其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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( °壺°)「病んだ?」
( ✕✝︎)「……かもな」
( °壺°)「……(梓の割にアイコンが厨二っぽいなぁ)でもまぁ、ここから始まります」
( ✕✝︎)「新しい物語が?」
( °壺°)「半分正解。半分不正解」
( ✕✝︎)「は?……まぁ、答えは本文で……出るよな?」


第三十四話

 何度も何度も頭を殴られたような痛みが、梓を襲う。

 だがそれは、比喩では無かった。

 梓は今、テーブルに頭をぶつけている。何度も謝るかのように、ヘッドバンキングのように上下させて、額をぶつける。ドンッ、ドンッと鈍い音が何度も響き、白黒の部屋で谺響(こだま)する。

 薄茶色だった机には血が滲み、赤黒く変色している。

 そうしてまで、忘れたい。

 そうしてまで、拒否したい。

 認めたくない。足掻きたい。

 現実にまだ、歯向かいたい。

 【ギャラルホルン】との戦いの時、カタルパ・ガーデンは自身を『強欲』だと言ったが。仮にそうならば梓はアイラが言った通り、『傲慢』だ。

 己の安寧の為に、如何なるモノも(ないがし)ろに出来る。

 梓はその権利を有し、また行使した。

 (さげす)んで、(あざけ)って、見下して、虐げて、蹴落として。

 自分自身を正当化させる為だけに、今も何かを蔑ろにしようとしている。

 その何かの正体を掴んでいるから、梓はそれを否定する。

 狩谷 松斎など知らないな、と。そう結論付けなければならない。

 だが実際にそう上手く行く筈も無く。

 忘れようとする程に強く、深く、記憶に刻み込まれてしまう。

 忘れられる、なんて奇跡は起きない。

 梓は奇跡を起こす人間であり、願う人間では無いから。

 誰かに奇跡を見せる事は出来ても、願う事は無い。

 救う事があっても、救われる事は無いのだから。

 

「…………はぁ」

 

 忘れられない、という()(きた)りな結論に辿り着いて、漸く梓は自傷行為を止めた。

 軟膏を探しに、椅子から立ち上がる。千鳥足のような覚束無い足取りで、一歩を着実に踏み出す。

 フラつくのは何も、血を流した事に因る貧血では無い。そんな目に見える理由があるんじゃない。

 大切にしてきた何かが、崩れたからだ。

 目に入れても痛くない程に愛でてきた『何か』が、(くず)れたからだ。

 それは、正義感であったかもしれない。

 悪を誅する正義の味方である事に、誇りを持っていたのかもしれない。

 今更、何れを抱いていようとも……今となっては、崩れてしまった今となっては、意味を成さなくなった。

 手放したのではなく、奪われたのではなく、零れ落ちたのでもない。どれでも無い。けれども残っていない。

 大切なモノが、欠落し、欠如し、欠損し、欠陥し、欠点になった。

 ソレを拾い上げる事はもう、出来そうにない。

 そうと分かった途端。

 

 ――平静が、音を立てて崩れた。

 

 足に力が入らなくなり、容易くその身は(くずお)れた。

 呼吸が荒い。視界が揺れる。

 平生が、唐突に終わりを告げた。梓に何かの終わりを突き付けた。

 混沌が、吐き気を催すような不快感が、梓を取り巻く。

 下半身が石になったように停止し、その動かないという現象が、上半にまで昇ろうとしているかのようだ。

 潰えた希望に縋って、自分がずり落ちて行くのを感じる。

 何も感じなくなり、緩やかな怠惰が、梓を慰めるように優しく、労わるように慎ましく、始まる。

 再ログインまで後7時間。それすら待てず、梓は眼前の痛み無き世界に浸る。

 不思議と、恐れは無い。

 

 松斎の言葉に惑わされ、自虐に走り、その上で壊された何か。その何かを失った痛みを、感じなくなった事への安堵は、梓に究極の停滞を与えた。

 

「……ぁ……あぁ……」

 

 痛みは無い。絶望も無い。

 代わりに悦楽も希望も無い。

 それでも、悪化する事は無い。

 ――良化する事も、無いのに。

 7時間は、長過ぎた。

 絶望するには、短過ぎた。

 

 止まってしまおう。止めてしまおう。

 

 今更誰も、咎めない。

 

 今まで、頑張ったと思うのだ。

 

 ジャバウォックに散々振り回された気がするが超級職になったりしたし。

 

 闘技場で全敗したりしたけど〈UBM〉だって狩った。

 

 ――もう、充分じゃないか。

 

 …………庭原 梓がダメでも、カタルパはこんなに頑張ったじゃないか。

 

