其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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第十三話

 前回までのあらすじ。

 <Infinite Dendrogram>というゲームは『自由』を売りにしていた。

 

 主人公、庭原 梓は【カタルパ・ガーデン】として<Infinite Dendrogram>の世界に踏み入れ、【絶対裁姫 アストライア】という〈エンブリオ〉と共に様々な冒険をする。

 

 ある日、<Infinite Dendrogram>の世界でカタルパ・ガーデンはPKに出逢い、【絶対裁姫 アストライア】の記念すべき第1スキル、《秤は意図せずして釣り合う》を使用し、それを対処した。

 

 後日、<Infinite Dendrogram>の管理AI、アリス(この時はアリスンと名乗っていたが)に襲われ、【絶対裁姫 アストライア】の第2スキル《不平等の元描く平行線》で応戦しようとするもキルされ、ログイン出来なくなった。

 

 再ログインを待つ梓の元に友人、天羽 叶多がやって来る。

 なんと天羽も<Infinite Dendrogram>のプレイヤーであり、しかもカタルパが先日倒したPK、ミル鍵だったのだ。

 PKから足を洗うと言った天羽の言葉を信じ、梓は共に行動する事を誓う(実際には誓っていないが)。

 

 天羽の過去談にて、梓の世界がモノクロになった原因と現在が少しづつ見えてきた。

 彼が失ったという『光』とは、果たして。

 

 天羽の誘いに乗り決闘都市ギデオンに着いたカタルパは、気配を察知したアイラに警告されて街を離れる。離れた先で〈UBM〉【五里霧虫 ミスティック】と管理AI、ジャバウォックに出逢う。

 

 苦戦の果てに第3段階に進化した【絶対裁姫 アストライア】の第3スキル《揺らめく蒼天の旗》により【五里霧虫 ミスティック】の討伐に成功、【霧中手甲 ミスティック】を贈与される。ジャバウォックは「また来る」と言い残し、消えていった。

 

 闘技場には行かなかったがギデオンにいたままのカタルパはリアルでの待ち合わせがあった事をアイラに指摘される。

 待ち合わせの相手はカデナ・パルメール。友人、とは言えない関係ではあったが、親しい人間ではあった。

 そのカデナも、<Infinite Dendrogram>をやっていると梓に告げる。「PKされそうになったところを燕尾服の人が助けてくれた」と言う。その燕尾服のプレイヤーに心当たりどころか本人であると告白し、梓はパーティーにカデナを加えるのだった。

 

 カデナの過去談にて、梓が奴隷商人の御曹司であった事、カデナが元奴隷であった事、カデナという名前は梓に貰った事など、様々な事柄が明かされ、現実の梓の物語は殆ど、終わった形となった。

 

 であれば、この世界(リアル)で語る事なしと言うならば。

 徐々こちらの世界(<Infinite Dendrogram>)の話をしよう。

 未だ見えぬ到達点。然れどゴールは決まっている。

 これは【数神(ザ・ナンバー)】の物語。

 "不平等"で"〈UBM〉狩り"で〈超級エンブリオ〉を所持し危険なスキルを多々持つ〈マスター〉、カタルパ・ガーデンの物語。

 

□■□

 

「アルカ・トレス!合流しました!今日から宜しくです!」

「……カデナ君だったのかー、悪い事したなー……」

「僕的には反省してくれりゃそれでいいや」

『待つクマ。え、なに?お前ら全員知り合いで?1回のPKに於いて、襲った奴と襲われた奴と助けた奴って関係クマ?

……どういう事クマ。どんな確率クマ』

「「「さぁ?運命の悪戯?」」」

『時々お前らが分からんクマ……』

「私としてはシュウが一番分からないがな。同率一位はカーター」

 

 決闘都市ギデオンにて、遂にアルカ・トレスが合流した。

 これでカタルパのパーティーは(フィガロとシュウを含めて)5人となった。1パーティーの最大メンバー数が6人なので、そろそろ限界である。パーティーメンバーには含まれないアイラを含めるなら、もう6人いる訳だ。

 

「では、何かしらのパーティーでも開くか、手伝え、カーター」

「あいあい、大体任せたぜ。アイラ、シュウ」

『任せろクマ』

 

 アイラが口火を切って各自パーティーの準備を始める事になった。アルカが合流出来るのはゲーム内時間で1日程かかると言われた為、皆それなりの準備はもうしていた。

 フィガロはリアルの都合でお休みだ(病院がどうだとか)。

 人付き合いが何だかんだ良いシュウは、初めましてながらもうアルカと打ち解けていた。

 

(こうして見る限りは、ただのマスコットだな、こりゃ)

 

