其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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( °壺°)<開始当初はここまでやるとは思っていませんでした
( °壺°)<読者の皆様に感謝を
( °壺°)<ありがとうございます
( °壺°)<そしてこれからもよろしくお願いします!


第百話

■庭原 梓

 

 救われないだとか救われるだとかどうでもいい。どうだっていい。他人の幸不幸で僕は変わらない。僕はそういう人間だ。救うのは当然で、それそのものに価値はない。

 生憎僕は……『俺』とは違う。

 『この世界とあちらの世界で人の命を無価値と断定した』という思想から生まれたアイラ、【絶対裁姫 アストライア】は分かっている筈だ。

 僕が未だ、この世界の人の命には価値を見出していない事を。

 色付いて見えるのは、あの世界に、あの世界の人々に価値があるから。

 この世界が灰色に見えるのは、この世界に価値の無いモノが多過ぎるから。

 そんな中見えた「色」は素晴らしいものだ。シュウに始まり今、目の前にいるディアドラを含めて。僕が価値を見出してしまった者達は、例外なく僕の人生に関わっている。

 関わるから価値を見出すのか、価値を見出したから関わらせたくなってしまうのか、関わってしまうのか。

 僕の頭は、僕自身の事に対して答えを導かない。

 元からかかったセーフティのように。

 だから過去も、この灰色に見える目の事も、何一つ。僕は僕を理解していない。僕の頭は僕を理解しないし、させない。

 

「さて、先手は打ったんだ。後はもう、詰ますだけだ」

 

 そんな、自分を何も理解していない人間でも、自分ではない誰かを理解して、救える何かがあるのなら。救いたいと思えた何かがあるのなら。

 それを救うのは、傲慢なのだろうか。僕の頭は、矢張り何も答えなかった。

 

□■□

 

 結局のところ、やる事は簡単だ。

 強いて言えばツーステップだ。

 

 1、『奴ら』から奪い取ると決める。

 2、実行する。

 

 以上。

 最早順序立てて説明するまでもなく、物事はシンプルだ。

 世界には「したいと思った時、既に実行されている」なんて論者もいるらしいが、流石にそれは支持出来そうにない。観点的に言えば、僕とそれは逆に位置するからだ。

 閑話休題。

 それはさておき。

 連絡をとってしまった以上、早急に打てる手は無い。何せあの人ならば、此方が何をするでもなく終わらせてしまうだろうから。あちら側も可哀想に。根すら残らないって言うのは、果たしてどんなもんなんだろうね?

 

「ねぇ、何もしないの?」

「あぁ。何もしないさ」

 

 だからディアドラの問いにも、素っ気なく返すしかない。

 

「今僕達が介入するのは悪手だ。そう、悪い手なんだよ。何せ今回の介入者は、物事を尽く『悪く』してしまうから」

 

 それで、何となく察したのだろう。世渡りが上手いに違いない。

 

「まさか、先生……なの?」

「そのまさかなんだなぁ」

 

 実母である事は今は伏せるにせよ(とは言うが、僕、庭原 梓の住所をディアドラに流したのは九分九厘あの人だ。彼女の言い方からして、あちらはリアルでの正体は隠していたようだが)、話が伝わるなら今はそれでいい。それが善い。

 だから今は待つ。それが最善だ。

 ……あれに『善』を説く事が出来たら、どれ程善いか。

 そんな考え事の最中に着信があるのだから、あれもあれで確信犯だろう。物事を尽く『悪く』する者の特権とも言えるのかもしれないが。

 

「終わったんだろ?」

『まぁね。あくまで外堀は埋めたわ。棒倒しはもうお終いね』

「ならその旗を倒すのが僕の役目、か」

『大事なところは自分でやりたい、でしょ?』

「……あぁ、そう、だな」

 

 見透かされているようで、少しむず痒かった。こんな感情は、親ですらない、と遠ざけていた時には思いもしなかったものだ。

 ズキズキするようでぐちゃぐちゃになりそうで、それでいて暖かい何か。それを確かに今、僕は感じていた。

 

「――これが■だと言うのなら」

『……ん?』

「いや、なんでもない。兎角後は承った」

 

 半ば無理矢理通話を切って、勢い任せに携帯を閉じる。パチンッと軽快な音がなり、ついでに少し軋んだ。

 もう長くはないだろうと思いつつ、こんな扱いをしていれば当然だ、とも思った。

 どちらも正しく、僕が間違っている証明だ。

 

「さて、行こうか、お姫様」

「茶化さないでよ、英雄様」

 

 どことなく、王女を救う為に鯨を倒しに行くかのような雰囲気を、白黒の世界は祝福した。

 

□■□

 

 向かった所で、やる事は特に残されていない。骨すら残らなかった屍体から、それでも剥ぎ取りを行うようなものだ。

 だから『手続き』だって早急に終わるし、彼女の自由の確保というものも、実にあっけらかんとしているのだ。

 

「お前は」

「――私は」

「もう二度と」

「――もう二度と」

「アイツに近付かない事を」

「――ディアドラに近付かない事を」

「誓え」

「――誓います」

「オーケー。その言葉を言質としよう」

 

 やれる事が殆ど残されていないのだから、やる事なんて少なくて当然なのだ。当事者と軽い会話をしたら、もう終了。為すべきことすら残されていない。それらは全て、あの巨悪に平らげられてしまった。やれやれ。暴食だなぁ。

 だがまぁ、それで幸福と自由が手に入るのなら――手に入れたのは僕ではないけれど――充分だ。安い買い物、というやつだ。

 

「で、これからどうする?」

「……え?匿ってくれてたんだし、このままでいいんじゃないの?」

 

 当たり前のように問うてくる辺り、先程の世渡り上手という発言を撤回したくなる。

 

「えっとだな……僕は男で、お前は女だ。なんと言うかこう、教育上よろしくないんだよ」

「何を今更言っているの?私は――」

 

 これから言うであろう彼女のセリフは理解している。だからこそ態とらしく遮って、本音を口にした。

 

()()教育上よろしくないって言っているんだ」

「…………え、もしかして」

「それ以上は言うな。お前は天羽に預ける」

「イヤよ。その人あの『体真っ二つ』さんでしょ?“異形”の二つ名を持つ」

「多分あっているんだがその二つ名初めて聞いたぞカッコいいじゃねぇかオイ。……仕方ない、本人の意思は尊重しよう。取り敢えず話は付ける。天羽とお前がキャンセルした場合はウチに……あれ?」

 

 それって結局、僕にとってダメなんじゃ……?

 

「ありがとっ。男に二言はないのよね?」

 

 雑に染められてくすんだ茶髪が踊る。赤眼を細めて少女は笑う。少し傾いた陽射しを受けたその表情は、何処か幻想的だった。

 

「……ハズレくじを引いた気分だ」

 

 だが引いたお陰で誰かの平和を願えるなら、世界が寝返るなら。

 

「まぁ…………悪くはない、のかもな」

 

 素直に、そう思えた。

 

 僕が『俺』になるまであと16時間。

 世界はゆっくりと動きだし、僕を盤上へと押しやる。

 立つまではまだ時間がかかるが、そこへと進んでいるのだという確証と共に、僕は少女と帰路についた。




( °壺°)<百話なので
( °壺°)<誰かの日常風景でも挟もうかと思います
( °壺°)<誰にするかは決めてないのですがね
( °壺°)<決め次第早急に取り掛かり、次回はそれにしようかな、とか思ったり思わなかったり
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