其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

28 / 121
第二十五話

 立ち位置は変わってない。

 けれど、距離感は変わってしまった。

 向かい合っても、見つめあっても、交わりはしない。

 それこそ、見えているのに、別の世界に互いが立っているかのような。

 カタルパとアイラの立ち位置は正にそれであり、お互いにそれを、どうにかしようとしている、らしい。

 だが、それですら些事になる事がある。

 例えば、単純に。

 

 それどころでは無くなった時、だ。

 

□■□

 

 久々に、カタルパ達は一堂に会した。

 【数神】カタルパと、【破壊者】シュウと、【剛闘士】フィガロと、【司教】アルカと、【夜行狩人】(また変えたらしい)ミル鍵。その五人が、ギデオンの闘技場前に集った。

 妙に殺気立っており、カタルパに至っては既に剣と刀を手にしている。

 此処は、前述の通りギデオンの闘技場である。

 此度、彼等は総当たり戦を行う。

 つまり、一対一対一対一対一。

 唯一笑みを浮かべているミルキーも、どす黒い『何か』が蠢いている。

 シュウが誘い、全員が快諾した此度の決闘は、カタルパにとってはストレス発散でしか無い。現実逃避の延長線でしか無い。イベントがあったら、逃げる為に食らいつくのが、今のカタルパなのだった。

 ……そうであったとしても、友と競えると言うのは、良いものだと思っているのも、確かだが。

 

『んじゃま、行くワン』

 

 【すーぱーきぐるみしりーず ふぇいうる】を見に纏ったシュウに続くように、五人は闘技場の中へと消えて行く。

 

 天空に居た、遺物にして異物なるモノは、それを静かに見降ろしていた。

 

□■□

 

「じゃあ、行くよ」

「来い、フィガロ!」

 

 開始早々【旋嵐斧 フルゴール】を振るうフィガロの一撃は予想以上に重く、二刀では受け止めるのがやっとだった。

 返した【シュプレヒコール】の斬撃は、【フルゴール】の刃に堰き止められる。

 両者、互角の戦いである。

 それをシュウ達は、観客として眺めていた。

 

「フィガロさんは闘技場のランカーだったよね?」

『一位まではまだまだだが、そうだワン』

「それと互角の『非戦闘職』って何者って話よねー」

「アズールファイトー」

 

 辺りは彼等以上に騒然としている。

 それもその筈だろう。

 闘技場のランカーと、無名の非戦闘職が互角に戦っているのだから。無名の戦闘職ならば、まだ分かったかもしれないが。

 その騒めきすら置き去りにして、二人は刃を交える。

 

「《揺らめく蒼天の旗》!!」

「《攻性斬撃結界》」

「っ!《音信共鳴》、《揺らめく蒼天の旗》!」

「――疾っ!!」

「外れた――【Form shift Cross Balance】

《感情は一、論理は全》!」

 

 そこで、結界内の状況が変転、見辛くなるアクシデントが起き、ほんの数瞬、闘技場の結界がブレる。

 処理が追い付き、中が映し出された時には、既にカタルパは敗していた。

 

「あらー……残念だなー」

「ミルキー、もしかして賭けてた?」

「いんや?でもまぁ、期待はしてたよね」

 

 AGI特化――カタルパに追い付く(、、、、、、、、、)為に今のビルドになっているミルキーは、そのブレの中で一部始終を見ていた。

 感情を失った事を逆手に取り、フィガロは態と罠を仕掛けた。

 感情を失う故に、カタルパは読み合いをしない。つまり、相手の行動に一々対処をしてしまう。

 そこを突かれた。

 

「ま、フィガちゃんの作戦勝ちかなぁ」

『だがあいつ、本気じゃなかったワン』

「あ、シュウもそう思う?

