幸運の子   作:水上竜華

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ちょっと早めの不意討ち更新です。

第四話です。


本編に入る前にご報告する事があります。
既にお気づきの方もいらっしゃったかと思いますが、私の活動報告に書いたように拙作に重大な設定ミスがありました。
下級職のジョブ取得可能数を間違えていました。
1デンドロファンとして一生の不覚です。
この場を借りて改めて謝罪いたします。

お詫びと言っては何ですが今回は2日連続投稿です。
………決してヒャッハァァァーしたわけではありません。
ええ、もちろん投稿するのが我慢できなかった訳でもありませんとも()。



第四話 心の在りか

□??? 【弓武者】夜ト神寝子

 

 重い瞼を開けるとそこには知らない天井があった。

 

 なんでこんなところに、と思っていると自分が南門の前で気絶したことを思い出した。

 おそらくあの後、どこかの施設に運ばれてきたのだろう。今私は清潔感が漂う布団に寝かされ、あんなに痛んでいた肩の傷も完全に治っていることに気が付いた。それに服も戦闘で汚くなった初期装備ではなく清潔な感じがする着物に着せ変えられている。

 

 辺りを見渡すと私と同じような格好で眠っている人が何人かいるのが見えた。一昔前の日本の病室みたいなところだなと、考えているとふと自分があの状況下で生き残ることができたことに気が付き、街に向かうまで感じる余裕がなかった実感が今更ながら出てきて、自然に目から涙がこぼれ始めた。

 

 

「あ、れ?涙が、止まらな、い、……んッグ!………!!」

 

 

 せき溜めていたものが一気に解放されたためか、私は嗚咽(おえつ)を混じらせ本格的に泣き出した。急に泣き出した自分自身に戸惑いながらも、泣くことをやめることはできなかった。その声が聞こえた所為か、私のいる部屋に和風版の看護師さんのような白い着物をきた女性が入ってきた。私が泣いてる姿を視界に入れると静かに私の布団の横まで移動してきて、黙って私を抱擁し優しく背中を撫でてくれた。

 少し驚いて私は体を一度だけ大きく震わせたが、それでも涙が止まらず数分ほどその状態で私は泣き続けた。

 

 その後何とか気持ちが落ち着いてきたところで、大の大人が知らない人に抱きつきながら泣いていたことに気が付き、羞恥心で顔を赤くさせながら「も、もう大丈夫です」と言いながら抱擁を解いてもらった。視界が開けてからわかったのだが、周りにいた人たちも私の泣いている声で起きてしまったらしく、皆微笑ましいものを見るような目でこちらを見ていた。

 

もう、穴があったら入りたいくらい恥ずかしくなり、さらに顔を赤くし俯いていると、私を抱擁してくださった看護師らしき人が微笑みながら話しかけてきた。

 

「お体はもう大丈夫ですか」

 

 どうやら、私が落ち着くまで待っていてくれたようだ。先程体の方に問題ないのは確認しているのですぐに無事を報告し、気になっていたことを聞くことにした。

 

「はい、おかげさまでもう何ともありません。それで、あの、質問なんですけど、ここはどこですか?」

「ここは、安穏京にある診療所の一つですよ。私はこの診療所の看護師の梅原といいます。先生があなたの目が覚めたらお呼びするようにとのことですので、別室に案内しますが、歩けますか?」

 

 起き上がってみたが特に体に異常はない。大丈夫なようだ。梅原さんに肯定の意志を示すために首を縦に振る。

 

「わかりました。でも、気分が悪くなったら遠慮なくいってくださいね。」

 

 そう言うと梅原さんは私の前を先導して先生という人のもとへ向かっていったのであった。

 

 

 

 

                     ◇

 

 

 

 

 その後、梅原さんに私のことを診察してくれた年配の男性、【医師(ドクター)】の足立先生のもとに案内された私は、初めに私が運ばれてきた時の状態についての話を聞かせてもらった。

