IS/Grand order/after   作:疾走する人

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シノノノタバネ

いきなり深い意識の底から引っ張り出されたゲーティアの視界には、衝撃的な光景が映っていた。

 

「なんだ、アレは…」

 

かすれた声で呟くゲーティアの目線の先には、燃え盛る建物が入っていた。

 

だが、ゲーティアを真に驚かせたのはそんな物ではない。

 

建物の上を飛んでいる(・・・・・)二人の人間と、建物の前で建物を覗き込むような姿勢を取っている八本の足を持った鎧だった。

 

建物の炎に照らされながらもゲーティアは考える。

 

今、自分の目の前に存在するこれは何か。

 

空中に飛んでいる様子と、人が纏っている鎧らしき物から見て彼女らが魔術を行使している可能性はある。

 

だが、魔術師がこんな青空の元で、しかも空を飛ぶような派手な魔術を行使するだろうか?

 

神秘は秘匿すべきとされる魔術師のあり方からは完全にかけ離れている。

 

ならば、根源に至る為でもなく神秘を追求する為でもなく、ただの魔術使いだろうか?

 

いや、魔術そのものを重要視する魔術師とは違って魔術の使い道を考える方に努力する魔術使い程度には飛行の魔術など理解もできないだろう。

 

分からない。

 

全く、自分の目の前でなにが起こっているのかさえも。

 

ゲーティアは目の前の光景に、正確には目の前で人間が起こしていることを理解できなくなった自分にため息を吐いた。

 

千里眼を失っている。

 

その事実にゲーティアがたどり着くのは、そう難しい事ではなかった。

 

千里眼を失っただけではない。

 

人理焼却を行った時と比べれば、魔力は十分の一にも満たない。

 

あの時のような万能感もなければ、宝具を展開するほどの力もない。

 

精々、今の自分では自分の魔力を熱源に回して第三宝具のほんの一部を展開する事しかできないだろう。

 

もっともそれだけでも星が鍛えた聖剣は優に上回れるほどの火力があるのだが、いかんせん英雄王の乖離剣などの桁違いの力を持つ宝具には勝てないだろう。

 

そもそも、なぜ自分は存在しているのか。

 

それさえも分からない今のゲーティアにとっては、万全とはとても言い難いような状況で見知らぬ存在に立ち向かうことはほぼ不可能だった。

 

ゲーティアは一旦建物の方向を見るのを止めて自分の体を見下ろす。

 

褐色の肌に白い髪。それを確認した時点でゲーティアは自分がどんな()を使っているのかを察した。

 

「魔術王ソロモン、か…」

 

ソロモンの物である。

 

長い髪の毛が短くなっていたり、腕に入れていた魔術式が消えていたりするのは不可解ではあったが、それでもその体は間違いもなくかつてゲーティアが潜んでいたソロモンの体であった。

 

しかも、死体に潜んでいたあの時とは違って、ソロモンの肉体は生を受けており、その上ゲーティアの意識もソロモンの肉体と因果の鎖で結び付けられている。

 

意味の分からないことのオンパレードにゲーティアは死んだ目をした。

 

ああ、これが現実逃避、というやつか。

 

知りたくもなかった現実逃避の感覚を覚えながらもゲーティアは今一度建物の方に目線を向けた。

 

「アレは…」

 

ゲーティアの目線の先で、白色の建物の屋根が弾け飛んだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「クソッ…」

 

篠ノ乃束は、焦っていた。

 

先日、暇つぶしで人工衛星をハッキングして地上の様子を覗いていた時に見つけた一つの白い建物。

 

その建物からは数人の少女と数人の白衣を着た男たちが出たり入ったりしていた。

 

少女たちが建物に入ろうと建物から出ようと、それを繰り返そうと束から見れば凡人が何かやっているな、くらいの認識しか持てない。束がこの建物に侵入することになった原因は、その奇行とも言えるような行動を彼女たちがすることになった理由だった。

 

束が人工衛星で見物しているとも知らずに少女たちがやっていたことは、ISーインフィニット・ストラトスと呼ばれる兵器の調整であった。

 

いや、やらされていると言った方が正しいか。

 

別に他人が何をしていようと関係ないが、束にとって娘とも言えるような存在が使われているとなっては流石の束でも興味を持たされる。

 

ましてや、イヤイヤやっている、といった雰囲気を出しながらISを操縦する彼女たちに束の興味が向けられるのは当然のことだった。

 

そして興味本位で建物のサーバーをハッキングして束が得た情報は、束の怒りを買うには十分な物だった。

 

