恐怖から逃げるように、カタルパはアイラと並んで、城壁の外に出た。
「……カーター?」
「ん?あ、あぁ、すまん」
突然アイラに呼ばれたカタルパは、辺りを見回した。
アイラが隣に居るのは分かっているが、それでも見回していた。
その不審な行動に、アイラは疑問符を浮かべるばかりだが、それにも構っていられない。
それ程までに、カタルパは精神的に追い詰められていたと言えるだろう。【大賢者】との会合は、それ程影響していた。
何が怖いのかが分からないのが怖い。
それが心中で茨の棘のように、幾千の剣のように、突き刺さって抉ってぐちゃぐちゃにしてしまいそうで、狂ってしまいそうだ。
正常な思考で、冷静な判断で、己に生まれた狂気を見ているようだ。実際、それは恐怖以外の何者でも無いのだが。
「……
「……カー、ター」
《強制演算》の頭痛は引いたのに、頭を抑える。冷めた、それでいて覚めた思考が加速する。
今、カタルパは【大賢者】に立ち向かっているのだ。心理戦、或いは頭脳戦をもってして、【大賢者】に立ち向かっている。
敵わない。それは彼自身がよく理解している筈だ。
構わない。そう、不安や恐怖をかなぐり捨てた。
「アイラ、行こう。……極力人が居ない所がいい」
「……カーター。乙女にそういう事を軽々しく言うのは止めた方がいいと思うよ」
「っ……あー、その、そういう意味じゃあ無い、から」
「知っているとも。……知っている、よ、うん」
「考える際に「邪魔者」は少ない方がいいから」と言うべきだった。
赤面しながらも、少しだけ、ほんの少しだけガッカリした様子を見せたのは気の所為だろうと断じて、カタルパは歩き始める。
また、一から一歩を、踏み出し始める。
□■□
そう言えば、と、カタルパはふと、鍛冶屋の前で立ち止まった。
「抜き身の刀持ってったら、鞘とか作ってくれんのかなぁ……」
「む?矢張りあれだと扱いづらいのか?」
「流石にね。【シュプレヒコール】もアイテムボックス入りっ放しってのも嫌だろうし。
俺に鞘とかそういうのを作るスキルがあれば良かったが、そういうスキルも、センススキル……だっけ?も無いし」
「……へぇ?」
本当に突然の発言に、アイラは驚いていた。先程まで頭を抑えて何か考え事をしていた人間の台詞だろうか。そうだと頷くにはヤケに開き直っていて、ソレとコレが繋がっているような感じがしない。
考えを続けている。だが周りが見えている。そして周りを見た上で並列して思考している。
いや、それとも【大賢者】とやらに仕返しをする為に、そういう手入れのようなものが必要なのだろうか。
どちらにせよ、今のアイラに引き止める理由は無い。
入店する事に躊躇いは無かった。
「「……あー……」」
「いらっしゃ……あー」
カタルパとアイラがユニゾンし、店員も同じような反応を返した。
なにせその店員は何を隠そう、ミルキーだったのだから。
何で居るんだという問を当然ながら二人は抱いたし、デートの邪魔になったかなとミルキーは店の奥に消えようとする。
「いや、何で居るんだよ、ミルキー」
「え?ここで働いてるからだけど?」
「働……何で」
「AGIは大して上がらないけどDEXとか上がりやすいから。やっぱ非戦闘職とかもいいね、
メンバー中、最もこの世界を
《看破》で見れば確かに、【鍛冶師】の文字がある。
迷走でもなく趣味に走ったか、とカタルパは口角を上げた。決して嘲りなどは無い笑みだった。
店の奥に行こうとしていたその足をクルリと返し、ミルキーは、それにほら、と続ける。
「リアルで出来ない事、いっぱいやってみたいじゃん?」
彼女にとっては、きっとこの世界は夢が叶う場所なのだろう。現実で夢見るだけだった事をする為の場所なのだろう。
その考えが、眩しい。
本当にそれをしてしまう行動力は、素晴らしい。
ああ、そう言えば、と。またカタルパは思い出すように。
「俺も、正義の味方にはなりたくなかったんだよなぁ」
「……?」
「…………」
ミルキーは首を傾げたが、アイラは俯いた。
第1スキル、《
いつだったか、カタルパは「正義の味方じゃない何か」になりたいと言っていた。
正義の味方は開き直るから、と。
根本的な解決をしないから、と。
あの時、カタルパは、梓は
救世主がいらなくなる世界を、希った。
そんな事も、そんな事ですら、今となっては、もう――
「それでさ、ミルキー。今日は鞘を作って貰いたくて来たんだけどさ、何かそういうのって作れるのか?」
「鞘?あ、【シュプレヒコール】の。
どーしよ、
「おい店員」
「嘘嘘、冗談。まぁ、色々工程あって面倒なのはホントだよ?
