作者を気持ち悪いと罵ったりするのは構いませんが物語を嫌わないで下さいまし。
あと感想などはご自由に。
二人は会議し結局、【霧中手甲 ミスティック】を装備してみた。
〈UBM〉を倒した報酬、MVP特典【霧中手甲 ミスティック】。
譲渡は不可能らしく、勿論人型となったアイラにカタルパが渡す事も出来なかった。手渡しは出来ても、装備させる事は出来なかった。
「アイラ以外に初めて装備補正のある装備だ……」
「何故装備補正の無い燕尾服を着続ける……」
何故なのか!と、アイラは叫ぶ。カタルパは「分からない奴には分からない。燕尾服の素晴らしさは」と宥めた(宥める事が出来ていない)。
実際、彼は燕尾服という服に憧れていたのだが、現実で着る機会が殆ど無かったのだ。それは、庭原 梓の立場上の都合とも言えただろう。幼い頃も、今現在も。
「効果……《霧生成》?【ミスティック】の出してたあの霧かな?」
「MPを使用するようだから使用はまた今度にして……中々上がるENDが高いな。ただの手甲だろう?」
「やっぱ特典だからかな?倒すのが難しい筈だろうからそんな易々と持てるもんじゃねぇだろうけどな」
この時の梓は、自分が"不平等"という二つ名と共に"〈UBM〉狩り"と呼ばれる事になるなど知る由もなかった。
「おっと。そう言えば、そろそろログアウトする時間になってしまったのではないか、カーター」
「ん?ああ、そうだな。気付かなかった」
「前々からの予定だったとはいえ、ミル鍵には何と言おうか……」
「リアルで話付けとく。お前じゃ無理だしな」
「ははっ、辛辣じゃないか、カーター」
「そう、だな」
それきり、特に会話と言える会話も無く、30秒が経過し、カタルパはログアウトする。
「では。『またね』」
「……ああ。また会おう」
最後にそう、言葉を交わして。
□■□
媒体を外して、梓は明暗のみで存在が別離されている世界を縫うように歩き始めた。着替える服は少なくなかったが、何色なのかハッキリ分からない為、特に執着する必要は無い。その為に奇抜なファッションになるのだが(あまりに奇抜すぎて1回ファッション誌から色々と聞かれた)。
白い扉を開けば
エレベーターで降りてマンションを出ると、混凝土の道が延々と続き、灰色のビル群が建ち並ぶ。
色盲でも無いのに色を失った梓ではあったが、別段この世界を生きづらいと思った覚えは無い。彼の目で見るまでもなく、この世界からは色が剥奪されているようなものなのだから。
まだ、『光』は見えない。<Infinite Dendrogram>が美しすぎた事もあるだろう。この世界が、あの世界に比べて見劣りするからなのだろう。
幾許か歩く人も、白いシャツに黒いスーツ。色を失う前と後で、変わりはない。
最寄りの駅も白黒。《揺らめく蒼天の旗》を起動した時のようだ。まあ、あれと違って元のカラフルな世界に戻る事は無いのだが。
「あ、いたいた。時間通りだね」
「元からそのつもりだったからな」
声をかけられて振り返る。今回梓は、待ち合わせの為にログアウトしてきたのだ。ただの知り合いとの待ち合わせだったならば、「用事がある」などと誤魔化して<Infinite Dendrogram>をやり続けていた事だろう。
つまりこの待ち合わせは、今の梓にとってゲームより大切だったという訳だ。それ故に、とまでは言えないが、モノクロームな世界で、「彼」だけ浮きだって見えた。
中性的な見た目、西洋に見られる白い肌。流れるような黒髪は、女子で言うボブヘアーというやつだ。袖の短い服を着ており、二の腕が顕になっている。
下もショートパンツと、女子も着そうなファッションだった(天羽は着ない。基本彼女は様々なカラーバリエーションのあるワンピース一択だ)。
「時間通りなのはいつもだね、アズール」
「いい加減、梓と呼んでくれて構わないぞ、カデナ?」
