其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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第二十話

 始めよう、と意気込んだまでは、良かった、が。

 何も始まらなかった。

 始まると同時に、否、始まる前に、終わっていたから。

 どういう事か。それは。

 

「教えるとは言っていた、が。『俺だけにしか倒せない』とか、『俺にしか知れない〈UBM〉だ』とは、言ってなかったな」

 

 カタルパより早く、速く、ジャバウォックの教えた〈UBM〉を狩るという事だ。

 AGI8000で駆けたカタルパより速く出逢い、到着より速く狩る事。

 そしてそれを実行したのは、カタルパがよく知る人物だった。

 

「アルカ……」

「おはよう、アズール。良い朝だね」

「……昼過ぎどころか日は沈みかけているんだが」

「あぁ、ごめんね?

で、誰だっけ?」

「黄昏時とボケるには、さっき俺を呼んだしなぁ。言い逃れは先ず出来ねぇだろ」

「んー、そっか。そうだね、そうだよね。

僕は嘘つき(、、、、、)……だからね」

 

 噛み合っているようで、噛み合っていない会話。

 その噛み合わなさは、カタルパとアイラのコンビ以上だ。

 干渉しない、感情の無い人間。

 アルカ・トレスはマトモなプレイヤーであり、リアルであるカデナ・パルメールもマトモな人間である。

 精神に異常をきたすなど、今時珍しくもあるまい(、、、、、、、、、、)?という暴論の元ではあるが。

 況してや、彼の過去や周りの人間を鑑みれば尚更。

 彼がマトモに見えて仕方がない。

 いや、今となってはフィガロがいるか。格好こそアレだが、彼の方がよっぽどマトモである。

 ここで言う『マトモ』が何を指してマトモか否かを断じているかは口外しないにしても。

 

「それで、もう倒しちまったって事でいいのか?」

「うんうん、そうだね。あまり苦労はしなかったね」

 

 嘘つけ、とカタルパは内心で毒づく。

 アルカのジョブは【司祭】やら【司教】やら、魔法職にして回復職。森の木々は何一つ傷ついていない。ここまで状態を保ちながら倒したと言うのだから。

 相手に森を傷つけさせずに(、、、、、、、、、、、、)倒すなんて、カタルパにも出来ない芸当だろうから。

 だが、アルカ――カデナは、そこまで森林というものを大事にする人間だっただろうか、とふとカタルパは思案した。

 《感情は一、論理は全》を解除していた為余計な思考も混じったが、そうでなくとも答えは出ない。

 幾ら考えたところで、他人の思考なんて分かる訳ないのだから。

 

「そうそうアズール」

「……ん?どうした」

 

 答えながらも何か、言い様の無い『何か』を感じて、カタルパは一歩退く。

 説明は出来ない。だが、良くないモノだ。良くない何かを、感じ取ってしまっている。

 そう言えば(、、、、、)、と。カタルパは頭に左手を置く。

 そのまま掻き毟り、溜息をついた。

 

「〈UBM〉、倒したんだったな……」

 

 倒したのは、恐らくアルカ一人。ならばMVP特典もアルカが受け取っている筈だ。

 戦った〈UBM〉が何なのかも、そのMVP特典が何なのかも、知る由もない事だ。

 だから(、、、)マズい。

 カタルパの手を覆う手甲も、肩から提げている刀も特殊な力を持っているMVP特典。

 アルカが入手したMVP特典が、ただの武具である訳がない。

 

「どうしたの、アズール?

化け物を見るような目をして(、、、、、、、、、、、、、)

 

 正しく、その通りだ。心の中で、呟いた。

 いや、具体的に言うなら、今手に入れたであろうMVP特典に向けた目だった、筈だ。

 この良くない何かの正体は、それである、筈だ。

 何もかもが、推測。

 だから、最悪のケースも考えてしまう。

 例えば、精神汚染系列のMVP特典を手に入れたというケース。

 この場合、アルカが壊れる、若しくは操られるの二択だろう。

 問題はそちらでは無い。もう一つの『最悪のケース』だ。

 MVP特典の内容を理解した上で使いこなし、その上で、正しい手順を踏んで、彼自身が『良くないモノ』と化しているケース。

 そしてまた、この世界というものは変なところで残酷だ。

 