 カタルパは一人、薄ら笑みを浮かべるのだった。脳内で算盤を弾き、『シュウ・スターリングマスコット化計画』を企てる。儲けものだ、と薄ら笑みは段々と下卑た笑みになって行く。

 

(カーターがキモい……)

 

 思っている事を理解出来る隣人の存在も忘れて。

 

□■□

 

「ひゃあ美味いっ!!」

「大袈裟な……とは言わねぇ!アルカ!もっと食え!俺も食う!」

「二人とも……行儀が悪い!」

「カーターは自重せい!」

「ぐっ!」

「ごっ!」

 

 アルカとカタルパがすごい勢いで並べられた食材を平らげ、ミル鍵とアイラが制裁を加えた。アルカにミル鍵が、カタルパにアイラがそれぞれ加えた図である。

 

『自由過ぎる夫と鬼嫁のやり取りクマ』

「はぁ?私は梓ラブ勢だよ!アルカは前菜にすらならないよ!」

「メインヒロインなわけだから当然ではないか」

『意見を統一させろクマ。あとミル鍵もミル鍵で自重しろクマ』

「僕は圏外でいいよー。てか良かったよー」

「俺もこの話から弾いてくれると助かる」

「カーターは引っ込んで」

「梓と話をさせてね?」

「逃げ道を的確に塞ぐヒロイン(仮)……何故僕だけなのか!」

『容姿と性格、もっと見直せ。あとスペック』

「お前が言うなよ、クマ着ぐるみ」

 

 ……いつの間にか歓迎会では無くなっていたが、貸切にしていたこの状況下に於いて、それにツッコミを入れる人間はいなかった。

 ……仮にここに誰か居ても、燕尾服の紳士、それにべったりくっ付いているいかにも「盗人です」と言っているような服装な女性、それを引き剥がそうとしている鎖の巻かれた白いワンピースの少女、それを和やかな目で見ている美少年、極めつけにクマの着ぐるみ。こんなアブノーマルなメンツに「普通じゃない!」とツッコミを入れる事が出来るだろうか、いや出来ない。

 

「にしてもシュウのメシが美味い!」

『これでも加減したクマ。本気でやるとヤバいクマ』

「お前の高スペックはどうにかしろ」

『お前が言うなクマ』

 

 シュウとカタルパは、いつも通りの会話を楽しむ。彼らがリアルで会った時の会話も、大抵こんなものだ。どちらもどちらのハイスペックを知るが故に、どちらも褒め称える。

 

「んん?加減したってどういう事です?」

 

 そこで、アルカがシュウのセリフに食い付いた。

 

ここ(<Infinite Dendrogram>)の食材は美味い。だから俺が作るともっと美味くなる。

てか美味くなりすぎて食った奴がヤバい』

「あー、そう言えば」

「知っているのか、カーター!」

「ああ、こいつは高スペックを超えたハイパースペックの持ち主。作った料理は凡百(あらゆる)人間の舌を唸らせる!」

「へー……もう凄すぎて何が何だかよく分からないなぁ……」

 

 ミル鍵が遠い目をしていた。「敵わんなぁ」とでも言うかのような目だった。

 アイラも「私も欲しいな、ハイスペック」と、ハイスペックなスキルの持ち主のくせに思っていた。

 対してアルカは。

 

(美味しいなぁ……)

 

 特に何も思っておらず、何も気にしていなかった。無意識に箸が進んでいた。

 恐らく、それが一番幸せだっただろう。

 ――だがそれも、幸せを感じられる場合に限られる。

 

「中々じゃないか、シュウ・スターリング」

 

 突如、6人目が現れては、感じられる幸せも感じられなくなる。

 その6人目に、カタルパは目を見張る。

 

「っ!ジャバ、ウォック……!!」

 

 成人男性のような体躯にこれでもかと獣や化け物のパーツを無造作に、然れど完成するように押し込めて作ったようなカタチをした何か。

 <Infinite Dendrogram>の管理AIが一体、ジャバウォックがそこにいた。

 知り合いであったのはシュウとカタルパ、アイラのみ。後の二人は初対面であった為、その見た目の異様さに驚き、距離を置いた。

 

『何用だ、ジャバウォック』

「そう警戒するな、シュウ・スターリング。カタルパ・ガーデンも同様だ。私が一人でノコノコと戦いに来たとでも?」

「ここがギデオンじゃなきゃ思ったかもしれない」

「私の場合はどうあれ思っていただろうな」

「ははっ、辛辣な〈エンブリオ〉じゃないか。マスターの顔が見てみたい……嗚呼、納得した」

「おい、何を理解したんだ。聞こうじゃねぇか」

『落ち着け。……用があるのは俺達ではなく梓一人か。飯を食いに来た、って訳でもねぇんだろ?』

「あぁ、そうだった。私とした事が本題を忘れる所だった」

 

