえた獣の声は【鵺】の声だったように思える。それに、あの時は疲労によって視界が霞んでいたためよく見えていなかったが【ピータン】を包み込んだ青白い光は雷撃の光だったのだろう。

 拙者との斬り合いで残りのHPがドット単位になっていた【ピータン】になら、これまで少しずつとは言えダメージを着実に与えることが出来ていた【鵺】の雷撃で倒すことが出来たというのも納得できる。

 

 そして、【ピータン】との長い死闘に終止符を打った夜ト神殿達は【気絶】していた拙者に応急処置を施した後に、街に帰ろうとしたのだがそこからが大変だったという

 まず、拙者が倒れてしまったこととザシキワラシ殿が半壊してしまったため、主戦力がほぼ戦闘不能になってしまい通常での戦闘が厳しくなってしまったのだ

 【ピータン】との戦闘で所有していた高火力の【陰陽術】が封じ込められていた【呪符】を全て使い切り、切り札の【妖怪】も召喚しつくしてしまった夜ト神殿では拙者をかばいながら戦闘をこなしつつ街まで帰るというのはかなり厳しいことだった

 彼女がモンスターに対して尋常でない恐怖心を持っていることは予め聞かされていたことであり、行動を共にしたことからそれが事実だと理解していた

 

 

 彼女の外界との壁の役割を果たしていたザシキワラシ殿がいない状況下でどうやって街までの帰り道をを生き残ったのか。

 その答えは彼女が大量にアイテムボックスに入れていた""とあるアイテム""のおかげであった

 

 

 そのアイテムの名は【臭い袋】。これは特定のモンスターを引き寄せることが出来るアイテムで、本来であれば敵を引き寄せたくない時に使うモノではない。しかし、彼女はこれを使うことで街まで戻ることが出来たのだという

 その使い方は次のとおりである。まず、遠くまでモノを運ぶことが出来る低級の【式神】に【臭い袋】を持たせてその【式神】の行動可能限界領域まで移動させる。そして、その【式神】に【臭い袋】を開けさせてモンスターを引き寄せ、【臭い袋】の至近距離にいたその【式神】を近くに寄せるわけにもいかないのでそのまま《帰還》で召喚時間を無視して消滅させる。

 そして、【臭い袋】につられたモンスター達から逃げ切るためにまだ召喚中の【鵺】に拙者を乗せて走り抜ける、といった行動を繰り返し行い、最低限の戦闘をするだけでなんとか街まで逃げ切ることが出来たのだ

 途中で何回か亜竜と遭遇したらしいのだが、純竜級の【鵺】には全く歯が立たずに倒すことが出来たのだとか

 

 街が見える頃には他のティアンやマスターの姿も多くみられるようになり、そこからは特に何もなく街に辿り着いたのだ。これは後で知ったことなのだが、あの日拙者たちが通って来た場所の周辺にやけに高レベルのモンスターが大量に集まっていてちょっとした騒ぎになっていたとかいないとか

 

 街に着いてから夜ト神殿は拙者を夜ト神殿の知り合いがいる病院に連れて行き、傷の処置を終えてからも意識が戻らなかった拙者の入院がそのまま決まり、ここ三日間ほど目を覚まさずにいたのだという

 

 拙者の意識が戻らない間も夜ト神殿は毎日拙者のもとを訪れてくれたらしく、バイトの編み物をしながら拙者が目覚めるのを待ってくれたと聞いた瞬間、もう拙者は自分の中から溢れる感情を抑えることが出来ずに顔を両手で覆い隠すように俯くと声を出しながら泣き始めてしまった

 

 

 「仲間と一緒に生還できる」という当たり前の出来事を体験したことがない拙者にとって、その当たり前の事を成し遂げることが出来たという事実がたまらなく嬉しくて、情緒が不安定になってしまったのだ

 話の途中でいきなり泣き出した拙者の様子に面食らっていたが、しばらくして夜ト神殿がこちらに近づく気配を感じると次の瞬間には温かいぬくもりが拙者を包み込んでいた

 突然のことに驚いてしまったがこの温もりが本物だと改めて分かると再び眼から涙があふれだし、恥も外聞も気にすることもなく拙者はよりいっそう大きな声で泣き出す

 子供のように泣き出す拙者を夜ト神殿は優しく抱きながら、背中に回した手で拙者の背をさすってくれた

 

 

