其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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 最早番外編。
 過去編。
 過去談。
 飛ばしても構わないくらいだ。


第十二話

■ 誰かの話

 

 痛みが傷みである内は、まだ正常だった。

 痛みが傷みで無くなって、「嗚呼、また殴られた」と思う辺りになって入口だ。

 その痛みや傷みを受け入れるようになって異常だ。

 痛みや傷みを欲してしまうようになったらお終いだ。

 ……そう言えば、■■ ■という人の世界は白黒になったんだってさ。

 色盲なのかな?と思ったけど、違うらしい。

 この世界で希望を失ったせいで、『光』が無いものが、色が失われたように見える、らしい。

 どういう事?と問う機会は残念ながらない訳で。でもそのお話を聞く限り、「僕達」と同じで、異常な人なんだろう。お終いじゃなくて良かったね、と心のどこかで呟いた。

 

「■■■、来い」

 

 黒い服装の人に呼ばれたから、行くしかない(、、、、、、)

 ここが何処なのかは知らないし、どんな場所なのかも知らないし、■■ ■って人が誰なのかも結局知らない。序に■■■っていう僕の名前(らしい)の意味も、知らない。分からない。と言うか本能的に、『分かりたくない』。

 分からない事は怖い事だけど、『それら』を知る事よりは、怖くなかった。

 

「■■■には、■■■に出て貰うからな」

 

 何を言っているのかを雰囲気で察して、即座にSoy repugnante.(嫌です)と答えたかったけれど、僕の立場上、そんな事は出来ない。

 で、なんだっけ?■■■って何処?

 なんて、分からなくても聞き返せない。

 それもまた、分かりたくない事だから。

 僕が分からない理由は、いくつかある。

 一つは前々から言っている通り、分かりたくないから。

 二つは……と言ってもこっちが大元かな。

 言語が違う。

 僕の話す母国語と全く違う。似通ってすらいない。なんだっけこの国?ジパングだったっけ?

 まぁ、どうでもいいか。

 気にする事は無い。気にかける事は無い。

 痛くなければ。傷みがなければ。傷みが、痛みが無いなら、支障はない。異常だったけれど、支障はない。

 ……死んだ。殺された。それも情など無い殺し方で。そうして死んだ身内と同じ末路を辿らないなら、それでいい。ガキだから見逃された、とかどうでもいい。復讐とかもする気が起きない。

 ただ、死ななければ。

 ただ、生きていれば。

 それで、良かった。何もかも。そのままで。

 

□■□

 

 誰も彼もが彼の下だった。

 彼と言っても、もう若さなんてのは何処にもないような、おじさんだったけれど。

 見た目は4、50代の日本人(ジャポニーズ)だったのに、中身……精神がそれを軽く越えている。もう一世紀分はあるんじゃないかな、精神年齢。

 名前は、ニワハラ エンジュって言うらしい。カンジで書くとどうなるのかは知らない。ただ、僕を痛めつける奴らが「エンジュさん」とか「エンジュのダンナ」と言っていたりしていたのを、覚えていただけ。

 そんな中、「ニワハラのオンゾウシ」と呼ばれる子がいる、って事を聞いた。

 「オンゾウシ」っていうのが何なのかは知らなかったけど、同じ「ニワハラ」なのだから、あのおじさんと似通った人なんだろう、と思った。そう、思っていた。

 

 その「オンゾウシ」と呼ばれていた子を見た時、僕達と同じだ、と思った。僕達『奴隷』と一緒だ、と思った。いや、もしかすると僕達未満かもしれない、とすら。エンジュのおじさんとは、全く、全然、似ていなかった。寧ろ僕達に似ていた。

 彼は、生きる希望を何処にも見出していないような目をしていた。

ジャポニーズの基準じゃないけど、Estudiantes de secundaria(中学生)くらいかな、そんな彼は、生きる希望を見出していない僕達みたいな底辺の人間より下だった。僕達が底辺なら、彼は最底辺だったんだ。

 

「御曹司、いかがなされたのですか?」

「……話しかけるな、鬱陶しい。あとそう呼ぶな」

「ですが御曹司、貴方はいずれお父様のご意思を継いで――」

「継ぐ訳ないだろっ!!

何故僕が継がなきゃいけない!

僕以外に選択肢があった筈なのに(、、、、、、、、、、、、、、、)!!