「アズール、僕はさ、新しい力を得たんだ。今なら守れるし、今ならやれる。さっきはほら、ミルキーがルール違反しちゃって台無しになったけどさ、ここならやれるよ。僕とアズールで。僕の独壇場で。大丈夫、僕しかもう、アズールを殺さないから」

 

 ――想定した最悪を、実現させる程度には。

 アルカの首が曲がる。

 傾げてなどいない(、、、、、、、、)

 曲がる。曲がる。

 そしてアルカとカタルパの目が合う。

 見れば彼の目が、左目が、碧に変色していた。

 カタルパは、それが何故なのか《看破》を使って理解した。

 

「【直光義眼 ゲイザー】……?」

「あれ?アズールには分かるの?」

 

 分かるの、と問われても、名前しか分かっていないカタルパはどう返していいか戸惑うしかない。

 直光……光線か何かでも発射するのか?目からビーム的なやつか?と予想するしか無い。

 どうあれ、それが『良くないモノ』の正体で、アルカが『良くないモノ』になってしまった正体なのは、何となく察した。

 カタルパに、『それ』をどうにかする権利は無い。義務も無い。

 プレイヤーは自由なのだから。狂おうが壊れようがどうなろうが、自由の範囲内。誰一人として、それに干渉する必要性は無い。

 感情を向ける必要は無い。

 だからこそ(、、、、、)、アルカ・トレスはマトモな(、、、、)プレイヤーなのだ。

 干渉しないから。感情が無いように見えるから。

 見え透いた嘘も無い。

 お世辞や暴論も無い。

 ただ状況を判断し、それに対する事を述べる、《感情は一、論理は全》を使っている時のカタルパと同じくらいに機械的なプレイヤー。それがアルカ・トレスというプレイヤーの本質であり、カデナ・パルメールという人間の本性だ。

 そういう人間であると前々から知っていたカタルパは、梓は。

 直す必要性が無い事を理解した上で、【共鳴怨刀 シュプレヒコール】を手に持った。義務も権利も無かったが、義理があったから。

 

「僕と戦ってくれるの!アズール!!」

「あぁ。やってやろう」

 

 ――お前の為なら、悪になろう。

 そんな胸の内が、聞こえてくるようだった。

 

□■□

 

「《霧生成》」

 

 カタルパが、【霧中手甲 ミスティック】から霧を生み出した。MPを払って霧を生むこのスキルは、両の手で放つと霧の生成量が倍になる(無論、MPの消費量も倍になる)。目くらましでしかない。だが、現状に於いては良策である。

 何せ互いに真の実力を知らない。カタルパはあの時、《感情は一、論理は全》の能力を説明しなかった。故にアルカにはそれが分からない。加えて第4形態(Cross Balance)の実態も知らない。

 だがカタルパは、アルカのエンブリオが【平生宝樹 イグドラシル】という名前である事と、TYPEがテリトリーである事、木々を操る力があるという事くらいしか知らない。加えて今は、あのMVP特典、【直光義眼 ゲイザー】の能力も知らない。

 情報量的にはカタルパが不利だ。

 だが、ステータスに於いてはカタルパがアルカに勝る。

 それによって、歪な均衡が生まれていた。

 カタルパはその高ステを活かしスキルを殆ど使わずに第3形態(Cross Flag)の【絶対裁姫 アストライア】を振るう。

 アルカは【平生宝樹 イグドラシル】を使い、辺りに生える木々を操っている。

 その木々を操るスキルが《森輪破壊(メイキング)》と呼ばれるスキルだとは、カタルパは知らないが。

 その内、カタルパは第1形態(Cross Sword)に変えて、木々を切り裂き始めた。

 それにより、少しづつ、均衡は崩れていく――ように思えた。

 ガキンッ!!