 なんでも、私が倒れたときに駆けつけてくれた門番の人の話ではその時の私はかなり疲弊した様子で眠っており、体中すり傷だらけで左肩には腫れあがった痣ができていたらしい。伝承で知られる〈マスター〉と言えど、その辺の道端に捨て置くわけにもいかないので他のティアンと同じようにこうして診療所まで連れてきてもらったらしい。怪我自体は移動中に【巫女(シュライン・メイデン)】や【僧兵(モンク・ソルジャー)】などが使う治癒系の【陰陽術(オンミョウジュツ)】でほとんど治っていたのだが、精神的な疲労のせいか眠るように気絶したまま目覚めなかったのだという。【陰陽術】とは天地で独特な進化を遂げた魔法体系の一種である。

 

 体の状態は【医師】の持つ診察系のスキルで確認済みなので安心してほしいとのことだった。ちなみに、私は倒れた日から一晩眠っていただけだという。結構気になっていたことなので、二重の意味で助かった。もちろん、そこまで重症じゃなかったこととリアルの時間を心配してのことである。これが一日以上寝込んでいたらリアルの方で用事があった場合大変なことが起きていたかもしれないと思ったからだ。その辺の対策は施されていることを祈るばかりである。

 治療費は自分たちが直したわけではないのでお代はいらないとのことで、きれいになった私の初期装備を返してもらったあと、そのまま問題なく退院することができた。

 

 最後に足立先生と梅原さんから念を押すように、あまり無茶なことはしないようにと笑顔で言われたのだが、やけに威圧感があったため若干声を震えさせながら「は、はい!」と反射的に答えてしまったのが記憶によく残っている。この人たちは絶対怒らせちゃいけないタイプの人だと本気で感じた瞬間である。

 

 

 

 そして、今私は将都の冒険者ギルドにて昨日のクエストの報告と、換金アイテムとドロップアイテムの交換行った後にただあてもなく道を歩いていた。後から聞いた話だが私が受けたクエストは初心者ならパーティー単位で受けることが推奨されているものだったらしい。ソロの初心者にとってすこし敷居が高い難易度二のクエストであったことや昨日の狩りでの収穫もかなり多かったおかげか、7600リルまで稼ぐことができたので現在の私には懐に余裕がある。昨日の団子屋にまた行ってもいいのだが、とてもではないが今はそんな気分にはなれなかった。

 

 

 

 そうして歩いているうちに、昨日私が外に出るときに利用した南門が見えてきた。そこから先日の私のように門の前で唖然としていたり、興味深そうにあたりを見回している〈マスター〉たちの姿がいくつか見られたが、私はそれに対して特に何のリアクションもせずにその横を素通りして昨日私を運んでくれた門番の人たちにお礼を言いに行った。

 

 運よく昨日と同じ人が門番だったらしく、若干この世界の労働基準にブラックさを感じながら門の外にいるその人に話しかけるために内と外の境界線を踏み越える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、私の体は硬直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(足が前に、進まないッッッ!?)

 

 自分でもなぜかは分からないがこれ以上前に進ませることを体が拒んでいる。

 

 どんどん自分の心拍数が上がり、息も荒くなっていく。

 

 いつの間にかステータス画面に精神系状態異常【恐怖】が現れている。

 

 「誰かに攻撃でもされているのか」と思っていたのだが、後ろに引こうとするとあっさりと体が動き、門の内側に戻れた。

 

 荒い息も落ち着いていき、状態異常も治っている。

 

 まさか、と思い意を決しもう一度境界線を超えると、またしても先ほどと同じ状態になってしまった。

 

 そして足を戻すとまた先程と同じように元通りになる。

 

 この現象に心当たりがある私は顔を青くさせ、体から力が抜けてその場で座り込んでしまった。

 

(これって、まさか………)

 

 

 

 

 急性ストレス障害

 

 

 

 

 それが、私がフィールドに出ようとすると起こっていた現象の原因であるゲーム要素の関係ない、ただの精神病(・・・)である。

 

 急性ストレス障害とはPTSDの一種であり、命の安全が脅かされるような出来事によって強い精神的衝撃を受けることが原因で、著しい苦痛や生活機能の障害を引き起こすストレス障害のことである。具体的な症状は、特定のものや行動を見たり、とったときに過去の記憶がフラッシュバックすることで、強い精神的苦痛を伴ったり、無意識に何かを避ける行動をとるなどである。今の私は【角兎】に殺されかけた恐怖によってモンスターがいるところ、つまり街の外に出られなくなっているのだ。

 