じゃあ……そうねー……素材の調達はそっちでやってよ。そしたら作ってあげるから」
「へぇ?そんなんでいいのか?」
「お友達だし?」
「お友達価格ってやつか……?」
彼女の中で作られていく想像上の鞘に必要なものは、十種類程度あった。その全てをリストアップし、それが記された紙をカタルパに差し出した。
「……案外、鞘ってパーツ多いのな」
「まぁ、白鞘とかだったら楽なんだけどねー」
そうはしなかった、と。意匠を凝らすつもりらしい。
カタルパはまだ見えない完成品を楽しみにしながら、素材集めに行ってみる事にした。
……カタルパは気付いていないが、ミルキーの働く店の殆どの品は、西洋剣である。
それなのに直ぐにリストアップ出来たのは、リアルでミルキーが知識として知っていたからか、或いは経験か何かで
それに気付いたアイラは、カタルパという人間と同等に、ミルキーという人間が、天羽 叶多が分からなくなっていた。
□■□
半分近くの素材は王国内で買い回れば集まりそうなものだった。
然しと言うか矢張りと言うか、全てが揃う訳では無かった。
足りないものは、外で調達するしか無く……。
「必然的に、ダンジョン等に行く必要が出るわな。他の街でも構わんが、如何せん遠いし」
「心底嫌いなんだね、ダンジョンが」
「戦うのが、少しねぇ……」
嫌になったよ、と。非戦闘職は言い放つ。
今迄戦ってきた非戦闘職は、そう愚痴る。
一つも戦闘を行う為のジョブが無い非戦闘職は、溜息を吐いたのだ。
逆に、よく今の今まで戦えてきたものだ、とアイラは思う。
彼女は一応アームズのエンブリオ故、カタルパが勇気のある人、傷つくことを恐れない人、猪突猛進、バカ、人情家、熱血漢の内の何れかである可能性が高いのだが、さてどれに当て嵌るのか、とアイラもアイラなりの思考を加速させる。
最近ネットの話に出てくる『エンブリオ診断』なるものは、この世界にも流れて来ている。
それぞれのTYPEが、そのマスターの内面に左右される……とか何とか。
「バカでも無い、猪突猛進でも無い、勇気……無いな。傷つくのも嫌だし熱血漢でも無い。
……人情家……まぁ、一番妥当かな」
「アイラ?」
「ん?あ、あぁ、すまない、考え事を少し、ね」
「ふーん?あんま集中し過ぎんなよ?」
「私は同じ言葉をカーターに向けたい所だよ」
違いない、とカタルパは笑う。たまらずアイラも苦笑した。
そんな二人は、忘れている。そこが街の外である事を。
だから、三人目が指摘して、二人を現実に引き戻した。
『――マスター。及び
「番じゃな――いやそれでもいいぞ!」
「良くねぇ。……で何だネクロ。冗談混じりに話せる事か?」
その問いに、本の中の枯れ木が満面の笑みを浮かべた。
見えない枯れ木が、見えない笑みを浮かべた。
浮かべて、戻して、答えた。
『否。断じて否だマスター。
我が……
「【虚構魔導】が?……〈UBM〉が、だと?況してやそりゃ、数百年前の産物じゃねぇか」
『ああ、語弊があったな。訂正しよう。
ネクロノミコンという
「概念?……………………おい、嘘だろ」
それが指し示してくれるのは、残念ながら、奇しくも一つ。
「神話の化け物とか笑いもんになんねぇよ……」
神話の
「『クトゥルフ神話』とか……俺詳しく無いんだけどなぁ?」
それは、カタルパが【■■■■ ■■■■■■】に出逢う、数秒前の事。
巨大な
カタルパが臓物を散らす、数分前の事なのだ。
( °壺°)「言うて作者も詳しくないです。クトゥルフ神話」
( °壺°)「TRPGとかも未経験」
( °壺°)「知識は……『這いよれ!ニャル○さん』とかから仕入れたもんが大半」
( °壺°)「後は最近の遊○王ですかね。あと少々の本とネットの知識」
( °壺°)「クトゥルフ神話に関してはにわか感が否めない」