 ジャバウォックは態とらしく自身の身体を手で撫でさする。傍から見たらそうとしか捉えられない状況だが、話の流れからして何かを取り出そうとしているらしい。

 その間にカタルパとシュウはジャバウォックについて取り敢えずの説明をアルカとミル鍵にしていた。二人とも「よく分からない」といった表情をしていたものの、今出来る説明はそれ以上無かった。またそれ以上の情報を二人は持ち合わせていなかった。

 そして視線を再びジャバウォックに向けると、漸く見つけたらしい、刀を抜くような流れる手捌きで一枚の紙を取り出した。

 

「……それは?【契約書】か?」

 

 カタルパが問う。それは【契約書】と呼ばれるアイテム。スクロールの一種と思えば想像しやすいだろう。類似品として【誓約書】が存在する。

 ただ、【誓約書】は国家間で使われる為、このタイミングならば出したとしても【契約書】だ。

 

「あぁ、【契約書】だ。だが気になるのはこのアイテムそのもの、では無いだろう?カタルパ・ガーデン」

「ああ、そうだな」

『……内容、だな』

 

 シュウも遊びなどでは無いと察知してか、先程から語尾がおかしくない。何せ目の前にいるのはジャバウォック。この世界を創った一員。況してや〈UBM〉担当。

 怒らせたりすればどうなるか(、、、、、)、想像が出来ない。難くない、のでは無い。シュウですら『出来ない』。

 それは〈UBM〉が超特殊なモンスターである事に起因する。つまり、何が起こるか分からないのだ。

 つまりパルプ○テ。箱の中身は何だろな、よりも悪質なのは確実だが。

 

「なに、至ってシンプル。

或る〈UBM〉を討伐して欲しいだけだ」

「『……何だと?』」

 

 カタルパとシュウが見事にハモった。

 

□■□

 

 完全に置いてけぼりになっていたアルカとミル鍵にも分かるように、ジャバウォックはゆっくりと、且つ丁寧に説明をした。

 曰く、自身が管理していた〈UBM〉の内一体が逃げ出した、と。

 曰く、自身が倒す訳には行かない〈UBM〉である、と。

 曰く、お前達ならば死んでも構わない(、、、、、、、、、、、、、、)、と。

 付け加えて「特にカタルパ・ガーデンは死んでいい」と言ったのは、ジャバウォックの性質をよく示せていると思う。

 

「成程?だが討伐させていいのか?〈UBM〉、なんだろ?」

「構わんさ。他の、より多くのマスターに被害が出る前に討伐しなければならない。だが私達が倒す訳には行かない。それはゲームの趣旨からズレるから、と言っておこう。

まあ、兎に角、私達が打てる最善はこれなのだ」

『なら、【契約書】の内容は何だ』

「報酬を私が増量する事。MVP特典は無理だが、それ以外ならば増やした上で分配、いや、本来の報酬を人数分用意させてもいい。

差し出がましいかもしれないが、私が完成させる前に逃げ出した〈UBM〉だ。どうしようと構わない。今更どうこうする価値すらない(、、、、、、)

 

 そう語るジャバウォックの語調は強かった。そこには明確な怒りが発露していた。〈UBM〉は己が手で完成されるべき、という思想なのだろう。

 〈UBM〉に登録したのに、完成したのはその後、とは数奇なものだが、管理AIとて完璧では無い。抜け目はあるだろう。

 カタルパ達は心の中で決断した。また、結団した。

 それは、他の誰かの為、という大義名分を得たからかもしれない。

 それでも、それが彼らにとっての――カタルパ・ガーデンにどっての正義に成り得るならば、それでいい。

 

「それで、討伐対象は?」

 

 カタルパが聞くと、ジャバウォックは重々しく口を開き、名を告げる。

 

「【シュプレヒコール】……【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】だ」

 

 (今迄で、と限定はするが)最悪の、〈UBM〉の名を。




【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】。
 シュプレヒコールとは。
 舞台で、一団がひとつの台詞を合唱する形式で進行する形式の演劇。シュプレヒコール劇のこと。
 ドイツ語の Sprechchor(英語: speaking choir からsprechen(スピーキング、話すなどを意味する独語)・choir(コーラス又は合唱団を意味する英語)に由来しており、「ドイツ語から日本語への借用」の一つである。シュプレヒコールは「集団で同じ言葉を繰り返す」のが特徴であり、「~やめろ」、「~しろ」、「~せよ」などの命令形のフレーズが多くを占めている。(wiki引用)
 今回は、デモなどで言われる方の意味、ではない方の意味で使われています。
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