それ(、、)を切り捨てたのはテメェらだろうがっ!!」

「っ……ですが、それはお父様のご意思――」

「無関係な訳もねぇよ」

 

 オンゾウシは酷く荒れていた。上に立つ者は上に立つ者で、楽は出来ていないらしい。

 当時の僕は、そう思うに留まった。

 

□■□

 

 オンゾウシが16になったのを切っ掛けにしてか、僕の生きてきたこの世界(箱庭)は、少しづつ変わっているように感じられた。

 第一に、傷みが無くなった。それどころか治療が始まったりしている。オンゾウシの意思だからな、なんて言っていたりしていたけれど、やっている黒い服装の男達は、心做しか喜んでいるように見えた。ジパングではツンデレと言うらしい事を、後から知った(あいつらに対してその単語を使うな、とも言われたけど)。

 オンゾウシの意思とは?と疑問を覚えたけれど、僕が会いたいと言ったって聞いてもらえないのは分かっている。質問したいと言っても伝わらない(、、、、、)事も熟知している。

 

「お前は言葉がわからんからな……扱いがその分大変だ」

 

 残念ながら、僕はその言葉の意味が分からない。ごめんね、黒服の人。

 

□■□

 

 そうして次にオンゾウシに会ったのは、オンゾウシが17になった頃だった。

 その時の彼の目は、種火のような小さなものではあったけど、光が有った。けれど、あまりにも小さい火だ。風が吹けば消えるような、小さな火。それなのにその火は燃え盛っている。

 その目と、僕の目があった時、運命の歯車は奇怪な音を鳴らしながら、回り始めたのを、僕は後々知るんだ。

 

「お前、名前は?」

 

 オンゾウシが、僕に問いかけた、のだろう。生憎日本語は分からないんだよなぁ、なんて、思っただけだったんだけど。

 

「ああ、日本語が分からないのか。黒髪だからって日本人とは限らない、か。ならEnglish?German?Spanish?」

「っ……S、Spanish……」

 

 僕は聞き逃さなかった。彼がちゃんと、僕の母国語を知っていて、それを選択肢に出した事を。いや、なんと問うたのかは知らない。ただ、母国語の名前を言われたから、途端に反応してしまっただけ。「スペイン人」って言ったのかもしれないけれど、この時の僕は「スペイン語」だと、そう確信を持って訳していた。

 

「えっと……¿Averiguar con esto?(これで分かるか?)

「っ!¡Sí!(うん!)

Vale(オーケー)……¿Cuál es el nombre?(名前は何だ?)

 

 名前を聞かれたけれど、どう答えよう。元の名前は「捨てた」らしいから、ここで呼ばれていた名前にしよう。

 

「クサ、リ……」

「鎖?クサリって呼ばれてる奴隷ってのはお前か……。

なら……お前はCadena(カデナ)だ」

¿De la cadena?(鎖?)

「Sí.」

 

 スペイン語での会話は、ここでするのは初めてで、話す事は、えっと……4才だったかな?以来だ。Cadenaは、日本語で鎖を意味するスペイン語だ。僕にぴったり、と言うわけだ。

 

「よし、カデナ。後は任せろ。僕はお前を見捨てない。それどころか救ってやる」

「?」

「あー、分かんねぇのか。でもいい。だって、『分かりたくない』ってなんねぇだろ?」

 

 何を言っているのかは分からなかったけど、何を言いたいのかは分かった僕は、コクコクと頷く。

 

「オーケー。言質はとった(、、、、、、)

 

 そう言って、彼は笑った。

 

■カデナ・パルメールの話

 

 それから何日経ったのかは分からない。随分と前に、時間の感覚は無くなっていたから。

 それでも、変革しているのだけは、何となく理解出来た。

 痛みは無い。悲鳴も無い。それでも、確かに、「エンジュ」という人は焦っていた。困っていた。……詰んでいた。

 この世界と言うのは理不尽らしく、僕が望んでいなくても、復讐はさせるらしい。

 その頃にはオンゾウシに教えて貰ったから、だけど日本語を少しだけ知っていたので、会話を理解出来ていた。

 

「僕は、クサリを放つ」

「…………そうか。元よりこの職。いずれ来るとは思っていたさ。唯一の誤算、或いは失態は、お前を残した事だよ、梓」

「ならそれはあんたの誤算だ親父。俺だけを残した、あんたの誤算で、あんたの失態だ」

「そう、だな」

 

 そのエンジュの返し方は、アズサに似ていた。嫌っていても、親子なんだな、とほんの少しだけ思っていた。

 本人に言ったら、怒りそうだけどね。

 

