其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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( °壺°)「ヤバいポカをやらかしていたので直しました。すみませんでした」


第三十九話

 【平生宝樹 イグドラシル】の能力を、完全に把握していた者は、世界広しと言えどハンプティ・ダンプティくらいのものだろう。

 つまり、アルカ・トレスは、知らなかったのだ。

 “万死の化身”以外知らなかった能力。であれば、現在知られている味方強化(バフ)敵弱体化(デバフ)は、【平生宝樹 イグドラシル】の能力でありながら、そうではない、という事になる。

 それが結論付ける事は――

 

□■□

 

 上記の理論が過去形で語られているならば、現在。【平生宝樹 イグドラシル】の真の能力を知る者はハンプティ・ダンプティだけではないという事だ。

 然すれば、誰が……等と、愚問を抱く者は流石に居るまい。

 

 【イグドラシル】はテリトリー系列のエンブリオ。TYPE:ルールで無い限り、その権能の効果は広範囲に及ぶ。

 【イグドラシル】は領域内の植物オブジェクトを我がものにし、それを強化させたり、領域内の敵を弱体化させたりする事が出来る。

 

 ――本当に、それだけなのだろうか?

 

 アルカはある日、そう思った。

 自分から言うことではないかもしれないが、アルカはこれと言って、自然というものを意識した事は無い。大切にしようとも、破壊しようとも、思った事は無い。

 だのに、何故か植物を操るエンブリオを有している。

 己の写し身と騙られるエンブリオがそう(、、)なのであれば、己はそう(、、)なのだろうか。

 その自問に、首を横に振る事で自答した。

 なにせあまりにも、似ていないから。

 非生物(厳密には違うとしても)を大切にする、なんて思想はアルカ、そしてカデナには存在しない。

 それでも【イグドラシル】は植物を我がものとする。味方とする。

 なら、その正答は?

 その、答えは――

 

□■□

 

「その答えは、人間範疇生物と、非人間範疇生物で無く、非生命でもないモノと、共に戦う事」

 

 人間範疇生物(ティアンやマスター)でも無く、非人間範疇生物(モンスター)でも無い、然れど生物ではあるモノと、共闘する能力。

 奴隷という、人権を剥奪された身でありながらも人間であり続けた、カデナらしいエンブリオ。

 それこそが、【平生宝樹 イグドラシル】。

 自分の同類と共闘する能力だった、と言う訳だが……その線引きは曖昧である。

 例えばペットと共闘出来るのか、という点だが、そこは出来ない。

 制約か何かで、植物に限定されているようだ。

 ともあれ、それは共闘。であればそれらは仲間、味方である。

 だからこそ味方強化(バフ)で強化出来るのだ。

 生物では無いが、生命ではあるモノを支配する権能。五界に於ける植物界の頂点に君臨するであろう権能。

 それが【平生宝樹 イグドラシル】の能力特性、《支配権能(コントローラー)》。

 支配領域内は【イグドラシル】の言わば「領地」であり、その支配下にある国民(植物)の幸福を第一とし、外より来る外敵に対して殲滅戦を行う。

 【イグドラシル】の発動と共に、そこは元々戦場であるにも関わらず、新たなる戦場と化すのだ。

 珍妙な能力である。誰もがそう思い、無論アルカもそのように感じた。だがそれ以上に、良かった(、、、、)と。そう、感じた。

 

 彼は、心の奥底で、不安を感じていた。

 自分に比べて、カタルパ・ガーデンというプレイヤーは強すぎる。

 非戦闘職である事を差し引いても、それでも。

 アルカが【司教】である事を差し引いても、それでも。

 

 アレ()はどの世界に於いても埒外で、場違いで、究極的に規格外のモノだった。

 

 残念ながらと言うか、なんと言うか。カデナ・パルメールは、ソレに憧れている。近付こうとしていて、並ぼうとしている。正義の味方の隣に立とうとしている。

 夢を見るのは自由ではあるのだが、その夢は些か、他者から見れば歪んでいた。

 幼心に見るような夢は、彼には無かったが故に。

 成熟した精神で、マトモな判断で、カデナ・パルメールは庭原 梓に追い付こうとしていた。

 或いは彼は、もう気付いているのかもしれない。己の夢が歪んでいる事に。普通、平常――平生とはかけ離れている事に。だがそれでも、恐らく止まらないだろう。止まらなかったから、今尚彼はこの夢を掲げるのだから。

 この世界のカタルパは強過ぎたが――あまりにも、「正義の味方」として生きるには、楽すぎる強さを持っていたが――アルカに、そんな強さは無かった、かに思えた。

 此度【イグドラシル】が力を解放した事により、アルカは強くなった。

 それにより、追い付けるかもしれない、という希望が生じた。

 

 それが禍々しいモノだという事に、彼自身はどれ程勘づいているのだろうか――

 

「……おかしな能力だ。そしてそれをエンブリオとして使う貴方は、れっきとした狂人じゃないです、か」

 

 少なくとも眼前に立つ気味悪い【探偵】は、勘づいていた。

 

 因みに【探偵】……セムロフのエンブリオは【真理解答 マジックミラー】という。

 片面が鏡で片面からは向こうが見えるという、あのマジックミラー……ではない。

 かの「白雪姫(Snow White)」で王妃が「鏡よ鏡」から始まるあのセリフを言った、あの鏡である。

 手鏡の形状をしており、戦闘に関する補正は特に無い。また、【探偵】と【詐欺師】も非戦闘職であり、更にセムロフに戦闘用の装備は無い。

 つまりこのまま戦闘へと移行した場合、確実にデスペナになる。

 装備を持たないのは、【探偵】としてあまり武器を持ちたくないという心理と、戦闘になった際にステータス的に負けるしかないという事から。それと、探偵業の為に武器を持っていると警戒されるという点も含める事が出来よう。

 様々な理由から、セムロフは無防備であり、またアルカは臨戦態勢である。

 

「あの、戦う気は無いんですが……?」

「いや、アズールに近寄る悪い虫は払う、とかミルキーなら言いそうだし。実際僕もそうするし。

アズールの事を教える権利も義務も、義理もありゃしないし、ね。

だから、君が真実を知るより早く――!」

 

 《全森全霊》が発動し、辺り一帯の樹木が龍にでもなったかのようにうねり、枝先がセムロフを捉えた。

 決め台詞のように吐かれたセリフに対し無論、セムロフはそうなるしかないだろう。

 

 ――そうなる事しか、出来ない筈だっただろう。

 

「《壁にかかった(マジック)――」

 

 ――相手が、本当にただの【探偵】で、【詐欺師】であるならば、に限った話だが。

 

「――魔法の鏡(ミラー)》!」

 

 《全森全霊》による植物の猛攻が始まるその刹那の内に、この戦闘に於いて完全敗北しておきながら、セムロフ・クコーレフスは、確かに、微かな勝利を、掴んだ。




《全森全霊》
 【平生宝樹 イグドラシル】の第4スキル。
 範囲内の(かなり纏めて)植物界に在る物体を操るスキル。
 種や根でも残っていればそこから成体を生み出すなど、幅広く、強力なスキル。
 性質上不毛の地では使えず、植物の種類によって様々な点が違う為、アルカですら使いこなすのは本来不可能。
 だが現在、アルカは正常に使用可能である。
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