 そして、私は門番の人が私の異常に気付いて駆けつけてくるまで、あまりにも現実味のない状態に放心し続けていた。

 

 

 

 

 

                       ◇◇

 

 

 

 

 

□都内マンション 野崎花子

 

 あの後、いろんなことがいっぺんに起こり過ぎて混乱してしまった私は門から足早に離れて移動、もとい逃走したのちにログアウトした。まさかゲームを始めてこんなトラウマを植え付けられるとは思わなかった私は、現実に戻ってもしばらく動かずに寝転がりながらぼうっとしていた。しかし、グゥ~と自分の腹の音が鳴ったところで現在時刻が夜の9時だと気付き、夕食の準備をすることにした。

 

 夕食はミートソース・スパゲッティで、私がソースに使うのはトマト缶で作った自家製ソースで、もの自体は冷蔵庫に保存しているのでパスタを茹でるだけでそう時間はかからない代物だ。ミートソースを温めながら、パスタを一人前の量だけ取り出し、沸騰している鍋の湯の中へと入れる。

 

 料理の途中で出来た空いた時間で携帯にメールが届いているのかを見ると何通か届いていたのを確認した。兄からのメールが時間をおいて二通、従兄と弟、そして両親から一通ずつである。兄からのメールの内容は、一通目は私が無事を報告したメールの返信で、二通目が謝罪のメールだった。何についての謝罪かというと実家の家族に私が<Infinite Dendrogram>をプレイしていることがバレたらしい。

 

 どうやら、実家に遊びに来ていた従兄にメールで私が<Infinite Dendrogram>をプレイしていることを教えたらしく、その時従兄が目の前にいた私の両親にそのメールの内容を話したらしい。従兄に悪気はなくただ話の種として出したそうだが、これに対する両親の反応は劇的だった。基本的にVRゲームに関していい印象を持っていない両親にとって一人娘が他に誰もいない場所でやろうとしていたことと、すでにプレイしていることを知り怒り心頭だったらしい。私は両親にこのゲームのことがバレれば大変なことになるだろうと思い黙っていたのだが思わぬところから情報が漏れてしまった。私の無事は確認できていることを兄から聞いたらしいが、もっと自分の体を大事にしなさいという内容のメールが父から、このメールを見たら即座に電話しなさいという、なんとも言えない威圧感があるメールが母から一通ずつ届いていた。

 

 これ以上待たせたら確実にまずいと思い既に茹で上がっていたパスタを皿に移し替えてから、電話入れたところ父と母からの説教地獄がスタートした。

 

 

 

 パスタが完全に冷めるまでお説教を電話越しに食らった私は電話が終わったあとに、若干ナーバスになりながら冷めたパスタに温かいミートソースをかけてちびちびと夕食を食べるのであった。

 

 ちなみに、兄がそんなメールを従兄に送った理由は、私から送られてきたメールから健康状態も悪くなってないし、いつもゲームの類には興味を示さなかった妹の私がこれからまたプレイするという旨を伝えてきたので、割と面白いゲームだったのでは?と思ったらしく、ゲーム好きの従兄にメールを出したのだという。私の事情を知っていた兄もまさか従兄が実家にいるとは思っていなかったらしく、ひとまず悪気はなかったことだけ伝えたかったのだという。まぁ、遅かれ早かれバレていたと思うので兄と従兄のことは許すことにした。

 

 夕食を食べ終えてから他のメールを確認する。従兄からのメールはプレイしてみての生の感想が欲しいので直接電話で話をしてほしいというものと、勝手に話してごめんねという内容だった。この従兄は私たち兄弟に過去に発売されていたVRゲームのひどさを伝えた張本人である。今ではそれに懲りてVRモノのゲームは最初にネットの反応を見てから購入することを決めたらしく、宣伝文句が明らかに怪しさ満点の<Infinite Dendrogram>もまだプレイしていないということだ。話しても問題ないだろうと思い自分が死にかけたエピソードを避けながら電話越しに感想を述べた。それから聞きたい情報が聞けて満足したのか、「ちょっと出かけてくるから切るわ」と、言い残し電話を切られた。

 

 どうやら、買いに行ったらしい。深夜営業のところに行けば何とかなるのだろう。

 

