( °壺°)<何かしようとしていたら
( °壺°)<更新を忘れていたという。
( °壺°)<皆様にはご迷惑おかけします
《インペリアル・オーダー》。
《スーサイド・オーダー》、《インサルト・オーダー》に続く【暴食皇女 ケルベロス】の第三のスキル。だが、それらとは字面的にも能力的にも、一線を画していた。
『自殺』の命令、『陵辱』の命令というのが今までの流れであったのに、今回は「皇帝の(或いは最上位の何かの)『命令』」である。
つまりこのスキル名だけ、『命令』がメインになっている。
そもそも、命令に対する人間の行動というのは、二極化ならぬ三極化されている。
一つは反発。反逆とも呼べる「命令に逆らうこと」。
一つは遵守。従順なまでに「命令に従うこと」。
そしてもう一つが、無視である。命令を受けても、「何も変わらないこと」。
守りもしない、破りもしない。元からどちらかであった場合を除き、その方針を変えない。
第3の選択肢。
天秤が左舷に傾くか右舷に傾くか、という問いに対する「そもそも計らない」という異例の解答。
二択と宣う輩に突き付ける第3の選択肢。三叉路を十字路に変えるそれは、偉業であり異業だろう。誰もが心の底から賛同する事はない、自由過ぎる解答。自由を宣うデンドロの世界に於いて、何故その自由が尊重されないかは言わない……言えないにせよ、或いは存在しないにせよ、異質である事は間違いない。
『誰か』が意図してそうした訳では無い。『何か』の影響でそうなった訳では無い。ただそこにあったから、なぁなぁで流してして、そこに辿り着いて、「なんとなく」と口を揃えて迫害した。
――そんな自由が、それだった。
ヴァート・ヴェートの掲げた、三番目の選択肢。
獣だからこそ、人の枠組みからズレているからこそ、その縛りに拘束されない。人の枠組みに囚われない。
そんな獣としての自由が、人に理解される筈が無い。
獣としての自由は、流石にこの世界でも保証しきれなかった。
人の枠組みに囚われた人のみがその恩恵を受けられる。獣がその恩恵を受ける事は無い。
だからこそ――化け物に近しい獣は。自由に踊り、自由に舞い、自由に叫んだ。
己が自由を謳歌して、己が不自由を嘆いた。
右腕を失って尚、その咆哮は止まない。
誰よりも
王の勅命にすら己を曲げない、化け物になり損ねた獣は、壁を乗り越えるでもなく、ぶち壊して突き進む。
――それがたとえ、正義の味方という高い壁だったとしても。
□■□
そんな己が突き貫く最後の意思。異質な意思、《インペリアル・オーダー》の効果もまた、単純だ。
要するにただの防御無視攻撃である。
然しながら、《スーサイド・オーダー》と《インサルト・オーダー》で超強化された防御無視攻撃が、どれ程強力か、などは今更語るまでもない訳で。
超強化されたSTRとAGIを以て殴り殺す。
そんなシンプルで……カタルパと似たような帰結の戦法を選んだ。
「【
迫り来る刹那。余裕など無いはずなのにカタルパは敵前で頭を抑える。
「まぁ、答えが導けるなら、この痛みも受け入れるさ」
頭痛を堪えながら、剣を振るう。
《強制演算》。《
だのに使ったという事は、手段を選んでいられなかった事にほかならない。カタルパはカタルパで、これでも真剣なのである。
勿論、アイラもだ。
《
出し惜しみはしていない。全力だ。
両者何一つ手加減せず、出し惜しみせず、全身全霊で眼前の敵を屠ろうとしている。
然しながら相性というものが少なからずある。
運命を捻じ曲げてでも銀盾に攻撃を向かわせるスキルがあっては、ヴァート・ヴェートの残された左腕はどう足掻いてもその盾に激突する。
その盾は切り離す事の出来ないアイラ本体でありながら、今の彼女に於ける分体だ。その盾から衝撃が走っていては、当然ある程度は威力が軽減される。防御無視攻撃な訳だから盛りに盛ったENDも意味を成さなかったが……それでも殺しきる程の火力には至らなかった。致命傷に片足を突っ込んだ生存。リキャストがある――それも一人に対して一日一発というかなり重いもの――《インペリアル・オーダー》を連発出来ないヴァートに、打つ手はない――ように思われた。その時だ。
「…………なる、ほど」
カタルパがそう呟いたのは。
胸部が抉られたカタルパがそう、呟いたのは。
「アイラ……流石に遠距離攻撃に対しては、その運命の捻じ曲げは通用しねぇみてぇだな……」
アイラの目にも、何が起きているかは分かっていた。寧ろそれを見て分からない事は無い。
左腕の一撃は防げた。ならば、ヴァートの切り落とされた右腕はどこに行った?
