其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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第三十五話

■カタルパ・ガーデン

 

 拝啓、過去の自分へ。

 何故こうしたんだ。

 何故これ以外無かったんだ。

 どうして態々、この選択肢を選んだのか。

 どうして態々、これを肯定したのだろうか。

 確かに傲慢だ。

 だが……いや、だからこそ罪だ。

 傲慢故に、見下したが故に、直視などしていなかった、俺の罪だ。

 これ以外を見落とした、罪なんだ。なら今から精算しよう。庭原 梓の罪を、カタルパ・ガーデンが。

 

□■□

 

 そこが何処なのか、俺達は敢えて説明しない。する必要が無いからだ。自分の死んだ場所と同じ場所に立ち、生きている事を実感する、というのは、中々に皮肉が効いていると思う。

 今から始まるのは憎い思いで行う醜いリベンジマッチ。観客の居ない復讐戦。

 

「ネクロ、状況は?俺が見えているものと実際の風景に誤差は?」

『皆無だマスター。前方に【死屍類涙 ガタノトーア】が見えることだろう』

「……個人的にはまだ倒されてなかった事に驚いているよ」

 

 視界に歪な山とその上に鎮座する化け物――【死屍類涙 ガタノトーア】が見える。心做しか山が前回より盛り上がっているように思える。気のせいならそれでいいが、そんな訳はないだろう。小鳥一羽飛ばない空は、それを示唆している。

 ……さて。歓談と言うか独り言は終わりだ。

 

「攻略開始だ、アイラ、ネクロ」

『初撃必殺だ、行くぞカーター』

『一撃必殺だ、やるぞマスター』

「『『《揺らめく蒼天の旗(アズール・フラッグ)》』』」

『Lu……Ahhhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!!』

 

 俺達が唱えると同時、【ガタノトーア】は叫んだ。それだけのようだが《ヒート・ジャベリン》を使ったのは即座に学習したネクロに看破されている。

 なにこいつ、【紅蓮術師】かよ。俺を殺せる物理攻撃力を持っておきながら魔法使えんの?凄いな【ガタノトーア】。超かっけぇ。

 《揺らめく蒼天の旗》は説明した事があるように、必中ではない。最高数値を攻撃力に変換した光弾を十字架の先から放つスキル。光弾を放つってのは、初出か?

 まぁともあれ、打ち出すという物理的な行動な訳で。……つまり『相殺』が可能という訳で。

だがそうして相殺する事を俺は、最善だとは思わない。

 悪手だとも思わないが、な。

 

「重ねろ、《音信共鳴》」

 

 相殺を目的とするなら、同程度の威力の技をぶつけるだけでいい。それだけならば、な。

 今回のように、2発放たれた時、一発分では相殺し切れる筈もない。

 まだ相殺したいなら……2発打つんだな。

 斯くして抵抗虚しく【ガタノトーア】は《揺らめく蒼天の旗》を喰らって倒れ――

 

「……あれ?」

 

 ――無かった。

 どころか中途半端にHPを残したせいで怒らせてしまった。モ○ハンのように。部位破壊は出来なさそうだが。

 

『Es……caaaaaaaaaaaaaaaape!!!』

 

 エスケープ?逃げる、免れる、逃走……何れにせよ俺と戦いたくないらしい。

 逃がす訳ねぇだろ、害『悪』が。

 屍の山は底が見えず、何が埋もれているのかは分からない。だが人の腕らしきものや鳥のようなもの等等が詰まった、グロ画像の類に含まれるようなモノだった。

 そうなるからには、そうなるような事をしている。

 屍の山が築かれているなら、築く為の材料が必要で、尚且つ殺し取り込む必要がある。

 プレイヤーなら、マスターなら死んだら光の塵だ。取り込む屍が無い。なら、あの腕は?あの骸は果たして、何だ?