 その状態が数分間続いた後に、気分が落ち着いてきた拙者は女性に抱かれながら泣いていたということを改めて思い返すと今まで感じていなかった羞恥心があふれ出し、顔を真っ赤に染め上げてしまう

 拙者が落ち着いたことに気が付いた夜ト神殿は空気を読んでくれたのか、何も言わずに体を放してくれた

 自分から離れてもなお、体に残る異性の体の感触に鼓動を速く走らせる拙者であったが、夜ト神殿はその様子を何か勘違いしたのか「あ~、私もこんな感じだったのかなぁ~」と、顔に笑みを浮かべつつ小声で何かを呟いていた

 

 それからまた拙者たちの間に沈黙が出来たがそう時間もかからずにまたしても夜ト神殿から声を掛けられる形で話が再開する

 しかし、その眼は若干宙を泳いでおり、何か言いにくそうな様子であった

 

「え~とですね、その、不落丸さん。【ピータン】の〈UBM〉特典のことなんですけど……」

 

 そう言えば【ピータン】の討伐前に拙者が気を失ってしまったため、討伐後に流れるアナウンスを聞き逃してしまったことに気が付いた

 〈UBM〉には自身を討伐した者の中からその戦闘において貢献度の一番高かった者にその名を冠する世界でたった一つだけの武具やアイテムを残すという特徴があった。

 俗にいうUBM特典には元となった〈UBM〉の能力が込められており非常に強力なアイテムとして所有者にその恩恵をもたらし、どんなことがあろうとその所有権を変更することが出来ないという、まさしく自分だけのオンリーワンの力と言っても過言ではない

 今回の戦闘に参加した人間は拙者と夜ト神殿だけであるので、二人のうちのどちらかがそれを手に入れることが出来るのだが、夜ト神殿の様子から次に続く言葉を予想しながらもその言葉の続きを聞いていた

 

「……どうやら私が引き当てちゃったみたいです」

 

 そう言いながら、自分が来ている羽織の袖を持ち上げる

 薄々感づいてはいたが、やはり今彼女が着ている白い羽織がそのUBM特典だったらしい

 ステータス画面を他人に見せられるように夜ト神殿が操作するとその特典の概要を拙者に見えるようにしてもらった

 

 

 

【舞兎羽織 ピータン】

伝説級武具(レジェンダリーアームズ)

死に絶えるその時まで戦いに生きた白銀の兎の概念を具現化した伝説級の羽織。

身につければ獣並みの感覚を手に入れることができ、魔力を込めれば現世に空を駆ける兎を呼び出すことが出来る。

※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限なし

 

・装備補正

防御力+50

 

・装備スキル

《感覚強化》

空蹴兎(ピータン)

 

 

 

 どうやら防具としての性能よりも索敵能力の向上や召喚媒体として彼女に適応したようだ。

 彼女としては最終局面で【ピータン】と命を懸けた一騎打ちをした拙者を差し置いて特典武具を手に入れてしまったことに引け目を感じているらしいのだが、拙者としては妥当な評価だと思った。

 序盤にザシキワラシ殿の能力で【ピータン】を弱体化するからこそ、【ピータン】のHPを半分以上減らせることが出来たわけであるし、彼女が召喚した【式神】の協力がなければもう既に何回か死んでいたかもしれないのだ

 拙者に出来たことと言えば、最後に【ピータン】との直接対決で四割程HPを削ったくらいで挙句の果てにそれで倒しきることが出来ず、最終的に【ピータン】に止めを刺したのも夜ト神殿の召喚した【鵺】だった

 

 拙者だけでは確実にHPを削り切る前に死んでいたということを考えれば、夜ト神殿にUBM特典が送られることは自明の理と言えるだろう

 そう言ってみたのだが、彼女は納得がいかないようで依然として申し訳ない様子でこちらに向き合っていた

 これは何を言っても完全に彼女を納得させることはできないだろうと思った拙者は、一つ提案をすることにした

 

「もう済んでしまったことは仕方ないと割り切った方がいいでござるよ。そんなに気になるのでござれば【ピータン】の討伐で出る報酬を少し多めにもらえれば拙者は構わないでござる」

 

 【ピータン】は割と最近、手配書に乗る様になった〈UBM〉で被害者の多さからかなりの金額が賞金として出ていたはずだ。そのうちの7割程もらえれば拙者としてはむしろ多いくらいなので、この辺で妥協してもらえると助かる。

