其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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第二十六話

「……ほう?」

 

 アリスからの連絡を受けたジャバウォックは、一旦『仕事』から目を離した。

 

「【七亡乱波】か……。確かにアレは〈UBM〉でも〈イレギュラー〉でも〈SUBM〉でも無い。だだのボスモンスターだ。

だがアレを倒して何も無い、と言うのは宜しくないかもしれないな。

レドキングは何をしていた?奴の空間に封じていたのではないのか?そんな不満は挙げたらキリがないか。

アリス、先ずは傍観に徹しろ。アレは積極的に戦闘を行う性格では無い。宝石を落としたのも、何かの事故である可能性が高い」

 

 ジャバウォックは【七亡乱波】の性格を理解した上で落ち着いた風を装って話すも、返ってきた言葉で声を失った。

 

「なっ……もう戦闘が?

…………チェシャが、だと?何を考えて……何、お前が言ったのか?

……あぁ。確かに倒す倒さないのどちらにせよ、放置するのが最も危険だ。だがな、【七亡乱波】は好戦的な性格では無い、筈だ。穏便に済ませられるのならばそうしろ。

【無限空間】をすり抜けた理由、すり抜けてまでギデオンに向かった理由。不明点は多い。

情報が足りない。アリス、〈DIN〉のダムとディーには連絡をしたか?

……そうか。ドーマウスも、か。ふむ、彼等の出した結論ならば、反論するつもりも無い。

分かった。後は出来る限りこちらで対処する」

 

 【テレパシーカフス】での連絡を切り、ジャバウォックは嘆息する。

 

「【七亡乱波】……【七曜統率】とは違うにせよ、『何者でもない』のは問題か。チェシャが度々分隊で話しに行っていたそうだが……何も無かったのか?今回こうして出てくる理由が、一つも無かったのか?」

 

 疑問は尽きない。それも、答えが出ないから増える一方だ。

 そしてまた、【テレパシーカフス】でチェシャから連絡が来る。

 

『ちょっと助けてくれないかなー?』

「助ける、とは?」

『いやー、なんかカタルパ君に用があるみたいな事言っててさー』

「カタルパ?……何故【無限空間】の影響下で情報遮断があった筈なのにカタルパ・ガーデンを【七亡乱波】が知っている?」

『僕が話した事があるかもー』

「…………嘘だろう?

まさかそんな、『知的好奇心』なんてものに、【無限空間】が?」

『いや、抑レドキングは関係ないよー。

ダンジョン内に入ってはいたけどそれは“監獄”じゃないしー』

「はぁ?」

 

 それこそ顎でも外れたかのように口を開き、ジャバウォックは呆れる。

 

「あの化け物に対して、そんな処置しかしていない、だと……?」

『君が言ったんじゃないか、【ギャラルホルン】は好戦的な性格じゃないから、ってさ』

「限度がある……好戦的で無いだけで『戦わない』などとは1度も……分かった、私が悪かった。

だが……どうするか。

仮に今〈UBM〉に指定して、プレイヤーの戦意が上がったとしても……今のプレイヤーに倒せる相手では無い」

 

 それは、どうしようもなく現状が詰んでいる原因である。

 カタルパ達にとって、【ギャラルホルン】は強過ぎる。

 チェシャ――トムでも一人では先ず勝てない。……仮に“獣の化身”となったとしても、だ。

 ジャバウォックならば一人で倒せるだろうが、彼等が倒してしまうのは宜しくない。

 

「私が“デザイン”したのであれば、ある程度弱体化させただろうに……自然発生であの強さなのは、何かがおかしい」

 

 それこそ、部分的な能力は【竜王】達――〈イレギュラー〉に匹敵する。

 唯一の救いは、突出した性能があり、それだけが〈イレギュラー〉級だという事だ。

 他は伝説級〈UBM〉程だろう。

 だがそれが問題だ。

 その突出した性能が、今の彼等に対しては強過ぎる。

 過剰な力の前に、何処まで足掻けるか……。

 ジャバウォックは未だ見えぬ先を見て、再び嘆息した。

 

「だが、まぁ、有難い事でもある。

【邪神】を守るガーディアンという話もあったが、本当は何なのだろうな。

まぁ、仮にそうなのであれば、倒されるのは本望なのだが。なのだが……倒せるのか?カタルパ・ガーデン」

 

 虚空の果て、一人の【神】を、ジャバウォックは思う。

 間違いに間違いを重ねて、何よりも正しくなった、青年を。

 

□■□

 

 突如トムが八人に分身して驚いたが、カタルパは酷く冷静に魔法を放っていた。

 左手には天秤。右手には刀。両手に嵌めるは手甲。そして宙に浮く魔導書。

 着用している燕尾服が、その場の雰囲気から浮いている。

 だが、そんな事を《感情は一、論理は全》発動中の彼は、一度も考えたりはしない。

 皿に何も乗っていない天秤がカタルパの動きで揺れ、左舷にも右舷にも傾く。

 魔導書から放たれる魔法は《ファイヤーボール》の一つのみ。下級の火属性魔法である。

 カタルパは計測している。七つの突起状の宝石と一つの球状の宝石が特徴的なその物体に何発も当てている。

 別の場所に、別の角度に当てている。

 それは、弱点を探す為。同じ魔法でも、確かに効果は誤差的な範囲であれど変わっている。

 その事実が、今のカタルパを突き動かしている。

 フィガロはアルカの隣で観戦している。ソロでなければ戦えないからだ。

 実質トムとカタルパの共闘状態である(アルカのサポートこそあれ)。

 《感情は一、論理は全》を解除し、意思を取り戻したカタルパは、アイラを天秤から弩弓に姿を変えさせた。

 《不平等の元描く平行線》を発動し、一時的に強く、堅くなる。その状態で、カタルパはネクロに目をやる。

 