 答えは単純。ティアンだ。

 死んだら蘇らない、人間だ。

 ――俺は、モンスターがプレイヤーを殺す事を悪だとは思わない。『どうせ』死んでも蘇るし、殺し殺される関係が見事に成り立っているからだ。

 だが、今回のようなケースは違う。殺しているのはティアンで、且つあれは虐殺だ。

 一方的な蹂躙で、戻らない生命の略奪だ。

 略奪愛などとほざくなら当然ふざけるな、と言わせてもらうし、救済などと騙るなら同じ事を(、、、、)してやろう。

 

『カーター?怖い顔をしているぞ』

「そう、かもな」

 

 そりゃ純粋に「殺したい」なんて思っているしな。マトモな表情と心象をしている訳が無い。

 個人的には、それを「おかしい」と思ってくれた事に……そう思う事を異常だと判断してくれた事に、感謝している。

 だが「ありがとう」を言うのは、まだ早い。

 少なくとも目の前の奴は倒さなきゃな。

 

「仕切り直しだ、【ガタノトーア】。俺達の協力プレイでぶっ飛ばす」

『一心同体のパートナーと道具と一緒に協力プレイ……一人協力プレイというパワーワード』

 

 ……そう言われるとなんかおかしいかもな。

 いや、ネクロに関しては俺とは違うから、ネクロと俺の協力プレイって事にすれば間違いは無い……だろう。

 協力プレイ出来るゲームでソロプレイをする寂しさは、何となく分かっている、つもりだから。

 そういう意味では、目の前の〈UBM〉は独りぼっちと言える。ソロプレイヤーと言える。

 マスターを正義と見た時に悪になるモノ、それが〈UBM〉。そんな事を誰かが言っていた気がする。

 なら、アレは正しく、独りぼっちのプレイヤー。

 ……そういうのを見ると、俺は恵まれているんだな、と思う。

 仮にアイラが居なくても、ネクロも居なくても、独りぼっちでは、無いのだから。

 蟠りの無い人間が、少なくとも2人、居るから。

 それでも、それで尚、上を目指すのはきっと強欲だろう。それは、嘗て自分が語った通りだ。全てを見下す傲慢では無く、全てを得ようとする強欲。全てを妬む事もなく、全てを思わぬ事もなく、全てに色めく事もなく、全てを食らう事もなく、全てに怒る事もない。

 ただの強欲。だがそれは、人ならば持っていて当然のモノだ。

 その点、【ガタノトーア】はその何れも持っていない。全人類の救済、というのを強欲と称えるならそれまでだが。

 人ならば持っていて当然のモノを、【ガタノトーア】は持ち合わせていない。だからあいつは人じゃない。

 人じゃないから、俺達は躊躇なく剣を向ける事が出来る。

 

 

『Lu……Ahhh!!』

「洒落臭ぇっ!!」

 

 触腕と十字剣が激突する。次いで新たな触腕と抜き身の刀が激突した。

 【ガタノトーア】の一撃は、速くて強い。だが、受けられない訳では無い。打つ手がない訳では無い。

 それに、今はモン○ンで言う怒り状態。マトモな思考が出来ているとは考えづらい。直情的になればなる程に――読みやすい。

 

「疾っ!!」

『《ファイヤーボール》』

 

 ネクロの弱小な魔法がいい具合の目眩しにもなっている。敵の眼前で爆破させれば、光と煙で俺達の姿が見えなくなる。その隙に死角に回るが……そろそろマズイな。

 ネクロが疲労し始めた。牽制と視界共有を同時に行うのは、意外も何もなく大変だろう。

 俺からの頼み、という事もあり断れなかったのだろう。俺は上司になったらろくな人間にならないな。社長とかになったら確実にその会社はブラック企業と化すだろうな。

 さて。そろそろ材料は揃った筈だ。……別に、【シュプレヒコール】の鞘の、では無い。分かっているけど、念の為。こうして真剣味を無くさないと、冷静にモノを殺せる人間になってしまうからな。

 

「スー……ハー……」

 

 呼吸を整える。今から行うのは、自傷行為だ。自分で自分を傷つける、覚悟を決める。

 その間【ガタノトーア】の攻撃は全てネクロに捌いてもらう。《ファイヤーボール》の相殺が何処まで通用するかは賭けだが、触腕一本は一発で相殺出来るようだ。なら任せよう。

 ……やりますか。

 

「――――《強制演算》」

 

 自分で知りたい情報を思い浮かべる。その答えが出ると同時。

 

