崩れ落ちる世界と、壊れて行く意識。
何かの声がする。
『そうでもしないと、貴方は貴方で居られなかったの?』と。
回答する。
「あぁそうだ」と。
振り回し過ぎた腕は、とうに限界が来ている。〈UBM〉を狩りきる為の腕力など、カタルパにある訳が無いのだ。
それでも、取り戻す為には振るい続けるしかない。
――自分すら守れずに、正義の味方が何を守れると言うのだろうか。
何かを守る、誰かを守る。だがそれは、決して自分を蔑ろにしていい訳では無いのだ。
そもそも守りたいものは、自分の分身であって自分ではない。そう、いつだって、自分自身を守る為に戦って来た訳では、なかったのだ。
再び声がする。
『それが貴方の目指した正義なの?』と。
変わらず回答する。
「あぁそうだ」と。
『どうしてそれしか貫けないの?』と、三度
「俺が、英雄紛いだからさ」
そうして空想世界は崩壊する。
嘗ての、《
腰の鎖は、鳴らなかった。動かなかった、何よりの証明だ。つまりは、終わりの――
□■□
空気との擦過音で元に戻ったカタルパは、襲い掛かる水晶を前に再び拳を振り抜いた。
衝突する水晶と手甲。砕け散ったのは前者だった。
「さぁ、お前を引き抜いてやるから来いよ、《強制演算》」
大して頭痛はしなかった。脳は悲鳴をあげなかった。
答えがほぼ出ているという事なのだろう。
デモゴルゴン――カタルシスが終わって行くのを、観客達は観客席で見ていた。
【往古雷魂】が、【清濁姫構】がその物語を終えて行くその様をただ見ていた。
水晶が砕け、天が地に堕ちるが如くその魔神であった何かが終わるのを、映画のワンシーンを見るかのように。
だからこそ、その来訪者は異質であった。
「ん?あれ?もしかして終わりそう?来るの遅かったかー、うーん、残念♪」
「「!?」」
ゴシックロリータ風の格好でありながら、要所に棘や血痕、破れた跡もある。アルビノを想起させる白髪と赤眼。その表情は酷く歪んでいる。天真爛漫な笑顔であれば可愛げがあったのだろうが、狂気に満ちたその笑顔は、闇と、悪と、殺意が混じっていた。そう――悪が。
ミルキー、アルカ・トレス、シュウ・スターリング、ニベルコル、ピスケス。観客であった筈の全員がその存在に気が付いた時、その全員が舞台に立たされたのだ。
「あーあー、終わりそ。つまらないなぁ、もどかしいなぁ――楽しみだったのになぁ、私の
思い思いに何を感じたかは分からない。だが未知に、化け物に出逢った事は確かだ。
その見た目で一瞬反応が遅れた。その刹那が命取りだった。
「だぁかぁらぁ、代わりに遊んで、ね。《
禁断の匣が、怪物の顎が、開かれる。
□■□
水晶が崩れ落ちると、辺りに世辞にも良いとは言えない、だが馨しい芳香が漂い始めた。
その香りに、カタルシスではなく、その中心たるデモゴルゴンは、震えた。それも恐怖に。
「……この匂いは?」
自由落下しながら、カタルパはその香りを確かに嗅いだ。
途端、辺りに闇が広がった。
太陽が、水晶の煌めきが、一瞬にして奪われたかのように真黒になる。
「連戦……ではなく、か」
連戦ではなく、混戦。見えないまま戦況を窺う。
だが、次いで襲われた感覚は、平静を奪った。
「…………?」
匂いが、消えた。どういう事だろうか?
見えなくなって、嗅げなくなった。
「五感、か?」
こんな状態で触覚が消えるのは不味いかなぁ、等と暢気に思いながら、カタルシスが居るであろう方向を向く。
『カタ、ルパ……!』
都合良く聞こえたカタルシスからの声。いや、これはギャラルホルンが発してくれたのだろう。
「矢張り、お前を残して正解だったか」
受け答えを聞く前に殴りつけ、【清濁姫構】の終焉を耳にする。
では、次は。
「この感覚の消失について、だが……どうせまた、あの王様の弟子だろう……?」
悪人にした回数で解放されるジョブと聞いた。ならばそれはピスケス、ニベルコル、ヴァート・ヴェートの三人だけで済むはずがない。
文字通り、桁外れな筈なのだ。だから、その内の一人と考えるのが妥当だろう。
「…………ネクロ」
自分の力だけでカタルシスを倒す、それは今終わりを迎えた。残り滓であるデモゴルゴン部分の討伐は、カタルパ・ガーデン単体での仕事ではない。武具全てが意思を持つと言うのなら、これは一人きりの共闘戦線なのだ。
「視界の共有、及び意思伝達の為の
『「了解」』
応答はアイラとネクロ以外に無かった。ギャラルホルンも答えないとは珍しかったが、今はそれを気にしている暇はなかった。
「カーター……私は最早弁明はしないよ。だから今は私を武器として、薬指の約定すら忘れて、剣となった私と、道具に成り果てた貴方で踊ろうじゃないか」
「あぁ、そう、だな。踊り明かそう。『皆で』」
それは、何処までを対象にした言葉だったのだろう。
意思があると分かった時から、カタルパの行動は一貫されていたように思える。それが続いているならば、その対象は今新たに現れた敵と戦う彼等彼女等ではなく――
「さぁ、行くぜ」
次に答える声はない。
繋がって一心同体となった身では、それは自問自答にしかならなかったからだ。
独りであってはならない。融合して統合して尚、彼等は一人ではなかった。全部乗せの最終形態。
鎖と水晶が宙を舞い、それを足場にカタルパとアイラが接見する。
その動きは洗練されていて、無駄が無い。そう動く事が自然であったかのように。そこに配置される事が当然であるかのように。
『先却万――
カタルシスが、デモゴルゴンとしてのスキルを使用するよりも早く。
「《
「《
《
その一戦を、終わらせた。