束の目に入ってきたのは、非合法な人体実験。

 

ISの適性を上げるために行われる大量の薬物接種、拒絶反応が出ようと構わずに行われる改造手術。中には生体同期型IS、なんてものもあった。

 

まるで束を怒らせるために存在しているような実験の数々。

 

束がブチ切れるのは、当然とも言えた。

 

そして建物のメインコンピューターをハッキング。中に侵入して設備を全て壊し、唯一の生き残りであった少女を救出したまでは良かったが。

 

建物を出た束の目の前に現れたのは、三機のIS。

 

今にも攻撃してきそうであった三機を視界に収めた束は、一旦建物の中に避難したのだった。

 

ギリリ、と束は奥歯を噛み締める。

 

考え直してみれば、違法な人体実験を行っている施設が実験体を外に出してISを操縦させる、なんてことをやるはずがない。

 

誰かに見られるリスクも厭わずにそんなことをやってのけ、束が建物内に侵入した際には全く警備も存在せず。建物から出た瞬間に、三機のISに取り囲まれた。

 

この結論から導き出されることは――。

 

「嵌められた、ってことか…!」

 

ギリリ、とさらに強く束は歯を噛み締める。

 

うかつだった。

 

自分と凡人とではあまりにもスペックの差がありすぎて、自分とまともに張り合えるのは親友である織斑千冬くらいなものだと思っていた。

 

考えてみれば当然だったのに。

 

人類は、凡人であろうと天才であろうと自分よりも格上の相手を相手取る時には策を練って対抗する。

 

そんなこと、自分はとっくに知っていたはずなのに。

 

ムカつく。

 

凡人ごときが自分に対抗しようと思いあがれることが。

 

ISをこんな犯罪行為に使うクズが。

 

束は自分の腕の中ですやすやと寝息を立てる銀髪の少女を見つめる。

 

こんな幼気な少女の安心さえ保証できない自分が、一番ムカついた。

 

「ふぅ…」

 

燃え盛る建物の中で束はため息を吐く。

 

「一かバチか。命でもかけてみよっかなぁ…」

 

炎に照らされたその横顔は苦し気で、それでいて自信に満ち溢れていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

建物をぶち破った物。

 

それは、建物を取り囲んでいる三機のISとは違い、明らかに無人に見えるような物だった。

 

「IS、ね…」

 

「篠ノ乃博士は一人で研究施設に入っていったわ。恐らくパイロットを連れてきてはいないはず。つまりアレは…」

 

「無人機、ということだな。」

 

ISではありえない無人機。

 

それを目にしても三人は一切恐れを抱くことはない。

 

むしろ好戦的な笑みを浮かべるほどだ。

 

「M、オータム作戦開始よ。篠ノ乃博士が無人機を使ってくることなんて完璧に予想の範囲内。アレを倒せばコチラの勝ちよ。」

 

「ああ。私がビットで一気に狙撃する。」

 

「それじゃあオレたちは回避した無人機を集中砲火、だな!いやー、わざわざ秘密結社の連中と交渉してまで高火力のビーム兵器を入手しておいて良かったぜ!」

 

「二人とも、浮かれるのは良いけど油断はしないように。味方がいないとは言っても相手はあの篠ノ乃束。世紀の天災なのですからね。」

 

「「了解。」」

 

三人は一斉に獰猛な笑みを浮かべて銃を構えた。

 

「行け!」

 

まずⅯと呼ばれた少女がビットで無人機に狙いを付けた。

 

建物の炎をビームのピンク色が染める。

 

音速など比べ物にならないほどの速さを持ったそれを、無人機は何でもないかのように躱して見せた。

 

だが、そこまでは彼女らの想定範囲内。

 

ISのコンピューターで計算していた場所に無人機が移動したのを確認した瞬間、オータムと呼ばれた女と金色の髪を持つ女はその大きなライフルの引き金を引いた。

 

「よし!」

 

案の定、とでも言うべきか。

 

先程Ⅿがビットから発射したビームとは比べ物にならない程の太さの青い光線が二つ、無人機に着弾した。

 

「とりあえずは無人機の撃破に成功、ね…」

 

いくら天災篠ノ乃束のお手製である高性能な無人機でも特別製の高威力ビーム兵器を二つも食らってなお稼働することができるほど高性能ではない。

 

その黒い装甲をドロドロに溶かし、左腕と両足を失った無人機を見て金髪の女、スコールはホッとため息を吐いた。

 