□■□

 

 その日、ある奴隷商人の一派が壊滅した。内部抗争によるものだと言う。政府にも関わっている者がいた為、公表はされなかった。

 奴隷は皆役割を「渡され」、普通の人間として生きていくそうだ。

 かく言う僕も例外では無く、『カデナ』という名前以外僕には無い。

 

「あ?苗字ならあるぞ?何せ元々の名前とかの情報はあるからなー」

 

 え、あるの?……でも、僕はアズサから貰った「カデナ」という名前を気に入っていた。

 

「そうか。なら改名手続きの関係上、下の名前を変える事になるだろうから、元の苗字と合わせて……」

 

 アズサは書類を作り上げていく。僕はただ見るだけだった。

 

「うし、出来た。……作るのに手間がかからなかった原因が『元から用意されていたから』とは……あの親父は……これだから……」

 

 最後の言葉は聞き取れなかったけれど、アズサが渡してきた紙には、『僕』の情報が文字になっていた。

 

「カデナ・パルメール……?」

「そ。それがお前。良かったな。お前の自由は、これから始まる」

 

 自由……自由、って何?

 

「自由は、この世界の何処にも無い」

 

 無いの?無いのに始まるの?

 

「何処にも無いけれど、絶対に在るもので、存在するもので、意外にも身近にあって、不可視で不可解だからこそ、どうしても、持っているのに求めてしまう」

 

 在るから、始まるの?

 

「求めて、求めて、求めて。その最果てに『元から持っていた』と気付いて、漸く始まる。

お前は、若しくは僕は、今この瞬間にそれに気付いた。

だから、始まる。

始めたくなくても、終わると分かっていても。

未来の為とか、誰かの為とか、大義名分をでっち上げて。

始めなくちゃならねぇ(、、、、、、、、、、)

 

 アズサはそれ以降、何も喋らずに、無言で立ち上がって部屋を出て行った。

 

「御曹司はああ見えて、優しい人です。俺達にすら優しい。

いつか、会う時があったら、宜しく言ってやって下さい」

 

 ん?黒服さん、僕は、アズサと一緒じゃないの?

 

「残念ですが、今共に行動する訳には行きません。俺達も然り。

警察は、厄介ですからね。旦那が殆どの罪を被るでしょうが、何が飛び火するか分からない。

俺達に出来る事は、あんたら元奴隷の保護と、御曹司にかかる火の粉を払う事。

まあ、安心して下せぇ。いずれ会えますって」

 

 黒服さんは、サングラスの奥の視線を優しくして、笑顔を作った。

 結局、根っからの悪人なんて、居ないみたいだよ、アズサ。

 

「さて、行きましょか」

 

 連れられて、外に出た。いつ以来だっただろう。

 

 ――空が、蒼いと思ったのは。

 

 蒼い。とても蒼い。雲一つ無い晴天の眩しさは、僕の目を焼くようだ。

 

「いい色……アズール……」

「アズール?」

「蒼って、事です。これを見せてくれたのは、アズサなんですよね」

「えぇ、そうですね。御曹司があんな事しなきゃ、今でも奴隷の人生ってのは変わらなかったでしょうから」

「なんで、そうしたんだろうね」

「さぁ、なんでで御座いましょ。意外にも、あんたにこういう景色を見せたかったから、かもしれませんぜ」

「なら、この蒼はアズサだ。アズサはアズールだ」

「アズサがアズール……名前とかかっているんですね」

 

 黒服さんは、サングラスを外して笑った。

 

「いやー、やっぱこの服だと暑い!」

「脱いで、いいの?」

「いいんすよ、これでお役御免!硬っ苦しい事は無し!

 うん、俺は葉桐!あんたは?」

 

 僕は、作られた僕ではあるけれど、大切な人が作ってくれた僕で、笑って答えた。

 

「僕は、カデナ。カデナ・パルメール。アズールに救われた、罪のない羊さ」

 

 そうして、僕の物語は、自由は、始まるんだ。




(カデナ)「恥ずかしいね、過去談って」
(庭原)(やっぱ┌(┌^o^)┐枠なんじゃなかろうか)
(天羽)「葉桐って誰なの?」
(庭原)「黒服。元働き手。SPみてぇな服装してた」
(天羽)「今はどうしてんの?」
(カデナ)「同居中だよ」
(天羽)「成程。因みに私達とゲーム内で合流する予定は?」
(作者)「無いです」
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