其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

48 / 121
( ✕✝︎)「また分かりづらい物語だなぁ」
( °壺°)「刈谷 松斎のせい」
( ✕✝︎)「お前のせいじゃね?」
( ✕✝︎)つ) °壺°)<理不尽!


第四十四話

■刈谷 松斎

 

 何故こうなったのでしょう?

 何故……私は。

 桐谷(きりや) 晶子(しょうこ)は……貴方を許してしまうのでしょう?

 答えは……きっと、ずっと空欄のままで……それなのに、同じ問題を貴方が解いたなら、埋まってしまう。

 私にないものを持っている貴方は、埋めれてしまう。

 貴方にないものを、何一つ持っていない私では、理解できない解答で。

 

□■□

 

 私……セムロフという私のアバターが死んでから一時間してからの事。

 家のチャイムの音に、私は読んでいた本から顔を上げました。

 此処は私の家で、つまり自称探偵である為の事務所で、私が日本に置いている唯一の拠点です。……まぁ、外国にも一つ、ある事にはある、というのが実状ではありますが……私はアレを自分の家だとか、アソコを故郷だとか、全く思いたくないので……矢張り、私の居場所と言える居場所は、ここだけなのでしょう。

 この時の私は、寝不足だったり、ゲーム内で死んだ事もあったり、決定出来た(、、、、、)事に浮かれたりしていたのか、少しポワポワしていた所もありました。

 迂闊、だったのでしょう。

 

「よぉ、自称探偵」

 

 扉の向こうには、あの庭原 梓が居たのですから。

 私がソレを視認してから扉を閉めるという行動に移るまで、さほど時間を要しませんでした。

 バタンッと閉め、鍵をかけ、チェーンもしておきます。

 そうしてから、荒らげていた呼吸を少しづつ抑えて……冷静になり、また混乱しました。

 私は、前回庭原 梓と出会った時、彼にとって最悪のセリフを再三再四唱えていた筈です。怨恨織り交ぜた暴言は、彼に「二度と会いたくない」と思わせた……筈なのです。

 きっと誰もが、「なら復讐に来たんだよ」と思い、また口にするでしょう、この展開には。

 なのに、なのに……未だ、扉の覗き穴の向こうの彼は……笑っているのです。

 それも()がありそうな、怖い笑みではなく、友達と会った時に浮かべるような、明るい笑みなのです。

 吐き気がして、それをグッと堪えて、深呼吸を常時心がけるかのように、数秒をかけて一呼吸を繰り返しました。

 そして、覚悟を決めた私は、鍵やらチェーンやらを解除して、重い、とても重い(、、)……扉を開けました。

 

「やっぱ、出てきてくれると思ったよ」

「あ、貴方が……私の何を……!」

 

 自分の気持ちを抑えていないと、この手が自然に彼の首へ伸びていきそうで……私はそれを抑えるのが精一杯でした。

 それに、今のセリフに腹立ったのもあるでしょう。本当に、私の何を知っているつもりで、この人は話しているのでしょうかね。

 

「いや、何も?何も知らないから、これから知るんだぜ?」

「…………は?」

 

 その時の私はきっと、写真で撮られたら数日間はネタにされるぐらいの呆けた顔をしていた事でしょう。それぐらい、呆気にとられました。

 それなのに彼は、表情一つ崩していません。それが、社交辞令や巧言令色の類ではない事の何よりの証拠です。晶子だけに。

 そういう駄洒落を脳内で唱えなければならない程、私は混乱していました。でもまぁ、唱えたからと言って、落ち着く訳でも無かったのですが。

 

「第一、怒ったのは『俺』で、馬鹿にされたのも『俺』だ。

決して僕ではない。だから『俺』の事に僕が怒るのは筋違い。

それに、な?仕返しするならするで、あっちで出来る。ここでやる事じゃあない。

いやはや?『俺』を怒らせたまでは良かったが、それでは僕の逆鱗には触れていない。もうちょい考えなくちゃな」

「……そうですか」

 

 多分この人は、冷やかしとかが効かない人だ。嫌味が通じない人だ。初めて知りました。後でメモしておきましょう。

 この人は、間接的に庭原 梓を責めた事に、気付いていないようです。

 カタルパ・ガーデンを愚弄しましたが、それは間接的に、『それを動かしているプレイヤー』に言っていた訳なのですが……あぁ、そうか。

 『死んだら蘇らない』『だからこそ、楽しい(、、、)でしょ?』

 そういう嘘を吐いたのは、他ならない私でしたね。

 中身の無い空虚なセリフなら……内側には、心には届かない。カタルパ・ガーデンには届いても、その内面に居る庭原 梓という存在に、その言葉は、届いてくれないのですね。

 演技力、足りなかったかな?

 

「それで、だ。カデナに色々と聞いてきたんだが」

「カデナ……あぁ、あの木の龍の」

「そ。あいつから聞いたんだが……もしかするとお前のエンブリオ、【マジックミラー】は……」

 

 庭原さんは、未だに結論付いていないようなその理論を、拙いながら口にしました。苦虫を噛み潰したような表情であったのに、その目には、確信めいた何かが、ありました。

 

「質問に対する回答……解答を以て、『定義的に決定付ける能力』だな?」

 

 ……その時の私は無言と無表情を装いましたが、内心、冷や汗が止まりませんでしたよ。

 この人、私よりも探偵向いてません?

