プロローグをまだ読んでいない方はそちらから先に読むことをお勧めします。
さあ、主人公のチュートリアルの担当になる管理AIは一体誰になるのか、楽しみですね!!(すっ呆け)
今回の話には独自解釈をした公式設定がありますので、気になるようだったらご指摘してもらえると幸いです。
では、本編を始めたいと思います。
第一話 チュートリアルとウサギ様
□2043年7月15日都内マンション 野崎花子
今日、購入したてのVRゲーム<Infinite Dendrogram>を開封した私は、前に一度だけ読んだことがあるVRゲーム物の小説に出てくるダイブ用の機械と似たそれを見て、ついにこの時が来たと考えていた。
このゲームをプレイして何か異常な事態が起きてしまった場合を考えて、すでに都内にいる休暇中の兄に事情を話し午後5時頃にメールが送られてこなかった場合、駆けつけてほしいと言ってある。
玄関の扉もチェーンを二個ともつけたし、カギも閉めた。
窓も10階まで登ってくる不審者がいるか分からないが、鍵を閉めてロックもした。
セ〇ムにも入ってるから何か起きてもなんとかなるだろう。
安全対策も済ませたことだし、説明書も読み終え、心の準備もできた。
現在の時刻午後2時ちょうど。
「よしッ!やろう」
覚悟を決め、布団の枕元においたタコ足型のコンセントに電源を差し込み、装置を頭に付ける。
そして、若干震える手で起動ボタンを私は押した。
瞬間、私の視界は暗転した。
◇
(…………あれ、ここ、どこ?)
気が付けば私は、轟轟と火の音を立てて燃えている暖炉が手前にある、クッションがフカフカのアームチェアーに座っていた。
さっきまでいた和を感じさせるマンションの自室と違い、一昔前の西洋の洋館のリビングルームのような場所だった。
目の前にはお菓子が山のように積みあがった籠を乗せたこれまた年季が入っているテーブルがあり、それを挟んで向かい側におそらく自分が今座っているものと同じアームチェアーがあり、その上に
見ただけですごくモフモフしているのが分かるその毛並み、クリッととした小さな可愛らしい赤い目、そして、太々しい態度で足を組んだその姿。
…………いやだ、このコ、超かわいい。
ここに来てから状況確認に1秒、ウサギのぬいぐるみに関する評価を出すのに0.5秒。
そして、ウサギのぬいぐるみを抱きしめるのに0.4秒……
「ぎゅむッ!!!」
「モフモフだぁ~」
ログインから2秒とかからずにウサギのぬいぐるみこと、“管理AI十二号ラビット”を圧殺しかける私であった。
◇◇
「君、本当に反省してるの?」
「まことに、申し訳ありませんでした」
私は今、目の前にいるウサギ、管理AI十二号ラビットに正座をさせられている。
あの後、数秒ほどモフモフを堪能していたのだが、ラビットの繰り出したと思われる目にも止まらぬ速さの拳が顔面にクリーンヒットし、私がひるんでいる間に私の腕の中から抜け出されてしまった。
そして、息を切らせながら怒りに満ちた形相でこちらをにらみつけ、その後私に対してグレーゾーンギリギリの罵詈雑言を浴びせたのち自分が何者か、そしてここで何をするのかを
怒ったときの雰囲気がヤバそうだったので反射的に正座をしてしまったが、その様子も今思い返してみるとやけに可愛らしく、これがギャップ萌え(多分違う)かと場違いなことを考えていた
そして、そんなことを考えているのがばれたのか、訝しげにこちらを見てきたが
「はぁ、時間が勿体ないし、もういいか」と言い、それ以上私の醜態について何も言わなくなった
ついにゲームのチュートリアルが始める気になったらしい
しかし、私はいつになったら正座を止めればいいのだろうか?
完全にタイミング逃した感じがする。
「それじゃ、面倒事はサッサと進めてくよ。僕は忙しいからね。まずは描写設定だけど、現実視、3DCG、2Dアニメーションのどれにする?サンプル見せるからあんまり悩まないで、とっとと決めてよね」
…………口は悪いけど面倒見良いな、このウサちゃん。
まぁ、現実視の一択かな?
