転生したから主人公ハーレムを見届けるつもりだったんだが   作:roll

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初めまして、rollと言います。
初投稿ですので、暖かい目で見ていただけると幸いです。


01 始まりの夜

――人間の背丈ほどの大きさで、四足歩行、鋭い爪と獰猛な牙を併せ持つ異形の怪物を前にして、その女の子は恐れの感情など全く見せずにいた。

艶のある黒髪に、整った顔立ち。瞳は透き通るほどに美しい。

そして手に持っているのは日本刀。およそ現代の日本人が持っていて良いものではない。

怪物は彼女にその鋭い爪で襲いかかる。彼女は爪を必要最低限の動きで回避し、怪物の首を動体視力に自信のある俺が視認するのがやっとの速度で切り落とした。

怪物は崩れ落ちた後、ピクリとも動かない。それを確認した彼女は俺のいる方へと振り返ってこう言った。

 

「怪我は…ない?」

 

 

 

今思えば、なぜ俺はここにいるのだろうか?学校から帰り、疲れた身体を癒そうとベッドに飛び込んでそのまま寝たはずの俺は、目が覚めると人気のない夜の公園のベンチにいた。

それだけでも意味がわからないというのに、目の前には見たことのない四足歩行で人の背丈ほどの大きさの異形の怪物。こちらに敵意を向けていることは一目瞭然だった。たまらず逃げ出した俺をソイツは追ってきた。

5分ほどだろうか、その間全速力で走り続けていたが限界だった。異形の怪物を前に尻餅をついてしまった。

俺は死んでしまうのだろう。そう直感した。

だが、怪物が俺に飛び掛かろうとしたとき彼女は現れた。

 

 

 

「あ、ああ。あんたのお陰だ。助かった」

「そう。じゃあ付いてきて」

 

尻餅をついたままだった俺は、一瞬意味を理解できなかったが急いで立ち上がって小走りで前を歩く彼女に追い付く。

 

「…これどこに行くんだよ」

「支部」

「支部って、なんの?」

「陰陽師連合」

「んだよそりゃあ」

「妖怪を、退治するの」

 

俺が質問しても、彼女は先程の戦闘での動きと同じように、必要最低限のことしか伝えない。

まるで感情を持たぬ機械のようだ。

…陰陽師連合?どこかで聞いた名だが、はて、どこで聞いたものだったか。

それに、自分でも驚くほどに、俺は落ち着いている。一度死にかけたというのに、だ。

本来あのような生物は実在しない。魑魅魍魎の類だと彼女は言うが、そんなものは創作物の中にしかいるはずのないものだ。

目覚めたら見知らぬ場所。魑魅魍魎。陰陽師。美少女。

この四つのキーワードを考慮して考えた結果、俺は1つの仮説を立てた。

 

さて、ここで質問だ。神様転生、というモノを知っているか。そう、ライトノベルなのでよくあるあれだ。この状況はまさにそれと全く同じなのだ。そうすれば、すべてに結論がいく。

そして、神様転生には二つのパターンがある。全く見知らぬ世界へ行くパターンと、既存の物語の世界へ行くパターンだ。陰陽師連合、黒髪ロングの日本刀を持った美少女。

ほぼ確信に近いこの仮説を実証するために、俺は彼女にもう一度問いかける。

 

「あんた、名前は?」

「八坂紅葉」

 

…どうやら、俺は生前少しだけ読んだ事のあるライトノベルの世界へと来たそうです。

 

 

 

そのラノベの内容ははっきり言って細部まで覚えていない、とだけ言ってもおこう。今のところはっきりしているのはこの日本は陰陽師と妖怪が対立していて、妖怪は人に害を与える。一般人に陰陽師連合の存在を知るものはほぼいない。陰陽師としての才能は家柄なども関係してくるが、別に全く関係のない人間でも才能がある者もいる。そして、主人公最強のハーレムモノだったということぐらいだ。 

ならば、目の前で料理をしている彼女は誰なのか。答えはヒロインだ。一般人だった主人公が、陰陽師連合に入ることとなった原因、とでも言うのだろうか。さっきの俺と同じように襲われた主人公は、彼女に助けてもらい、陰陽師連合に入ることとなった。