 ところが拙者の目論見と異なり、彼女は受け取った賞金に関しては拙者に全額を渡そうと考えていたらしくそれでは自分がもらい過ぎていると反発したのだ

 彼女の謙虚さに呆れるにも似た感情を覚えたが、こちらとしては武器や消耗品の観点で考えると彼女と拙者ではそれほど大差がないのだからある程度受け取って欲しいというのが本音だ。【ピータン】の攻撃を防ぐのに使った【呪符】の質と量をもとに考えると、確実に100万リル以上は消費しているはずだ。今の彼女はザシキワラシ殿を体の修理に専念させている関係上、彼女の収入源だった【呪符】製作は当分の間することが出来ない。今だってわざわざ【裁縫屋】でもないのに編み物の仕事をして収入を得ようとしているのだ。彼女の貯金はかなり少ないとみて間違いない

 なので報酬を山分けにするのが最善だと考えているところを彼女の意思を尊重してこちらが多めに受け取ろうとしているのだ。彼女が全く手を付けないという選択肢は拙者は元より持ち合わせていない。

 

 

 中々折れてくれない彼女に拙者はあまり使いたくはなかったが最終手段として理屈でなく感情に訴えかけることにした

 

 

「……拙者は、一緒に街まで生きて帰ってくれた仲間が初めて出来て、本当に嬉しく思っているのでござる。そんな拙者にとっての恩人である夜ト神殿が拙者と行動を共にしたばかりに金欠で苦しむのは見ていて心が痛むのでござるよ……。だから拙者のためにも、ここまで拙者に付き合ってくれお礼として少しは受け取って欲しいのでござる」

 

 

 彼女の性格上、拙者が困っていることを理解すればこれで折れてくれるはずだ。

 しかし、彼女はこちらの想像と異なり疑問符を頭に浮かべながら少し怒ったような様子で拙者にこう言った。

 

 

「もしかして不落丸さん。私とここでお別れしようとか考えてないですよね?」

 

 

 この返答に拙者は困惑してしまった。あれほどの体験をしておいて、まだ拙者と行動を共にしたいと彼女が言うとは思ってもみなかったからだ。

 こちらの事情なんて知ったこっちゃないと言わんばかりに彼女は言葉を続ける

 

 

「私だって覚悟を決めて行動したんです。ここで怖気づいて不落丸さんと別れるだなんて、そんな事私自身が絶対に許しませんよ。だから不落丸さん。覚悟しておいてください。私、絶対に貴方との約束を破るその時まで貴方の傍にいますから!」

 

 

 力強い覚悟が込められたその瞳に宿し拙者にそう宣言した彼女を見て、拙者は言葉に表せない思いが自分の中に芽生えると同時に胸のあたりにむず痒い何かを感じ始めた。

 この感覚が今は何なのかは分からない。でも、確かなことが一つだけあった

 

 

 

 それは、""拙者がもう一人ではなくなった""ということだ

 

 

 

 これからも彼女にはとても迷惑をかけていくだろう。

 だけど、どんなに苦しい思いをしても、彼女さえいてくれれば拙者は何度でも立ち上がれると今なら断言できる。

 

 未だに拙者を見つめ続ける夜ト神殿に拙者は右手を差し出しながら久しぶりに浮かべる自然な笑みを伴いながらこう告げる

 

 

「全く、頼もしい相棒が出来たでござるな……。こちらこそ、これからもよろしく頼むでござるよ。寝子殿(・・・)

 

 

 そして、彼女は迷わずに差し出されたその手を取り、力強く握り返した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———— 第一章~始まりの出会い~ ""完""

 

 

 

 

 

 

 

 







 ハイ、というわけで一先ず第一章まで完走することが出来ました。
 所々で悩むところもありましたが、ここまで書けたのは読者の皆さんの応援のおかげです!
 途中で色々とグダグダになってしまいましたが、ここまで拙作を読んで下さり本当にありがとうございました!


 そんで、当初の予定だとここで閑話いくつか挟んで二章に移ろうと思っていたのですが、今作で初めて戦闘描写を書いてから自分が戦闘シーンを書くのがすんごく下手だと自覚したことと、他の作品の日常?モノを書きたいなと思ったのでいったんデンドロから離れようと思います。
 多分、夏が明けるまでこっちで更新することはないと思いますが、エタったりはしないのでご安心ください。


 では、最後に改めてここまで読んで下さり本当にありがとうございました!!




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