其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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( °壺°)<選ばれたのは、アモカナでした
( °壺°)<綾○では御座いませんが今回は天羽 叶多の現在のお話です
( °壺°)<家族関係が良好な人間はオリキャラの中では居ないようです


幕間 その弐

■???

 

 目覚めたら、いつもと変わらない一日が始まるものとばかり思い込んでいた。

 事実はそれ程甘くなく、また現実はそう優しくもない。

 それは大して長くもない人生で、嫌という程学んだ事だ。

 「思い通り」とか「想定内」とか。そういった言葉はこの人生とは縁がない言葉だ。

 それを楽しいと思える程楽観的にもなれなかったし、だからと言ってどうにかしようとする行動力も無かった。

 どっち付かずと言うか、ただ振り切れなかった。

 天秤は傾くけれど、ガタンと音を立てて、傾倒して崩れ落ちる訳じゃない。

 寧ろ本来の用途からすれば、傾けるものではなく、釣り合わせるものの筈だ。エジプト神話の天秤も、羽と釣り合う事を前提としている。

 『羽と釣り合う魂であれ』という事なのだから。

 ――まぁ、その話については梓の受け売りだけどね。

 さて、『Who am I ?』と行きたい所だけど、分かり切った質問はするもんじゃないわ。

 

 今回は、本編からは打って変わって、何故か栞のように挟み込まれた、私こと天羽 叶多の日常。……以前も似たような話、無かったかしら?

 

□■□

 

「とは言ってもさ。私って特に隠し事も無いわけだから、今更話さなきゃいけない事って、そんなに多くないと思うのよ。

 あ、全く無いって訳じゃないのよ?

 ただ、梓とかに比べれば多くないって話。大体の人間がそうだろ、なんてお小言はいらないから。

 ……で、そうそう。私の話。

 梓やカデナ君と一緒になった時、私は『武力』という括り、或いは役柄を与えられる。紅一点に――今でこそ椿おばさんとか狩谷ちゃんがいるけど――そういう役を任せるかな、と思う反面、だからと言って他の役割である『智力』や『勇気』、或いは『疑心』や『愚弄』を担当出来たかと言うと……難しいどころか不可能だったと思う。

 先ず私には『智力』が無い。だからテストの点数だって2桁や1桁が茶飯事だった。

 私には『勇気』が無い。だから怖いと思った時、退けない事情が無い限り即座に退避してしまう。

 私には『疑心』が無い。だから梓の言葉は鵜呑みにしてしまう。間違った事を言われた覚えは無いけれどね。

 私には『愚弄』が無い。不意打ちはするけれど、峰打ちをしたり態と急所を外したりしない。やれる時にやる。長引かせないのが私のポリシー。

 そう考えれば、猪突猛進なおバカさんなんだけれど、実際そうなんだけれど、だからこそ『武力』という枠組みは、ストンと私に落ちた気がした。

 ガッチリ嵌ったって言うのかしら?役割と本質が噛み合った、と言うべきなのかな?

 所詮は手駒。將となる器でも無し。与えられた役割を、命を賭して全うするだけの、簡単なお仕事。

 だから都合良く踊ってあげるの。そうすれば梓を『脅威』から守れる筈だから。

 梓の剣。私はそれで構わない。

 いや違う。それこそが私の存在証明。

 梓の為に動く時だけ、私は『生きている』。

 ……でもだとすると、どうしようかな?

 

 梓とカタルパって、『違う』のよね?」

 

□■□

 

 まぁ、そんなもんよ。日常なんて。

 朝起きたら取り敢えず着信確認して、取り敢えず着替えて、遊びに行く。そんくらい。後はなぁなぁで時を浪費する毎日、って感じね。

 うん。そんな感じ。

 ……あぁ、この説明だと来そうな質問あったわ。どうやって稼いでいるんだ、みたいな。

 今は稼ぎに行くような必要性を感じないわね。しているのが最低限の生活であって豪遊をしない限りは。

 いやホント。保険って凄いわね。

 

「そう思わない?」

 

 私は「誰」も居ない虚空へと問い掛ける。視線の先では線香の煙が揺らいでいた。

 私のせいで死んだ、私だけの両親の成れの果て。

 骨になって、粉微塵になって。それでも私の親だと言うのだから私の中で親という概念が壊れそう。

 でも実際、どうなんだろ?