……最近、アイラちゃんと【シュプレヒコール】しか使ってない気がすんのよね。縛りプレイのつもりかな」

「僕の時は【ミスティック】使ってたけどね」

「『…………そう』」

 

 そういう事言いたいんじゃないんだけどな、そう心の中で二人は呟く。

 矢張りデスペナ明けだろうと、アルカは何処かズレていた。

 

□■□

 

『てな訳で、行くワン』

「かかってこいや!今の私は誰にも負けないから!」

 

 次はシュウ対ミルキー。カタルパとフィガロは観客となり、先程までシュウ達がいた場所に腰掛けていた。

 

「【破壊者】対【夜行狩人】ね……ミルキーのあのビルドは何なんだ、迷走か?以前は【蛮戦士】か何かだったろ?」

「いや、なんか組むだけ組んで後で『こっちの方がAGI上がるな』って感じで組み替えてるんだって」

「なんでそこまでAGIに拘るんだ……?」

「……アズール、鈍感って何か知ってる?」

「いや、生憎?」

「……そう。

 ……あ、アズールの隣にも居たよ鈍感さん」

「?」

 

 どうやらアルカは、この状況ではツッコミになってしまうらしい。中々釣り合いの取れた関係である。

 

「なんかあそこ楽しそう」

『おいちゃんと戦え』

 

 先程からシュウの砲撃をヒラリと躱し続けているミルキーは、もう弾道が見えているのかシュウを見ずに余所見をしていた。

 それに怒ったのか、シュウは自ら近付き接近戦を仕掛けるも、【テケテケ】の攻撃は侮れず、決定打を打てないままでいた。

 そしてまたミルキーも、砲撃を掻い潜り斬りかかりに行く事も、シュウの技量と弾幕のスキをついて一撃を与える事も出来なかった為、【バルドル】の弾薬が尽きるか、ミルキーがスタミナ切れを起こすかしないと終わらない持久戦になった。

 

 ――それを中断させるかのように。

 不意に、『それ』は降ってきた。

 闘技場の結界すら無視して。決闘すら無視して。

 その落下地点にある、人の命すら、無視して。

 

□■□

 

 ズズンッ!!

 巨大な氷柱のようなものが、天から地に突き刺さったのを、カタルパは視認した。落下地点は闘技場の真ん中……つまり現在、シュウとミルキーが戦っていた場所である。

 結界が一瞬にして消え失せ、其処は一時的に『闘技場ではなくなった』。

 何が起きたか分からないのは、なにもカタルパだけでは無い。

 シュウとミルキーの決闘に見入っていた誰もが、同様の疑問を抱いたのだから。

 ミルキーがやった訳ではあるまい。シュウも出来るとは思えない。

 だが、第三者が『これ』を行えるのか?と。

 そして信じたくない事かもしれないが、可能なのだ。

 遥か上空、天空に位置する()物には、可能なのだ。

 それを、その場にいた数少ない超級であったカタルパは、見た。

 

 それは、幾つもの宝石の塊のようだった。

 

 完全な球のもの、原石のようなもの、様々な宝石と称されるそれをばら撒き、宙に浮かせたような、そんな姿だった。

 カタルパは一万m近いその距離を気にせず、《看破》を使用する。

 同じように上空を見ていたトム・キャットと、同じ言葉を同じタイミングで口にする。

 

「「【七亡乱波 ギャラルホルン】……」」

 

 絶望の歯車が、歪な音をたてて回り始めた瞬間だった。

 

□■□

 

『嗚呼、落ちてしまった。

些か己の身というものは扱いが難しいな。

あの時の話に乗って調整されるべき……だったのか?』

 

 空を飛ぶ鳥すらその域にはいない。そんな中、薄い空気の中で、確かに【ギャラルホルン】は喋った。

 飛行機が同じ高さを飛ぶような場所で。一人。

 宝石の塊は空間的に七つの突起を持っていて、夫々が虹の7色を模していた。

 それらの中心であろう位置に、透明な球の宝石がある。

 それが、本体。厳密には、その中に容れられた今は見えない生命体。それが【七亡乱波 ギャラルホルン】である。

 種族はエレメンタル。

 能力は《宝玉精製》と《???》と《???》。

 先の氷柱のような宝石は、《宝玉精製》で造り出していたものを落としてしまったに過ぎない。

 本来あれをカットしコーティングする事でレンズのようにし、あの闘技場を見ようとしていたのだが(本来する必要の無い事ではあるのだが)、うっかり落としてしまった、らしい。

