其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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第百六話

 【清濁姫構 カタルシス】の内面、つまり内部は荒れていた。

 多重人格のように折り重なった意識が無理矢理統合されているのだ。無理もない。

 合致している意志を表層に出しているだけであり、その内側は混沌を極めている。守りたいという方向性が同じでも、どう守りたいかすら違う。決して二人三脚のように息があっている訳でもないのだ。齟齬、食い違い、そうしたもので噛み合わない。

 意見が、意識が、意志が、意思が混ざり合う。存在の意義が混濁し、意味が喪失する。

 表層に出る意識も混ざりに混ざり、アストライアが出る時もあればネクロノミコンが出る時もあり、時にはミスティックが、シュプレヒコールが、ガタノトーアが、ギャラルホルンが姿を見せる時もある。

 然しそこに、デモゴルゴンの意識は無かった。

 だが彼女等も安定していない。

 混ざり過ぎてその内側は不定形に渦巻いて、一瞬ごとにその内面を変質させて行く。始点は願ったあの瞬間。終点は――果たして何処に。

 

□■□

 

 握り締められた拳が、彼女と手を繋ぐ為ではない事は明白だった。

 睨み付けるような視線は、彼女を見る為の視線でない事は明白だった。

 ありとあらゆる要素が、彼女……【絶対裁姫 アストライア】に向けるそれではなかった。

 それこそ、宿敵――【諸悪王】エイル・ピースに向けているかのような態度。

 当然、そのような態度をカタルパが仲間に向けた事は無い。それこそ〈UBM〉にすら向けた事は無いかもしれない。

 だがそれを、カタルパはカタルシスに向けている。

 それは哀愁であり、それは感謝であり、それは嫉妬であり、それは殺意であり――そして何よりも、それは愛情だった。

 

「帰ってこい、馬鹿野郎」

 

 再び殴りつけ、遂に水晶が砕け散る。

 頭頂部を失ったカタルシスが、司令塔を失ったかのように暴れだし、カタルパを振り落とす。

 

「「カタ……カタル……カタルパァ、ガー……デンッ!!」」

 

 腹部の口から呪詛の如く名を呼ぶ。それは果たして、彼女に纏わっていた怨霊の仕業か、それとも。後者を願うのはカタルパのエゴだろう。正義の味方の、エゴなんだろう。叶う叶わないを問わず、そこがきっと重要だ。正義の味方がそう願う事が、きっと。

 地上から見上げると、水晶の乙女を失ったそれは酷く醜く映った。

 彼女が無理矢理完成させていたような存在は、それで未完成へと舞い戻る。デモゴルゴンに付属品(よけいなモノ)を付属させたに過ぎない何かへと。

 そしてまた、カタルパ側でも変化は訪れる。

 

「……んぅ……」

「矢張り、()()()()()か」

 

 紋章の中から銀剣が現出したかと思えば、人の形へと変化した。

 つまり――【絶対裁姫 アストライア】が『戻った』のだ。

 ならば後は単純で、明解で、簡単だ。

 

「お目覚めの所悪いが、アイラ」

「え……あ……あぁ……その、だな、カーター……」

「後で構わん。いや、言わなくて良い」

 

 やり方は、変わらない。やる事も、変わらない。

 正義の味方は、変わらない。




( °壺°)<みじけぇ……
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