 突如、先程までは切り裂けていた木が、カタルパの振るった刃を止めた。それが《森羅万傷(フレンドリーファイア)》というスキルによるものだとは、カタルパは知らないが。

 

「なっ!?」

「やっぱり耐えられるようになるよねぇ」

 

 その言い回しからして、アルカが何かをしたのは確実だ。

 そして、止められた事による反動で、刃が弾かれる。

 その勢いに乗せられ、空中でカタルパはバランスを崩す。

 どんなに素早くとも、空中では足の踏み場が無い。

 光り輝く【直光義眼 ゲイザー】の光線を、避ける事は叶わない。

 

「《ピアッシング・レイ》!」

 

 一直線に突き抜ける一筋の閃光。

 それこそ直行する光、直光である。

 遥か彼方を目指すような、ただ伸びて行く閃光。

 高速で、光速で。それはカタルパを穿とうとする。

 今の【絶対裁姫 アストライア】は第1形態。つまりスキルは《秤は意図せずして釣り合う》しか使えない。

 今から形態を変えるのは間に合わない。だからそれ(、、)が、最適解。

 

「『《秤は意図せずして釣り合う(アンコンシアス・フラット)》!』」

 

 第1スキルを叫び、PKをしようとしているアルカのステータスを写し取る。

 つい先程、いきなり木が斬撃を受け止めた時に、カタルパは目星を付けていた。

 あれは、木という非生物が、END等のステータス補正を(、、、、、、、、)受けたと、予想した。

 実際その通りで、《森羅万傷(フレンドリーファイア)》は自身が操っている木々にHP以外の自身のステータスを与える代わりに、それらが受けるダメージと同じダメージを受けるというスキル。

 《森輪破壊(メイキング)》は【イグドラシル】展開中の半径100メートルの間の木々を一体のモンスターとして扱い、発動中テイムモンスター扱いするスキル。木々の種類が違おうと一体として扱われ、その量に関係なく従属キャパシティが0として扱われる。ただ、その状態ではただの木々でしかない為、《ガードナー獣戦士理論》は役に立たない。

 もう一つ、《森剣勝負(フェアプレイ)》というスキルもあったが、それに関してはまだアルカが使いこなせていないので、今はこれが全力だった。

 そんなスキルの内容は、カタルパは存じ上げていない事だろう。

然れどその行動には、一切の迷いが無い。

 ENDが上がった為に《ピアッシング・レイ》をモロに喰らいながら耐えたカタルパは、両手に夫々装備した剣と刀を振るう。

 空中のカタルパを捕縛しようと伸ばされた幹は、細切れにされて地に落ちた。

 

(おかしいな。……僕のステータス補正はEND中心。アズールが使った《秤は意図せずして釣り合う》じゃ《森羅万傷》を使った僕の【イグドラシル】の防御を越えられるとは思わないんだけど)

 

 写し取られた事は問題では無い。斬られた事が問題だ。補正を与えてENDが高い木が、ぶった斬られたのが問題だ。

 形態は未だ第1形態だ。高AGIを《不平等の元描く平行線》でSTRに写して叩き込んでいるのなら、まだ分かる。

 けれどもそんな素振りは無い――そして、気付く。

 彼の行動が、とても単調である事に。

 解りやすく言ってしまおう。

 とても機械的で(、、、、)あった事に、アルカは気付いた。

 そして、思い出す。

 彼の左手に握られている【アストライア】――では無く!

 右手に握られている――【共鳴怨刀 シュプレヒコール】の存在を!

 

「ハ、《音信共鳴(ハウリング)》!?」

 

 そう言えばあったな、と。

 そしてカタルパがここへ来る際に、《感情は一、論理は全》を使っていたな、と。

 点と点が結ばれて、結末を得た。

 アルカ・トレスの敗北という、結末を。

 【イグドラシル】は味方を強化する。

 キャパシティ0の、『木』という仲間を強化する。

 【イグドラシル】は敵を弱体化させる。

 (今回は使わなかったが)《森剣勝負》の効果で、弱体化させる。

 【アストライア】も、【イグドラシル】も第4形態のエンブリオである。

 それでも、こんなに差が出るか(雲泥の差じゃないか)、と。

 アルカは空を仰ぐ。

 森の中心部とあって、【ゲイザー】を倒した時には空など見えなかったが、今はもう、青空が広がっているのが地上から展望出来る。

 斬り裂いたのはカタルパであったが、こんな景色を作った一因は、どうしようもなく、間違いなく自分なのだ、とアルカは落涙する。

 その涙すら、今は拭えない。誰一人。何一つ。

 辺り一帯を不毛の地として、カタルパは第3形態(Cross Flag)をアルカに向ける。

 鎖が解かれ、空と同じような蒼をした面とシマウマのような白黒の縞模様が描かれた面、その前者がアルカの目に映る。

 