記憶が確かならば、妖怪に襲われた人間には二つの選択肢がある。組織の存在を公にしないため記憶消去の後、またいつも通りの生活を送るか、陰陽師連合に入り、妖怪との戦いに身を投じるか、だ。才能が無い者の場合は必然的に前者となる。つまり実質選択権があるのは才能のある者だけだ。

俺は、結論をいうと後者だ。

――いや、そりゃあ仕方ないじゃん。才能あったんだし。そして何より、主人公ハーレムを外から眺めるのも楽しそうだし。

それに辺り、一番面倒だったのが、俺の身元が分からないと言うことなんだが、そこはそれ。陰陽師連合の支部での知らん大人の男二人に囲まれた事情聴取では記憶喪失で気付いたらここにいた、という設定にしたところ、妖怪に捕らえられていたのでは?などという勝手な解釈によって問題にはならなかった。その場合は、戸籍と新たな家が与えられるそうだ。今日のところは救出者である八坂の家で保護してもらい、明日からは新居での生活となるらしい。 

八坂は両親を妖怪に殺され確か独り暮らしだったはずだ。つまり、このマンションには俺達二人だけ。

おいオッサン年頃の男女二人を一緒の部屋で過ごさせることの危険性分かってんのかよ。間違いでも起きたらどうすんだよ。

 

「ご飯、できたよ」

「おお、すまんな…泊めてもらうだけでなく飯ま、で……」

 

俺の言葉が段々と小さくなっていくのを不思議に思ってか、彼女は小さく首を傾げる。

 

「いや、すげえ美味そうだな、と。料理得意そうだもんな、あんた」

 

目の前に置かれたのは、炒飯だった。単純で割りと簡単な料理だが、米の一粒一粒がバラバラになっており、全体に味付けの差が無いのが目に見えてわかる。

そういえばそうだった。当然と言えば当然なのだが、独り暮らしが長い彼女はそれなりに家事が得意な設定だった。

 

「…早く食べないと冷めるよ?」

「いただきます…」

 

スプーンで掬って、口に運ぶ。

うん、美味い。普通に美味い。ご飯が全くベタついてなくて、パラパラになっている。たまには料理をやっていた俺だが、これが案外難しいのだ。

 

「フゥ…ごちそうさま。美味かった」

「そう、良かった」

 

それだけ言って、八坂は食器を片付け始めた。

 

「俺も手伝おう。ずっと見てるのも悪いしな」

「え、別に、いい」

 

遠慮から来る言葉なのか、よく分からないが、八坂の言葉を聞いていないふりをして俺は立ち上がって食器を片付け出した。

ホントにやることなんかねぇしなぁ。料理は任せきりだったからこれぐらいはしないと。

 

「手伝わせて、ゴメン」

 

食器を洗っていると、唐突に八坂がそう言った。

 

「なに謝ってんの?泊めてくれるんだから、これぐらいは当然。むしろ八坂はやらなくていいんだぞ?」

「そういうものなの?」

「そういうものなんだよ」

 

そうだった。幼くして両親を亡くした彼女は、人の温もりや、優しさ、家族というものを知らないんだ。

つまり、彼女は世間一般の女子高生とはズレてる。

 

「これは対価なんだよ。俺みたいな身元不明な男をこの家に泊まらせる代わりに、俺は食器を洗うのを手伝う。まあ、流石にそれじゃあ釣り合わないから明日の朝飯は俺が作ろう」

 

まだ納得していない八坂を無理矢理納得させる。

いやぁ、ホントすげぇわ、八坂。何がすごいって今日あったばかりの、それも男を家に上げて泊まらせるその精神が。

 

「…そういうことなら、お願いします。えっと…」

「ん?…ああ、名前言ってなかったな。佐久間楓だ。よろしく」

「では、佐久間さん、お願いします」

「任されました」

 

こうして、俺は新たな世界での新たな生活を始めることとなった。

取り敢えずの目標は、深く干渉せず主人公ハーレムが出来るまで大人しくしておくこと、だろうか。

 

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