梓は嘆息する。目の前の少年、カデナ・パルメール(名前だけだと少女のよう。だが男だ)は梓を『アズール』と呼ぶ。
《揺らめく蒼天の旗》の読みが《アズール・フラッグ》なのはここが由来なんじゃないだろうか、ともう一つ梓は嘆息した。
パルメールを見下ろしながら(身長的に梓の方が高いのだ。その差10センチ程)、今日待ち合わせた理由を想起する。
「なんだったっけ、買い物かなんかだったか?」
「……相っ変わらずの記憶力だね、アズールは」
「お前がいつから流暢な日本語を話せるようになったかも覚えとらん」
「酷い!アズールは酷い人だ!もしかして僕が男なのも忘れて……!」
「いや流石にそこは。忘れてたら襲ってる可能性があるし」
「……そういうのは公共の場で言わない事をオススメしたいな」
「それな。で、映画見に行く訳なのだが、何見るわけ?」
「結局覚えてるの!?時々アズールが分からないよ!」
「安心しとけ、僕もお前がどこ生まれか分からない」
「えー……」
「さ、公開時間が近いぞスペイン人」
「もう!もう、アズールはぁ!」
結局全てを覚えていて、知っていた梓に弄ばれていたのだと気付いたパルメールは、力の篭っていない拳をお見舞いした。梓はゲームと同じような貧弱な人間ではあったが、その攻撃を痛いとは、思わなかった。
□■□
「そう言えば、さ。今話題になってるゲームあるじゃん」
「……あるなー」
映画館内、況してや映画の上映中に突如、パルメールはそう切り出してきた。
梓は嫌な予感がして、と言うかデジャヴュを感じて、冷や汗を流す。あれ、天羽の時もこんなんじゃなかったか?と目が泳ぐ。
「僕もやってみたいんだ」
「いいんじゃないか?『自由』……の為に、さ」
「あー、違った。違ったよアズール」
「……?」
梓は「何を言っているのか分からない」というような反応をした。
自由の為に、という所を否定したのだろうか?ならばパルメールが言っている「ゲーム」は<Infinite Dendrogram>では無いという事。勘違いだったという事。
(あー、そういう事。だが<Infinite Dendrogram>くらいに今話題になっているゲームって何だ?)
梓はそこまで思考したが、今思えば<Infinite Dendrogram>発売以来ずっと<Infinite Dendrogram>の情報に梓は浸かっていた。他のゲームに手を出す事はおろか、調べる事すらしていなかった。
であれば、この先話されるであろう話題についていけない。
「違くて、もうやってるんだよ、<Infinite Dendrogram>!」
然し乍ら、パルメールのセリフは予想を大きく越えた。
「は、はぁぁっ!?」
映画館ではお静かに、という暗黙の了解を破り、梓は思わず声を上げてしまう。周りの「黙れ小僧」と言うかのような、刺すような視線は痛かったが、平謝りしておいた。
で、だ。つまるところパルメールの言う「違った」とは「やってみたい」という所に対してだったのだ。
「ホントさ、最初は怖かったんだよ。クエスト終わって帰ろうとしたら他の〈プレイヤー〉に襲われちゃってさ」
「へぇー、へぇー…………??」
またおかしな予感がした。デジャヴュだ。これは既視感がある何かだ、と梓は天羽の一件を思い出す。
そうだ……いつだって、世界は、広いようで狭いのだ。
「誰だっけ?なんか燕尾服みたいな服の人が助けてくれたんだよ。それ以来殆どログイン出来てなかったからお礼言えなくて。あのさ、アズール。その人を探すのに協力してくれない?どうせやってるんでしょ、<Infinite Dendrogram>」
「助けてくれた奴が【カタルパ・ガーデン】というPNで、助けられた奴が【アルカ・トレス】というPNなのであれば、見つけるのは容易い」
「あれ?僕が【アルカ・トレス】っていうPNだって、言ったっけ?」
「いいや。ただ、世界が狭いにも程があるな、と思っただけだ」
