其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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第百七話

 【五里霧虫 ミスティック】。

 カタルパ・ガーデンが初めて出会った〈UBM〉。ともすれば彼の運命を狂わせた……は言い過ぎだとしても、動かした事は間違いないだろう存在。

 彼のスタートラインにして、彼が道を誤った始点。

 蟷螂やら甲虫やら何やらと無闇矢鱈に昆虫類のパーツを組み合わせただけのような体躯をしていた。ステータス低下を齎す霧を吐き出す能力はカタルパにとっては厄介極まりなかった。

 

 【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】。

 カタルパ・ガーデンが二番目に出会った〈UBM〉。

 彼が狂った正義の味方を志した原因となった存在。或る意味では遠因だが、或る意味では直接の原因となる存在。

 狂った運命の始点、ないし中間点。

 一見はただの少女であるのだが、数多の怨霊によりその姿を変貌させる。水風船のように腹部が肥大し、ニヤリニタリと不気味に弧を描く口が幾つも現れ、それぞれがそれこそシュプレヒコールのように声を荒らげる。

 救いようがなく、それ故に救えなかった、だがカタルパが殺す事でどうしようもなく救われてしまった存在。

 

 【幻想魔導書 ネクロノミコン】。

 唯一、〈UBM〉期をカタルパが知らない現MVP特典武器。嘗ての名は【虚構魔導 ネクロノミコン】。記された術式により邪念を得た魔導書。

 正義の味方を支えた存在。ともすればどのような正義の味方になるかを定めてしまった存在。

 正義の味方への通過点にして、そうなる為の同伴者。

 枯木のような内部の本体は現実に現れることは無く、基本的に魔導書のまま動き、また話す。

 【実在虚構 ヨグソトース】を召喚するスキル、《架空の魔書(ネクロノミコン)》と限定的ではあるがカタルパの《強制演算》のように解答を導くスキル、《議題記す偽題の琴(カーヌーン)》を保有している。シュプレヒコールの一件以来それを使用していないのは、使う機会が無いからという理由と、あったとしても許可が降りない為である。

 

 【死屍類涙 ガタノトーア】。

 カタルパ・ガーデンが三番目に出会った〈UBM〉。

 良くも悪くも伝承に則った形をしており、それ故に直視してはならないという強力な存在。だが裸眼で見なければ良い、という欠点から魔法で精製された視覚情報を頼りに動いたカタルパに倒された。

 カタルパを正義の味方として確定させた、分岐点。

 ただの化け物で、ただの怪物で、ただの敵。それだけで終わった筈のモノ。

 

 【零点回帰 ギャラルホルン】。

 【七亡乱波 ギャラルホルン】の進化形態にして最終形態。正義の味方の終点、終着点。

 水晶のエレメンタルがその実体であり、「本体」と呼ばれる水晶を移動させる事で姿形を変化させる。

 カタルパ・ガーデンにとってはライバルのような存在であり、それでいて似たような正義を志す同類でもあっただろう。

 

 さて、その全てが今、その身に集約している。

 その名は【清濁姫構 カタルシス】。早々にしてその内の姫にあたる部分を消失させたが、それでも化け物は吼える。

 

「「「カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ――――カタルパァッ!!!」」」

 

 虫の脚で駆け寄って、化け物の腹から声が出た。

 水晶同士の擦れ合う音、枯木が地面に引っかかる音。悲鳴は反響し、不協和音のオーケストラは鳴り止まない。

 対するカタルパは矢張り銀剣を握っておらず、地に刺したそれに背を向けて、拳を握っている。

 

「お前等はどうしようと俺を殺せない。だからこそお前等が取り得る手段は取り込む事だ。だが……」

 

 言い切る前に、カタルパは跳んだ。

 

「 お前等に、俺が捉えきれるのか?」

 

 そして目の前で消えた。

 完全に想定外だったその速さに、カタルシスが戸惑う。

 彼の戦闘スタイルはアストライアに依存しており、その他を他の装備品で補うのが常だ。だが今彼は、その他の装備品もなく、ましてやアストライア本人を置いて、その素早さを発揮した。

 つまりそれは、自らの力だけで起こした事象に過ぎないのだ。

 アストライアが居なければ()()()()()()。そう信じていた。そう疑わなかった。

 

 結論から言うならば、彼等彼女等、【清濁姫構 カタルシス】の敗因は、正しくそれだった。

 正義の味方と共に居ながら、正義の味方を侮ったのだ。

 

 強い衝撃。続く痛み。

 見れば地につけていた脚がひしゃげている。

 そんな風に捻じ曲げたのも、カタルパなのだ。

 

「「カタ……カタカタ……」」

「いいんだ、シュプレヒコール。俺はお前達を責めたりしない」

 

 だが決して笑ってもいなかった。決して許してもいなかった。生きていて欲しいと願いながらも、カタルパを信じてはいなかったのだから。

 そこに憤慨し、カタルパはただ拳を振り抜いた。

 殴られた箇所から衝撃が広がり、カタルシスの巨体が揺らぐ。

 

「――返って来たか、ミスティック」

 

 蟲は謝りもしなかった。だが、再会を喜んでいるような、そんな感じがした。それで、充分だった。

 手甲により強化された腕で、再び振り抜く。一度や二度では収まらず、乱打するように。

 

 それが正義の味方だと、誰が信じよう。

 だが今は、信じる者達が居たのだ。

 上半身だけの怪異や木龍の使い手、はたまた巨大ロボットに騎乗した着ぐるみですらない。

 

 彼等が、彼女等が――【清濁姫構 カタルシス】が、信じていた。今更ながらに。




( °壺°)<次回、カタルシス墜落
( ✕✝︎)<あれこれネタバレ……
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