使用〈エンブリオ〉は【絶対裁姫 アストライア】。TYPEはメイデンwithアームズ。
リリース直後の<Infinite Dendrogram>に彼は降り立ち、物語は緩やかに始まって行く。
……全編訂正加筆。今更気付いたよこんちくしょう。
誰かがそれを、自由、と言ったのかもしれない。
誰かが、君は自由だ、と言ったのかもしれない。
或いは、それらを言ったのは自分だったかもしれない。
答えは無いし、目の前の「それ」が正答を言ってくれるとは思っていない。
答えはするだろうが、自分が導き出せる答えの範疇を出ない。
「それでも、応えてほしいもんだよな」
だから、その「独り言」に答える者はいない。
例えここがゲームでも。<Infinite Dendrogram>の世界でも。
□■□
彼、
宣伝文句に釣られたのもあるだろう。だが、一因は彼がこの世界、俗に言うリアルに失望していたからだろう。
別に就職出来なかった、とか受験に失敗した、とかでは無い。寧ろ充実していたと言えるだろう。
だからこそ彼は、その充実に飽きてしまった。持たざる者からすれば羨ましい限りだが、そんなものは彼には関係ない。勝手に与えられて、勝手に充実させられて。一時的な満足感は確かにあった。あるにはあるが、続かなかった。
『与えられた自由』は、彼の欲する自由では無かった。仮に誰かが求めた自由の理想系にして理想形であったとしても、その誰かが自分でない限り、彼が満足する事は無い。
「それでも、僕は追い求めたいんだ」
そう言って、手に取った。<
□■□
『まさか、お前、
ゲーム開始早々、聞き覚えのある声にかけられた「彼」、本名
声が着ぐるみからしたのは、何かの間違いだろうか?
リアルでも知り合いである筈の彼は、戦隊モノに出演していたりしたからそういうプレイスタイルなら仕方ないな、と思ったが……。
『リアルと同じ顔にするなよ。俺みたいに後々困るぞ』
まぁ、俺は俺のせいじゃねぇんだけどな、と着ぐるみは語る。
「まさかとは思うが、シュウなのか?」
ガーデンは戸惑いながら、聞き覚えのある声の主を言い当てる。それに対して着ぐるみは頷いた。
それで、ようやっとガーデンは納得した。彼、椋鳥 修一はリアルではとても有名な人だ。リアルと同じ顔立ちにしていたら、「よく真似出来てるなー」となるより、「マジ修一だぁ!!」となるに決まっている。
「そのご忠告は有難く聞くが、今更だし、僕は別に、君のように騒がれる人間じゃないよ?」
と、ガーデンは苦笑する。
『本人が一番気付いてなけりゃ世話ねーな。後、ここでの俺はシュウ・スターリングだから、実名では呼ぶなよ』
ニックネームがシュウだから大丈夫じゃないかな、とガーデンは思ったが、それは言わない事にした。
「にしても本名のまんまじゃないか。英訳って……あ、僕も同じだったな、それは」
思えば庭だからガーデンで、梓だからカタルパだ。実名からPNにしているのは自分も同じだ。あまり人の事を言えたタチでは無い。
『それで、お前もやり始めたのか、<Infinite Dendrogram>』
「ああ。
『……そうか。で、どうだ。一緒にクエストにでも行かないか?』
自分がリリース直後に始めて今ここだ。シュウも恐らく初心者だろう。……初心者なのに安くはなさそうな着ぐるみを着ている。多分無一文だろう。だからこれは、お誘いがてらの生活費稼ぎなのではなかろうか、とガーデンは推理した。強ち間違いではない推論だった。ガーデンの知る限りでは無いが。
「いいよ。僕も初心者だからね。『自由』を売り文句にしたゲームだ。どれ程自由なのかは、この街を出ないと分からない、よね」
『あぁ。序に言うが俺は素手でしか戦えない。素寒貧だからな』
「リアルチートは<Infinite Dendrogram>に引き継げるのかな?使えるなら大丈夫なんじゃない?」
ガーデンの言うリアルチートは、シュウ・スターリングでは無く椋鳥 修一が持つ運動能力の事だ。そういったものが使えるなら、素手でも大して苦労しないだろう。
『さっき動いたら普通だった。多分使える』
「勝ち確だ。有難い」
『俺ばっかに頼んなよ……』
それもそうだね、とガーデンは軽口を叩く。そうして、二人揃って街を出ていく。
初期装備の貴族と着ぐるみが並んで歩く様は、異質だった。
□■□
そうして、ゲーム内で2日が経過した。ソロでクマ装備無双やってるシュウは〈エンブリオ〉が孵化し、第一形態である《ストレングス・キャノン》を――鈍器にしている。スキルが使いづらいらしく、それなら殴った方が早いとの事。
対するガーデンも〈エンブリオ〉が孵化し、片手剣だったので早速戦闘で使用している。
『俺の〈エンブリオ〉はバルドルらしいクマー』
「バルドル?あぁ、あの神話の。……クマ?まぁいいや。
僕のは……アストライア、だってさ」
『アストライア?正義の女神?』
「みたいだね」
そう言ってガーデンは己が手に持つ武器、アストライアに目を向ける。
「カテゴリーってのがあるみたいで、『メイデンwithアームズ』なんだってさ」
『ん?メイデン?』
「そう、メイデン」
『
「そう、
少し食い違った表現をしている事に互いは気付かず、その『メイデン』とは何なのか、と議題は移った。
『人型になれるって事クマ?』
「どうなんだろうね。アストライアが女神の名前だから、って事なのかもしれないよ?」
『はー、だとするとバルドルは男の神の名前の筈だから呼び方になんか付く筈……そういうの何もねークマー』
「んん?なんでだ?メイデンって何で付いてんだ?」
――刹那。
ガーデンの手元から武器、アストライアが消失した。
『っ!?』
「――っ!」
失われた後に警戒しても仕方がない。と、誰もが思ったし、二人も思っただろう。だが、二人は『そんな事』には驚いていなかった。
いや抑、『そんな事』は起きていない。だから、彼らの驚きは、他にある。
「ふむ、君が私の〈マスター〉か。私はアストライア。【絶対裁姫 アストライア】だ。隣の熊は……お友達なのだったな。記憶との差異が凄いな、これは」
二人は、絶句していた。
何が起こったか、なら想像に難くない。
『武器が人型になった』という予想は立てていたのだから。だが、本当になるとそれはそれで驚くものなのだ。
「あー……この先すっごい
『面白いと言うよりは、ヤバくなりそうだクマー』
「既に御二方は色々と面白いと思うのだが。そこに私が加わってしまって良いのか?」
……こうして、二人プラス一名による討伐クエストが始まる。
後の世にて、メイデンはこの世界を「完全にゲームと思っていない」人間の〈エンブリオ〉が持つとされるが、何故彼が、カタルパ・ガーデンがメイデンのマスターになったのか……それは、最初に語ってしまった事であり、誰にも分からない心の奥底の「何か」のせいなのだ。