其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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第百十四話

 One month later――

 

 ■カタルパ・ガーデン

 

 天へと伸びた光の帯は、いつしか消えていた。それと同じように、戦いはいつだって、終息する。

 俺にとって決闘場よりも戦う事において馴染み深い場所となった平原は、何事も無かったように雑草を生やし、戦地の跡地へと姿を変えた。

 『バック・ストリート』はヴァート・ヴェートとニベルコルの〈エンブリオ〉、【暴食皇女 ケルベロス】と【堕落化身 ベルゼブブ】が第6形態に到達したらしく、一人第5形態で置いて行かれていると言ってピスケスが拗ねていた。

 そうそう、形態と言えばミルキーの……【上半怪異 テケテケ】。本人曰く「あれで完成」らしく、今だなお第6形態のままなんだ。超級を、アイツは求めていない事になる。それで良いらしい。なら、それで良いのだろう。無理に強いてどうこうなる事でもないし、無理に追い求めなくても、気付いたらなっているかもしれない。

 何かに強いられて辿り着く場所なんて、本当の実力で辿り着いた場所とはきっと違う筈なんだ。

 そういう意味では俺は、運命に縛られた人生だったかもしれないな。何かに振り回されるように、双六のように目まぐるしい日々だった。

 ジャバウォックから与えられたミスティックやシュプレヒコールの討伐といった試練は、あいつに振り回されていた感じはしたが、後々になるにつれて、俺はジャバウォックよりも更に上に……あるのかもわからない何かに誘導されて進んでいたような気さえする。

 別に文句がある訳じゃない。それのお陰で出会えたものが多過ぎて、恨むよりも先に感謝してしまいそうだ。

 運命、と言えばそれで完結するし、それはそれで合点がいく。ならそれはそれで良いのだろう。英雄だろうと正義の味方だろうと、その点は変わりないらしい。

 

「やぁ、時間通りだね、カーター」

 

 ふと、アイラが後ろから声をかけてきた。ギデオンで別行動を取っていた俺達は、示し合わせていた時間通りに合流した事になる。

 

「俺はそういう約束を破らない人間だからな」

「……そう、だね」

「兎に角、俺達は呼ばれた訳だ。しかも『こんな時』に。…………よりにもよって――こんな時に」

 

 遠くで鳴り響いた破壊音。だがそれが、今のこの王国の日常である事を、俺達はよく知っている。それが本来、異常である事も。

 

「『兄妹』が此処にいるそうだが……まぁ、関連性(、、、)を見出せって言うならトゥイードル、だよなぁ」

「だろうね。私が第2形態の時に出会ったアリス、第3形態になれた戦いを齎したジャバウォック、シュプレヒコール討伐戦で出会ったトム・キャットの正体であるチェシャ、皇国に行く際に出会ったラビット、それに最近出会った(、、、、、、)クイーンや話に聞いたバンダースナッチとかから察するにね」

「そうだな。『招待状』を送り付けてきたのがあの胡散臭い男じゃなければ、もうちょい警戒していたかもしんねぇが」

「えっと、なんと名乗っていたかな」

「あの変な色の紳士服の奴はマッドハッター、とは名乗ってこそいたが……帽子以外に目が行ったのが実情だな」

 

 そう、俺達にある日突然「招待状」を送り付けて来たのが、その「胡散臭い男」、マッドハッターだった。一人称なり何なりことある事にビブラートをかけたように伸ばすから聞き取りづらかったが、その渡してきた中身は至極真っ当なものだった。喋り方同様の中身だった場合は引き裂いていたかもしれない。

 

『でぇすのぉで、そぉこに書かぁれた日時に兄妹にぃ会ってぇ欲しぃのでぇす』

 

 寧ろその喋り方は大変なんじゃなかろうか、という内心を隠して、俺達は頷いた。

 

 遠くの戦火が耳鳴りのように、或いは遠くで打ち上がる花火のように。見える閃光も火炎も幻想と断じて、俺達は扉をノックした。

 

□■□

 

 かくしてそこに居たのは、確かに兄妹だった。

 背丈はまぁ、大差ないか。そういう観点では双子、と捉えた方が良いのかもしれない。

 

「やぁ、僕はトゥイードルダム」

「私はトゥイードルディーだよ〜」

「マッドハッターの言っていた『兄妹』は其方で間違いないみたいだな。にしても子供がこんな所に居ていいのか……?」

 

 こんな所、と言うのは〈DIN〉のギデオン支部だ。記者が右往左往する情報の鮮度を競う場所。社会科見学でもない限り、子供が入る機会はまず無いのではないだろうか?

 当然俺もまた部外者ではあるのだが、招待客なのだから許してもらおう。

 

「ただの子供と思ってはいけないよ」

「私達が噂の双子社長なの〜」

「「…………え、誰?」」

 

 思わず俺とアイラでハモって返した。

 

「え〜、知らないの〜?」

「ここ、〈DIN〉を創業した者の名さ」

「…………つまりあんたらは此処を作った、と?」

 

 兄の方は短く、妹の方は赤べこのように首を縦に振った。アイラが驚きを隠そうとして平静を装っているが、上がった眉だけはどうしようもない。

 

「成程、ねぇ……」

 

 だとしたら此処に招いたのも頷ける。彼方のホームグラウンドなのだから、此方は身勝手な事が出来ない。いや少し違うか。

 してもいいが(、、、、、、)身の保証は無い(、、、、、、、)のだ。

 ……それにしても、こんな幼い見た目の二人ではあるが、ジャバウォック等の『同類』と言うのであればこのゲームを成り立たせる上で何かを担当している、という事だ。人は見た目によらない。ジャバウォックとクイーンの二人が〈UBM〉を担当していると言っていた。アリスが確か〈マスター〉の制作に大きく関わっている、とも聞いた。バンダースナッチはハッキングから守っているとか何とか。

 〈DIN〉を作った、と言うならば情報統制とかを担当しているのかもしれない。

 

「その話を信じよう。また管理AIってのの差し金なら、別に逆らう意味も無い」

 

 まだ俺は、また俺は、運命に踊らされているのだろう。そしてその呪縛は永遠に解けない。

 それはそれで良い。本当の自由、なんてのは俺は求めていない。

 促されるままに生きて、そこで暴れるだけだ。

 簡単、ではないがさほど難しいものでもない。

 やりたい事がやれていれば、それで良いのだから。

 ――それが俺のエゴなのだから。

 

「さぁ、着いて来なよ」

「2名様、ご案内〜」

 

 双子社長に着いて行き、階段を登っていく。紙とインクの臭いが立ち込める空間をすり抜けて、高度だけが増していく。

 そうして辿り着いた先は屋上だった。

 

「……なんだ、結局あれについて話し合いたかったのか?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「私達は目的以外に興味が無い、かもしれないの〜」

「……そうかい」

 

 目線で合図を送り、アイラを紋章内に入れる。ここで戦闘、なんて事はあって欲しくない。勝てる見込みも無いのだから。だから此方から臨戦態勢に入らせないようにしなくてはならない。そうする為には、あからさまな『武器』は仕舞うに限る。ラビットのようになってしまっては、たまらない。

 

「別に戦う訳じゃないのよ?」

「話し合いがしたいだけなんだ」

「それでも、だよ」

 

 そうして俺は、双子社長から視線を外して、遠くの景色を見た。

 爆撃と雷鳴、剣舞と轟音。視線の先には戦闘があった。

 

 其処には、三人の〈マスター〉が居た。厳密にはどうであれ(、、、、、)

 俺は一人の観客として、その戦闘の行く末を、【三極竜 グローリア】の行く末を眺めていた。

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