だが、まだ作戦は終わっていない。むしろ、ここからが本番である。

 

そう気合を入れ直すスコールと無人機の撃破に成功してホッと胸を撫でおろす二人の前で、また一回光が煌めいた。

 

「ッ!?戦闘態勢に戻って!」

 

ISのハイパーセンサーが捉えた熱源反応にスコールは喝を飛ばす。

 

スコールの声に反応し、二人もすぐさま警戒態勢に入った。

 

そして、そのわずか二秒後。

 

建物内から人参が、飛び出してきた。

 

だが、正確には人参ではない。

 

篠ノ乃束特製、人参型超高性能ロケット。

 

その出力は並みのロケットの比などではない。

 

物凄い速度で上空に上がっていくそれを見て、スコールは二人の仲間に叫んだ。

 

「狙撃して!あのロケットは篠ノ乃束博士お手製のロケットのはず!少しくらい狙撃したって中にいる篠ノ乃博士を殺してしまう事なんてないわ!」

 

「了解!」

 

スコールの声にⅯはいち早く反応してそのスナイパーライフルを構えた。

 

「おう!」

 

それに遅れてオータムもスナイパーライフルを構える。

 

そして、二人は同時に引き金を引いた。

 

一瞬、空に伸びていく光線。

 

その直後、上空で黒い煙が上がった。

 

「やった!」

 

篠ノ乃束を捉えることができる。

 

その事実にスコールは口角を上げる。

 

中破したロケットが、振ってきた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

目の前で人参型のロケットが落ちてくるのを、ゲーティアは冷めた目で見ていた。

 

冷めたゲーティアの視線に浮かんでいるのは、諦めと呆れの入り混じった物。

 

ここでも、人間は争う事しかしないのか。

 

ゲーティアの心にあるのは、そんな失望のみだった。

 

藤丸立香とマシュ・キリエライトに敗北し、「感情」という物を知れて火照っていた心。

 

それが、急速に冷えていくのが自分で感じられた。

 

ゲーティアの目線の先で、墜落した人参型ロケットの中に人影が見える。

 

どんな所でも、人間は争うしかないのだろうか。

 

自分が作り出した特異点の中でも、人理を消した2016年でも。

 

国家、都市、村落、個人。

 

規模の違いこそあれ、人間たちはいつの日も争う事しかしなかった。

 

幻だったのだろうか。

 

反発し、敵対し合うこともあるであろう英霊たちをまとめ上げて一つの集団にしてのけたカルデアの連中は。

 

夢だったのだろうか。

 

一人でいようと二人でいようと変わらずにお互いを思い続け、どんな場所でも繋がろうとしたあの二人は。

 

寂し気に細められたゲーティアの金色の目に、人参型ロケットから出てきた人間が映った。

 

「--」

 

言葉を失った。

 

本当に、何も言うことができなかった。

 

そこにいたのは、一人の女。

 

いや、一人と言うには語弊がある。

 

正確には、一人の女とその腕に横抱きにされている、俗に言うところのお姫様抱っこをされている一人の少女。

 

立っている方の女は淡い赤紫の髪と瞳、煤けていても白いと分かる程の白さの肌、それに完璧な黄金比と言えるであろうプロポーションを持っていた。

 

だが、ゲーティアを絶句させたのは、その見た目の美しさではない。

 

ゲーティアの心を揺さぶったのは、その何かを守ろうとする、まるで藤丸立香(仇敵)のような、何かを守ろうと決心した目だった。

 

「フーハハーー」

 

ゲーティアの口角が愉快そうに、嬉しそうに上がっていく。

 

「あら篠ノ乃博士、その腕にいるのはこの施設の実験体でしょうか?」

 

ゲーティアの視線の先で、スコールが問いかけた。

 

「だ…だったら何だって言うんだよ、凡人…?」

 

脱出手段を潰され、最早逃げられる可能性などないにも関わらずその瞳は全く戦意を失ってはいない。

 

ゲーティアの笑みが、また深くなった。

 

「いえ、ここの研究者によるとその子供は何でも生体同期型ISの実験体なんだとか。失敗作とはいえ、そんな物を持っていかれては困りますわね…。」

 

スコールは余裕の笑みを張り付けながら束の腕の中の銀髪の少女に視線を向けた。

 

その視線から少女を守るがごとく、束は少女を抱く腕の力を少し強めて体を前に出す。

 

「だったらこの子に何をするつもりなんだ?」

 