「『《揺らめく蒼天の旗(アズール・フラッグ)》』」

 

 一瞬、空に浮かんだかのような一面の蒼に覆われて、地が空と一体化する。

 だがそれも、瞬きの内に白と黒に変貌する。

 白と黒による縞模様は、ペトラ・サンクタの手法で表される紋章学でのアズール(アジュールとも)。

 何処までも蒼く、彼の根源は何処まで行ってもモノクロだ。

 

(救えないんだなぁ……僕なんかじゃ)

 

 誰も頷かない、否定もしない。反対も賛成も無い。

 それでも、感情を失くした顔でただアルカを見つめるカタルパを、義眼は映す。

 刹那、光の塵が、風で揺らいだ。




《音信共鳴》
 直前という限定は無く、事前に使っていたスキルをストックしておく事で、一度限りではあるがそのスキルを再発動できるスキル。
 使いようによってはカタルパの場合、72時間のリキャストがある《揺らめく蒼天の旗》をこれでストックする事で二回発動出来るようになる。一度ストックし、使ったスキルと同じスキルは24時間ストック出来ない為、使い時や使い方を選ぶ必要はある(それでもリキャストに72時間かかる《揺らめく蒼天の旗》はあまりデメリットが無いように思えるが)。

《森輪破壊》
 オブジェクト扱いされている(←ここ重要)樹木を半径100メートル以内でサーチし、それを従属キャパシティ0のモンスター扱いで操るスキル。本文でも語っていた事だが、ただの木々である為獣戦士理論的なものに活かす事は出来ない。
 また、現在の(《森剣勝負》を使わない――使いこなせていない)【平生宝樹 イグドラシル】には植物を生み出すスキルが無い為、必然的に森の中などでしか使えないし戦えない。

《森羅万傷》
 《森輪破壊》で操っている樹木に自身のHP以外のステータスを写させるスキル。代償としてHPリンクが張られ、樹木がダメージを受けるとアルカ本人にもそれと同じダメージが入る。END重視のステ振りにしている為、防御面が強化される事になる。
 最早謎スキルである。

《森剣勝負》
 本文未登場。相手のHPを吸い取り、それを養分として植物を種子から育て上げるスキル。また、HPを吸い取る際に相手の攻撃力を減少させる事が出来る。吸い取るHPが多ければ多い程大きく成長する。吸い取る為には直接手で触れている事が条件で、且つ吸い取る量は秒毎に0.01%程である。
 仮に木を60年分育てようとすると必要な養分(HP)は約6000。一秒吸い取ってそこまでする為には相手のHPが60000000ぐらいある事になる。【ゲイザー】を倒した際にはこのスキルを使っていたが、種子は他所から仕入れてくる必要がある為、本人はあまり使いたくないらしい。カタルパが来た時に木々にダメージが入っていなかったのは、《森剣勝負》で育てた木々が生い茂っていたから。元々あった分は【ゲイザー】との戦闘で絶えている。

(庭原)「何がフェアプレイだよ。アンフェア過ぎるわ」
(ジャバウォック)「中々に酷いな。……と言うか私としては何故【ゲイザー】の存在を感知したのかが気になるのだが……」
(カデナ)「ウンメイノー」
(庭原)「おい馬鹿やめろ」

【ゲイザー】【直光義眼 ゲイザー】
本文では公開されていないが名は【直光魔眼 ゲイザー】であった。
魔法攻撃に耐性があり、物理もあまり通さないという防御寄りの〈UBM〉だったが、HPドレインへの耐性は無かった為、アルカに敗北した。
MVP特典は瞳孔が碧の色をした義眼。《看破》が使えるようになるのと、《ピアッシング・レイ》が使えるようになる。ステータス補正は無い(これ、カタルパに必要だったか?と思わせてくれる)。

《ピアッシング・レイ》
特に説明は無い。MPを払って光線を放つ。威力は消費MPに比例する。それくらいである。
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