 

□■□

 

 その後、特に重要でもなさそうに、庭原さんは仮定を論理付けて説明し出しました。ただ一度、自分ではない者が見聞きした情報を基に、正当を説明し始めたのです。

 

「先ず、《壁にかかった魔法の鏡》だったか?

それの効果はまぁ、【マジックミラー】なんだから分かるわな。

脳内で質問を一つすれば、それの解答が分かる。

多分文にするだけなら、それだけだ。違うか?」

「さぁ、どうでしょう?」

 

 はぐらかしはしましたが、百点満点の説明に正直ドン引きです。

 彼は、一体『何』を知っているのでしょうか。

 

「問題はそこにある。そこにしかない。

原典、『Snow White』に於いて、『世界で最も美しい者は誰か』という女王の問いに対して、魔法の鏡の回答が『白雪姫である』だった。

だから(、、、)女王は白雪姫を殺す事を決意した。

分かるか?鏡の回答に因って、女王の中で『世界で最も美しい者は白雪姫である』と定義されてしまった。

鏡の回答一つで、人間一人の考えが、丸っきり変わった訳だ。

…………で。

【マジックミラー】はそこを模倣している、と僕は踏んだ。あんたが死んだ後に都合良く(、、、、、、、、、)、【零点回帰 ギャラルホルン】は降臨した。

だからあんたの質問は……こうだったんじゃないか?

『私が死んだ後に、私以上にカタルパ・ガーデンを殺したいと思っている存在(、、)が居るとした場合、それは私が死んだ場所に現れるか、カタルパ・ガーデンの目の前に現れるか、どっち(、、、)?』

……ってな。

あんたはこうして二択にする事で、勝った(、、、)のさ。アルカ・トレスを殺した後にカタルパ・ガーデンをソレが殺す、若しくは直にカタルパ・ガーデンを殺す、その二択以外存在出来なくなった(、、、、、、、、、)んだからな。

いや、裏をかいたいい質問だったと思うぜ?居るとしたら、と念を押す事で『それ以外』という選択肢を封じたんだからな。そう、【マジックミラー】の回答は複数しかない。

一。『貴方以上に殺したいと思う存在が無かった為に、回答を拒否します』

二。『カタルパ・ガーデンの目の前に現れます』

三。『貴方の死んだ場所に現れます』

この三択。だが、実質二択(、、、、)

居るとしたら、と仮定したせいだ。

居ないなら(、、、、、)現れるようにしてしまえばいい(、、、、、、、、、、、、、、)……ってな。

【七亡乱波 ギャラルホルン】が【零点回帰 ギャラルホルン】になったのは、そのせいだ。

あいつが現れた事に、セムロフ・クコーレフスは関係なかった。あったのは【マジックミラー】であり……変質(、、)出来る程のリソースを蓄えていた【ギャラルホルン】本体だ」

「長文ご苦労です。

……残念ですが満点ですね。腹立たしい。一度でそこまで考察出来るんですか?」

「まぁ、な。個人的には今の長ったらしい説明を、ちゃんと聞いていた事に驚きだ」

「そりゃ自分の事ですし、ね」

「……自分の(、、、)?」

「……いえ、何も」

 

 失言しましたね。……それにしても、どうしてこうも正鵠を射るのでしょう?正答を得るのでしょう?

 確かに、特異な事は起きたでしょう。ですが、それだけの筈。

 【マジックミラー】という名を残した事、それの副次効果……あったのは、それぐらいじゃないですか。

 何者(、、)なの、庭原 梓、貴方は本当に……!

 

「さて、ここまできて何だがセムロフ・クコーレフス。

世界の裏をかいて理不尽を定義する(、、、、、、、、)探偵」

「…………何でしょうか、カタルパ・ガーデン」

 

 完敗です。探偵としても、策士としても。いや、流石に名前と副次効果のみで正答を得るのは、どうかしてると思いますよ?

 推理能力とか……きっと、そういう次元の話じゃ、ないんでしょうね。

 

「【零点回帰 ギャラルホルン】を追い返す。手伝え」

「……追い返す、だけなんですか?」

「討伐出来ない。これは『俺達』の結論だ」

 

 その『俺達』というのが、カタルパ・ガーデンと、庭原 梓と、あと誰なのか(、、、、、、)は分かりかねますが、どうやら、真剣に考えてソレ、なようです。

 ……まぁ、自分で蒔いた種ですから。

 それ程までに強力な存在が呼び出せるとは、夢にも思いませんでしたが、ね。

 

「そんで……そうだな、追い返せたら……話してやろう。全部を」

 

 その聞き逃せない一言に、マスコミばりに食いつくのは、私の性分でした。或いは、私の本能でした。

 

「全部、とは?」

「全部だ。答えられる限り、その全てを。

お前の知りたい、或る企業の過去でも」

「っ!!…………乗り、ましょう。私は……ソレが欲しいのですから」

「復讐じゃない事に、素直に感謝だ」

 

 何を言っているのでしょうか、私の目的は貴方への復讐でしかなく…………なら、なんでその相手から情報提供されようとしているのでしょう?何故それを快諾しているのでしょう?

 

……どうして?

 

 嗚呼、まだ私は。

 何事にも、疑問を抱いているようです。




( ✕✝︎)「次回、『対決、ギャラルホルン!』」
( °壺°)「の、予定です」
( ✕✝︎)「次回、『カタルパ・ガーデン大勝利!希望の未来へレディ・ゴーッ!!』」
( °壺°)「Gガンはマジで許さん……」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。