 最後に確認した弟からのメールはご愁傷様と一言添えられただけのものだった。何に対して言っているかは流れ的に一目瞭然である。

 

 

 

 使った食器を洗った後、改めて私がゲーム内で死にかけた時のことを思い出していた。本当のことを言えば、あの出来事に関してはもう思い出したくない。現に一部始終を思い出そうとすると顔から生気が失っていくのが自分でも分かるほどの恐怖体験だったのだ。好き好んで思い出したいわけがない。

 

 だけど、何かわかれば現状を変えるきっかけになるかもしれないし、怖いからと言ってこれ以上自分の思考を放棄することは恐怖を増長させるだけで何も解決しないと思い考えることにしたのだ。ここが現実なおかげか、少し冷静になることができた。冷静でいられるうちに、あの時は事態が急すぎて考えられなかったことについて、振り返ることにした。

 

 まず、あの【角兎】がどこから攻撃してきたのか、またどうして転んでいたのか。

 

 私があの白い影を見たのは攻撃を受けてからだったが、実はその直前に私は何かが上から落ちてくる気配を感じ取っていた。そこで少し体を右にずらしながら上を見ようとしていたところに攻撃が直撃したのだ。おそらく、頭上から私の頭をかち割るために奇襲を仕掛けてきたのだろう。奇襲が失敗した後に、私の頭部へ迷いなく攻撃してきたし、今までこの狩り方で他のティアンのソロ冒険者でも狩っていたのかもしれない。

 しかし、私が体を少しずらしたがために狙いがそれて左にズレてしまい一撃で殺せなかったのだ。

 

 

 

 こう考えれば転んだことも説明がつく。

 

 

 

 私が致命傷を避けたことで動揺したのか着地に失敗してしまい、私がナイフを抜き取る時間を与えてしまったと、いったところだろうか。

 全て推測ではあるがそうとしか思えなくなっていた。

 

 もしこの通りであるなら、今回の件は私が頭上を警戒していなかったのが悪いのだが、そもそも【角兎】に木を登る習性があることを知らなかったことが大きいだろう。事前情報にはなかったので、木に登れるウサギなんてモノを想定して警戒するのは狩りの初心者には厳しい要求だ。これがデフォルトのモンスターだったのなら、あの森の入り口付近でできるあの討伐クエストの難易度が高くなっているのも納得できる。

 

 あんなのを四六時中警戒しなくちゃいけないだなんて一人じゃまず無理だ。交代でやらなくちゃまず長時間狩りなんてできないだろう。

 

(………意外と綱渡りな狩りをしてたんだな、私)

 

 と少しだけ、最後の最後になるまで強襲されなかった自分の幸運に感謝していた。森の入り口近くで襲われたから怪我をした状態で他のモンスターと戦うのを避けることができたわけだし、もう少し進んだ先だったらこうもうまくいかなかっただろう。……まあ、襲われないことがベストだったのだが

 

 こうして考えてみると意外と運の要素が強すぎる生還だったのがわかる。

 

 他にも疑問に思うことはあるのだが、やはりあの時のことを考えると精神的な負荷がかかるせいか、疲労がかなり溜まっている。今日はもう寝よう。

 

 

 

 こうして、私の怒涛の一日は終わりを告げたのであった。

 

 




予告通りに重たい展開にしてみました。

今作ではデンドロをプレイした人の中でもリアルすぎてトラウマになってしまったプレイヤーの一人をピックアップしてみました。実際にトラウマ持ちの人に対して不謹慎な内容かもとは思いましたが思い切って描写を書きました。もちろん、主人公にはプレイは続けさせますのでご安心ください()。

VRモノのゲームでトラウマを持つ人の描写ってあまり見かけなかったので書いてみましたが、書いてるうちに万人受けしないし盛り上がりに欠ける内容だなと思いましたね。これは皆さん書かないわけです。

作者は基本的にアホなので主人公のトラウマの乗り越え方はかなり雑です。ぶちゃっけエンブリオを出す前座的なエピソードなのであんまり細かいことは考えてません。

次回は主人公が自分なりに頑張り始める回です

あと蛇足ですが、主人公に傷を負わせた【角兎】は特異個体()です。普通の個体は木の上から脳天粉砕攻撃は仕掛けてきません。
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