「――与ダメを%で言え」

『突起から夫々言おう。0.0000001%、0.002%、0.00000004%、0.0000000003%、0.0000006%、0.000004%、0.0000000000003%だ。中央の球体に至ってはダメージが無い』

「第二の突起に攻撃集中。MPなら好きなだけ持ってけ」

『了解。節約はするが、残り300発程だろうな』

「なら0.6%は削れるな」

『希望論だな、マスター。やってみるが、ね!』

 

 《ファイヤーボール》を【ネクロノミコン】が乱射する。第二の突起とカタルパが仮称した橙色の宝石にヒットする。

 

『……ほう、此方にその程度の魔法でダメージを……いや待て。其方は魔法職だったか?』

「それこそ魔法、だろ?」

 

 【ギャラルホルン】の戯言に、カタルパは答えた。

 

『……少しだけ、面白そうだ。

何故絶望していないか不思議な程だ』

「そりゃ希望を持ってねぇからな」

『成程。失望すらしないと。実に面白い。

では此方も少し、遊んで(、、、)やろう』

 

 刹那、トムの分身の内七つが弾け散った。

 

「っ!?」

「なに、が……!!」

『摩訶不思議な事が起こる……魔法のようだろう?』

「てめぇ……タチが悪い」

 

 トムが残った一人でアルカ達の辺りまで引き下がる。

 フィガロもそれを見て、敵わないと悟ったらしい。

 逃げている人々の誘導に移った。

 地上まで降りてきた【ギャラルホルン】が何をしたのかは分からない。だが最低限、トムですら殺し得る何かだ。

 トム七人が光の塵に消え、その存在が宝石と化したとでも言うかのように七つの宝石が落ちる。

 

「成程な……空気中に散布しているのか?」

『いかにも。成程、どれ程愚者かと思っていたが、中々に賢者ではないか』

「生憎、愚者のまんまだよ!」

 

 空気中に見えないほど小さな宝石を《宝玉精製》で生み出し、プレイヤーの体内で結晶化させているようだ。

 そんな詳しい事はカタルパには分からないが、原理は理解していた。

 そういう理解力も、【ギャラルホルン】からすれば魔法のようである。

 

『愚者のまま……か。それでいて、その手のモノは嘘つきだな』

『確かに、正直であった事の方が少ないね』

「え、マジで?」

 

 戦闘中である事を忘れてしまいそうな程の、気の抜けた会話。

 先程から尖った宝石を生み出して攻撃する事しかしていない【ギャラルホルン】と、意味の無いような《ファイヤーボール》の連射を行い回避行動をとり続けるカタルパ。

 ただ、カタルパに余裕は無い。一度でも当たれば、それで恐らく死ぬから。

 対して【ギャラルホルン】は慢心している。《ファイヤーボール》程度では、死ぬ可能性が無いからだ。

 

『それで、一体いつ其方は逆転劇をするかね?』

「無論」

『今から』

『ほぅ?良かろう。やってみたまえ』

 

 透明な球が煌めく。【ギャラルホルン】は、「其方が何をしても受け止めてやる」とでも言うかのようだ。そんな意思が見て取れる。

 

「……なぁ、アイラ。目は覚めて(、、、、、)いるんだろう?」

『そうだな、カーター。パッチリだ』

「そうか。そりゃいい」

『だが、進化では無いよ』

「それでもいいさ。進歩であるならば」

『私は嘘つきなんだぞ?信じていいのか?』

「だってそれは、自分に嘘を吐いているって事であって俺に対して、じゃないだろ」

『君はどこまで私を知っているのかな?』

「――どこまでも」

『貪欲だな』

「まだ強欲さ」

 

 互いに笑い合う。

 魔導書が消え、刀は仕舞われ、弩弓は十字剣に姿を変える。

 何が始まるのかと【ギャラルホルン】は期待の目を向けている。

 

「生憎、これは魔法ですら無い」

『だが、如何なる魔法も凌駕する』

「何故ならそれは」

「『愚者と嘘つきの物語だから』」

 

 全てが水墨画のように染まる。

 七つの突起も夫々差異が無くなる程に。

 

「『《愚者と嘘つき(アストライア)》』」

 

 誰かの何かを、否定するように染め上がる。




《愚者と嘘つき》
 【絶対裁姫 アストライア】の必殺スキル。
 「Ass」と「Liar」。
 つまり、洒落である。
 「Ass」は「馬鹿」とかそういう意味だが、本作品では「愚者」として扱う。まぁ、「Fool」では無い。
 詳細不明。
 何よりも間違いであろうとした末に正しくあった者達の、終着点。
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