当然、地面に転がっている。
筈なのだが、カタルパの胸を抉ったのは、間違いなくその右腕だった。
「獣の……執念を、軽く……見ていた、な」
「待て……待ってくれカーターッ!!こんな事で死んじゃダメだ!」
叫びが虚しく谺する。
咄嗟に木々を文字通り割って出てきたアルカも、その姿を見て唖然とした。まさか負けるとは思っていなかったのだろう。杖を握る腕もどこか震えている。
「――アズー」
「回復は、するな」
断られるのは理解していた。だからアルカは振るに振れなかった。
そもそも決闘と言っていた時点で。【身代わり龍鱗】やら【救命のブローチ】を所持していない時点でお察しではあるのだが――無論それは、あれ程カタルパ達を嫌悪していたニベルコルにも当て嵌る事で――矜恃とでも言うのだろうか。決闘と言った以上、彼等は命のやり取りをする。命を懸けて、一所懸命に、なんて表現は拙いだろうが、実際そうなのだ。
世界派ならまだしも、遊戯派である筈の人間でさえ、暗黙の内に設定された『決闘』のルールに則っている。獣のヴァートですら従っている。
また、基本的には一対一だ。TYPE:レギオンのエンブリオであったニベルコルや元から一対多を希望していたエイルを除き(とは言えど、その闘いは【諸悪王】の唯一無二のスキルによって台無しにされたが)、彼等が行う『決闘』は他者の介入を許さない。
だからこそ、その致命傷を癒す事をアルカがしてはならない。
これは、人と人とのではないにせよ、神と獣であるにせよ、『決闘』なのだから。
「はぁ……はぁ……」
『やったって事で……いいのかい?』
当事者であるヴァートとケルベロスも満身創痍と言ったところで、右肩を左腕で抑えながら、事の成り行きを見ている。【出血】して尚動き回っていた為、ヴァート自身にも既に余裕はない。だが、残されていた脚で、落ちていた右腕を蹴り飛ばす程度の事は出来た。超強化された蹴りだった訳だから、当然その右腕が粉砕されるオチも想像出来たのだが、そこはどうにかなった、と言える。倫理的な観点からすれば大分冒涜的だが。
ともあれ、結果オーライと言うやつだ。
流石に睨み付けながら歩み寄る正義の女神に対して行える事は、もう無いが。
勝負は一瞬だったが――ヴァートとカタルパの超音速の戦闘は、体感時間にして数十秒にも及んだだろうが――カタルパはきっと、躱す事も出来た筈だ。
なのに躱さなかった。その意味を、誰よりもアイラが理解している。
《延々鎖城》を態々封じてまで、その一撃を受け止めた。《インペリアル・オーダー》を受けた。
何がそうさせたのだろうか。
アルカが確信する程に、アイラが心酔する程に。この勝負には、勝てた筈なのに。
吐血して、膝をついて、朦朧とした意識でカタルパは、ヴァートを見る。
「まぁ……勝とうが負けようが、良かったん、だが……そう、だな」
痛み分けで、いいかな。
その言葉は続かない。否、ヴァートは聞けなかった。
カタルパの体力が尽きる前に、【出血】で減じていたHPが更に付け加えて与えられた斬撃で、尽きた。
アイラの手には、銀剣が握られていた。銀盾と対をなす美しくも猛々しき剣が。容赦なく命を刈り取る形をした剣が、血に濡れている。
その血と同じ色を、カタルパは臓腑から零している。どちらもこれで、もう助からない。
死ぬ瞬間をその目で見たくないからか、アイラが紋章の内に消える。
一足早くヴァート・ヴェートが何も語れずに消え去り。
その後を、【司教】に見守られながら、正義の味方が続いた。
勝者は何処にも居ない。
《スーサイド・オーダー》
ヴァート・ヴェートの経験値を吸収してステータスに変換するスキル。今回のデスペナルティにより全てがリセットされた。
獣の牙を研ぐようなスキルなので、死んでしまっては研がれていない状態に戻って当然である。
《インサルト・オーダー》
ヴァート・ヴェートがパーティーを組んでいる事と、本人以外の人間範疇生物のパーティーメンバーが全てデスペナルティによって居ない事をトリガーに発動されるスキル。
群れて行動する獣の本質と、生き残る為ならば同胞の肉でも喰らうという獣の本性、或いは一匹狼という用語からか、群れる事と一人である事、その双方を強要している。当然、パーティーメンバーに加えておきながら、ヴァート・ヴェート自身がメンバーを殺して一人になった際も発動する。そんな事をしていたら、本物の獣に成り下がるが。
《インペリアル・オーダー》
【暴食皇女 ケルベロス】が持つ三つの『命令』の内、唯一のアクティブスキル。
厳密には『自身の【暴食皇女 ケルベロス】の能力で上昇しているステータスの総計値よりも相手のENDが低い時に相手のENDを無視して攻撃出来る』スキル。大抵越えるので大抵無視出来るスキル。ただし一人に対して一日一発のみなので油断は禁物。……とは言えど《スーサイド・オーダー》、《インサルト・オーダー》、《喰らわねば生き永らえぬ》の三つで強化したステータスであれば、使う機会は絞られるだろうが。