他のだと感覚狂いそうだし。
「現実視でお願いします」
「はい。じゃあ次は、プレイヤーネームを何にするか言いなよ」
「
ラビットの質問に対してノータイムでそう答える。
実はプレイヤーネームは昨日のうちに考えていたのです。
暇だったので。
名字の部分にはただカッコよさ追求しただけなので特に意味はなく、名前の方の由来は昔両親から実家で飼ってる猫と同じような体勢で私が寝ていたという話を聞いたのを思い出し、猫にかけた名前をつけてみたのだ。
我ながらセンスを感じさせるネーミングセンスだ。
「わかった。次、ここにあるパーツとスライダー使って自分のアバター作って。時間がかかりそうなら現実の姿をベースにできるから、そうするなら早くいってね」
ラビットはそう言うと、私の目の前にデパートの洋服売り場にでも置いてありそうなマネキンとたくさんの画面が現れた。
にしてもやる気がないわりに親切だな、このウサちゃん。
ついつい、いい子いい子したくなってしまう。
いかんいかん、早く作らねばラビットが不機嫌になる。
「それじゃあ、まず現実の私の姿を出してくれませんか?」
とりあえず、一番早く作り終えられそうな選択肢を選ぶことにした。
それに体の大きさとかが違うとある程度違和感とか残るだろうし、現実の姿をそのまま弄らずに登録とかしない限りは問題ないだろう。
ラビットは大人しく言うことを聞いてくれたようで、黙ってマネキンを現実の私の姿に変えてくれた。
そこから顔のパーツを少し弄り、髪の毛を桜色にし、髪の長さも胸元まで伸ばし、瞳の色は右目を金色、左目を赤色にして仕上げとした。
制作時間は約5分ほどである。
どこかのアニメのキャラクターを
「これでお願いします」
「終わったのならさっさとこの中から初期装備と武器を選んでもらえないかな。僕は君みたいに暇人じゃないんだから」
そう言って、どこから取り出したのかは分からないがカタログらしきものを私に放り投げた。
いい加減ラビットの不遜な態度にも慣れてきた私はこれと言って反応を見せずに渡されたカタログから、髪を留める白いリボンに、動きやすい黒の短パンとインナー、走りやすそうなスニーカー、指の部分をくり抜いた革の手袋、裾が膝下を隠すか隠さないかくらいの長さである桃色の着物とそれを縛る白い帯、そして最後に武器として木製の弓を選んだ。
弓を選んだ理由は、高校時代にアーチェリー部に入っていたこともあり、比較的扱いやすい武器だと思ったからである。
装備を選んだ基準は特にない。
自分のフィーリングに任せたらこうなっていたのだ。
何はともあれ傲慢なウサギ様の言う通りに武器はともかく、装備選びは女性にしては早く済ませたのだ。
少しは褒めてもらいたいものだ。
「決まりました」
「そう、はいどうぞー」
棒読みでそう言うと、ウサギの手でどうやったかは分からないがラビットが指を鳴らすと私の装いが先ほどカタログで選んだものになり、背中には木製の弓矢が装備されていた。
鏡がないから分からないが、今の自分の姿は中々様になっているのではないかと思う。
若干、ファンタジーな演出に感動していたところ、ラビットからまたしてもどこから取り出したのか、腰に付けるタイプのカバンと何かが入っている袋を投げつけられた。
「それが君のアイテムボックスと初期財産5000リルだよ」
どうやら袋の中身は硬貨だったたらしい。
しかし、どれだけの価値がこの硬貨にあるか分からないため聞こうとするも、ラビットはその話は終わったとでも言わんばかりに次の説明へと移行していた。
「あと、君がちんたらと装備選びをしてる間に〈エンブリオ〉の移植は終わらせておいたから」
「えっ!?あ、あの、それってどこに?」
いきなり自分の体に異物を移植された事実を知り、若干パニックになった私は反射的に質問をしてしまった。
「君の左手の手の甲にだよ。全く、自分で隠しておいて気付かないなんて手の焼けるプレイヤーだよ、君は」
そういえば、装備で手袋を選んでいたから丁度移植された部分が見えなかったのだろう。
手袋をめくってみると、確かに卵型の宝石が私の左手の甲についていた。
これが〈エンブリオ〉というものか。
しかし、これに気付けなかったのは果たして私のせいなのだろうか?