「…………それ、でも」

 

 認めてくれないだろうなぁ、と口から零れた。

 今の僕の心の内を読んだら悲しむだろうなぁ、と嗚咽が漏れる。

 【シュプレヒコール】を救えなかった事実に脱線したのはカタルパで、絶望したのは梓だった。

 カタルパは守りたいと思ったモノを守れず、梓は救いたいと思ったモノを救えなかった。

 彼等が脱線と停滞と絶望を繰り返したのは、それが理由だ。

 

 守りたいモノ、救いたいモノが、無くなってしまったからだ。

 

 今は、その空欄に、自然と名前を入れられる。

 自分と並走する少女の名を、刻み込める。

 彼女の為に。その為だけに。

 力を行使出来ると、そう誓える。

 松斎にズタズタにされた精神は、まだ治ってなどいない。

 けれど梓は立ち上がる。額から垂れた血を舐め取り、不気味な笑みを浮かべられる。

 ズタズタにされたのはあくまで梓の精神だ、と開き直る。

 まだ此処に、カタルパ・ガーデンは存在する。

 

「正義の味方ごっこなら、本当の正義の味方になりゃいいだけだ」

 

 暴論だった。曲論にして極論だった。

 それでも、誰もがそれを正当と認める。或いは、正論と頷く。

 

 保てなかったから、崩れた。

 崩れたモノはどうしようもない。覆水盆に返らず、という奴だ。

 だから、新しくこの手に抱えよう。

 守りたいモノを、救いたいモノを。

 どんなに小さくても。

 この手だって、小さくて、大きなモノは抱え切れないから。

 人一人の手を繋ぐくらいしか、出来そうにないから。

 

「待ってろ、アイラ」

 

 後、7時間。長過ぎた時間が、矢張り長過ぎると実感するようになった頃。彼は初めて、あの世界を楽しみにした。

 

□■□

 

 闇という病みに終止符を打って、梓は秒針が一周するのを今か今かと待ち望んでいる。

 時計と睨めっこをしていたら、後一分を切った。

 何かを忘れている気がするが、大丈夫だろう。

 媒体を被り、再ログイン可能時間が減っていくのを見続ける。

 この一秒が、ヤケに長い。この世界の一秒は、どんなに早くても一秒にしかならないのに。

 ふざけ半分で「リンクスタート!」と言ってみる。

 

 深い微睡みの中に落ちるように、梓はカタルパに変容して行く。

 何も変わらないまま、変貌して行く――――

 

□■□

 

 かれこれ、二回目の死だ。

 アリスに殺された1回目、そして【ガタノトーア】に殺された2回目……。

 

「あ、そういや忘れてた」

 

 空欄を埋めようとするが余り、他のモノを見逃していた。

 直ぐにカタルパは現在地を確認して、【ガタノトーア】の居た場所へ向かおうとする。

 

「待ってほしい、カーター」

 

 それを、守りたいモノ(アストライア)に阻まれた。

 

「なんだ、アイラ」

「何か……あったのか?」

 

 アイラは読心が出来るにも関わらず、それをしない。だから実際に何があったのかを、知らない。

 知ろうとはしているが、それは彼の口から語られるべきだと考えている。

 カタルパでありながら、今のカタルパはその割にイキイキとしているように見える。

 それは成長……では無い。最早進化だ。

 一歩進んだ、という進歩では無く、幾つも進んだ果てに化けた、という進化だ。

 何れにせよそれは、彼が後退しなかった事を意味する。

 それは、彼にとっては良い事の筈だ。

 自分にとっても良い事の筈だ。

 アイラは含羞(はにか)む。

 正義の味方『ごっこ』が終わりを告げる事を、信じた。

 嘘が本当になれば、嘘つきも正直者になれる筈だ。

 《愚者と嘘つき》……それが、《愚者と正直者》……いや。

 

「《正義の味方と正直者》……なのかな」

 

 ここから始まるのは、終わりなき正義の物語。

 愚者が正義の味方になる物語。

 嘘つきが正直者になる物語。

 救いようのない世界で、救いようのない二人が手を繋いで共に歩む物語。

 それに後押しされて、リアルで一歩踏み出す……そんな物語。




( °壺°)「成長過程が回りくどいなぁ……」
( ✕✝︎)「表現が難しいなぁ……」
( °壺°)「……文才では無いので」

( °壺°)「そして!」
( ✕✝︎)「お陰様でUA6000突破です」
( ✕✝︎)「上げた話が多いからじゃね?」
( °壺°)「企画倒れせずに続いたからですから……多分。ともあれ!」
( ✕✝︎)( °壺°)「ありがとうございます!これからも宜しくお願いします!」
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