転生したから主人公ハーレムを見届けるつもりだったんだが 作:roll
深夜の住宅街。妖怪が、蔓延る時間帯に、人気の無い場所。こんな時間に一人で出歩いていれば魑魅魍魎の餌食になる、まさに狩場。
ウチの支部が受け持つ担当地域の中でも、割りと仕事の多いここは、強い妖怪こそあまりでないが気を抜けば被害者が出る。この世界に転生して1年。俺は転生特典というやつか、はたまたセンスがあったのかは知らないが、陰陽師としての実力を伸ばしていった。
「だからまあ、そろそろ単独で見回りしてもいいと思うんですが。どうですかね、八坂さん」
隣でベッタリ引っ付いて歩く彼女にそう問いかける。が、ハッキリ言ってそこまで意味のある行為ではないと自覚している。
「ダメ。また無理して死にかけるようなことがないように私が見張る」
「いや、あのレベルの妖怪は滅多に出ないって」
これである。死と隣り合わせであるこの職場において、多少の怪我はそれこそ日常茶飯事だ。だが、運悪くも俺は一度、妖怪の中でもトップクラスの存在と遭遇してしまった。
俺は為す術もなく半殺しにされ――それからというもの、彼女は俺にたいしてかなり過保護になってしまった。
「それに、そろそろ俺の方が強いんじゃないかなぁ…なんて」
「身体能力は私の方が上」
「アッ、ハイ…」
これは不味い。非常に不味い。別に、迷惑と思っているわけではないのだ。だが、原作入りしていない状態で他のヒロインと仲が良くなった場合、原作通りに行かなくなる。最悪、主人公がこの陰陽師連合に入らない可能性だってあるのだ。
「そもそも、土蜘蛛相手にその武器で挑むのは無謀だよ」
「いやぁ、やっぱ無理だったか。銃じゃあの皮膚は堅すぎたわぁ。流石、百鬼夜行の大幹部。強すぎたな」
その癖動きは速いんだからなぁ。ありゃ勝てん。死傷者は出なかったが、建物の被害は結構ひどかった。連合によって日が出る頃には元通りだったが。軽く恐怖を感じるよな、あれ。ちなみに、俺の武器は火器全般だったりする。
「やっぱり、楓も私と同じ刀の方がいいと思うよ」
「無理だなぁ。何度かやったが、才能がない」
月日が経てば、心の壁というものも無くなってくるのか、気付けば八坂は俺を下の名前で呼ぶようになった。理由は知らないが、最初の頃より見せる表情も多くなった気がする。これも俺という存在が介入したことによる変化なのだろう。
「?どうしたの?」
どうやら無意識の内に、八坂の顔を見つめていたらしい。
「いや、なんでもない。それにしても、仕事がねぇな」
「…その方がいい」
「違いないな」
急な話題転換だったが、彼女は別に気にした様子もないようだ。
辺りを見回すが、魑魅魍魎どころか人の気配すらしない。時刻は午前3時。流石にこの時間帯に外を出歩く人間はいないだろう。話している内に止まっていたのか、景色は全く変わっていない。
…そろそろ、交代の時間だ。明日は休みだと言っても、こんな時間まで起きておくのは学生には害だろう。さっさと切り上げて引き継ぎして寝るに限る。
ふぁあ…と、小さく欠伸をしてそのまま歩き始める。当然、八坂も後ろをついてきているが、少し俺の方がスピードが早いのか、少しずつ差が出来てくる。
「もう交代?」
何故か少し名残惜しそうな彼女の言葉を聞いて、歩を止める。
「おう。さっさと帰って休もうぜ」
彼女が追い付き、横に並んだ後でまた歩を進める。次は、彼女のスピードに合わせて。
**
午後12時。与えられたマンションで目を覚ます。結局帰りついたのは4時半で、寝たのは6時。折角の土曜日なのだ。もっと睡眠をとって怠惰に過ごそうと決めていた俺だが、ある音で目が覚めた。
――誰かが、この部屋の中にいる…!
そう、先程から聞こえてくるのだ。トントントンと一定のリズムで何かを斬る音と、ジュージューとまるでベーコンを焼いているかのような音が。
足音を殺して、リビングに近づく。一歩、また一歩と慎重に、相手に気付かれないように。リビングに通じるドアの前で止まり、一応部屋から持ち出しておいたハンドガンを構え、いつでも撃てるようにしておく。
――勝負は一瞬。失敗すれば何があるか分からない。
謎の緊張感に襲われながらもドアノブに手を掛け、一気にドアを開け放ち、キッチンでなにやら不審な行動をとっているターゲットにハンドガンを向ける。
「え、なに!?敵襲!?」
ハンドガンを向けた先にはボブカットの栗色の髪を持つ女性。というか、同じ陰陽師連合に所属している滝川桜先輩だった。
「襲撃者はアンタですけどね。…なんでいるんすか?というか、どうやって入ったんだよ」
「あ、あれ?敬語が抜けてる…。もしかして、怒った…?」
「いや、怒っては無いですけど、朝起きたら誰かが料理してるんですよ?警戒するでしょ。なにやってたんですか?」
いやまあ、聞かなくても察しはつく。だが、こういうことは一応本人の口から聞いとかないと。
「楓君、今日の朝方まで仕事だったでしょ?だからお昼ご飯でも、って思って…」
「そうでしたか…ありがとうございます」
臆病な先輩をこれ以上いじめるのは良くないと思い、ハンドガンをテーブルの上において、椅子に座る。
「でも、どうやって入ったんですか?鍵は閉めたと思ったんですが」
「え、空いてたよ?」
「は?マジ?」
疲れすぎて鍵を閉めることすら忘れていたか。今後はもう少し気を付けるとしよう。
だがまあ、そんなことは些細な問題なのだ。一番の問題は、彼女が俺の部屋に上がり込んで飯を作っていることだ。彼女もまた、主人公ハーレムの一員なのだ。こんなとこにいてもらっては困る。これが原作入りした後なら手遅れかもしれないのだが、幸い今は違う。ここらで一つ、注意をしておこう。
「それを抜きにしてもですよ、先輩。独り暮らしの後輩の男の家に無断で入ったりするのは止めた方が良いですよ」
「うん、大丈夫、わかってるよ!楓君にしかやってないから!」
「大丈夫じゃねぇし分かってもねぇ…」
どうなってんだ、マジで。出来るだけ原作キャラと遭遇しないように気を付けてきたはずだというのに。このままでは原作崩壊もあり得る。原作入りまで俺の計算が正しければ一週間、夏休みに入った初日だ。
よし、ここからが本番だ。原作ヒロインを主人公に惚れさせる。どうやればいいかは分からないが、そこはハーレム主人公特有の作者と呼ばれる神に与えられた能力でどうにかするだろう。
「もう少し待ってね。そろそろ出来るから」
「はい、覚悟はできてます」
当面の目標は、メシマズ系ヒロインの先輩の料理から生き延びる、だ。
どうも、rollです。
最後まで見ていただき、ありがとうございます。
前回の1話からかなり時間が進んでいますが、その間にどんなことがあったか、等は番外編で書いていければなあ、と思っています。