同封されていた説明書には「プレイヤーにはチュートリアル中にプレイヤーのパーソナルを分析し最適化した形に進化していく〈エンブリオ〉を提供します」としか書かれていなかった。
こんな説明では、〈エンブリオ〉がどんなものか私たちプレイヤーには知らされていないも同然なのだ。
そこら辺の気配りがこのウサギ様には足らないのだろう。
今後、彼がチュートリアルの担当になるプレイヤーは難儀なことになりそうだ。
まあ、可愛いから私は許すが
私がそんなことを考えながらボウっとしていると、待ちきれなくなったのかラビットは少しイライラした様子でチュートリアルを再開した。
「もう、気が済んだでしょ。次で最後の君の所属する国家選択だ。さっさと選んで冒険するなり、生産活動をするなり、ギャンブルに身を任せるなり好きにするといいよ」
そう言うと同時に、またしてもその小さなモフモフな手で指を鳴らすとテーブルに置いてあった菓子の山が消え、代わりに古びたスクロール型の地図が広がった状態で現れた。
その地図上の七か所から光の柱が立ち上り、その柱の中に街の様子を映し出していた。
おそらく、この光の柱が立っている国が、私がスタート地点として選べる国家なのだろう。
七つの光の周囲には、国の名前や説明が光の文字となって浮かんでいる。
白亜の城を中心に、城壁に囲まれた正に西洋ファンタジーの街並み
騎士の国『アルター王国』
桜舞う中で木造の町並み、そして市井を見下ろす和風の城郭
刃の国『天地』
幽玄な空気を漂わせる山々と、悠久の時を流れる大河の狭間
武仙の国『黄河帝国』
無数の工場から立ち上る黒煙が雲となって空を塞ぎ、地には鋼鉄の都市
機械の国『ドライフ皇国』
見渡す限りの砂漠に囲まれた巨大なオアシスに寄り添うようにバザールが並ぶ
商業都市郡『カルディナ』
大海原の真ん中で無数の巨大船が連結されて出来上がった人造の大地
海上国家『グランバロア』
深き森の中、世界樹の麓に作られたエルフと妖精、亜人達の住まう秘境の花園
妖精郷『レジェンダリア』
ここに来て一番の難問が待ち構えていましたよ
えぇぇ~、こんなの悩むに決まってるじゃないですか~
どれも魅力的で迷うことこの上ないですってこれ
しかし、時間かけるわけにはいかないのだ。
我らがウサギ様ことラビットの機嫌が時間経過で悪くなっていることは、その様子を見るだけで一目瞭然。
早く選ばなければ、……ありえないとは思うが勝手にどこの国家に所属するかを決められてしまうかもしれん。
最悪の事態を避けるために私は雑念を消し去り国家選びに専念することにした。
◇
数分後、なんとか二択まで絞ることができた。
刃の国『天地』と妖精郷『レジェンダリア』の二択である。
………今、どこからかは分からないが「お前マジかよ」みたいな視線を多数感じたのはきっと気のせいだろう。
『天地』を残した理由は私の今の格好からわかるように、和風テイストなモノが好みなことが理由である。
大〇ドラマは社畜生活の中でも録画したものを、時間を見つけてはよく見ていたくらい好きだし、学生時代は長期休暇中に家族ぐるみで聖地巡礼などもよくしたものだ。
日本家屋も海外の建造物に比べて落ち着いた雰囲気が好きで、自宅のマンションにも畳を持ってきて雰囲気だけでも味わおうとするくらいは好きだ。
そういう事もあって、拠点にするならここがいいなぁと、思ったわけだ。
しかし、ゲーム的にファンタジー要素を求めてしまうと『レジェンダリア』も捨てきれない。
なにせ街の映像を見て、ケモ耳族がいることを知ってしまったからだ。
ん?
他の種族に興味は無いのかって?
Answer:モフモフ以外に興味なし。
私はモフモフが好きだ。
実家で飼ってた猫と犬に「モフリン」と「モフモッフ」と名付けるくらいにはモフモフが好きだ。
そんな私がこの国に行ったらどうなるか。
「ケモ耳!!モフらずにはいられない!!!!!」
と、いう言葉をとある漫画で読んだことがある。(※間違い)
おそらく、その言葉通りに道行くケモ耳を愛で始めるだろう。
目についたケモ耳を一人残らずモフりたいと思う私を責めることができる人間が果たしてこの地球上にいるだろうか?
いや、いるはずがない!!
おっと、よだれが垂れてきた。
ふむ、しかし悩むな。
タイムリミット(ウサギ様の我慢の限界)も近づいているようだし、ここは後悔しないように初志貫徹、偽らざる私の本心をさらけ出すことにしようではないか。
「ラビットさん、決めました。この国にします。」
ラビットは案外いい子だと思ったので最初期のチュートリアルはある程度真面目にやっていたことにしました。
次の話からほぼ作者の妄想で出来たデンドロが始まります。
原作のキャラはほとんど出て来ないので予めご了承ください。
ちなみにこの主人公、この二つ国のうちのどちらかを選ぶかによって孵化する〈エンブリオ〉が変わります。
次回は設定の確認をする回です