「――――ってぇ!!」

 

 慣れ親しむ事の無いであろう激痛が、脳を襲った。

 だが、前回に比べて痛む程ではない。前回が酷かったのか、今回が軽度だったのかは定かでは無いが、取り敢えずは大丈夫だ。立っていられている。痛みで震える事も無い。

 まだ、前に進める。

 

【Form Shift――Cross Balance】

 

「『《感情は一、論理は全(コンシアス・フラット)》』」

 

 痛いと『思う』のもまた感情。

 それを無くしてステータスに回す。

 実際、脳に痛覚はないらしい。ならこの激痛はなんだという話にはなるが、それを今考える余裕は無い。と言うか、こんな脱線した事を考えている暇はない。

 答えは出た。後は実行するだけだ。

 

『Laaaaaaaaaaaaaa!!』

「遅い」

 

 【ガタノトーア】が何かをするより早く、刀がその血肉に突き刺さる。悲鳴をあげさせるより早く、天秤から十字剣に形を変えたアイラが刺さる。反撃を許すより早く、《音信共鳴》で《感情は一、論理は全》を再発動させる。触腕の攻撃が届くより早く、その射程から俺は外れ、唱える。

 

「《秤は意図せずして釣り合う(アンコンシアス・フラット)》」

 

 ティアンを殺したなら、お前は悪だ。悪なら俺は、写し取れる。

 【ガタノトーア】はもう、為す術が無くなった。どうしようもなく、詰んだ。

 その触腕がもう届く事は無い。【ガタノトーア】の命はもう、一分と無いから。秒針が一周するより早く、二刀を以て引き裂かれるから。

 

「セイッバァァァァァァァッ!!」

『Na……Naaaaaaaah!?』

 

 最後の――最期のスキルを使う事無く、二刀に両断された【ガタノトーア】は、屍の山と共に、光の塵となって行く。

 《感情は一、論理は全》を解除し、数十秒ぶりの痛みに生きている事を実感した。痛い……痛いと思えるから、生きている。

 痛いから生きているのでは無い。痛いと思えるから生きていると言えるのだ。痛いと思える正常な感性と、痛みを痛みと認識出来る肉体があるが故に、生きていると言えるのだ。

 痛みを求める時点で人としては正常では無いし、痛みを与えたいと思う時点で正常からは外れている。

 求めない、与えない。そうした正常があるからこそ、痛みに関わらず、そういった『正常』があるからこそ、この世界は正常でいられる。

 俺が見てきたのは異常ばかりだったから、物差しがズレている。

 そういった事の『正しい』判断は、そういったものの裁定は、俺がやる必要は無い。

 俺の隣に立ってくれる、天秤の女の子にやらせればいい。……ヒモかな?

 ……まぁ、まぁ。無駄な思考はあったけれども。

 

「リベンジマッチ成功、だな」

 

 アナウンスが鳴っていたが、あまり聞いてはいなかった。報酬とかを二の次と認識していたからかもしれない。……そこまで復讐したいとは思っていなかった筈なんだがな。

 鳴り終わり、俺の手元にはMVP特典らしき物が残された。

 

「【片眼魔鏡 ガタノトーア】……これ、モノクルってやつだよな」

 

 手元にあったのは眼鏡の片っぽしかないやつ。中世ヨーロッパとかにありそうなやつ。片眼鏡、モノクルとも呼ばれる物だ。

 ……なんか、執事っぽさ増してきてね?と思ったが、そのモノクルを持つ手甲だけが、否定してくれていた。




【片眼魔鏡 ガタノトーア】
 モノクルの形状をしていて、装備者に状態異常耐性を持たせる。
 また、スキルとして《■■■■》があり、〈UBM〉期の【ガタノトーア】を想起させる。
 ……ステータス補正が存在しない。

( °壺°)「【ネクロノミコン】と同じ、ステータス補正の無いMVP特典です。耐性を持たせるのであって無効じゃないのがミソ」
( ✕✝︎)「まぁ、俺は非戦闘職だからな。関係ない」
( °壺°)「なら何故MVP特典をそんなに持っているんですかねぇ……」
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