「ええ、勿論実験の方に戻っていただきたいと考えておりますわ。何でも実験体は全個体廃棄らしいと聞いていたのですが、その生き残りでも人体実験の予行演習くらいには使えますので。」

 

小馬鹿にしたようなスコールの視線を受けて束は声を荒げる。

 

「おい凡人、お前ら、この子にまた実験なんて受けさせるつもりなのか?」

 

束の問いにスコールは何を言っているのだ、とでも言いたげに首を傾げる。

 

「はて、調べでは篠ノ乃博士は自分と身内以外には全く興味を持つことのない人物だと聞きましたが…。もしや下らない同情でもしたのですか?」

 

黙って睨みつける束を鼻で笑ってからスコールは自分の後ろにいる二人に声をかけた。

 

「未だに篠ノ乃博士には抵抗の意思があるようだから、どうせなら希望をへし折ってしまいましょう。博士が腕に抱いている実験体、ここで殺してしまった方が良いでしょうね。」

 

「お、お前…!」

 

束の怒りの視線を心地よさそうに受け流しながらスコールは束の腕から少女を取り上げようと腕を伸ばす。

 

そしてーー。

 

「ッ!?」

 

思い切り、後ろに飛びずさった。

 

スコールが飛びずさったコンマ一秒後、スコールが先程まで立っていた場所には一人の男が立っていた。

 

束の視界に、白い髪と褐色の首元、どこかの民族衣装のような服が映った。

 

「…何者かしら?」

 

いきなり目の前に現れた男、ゲーティアを見てスコールは眉を顰める。

 

さっき、勘で後ろに飛ばなければ恐らく自分は吹き飛ばされていたであろう。

 

そのことを感じ取っているからこそ、スコールには目の前の男が理解できなかった。

 

なぜ、男なのにISにも匹敵するような速度を出せるのか。

 

しかも、見たところISを纏っている様にも見えない。

 

スコールがゲーティアを警戒するのは、当然のことだった。

 

「いやなに…」

 

そんなスコールの様子を気に留めることもなく、ゲーティアはフッと笑みを浮かべる。

 

そして、左腕をスコールの方向に突き出した。

 

「通り過がりのビーストⅠだ。最も、今はそんな力などないが、なッ!」

 

「二人とも、上空に!」

 

ISのハイパーセンサーにも熱源反応などない。

 

それでも、スコールはなぜか生命の危機を感じて。

 

「--」

 

彼女が仲間に声をかけた瞬間。熱が、通り過ぎた。

 

「ッ、グゥゥゥゥゥゥぅ…」

 

一気にスコールのシールドエネルギーが百五十程減った。

 

Mとオータムはかろうじて上に急上昇したから良いものの、その表情は驚愕に彩られている。

 

そしてそれは、篠ノ乃束も同じであった。

 

「お、お前…」

 

自分の目の前でたった今起こった、ありえない現象。

 

それに対する純粋な驚愕の声を聞いてゲーティアは振り向いた。

 

「少し待っていろ。すぐに終わらせる。」

 

束の返事も聞かずにゲーティアはもう一度スコールたちの方に振り返った。

 

「ーー爆ぜろ(・・・)

 

たったそれだけ。

 

大がかりな魔術の詠唱などなく、ただ単に省略されまくっただけの簡易な魔術。

 

そんな物でも、ゲーティアの魔力量が付与されればAランクの魔術でさえも簡単に超えることができる。

 

「なッ…」

 

「なん…だと…?」

 

今度はⅯとオータムを爆心地にして。

 

巨大な爆発が、起きた。

 

「やった、か…?」

 

空に咲く巨大な炎の花を見てゲーティアは目を細める。

 

だが、まだ終わっていない。

 

炎の中からビームが撃たれる。

 

「いや、まだか(・・・)…」

 

まだか、の一言を一瞬で魔術の呪文に置換してゲーティアは透明な防護壁を張った。

 

だが、ビームはゲーティアに当たることなくクイッと下に曲がる。

 

そして、土煙を巻き起こした。

 

 

次第に土煙が晴れてゆく。

 

「逃げられた、か…」

 

目を細めてからゲーティアは振り返った。

 

そこには、ポカンとした顔で座っている束が。

 

さて、とりあえずは、この女をどうしたものか。

 

ゲーティアは現実逃避している束を現実に引き戻すため、軽く束の頭にチョップをかますのだった。




というわけで、ゲーティアチート。

亡国企業の皆さんはかなりのクズ、という設定で。亡国企業好きの皆様には申し訳ありません。
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