ここに来て伏線にならねぇ伏線の回収とは見事な手際だぞ神様、と屋内で空を仰ぐ。
そう言えば居たなー、
あの一件に於いて、助けられた人間、助けた人間、襲った人間。誰もが関係者であった(パルメールと天羽の仲も良い)。
これを……運命と呼ぶのなら。あまりにも小さい。
範囲的な意味でも、意味合いとしての意味でも。
けれど後の大きな波紋になる事を、三人組のクランになったりする事を、梓は知らないのだ。
□■□
梓とパルメールは映画館を揃って出た。梓はもう、映画の内容など殆ど覚えていない。抑、何を見たかすら覚えていない。それ程までパルメール――【アルカ・トレス】の話が強烈だった。
「じゃあ、ギデオンって場所に行けばいいんだね?」
「ああ。そしたら俺と……お前を殺そうとしてたミル鍵、つまり天羽がいるから」
「え?アマハが僕を襲ったの?……世界って狭いんだねー。知り合い3人でその配役が埋まるんだから」
「狭すぎて広く感じる、不思議」
それも、ゲームならではかもな、と二人は笑った。アマハ、とは言わずともがな天羽の事である。
映画鑑賞後の買い物も済ませ、パルメールは駅構内に消えて行く。
梓も一人で帰路につく。白黒の道でも、迷う事は無い。
「僕が守ったのが、カデナだったとは……『俺』も中々、正義の味方が板についてきたじゃないか」
知り合いを守るのは、正義の味方だよな、と思ったが、その為に知り合いを殺しているな、と思い、あまりいい気はしなかった。
道中、耳に入った言葉に、梓は不意に立ち止まってしまった。
「あいつ、さっき女の子と歩いてたぞ」
「フラれたのか?てかあいつ大人だろ?馴れ初めとかどーなんだろ」
男二人の会話、だったのだろう。生憎一緒に歩いていたのも男だ、と。若しくは普通に別れて帰ってるだけだ、と答えたかったが、振り返ったところで声の主は分からない。抑モノクロな世界で大して人間の区別は付かない。白黒でも人の存在くらい分かるだろう、と言われても
白黒で、一人一人顔の造形が違っても、『色付いていない』限り、梓にとっては同じなのだ。だから、その人々と自分は、同じなのだ。
そんなわけでその言葉だけが届き、姿は映らない。
そしてまた、その言葉に対する回答、つまり『馴れ初め』を知っていながらも、梓はそれを口にしようとは思わなかった。
今の彼が、きっと泣いてしまうから。
世界の「理不尽」に、彼が押し潰されてしまうから。
帰宅し、部屋に籠る。媒体片手に、梓はすぐに<Infinite Dendrogram>の世界に行かなかった。
想起されるのは『或る日々』で、過去の日常で、忌むべき異常だ。
人間は嫌いじゃない。けれど、梓は。自分という存在が、血族が嫌いだ。この世界は理不尽じゃない。人間が自分自身で首を絞めているだけだ。
けれど、少なからず他者から締められる人間はいる。
だがそんな梓を、梓は嫌いだ。
少し力を入れた所で、媒体にヒビは入らない。
非力さが嫌いだ。力がある事が憎い。
ずる賢い所が嫌いだ。権力を振りかざす者が憎い。
「憎い」と、自分自身に、或いは誰かに憎まれるくらいなら、嫌われる方がマシだ、と。
梓は一人、<Infinite Dendrogram>へと向かうのだった。
(作者)「オリキャラの中で一番の常識人(になる予定)のカデナ・パルメールがログインしましたー」
(天羽)「 ҉*\( 'ω' )/*҉ おめ 」
(アイラ)「ライバル現る!」
(庭原)「だが男だ」
(天羽)「┌(┌^o^)┐枠だね」
(庭原)「違う」
(天羽)「てかアイラちゃん、私がライバル扱いされてないんだけど」
(アイラ)「え、ライ……バル?」
(天羽)「ヒロインに虐められたー!」
(庭原)「(これ、常識人が居ないから一番常識人っぽいよって事じゃないか?)」
(作者)「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」