 

『……闘技場内、2名死亡(ロスト)。残り467名。内1名が視察対象。残り466名中183名がティアン、残りはマスター。

では、283名をリストアップし、殲滅可能対象に指定。

何かしらの抵抗を確認し次第、行動に移る。

対し183名のティアンの安全保護を確約する』

 

 【ギャラルホルン】は球を煌めかせ、眼下に広がる街を見降ろす。

殺さないでおくのは184人。それ以外は殺して構わない。

 既にシュウ・スターリングというマスターとミル鍵というマスターは死亡(ロスト)した。

 空中庭園のような化け物は、ゆっくりとその高度を下げていく。

 

『では、間近で見てみようか。カタルパ・ガーデンという存在を』

 

 己が好奇心の為に、殺戮を行いながら。

 

 そうして視点は、再び地上に移る。

 流石に降りてきては、上を見れば見えてしまう。

 闘技場よりも大きな宝石群、【ギャラルホルン】の姿が。

 それにより、ティアンは愚か、本来倒そうと血気盛んになる筈のマスターまで逃げ始めた。

 敵わない、と本能的に察知したのだろうか。運良く【ギャラルホルン】も『マスターを積極的に殺す』とは言っていない。どころか『ティアンを殺さない』と言っている(地上に声は届いていないが)。ティアンと共に逃げ回っていれば、死ぬ心配は恐らく無いだろう。

 既に死んだ二人は、勿論例外として扱われるが。

 陽光を反射して煌めきながら降りるその姿は、天使が舞い降りてきたかのように見えるかもしれない。

 だが事実は違う。

 その例えを継いで言うならば、悪魔なのだ。

 目的も何もかもが不明なまま降りてきた、化け物なのだ。

 だが、それを眼前に、逃げない者達が居た。

 一人はフィガロ。

 周りに『仲間』がいるものの、戦いたいという欲が顕著に表れている。

 一人はトム。

 旧知の者に、問うべき事を問う為に。

 一人はアルカ。

 それはただの、空気の読めなさ故に。

 そして。

 一人は、否、二人は。

 カタルパ・ガーデンと、【絶対裁姫 アストライア】。

 彼等は、己が使命である、『裁定』の為に。

 

 理不尽を前に、四人のマスターと一人の姫が逃げなかった。

 それは、傍から見れば愚行極まりない。

 然れど、一人を除き、彼等にそのような意見を受け付ける耳は無い。否、今の彼等を、そう呼んではならない。

 逃げ惑う人々の為に闘う、そう見れば言える筈がない。

 それでも愚者と言うのは、些か“不平等”ではなかろうか。

 真に愚者なのは、それを言う人間なのだろうから。

 

「知らせなくていいのか、管理人」

「大丈夫ー、もう知らせてあるから」

 

 トムは己の目を指差す。それはつまり、アリスが見ている、という事だ。その内増援が来る可能性があるという事だ。

 空から石と石の擦れる音が鳴る。キリキリと不協和音が鳴り響き、カタルパは顔を顰めた。

 

「んじゃま、初仕事だ。行くぜ、ネクロ」

『了解。

……然しマスター、あれに勝つ気か?』

「そうしなくちゃ、正義じゃねぇだろ?」

『――流石狂人』

 

 【幻想魔導書 ネクロノミコン】をアクセサリー枠で(、、、、、、、、)装備し、二刀を構える。

 アルカは援護に徹するようで、一旦距離を置いた。

 二人のランカーと一人の非戦闘職。

 然れど二人の超級と一人の上級。

 彼等三人は一斉に、宝石群に向けて駆け出した。




《宝玉精製》
 時間をかけて己のリソースを素材に宝石を造る。
 色や形などを【ギャラルホルン】は自在に操る事が出来る為、本来カット&コーティングを必要とせずにレンズのようなものは造れる。
 ただ、形まで精密に指定すると多大なリソースを使用する為、カット&コーティングをした方がリソース的な意味では効率が良い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。