 私にとって親って言うのは、どういうものなんだろ?

 梓と何かが違うのかしら?

 カデナ君と何が違うのかしら?

 噫、もう。分からないわ。

 それ程接して来なかった訳じゃない。けれどだからと言って理解していた訳でもない。なぁなぁにしてきた。

 梓っぽく言うのなら、「理解出来ていたのはあくまでその表層であって、その内面を見た事も理解した事もなかった」ってところかしら。

 まぁ、それ以上考えると私の頭がキャパオーバーを起こしそうだし止めるけれど……。

 

「私は、何の思い入れもないみたいね」

 

 揺らめく煙の奥、並んだ顔写真に向けて、私は微笑んだ。

 

 さて、私の日課を始めましょ。大抵私は暇な訳だから、大体「それ」一筋なんだけれど。

 ()()()()もそろそろ解ける頃だし。

 

□■□

 

 ――分かる訳が無い。

 この後ログインしたら梓が死んでて、カデナ君と一緒に〈UBM〉、【往古雷魂 デモゴルゴン】に出逢うなんて。

 未来予知でもしない限り分からないわよ、そんなの。

 

 戦闘の隙を縫って、カデナ君の【イグドラシル】で一旦戦線離脱、ログアウトして梓に連絡。その後舞い戻って再戦。

 梓が居ない24時間は、長い。それはデンドロの世界だと72時間扱いだからとか、そういう意味じゃない。

 私もカデナ君も、梓を舵とした船のようなものだ。

 居なければ、連携も大して出来ない狂戦士二人組だ。調教師のいない獣であり、首輪の無い化け物だ。

 自分でも分かっている程依存していて、分かり切っていても抜け出せない。

 私達は、私とカデナ君は、この世界でも、自由を謡うこの世界でも、束縛を求めていたのだ。

 いや寧ろ、「自由になってはいけない」事を誰よりも自分自身がよく理解していた。私が、カデナ君が、縛られる事を望んでいた。自由が補償されていようと、拘束を求めた。

 私達は梓に出会わなければ『こう』はならなかっただろうけれど、会ったからこそ拘束が必要な化け物になっちゃったけれど、だからと言って出会わなければ……私達はどうなっていたか想像すら出来ない。

 カデナ君は野垂れ死にしていただろうし、私だって……きっと。

 親が死ぬだけでは足りなくて、何かを喪うに違いない。

 つまり、現状が最善。不平はあっても不満はない現状。これでいいと思う。

 それだけで良いと思う。

 そういう訳で、話は漸く本編に戻る。長らくお待たせしましたーってやつよ。

 私の日常は『何も無い』。

 何も無いのが通常、平常。梓の周りで揺蕩い纏わり付く事が日常。

 いつもと同じだ。いつも違う日常を過ごすのが。

 アブノーマルを過ごすノーマル。

 そう言えば奇怪極まりないけれど。

 それが私の日常だ。梓の居ない一日も、〈UBM〉に会う一日も。どれもかけがえのない、いつもと違う一日だ。

 帰ってくる明日も、倒せる明日も倒せない明日も。どれも私にとって、大切な一日になる筈だ。

 明日も世界は、私に予想外な一日をくれるに違いない。

 そう信じなくちゃ、もう。梓の居ない今日すら私は生きられないのだから。

 呼吸をするように。おはようを言うように。至極当然の所作として。

 私は今日も、梓の駒として。

 三度、カデナ君が持ち堪えている戦場に、足を踏み入れる。

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